昭和36年11月から46年10月までの満10年間における福岡県久山町全剖検例377例と, 昭和44年度日本病理剖検輯報所載の23,904例中, 腎に病変がみられた4,009例とを対象として, とくに老年者腎疾患の頻度を検討し以下の結論を得た.
1) 久山町剖検例では腎硬化症 (細動脈硬化性, 動脈硬化性) が高頻度にみられ, ついで間質性腎炎 (腎盂腎炎を含む) が多かった. 剖検輯報例では間質性腎炎, 腎硬化症, 糸球体腎炎の順序で多くみられた.
2) 久山町剖検例では腎主病変の頻度は1.6%で, 原疾患は間質性腎炎, 水腎症, のう胞腎であった. 糸球体腎炎は1例もみられなかった. 剖検輯報例における尿毒症の頻度は1.3~4.2%で, 若年者層では糸球体腎炎による頻度が高いが, 高年齢層では間質性腎炎, 水腎症によるものが増加した.
3) 腎硬化症は, 久山町剖検例でも剖検輯報例でも, 高齢者になるほどその頻度は増加し, 老年者の主要な腎病変と考えられた. しかし悪性腎硬化は久山町剖検例では1例も認められず, 剖検輯報例では高齢者群で著減していた.
4) 腎孟腎炎を含む間質性腎炎および水腎症は, 年齢を問わず高頻度に認められる腎疾患であったが, 尿路閉塞に伴う上行性感染は, 久山町剖検例でも剖検輯報例でも若年者層に多く, 高齢者では種々の疾患に合併していた.
5) 久山町剖検例では, 高齢者に腎硬塞が多くみられたが, その原因として動脈硬化性疾患によるものが多かった. 剖検輯報例でも高齢者では, 動脈硬化性疾患に合併する腎硬塞の頻度が高く, 若年者層では心膜炎に合併する頻度が高かった.
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