日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
13 巻, 6 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 意識レベルの改善, 生存率よりみた検討
    竹越 国夫, 山之内 博, 東儀 英夫, 村上 元孝, 亀山 正邦
    1976 年 13 巻 6 号 p. 371-377
    発行日: 1976/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者の新鮮脳血管障害66例 (脳硬塞38例, 脳出血28例) 中, 41例にステロイドを使用し, 25例は対照群として, ステロイドの有効性を, 意識レベルの改善と生存を指標として検討した. 対象の年齢は, 平均76.2歳であった. 47剖検例については, 病巣部位, 病巣の大きさを確認した. ステロイドの使用方法について, 薬剤はプレドニゾロンが22例, デキサメサゾンが14例, その他5例であった. 薬剤の使用総量は, デキサメサゾン換算量で平均40.4mgであり, 一日最大使用量は, 平均10.0mgであった. ステロイドは, 発症後平均1.7日以内に使用開始し, 平均7.2日間使用した.
    結果は, 1) 脳硬塞において, 意識レベルの改善は, ステロイド使用群では23例中9例 (39%) にみられたのに対し, 対照群では15例中5例 (33%) にみられ, 両群間に有意の差は認められなかった. 4週生存率は, ステロイド使用群では70%であったのに対し, 対照群では80%であり, 両群間に有意の差は認められなかった. 入院時意識レベル別に検討した場合, 意識レベルの改善率と生存率において, ステロイド使用群と対照群の両群間に有意差は認められなかった.
    2) 脳出血において, 意識レベルの改善は, ステロイド使用群で18例中5例(27%)にみられたのに対し, 対照群では10例中1例 (10%) にみられ, 両群間に有意差は認められなかった. 4週生存率は, ステロイド使用群で56%であったのに対し, 対照群では10%であった. しかし, ステロイド使用群と対照群の間に, 意識レベルの条件が一致せず, 厳密に比較検討することはできなかった.
    3) ステロイドの副作用について, 消化管出血が, ステロイド使用群に3例, 対照群に1例みられ, 非ケトン性糖尿病性昏睡が, ステロイド使用群に1例みられた.
  • 剖検例の検討から
    清水 勝, 加納 隆, 山田 昌夫, 深沢 俊男, 高橋 善弥太
    1976 年 13 巻 6 号 p. 378-384
    発行日: 1976/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    胆石症は加齢とともに増加傾向があり, 近年高齢者人口の増加とともに臨床的に重要な疾患とされている. 今回著者らは, 老人医療施設の剖検例で, 高齢者の胆石症について検討したので報告する. 対象は浴風会病院 (東京) の1962年~1973年7月の11年半の60歳以上の剖検例1070例で, 男375例, 女695例である.
    1) 胆石発生頻度は, 60歳以上の高齢者では18.8%であり, 男13.9%, 女21.4%であった. 年齢別では, 60歳代男2.4%, 女24.5%, 70歳代男17.4%, 女18.8%, 80歳代男11.9%, 女21.1%, 90歳代男20.0%, 女31.3%であった.
    2) 胆石所在部位は, 95%が胆嚢内であった. 胆嚢外結石は18.9%の症例にみられた.
    3) 胆石の種類はビリルビン系石が多くみられ, コレステロール系石とビリルビン系石の比は, 男で1:4.3, 女で1: 9.2であった.
    4) 胆石症の3主徴である発熱, 黄疸, 疼痛を認めた症例は, 胆嚢内胆石の場合, 男でそれぞれ32.5%, 10.0%, 30.0%であり, 女では20.0%, 10.4%, 30.4%であった. silent stone は, 男52.5%, 女58.4%認められた. 胆嚢外胆石の場合, 発熱, 黄疸, 疼痛は男でそれぞれ41.7%, 25.0%, 41.7%, 女で37.5%, 12.5%, 54.2%認められた. silent stone は男50.0%, 女41.7%存在した.
    5) 胆石症例の死亡前の主な臨床診断は, 男女とも中枢神経系, 循環器系, 呼吸器系の疾患であり, 胆道系疾患は男で23.1%, 女で21.5%であった. 胆石症と診断された症例は男で9.6%, 女で8.7%であった.
    6) 胆石症が直接死因となった症例は, 男で7.7%, 女で4.7%みられた.
    7) 胆石症に胆嚢癌の合併は, 女で2.1%みられた. 胆嚢癌の胆石保有率は女で60%であった.
  • 佐藤 友英, 馬場 茂樹, 宮下 英夫
    1976 年 13 巻 6 号 p. 385-392
    発行日: 1976/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    radioimmunoassay により digitoxin 維持量投与中の患者118人 (男81人, 女37人) の血清 digitoxin 濃度を測定 (のべ262回) し, その臨床的意義につき検討した. さらに従来老齢者にジギタリス中毒が多いといわれているのでこの点に注目して血清濃度の面より検討を加えた. その結果,
    1) 中毒群の血清濃度は平均35.5ng/ml, 非中毒群のそれは平均18.4ng/mlであり両群間で明らかな有意差 を示した (P<0.0001).
    2) 中毒群と非中毒群の臨床所見, 検査所見を検討し, 両群間で心胸廓比, GOT, GPTに有意差が認められた.
    3) 血清濃度は維持量の増加に比例して dose-dependent に増加し, 回帰直線を求めると, y(濃度)=194x(投与量)+4.87であった. 血清濃度35.0ng/ml以上は全例中毒症状を示し, 24.5ng/ml未満では中毒例は認められず, 24.5~35.0ng/mlのレベルで中毒と非中毒例が overlap していた.
    4) 老齢者群 (60歳以上) と若年者群 (59歳以下) の2群に分けて同一維持量で比較すると老齢者群の血清濃度は統計学上有意に高く (P<0.001) 回帰直線を計算するとそれぞれ, y=231x+3.91, y=148x+5.39であった. なお中毒症状を示した症例は若年者群53人中3人 (5.6%), 老齢者群62人中21人 (34.0%) と圧倒的に老齢者に多かった.
    5) 両群間の検査所見を比較すると血清総蛋白は老齢者で有意に低く, また24時間内因性クレアチニン・クリアランスが低下すると中毒例が増加する傾向が認められた.
    老齢者で血清 digitoxin 濃度が高くなる理由の一つの因子として加齢に伴う腎機能低下が示唆された. その他薬物代謝系活性の低下など種々の因子を列挙して考察を加えた.
    老齢者では維持量0.1mg投与では過剰となる場合も少くなく, 投与量の慎重な配慮と注意深い経過観察が必要である. また臨床的所見, 心電図記録は当然のことであるが, さらに血清濃度を経過中頻回に測定することは臨床上ジギタリス中毒の早期発見に極めて有用である.
  • 小嶋 俊一, 伊藤 敬一, 川上 倖司, 沓沢 尚之
    1976 年 13 巻 6 号 p. 393-399
    発行日: 1976/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    1969年より1974年の5年間に種々の愁訴にて脳血管撮影を施行されながら, 動脈硬化以外の器質的病変を指摘できなかった315例を対象に年齢・血圧・血清総コレステロール値と脳動脈硬化所見との関連を検討した. 脳動脈硬化所見は頚動脈撮影にて造影される動脈系を頭蓋外頚動脈・頭蓋内主幹動脈・頭蓋内小動脈の3部位に区分し, 狭窄及び管径不同の有無・範囲により動脈硬化の程度を3段階に分けた.
    1) 頭蓋外頚動脈・頭蓋内主幹動脈・頭蓋内小動脈の各部位で, 当然ながら年齢は動脈硬化の主たる危険因子であることが認められた. 又, 頭蓋内主幹動脈は他の動脈系に比較し, 動脈硬化所見を指摘できる頻度が高く, 動脈硬化の好発部位と考えられた.
    2) 各動脈系とも高血圧群で動脈硬化がより進行しているといえたが, 年齢別検討で推計学上有意差が得られたのは頭蓋内小動脈との関連を50歳台及び60歳台についてみた場合のみで, 高血圧は特に管径の小さな動脈系の硬化との関連が認められた.
    3) 高血圧群では血清総コレステロール値の上昇と共に, 頭蓋外頚動脈及び頭蓋内主幹動脈硬化例の頻度は高くなった. 特に頭蓋内主幹動脈の硬化とコレステロール値の関連性は5%の危険率で有意であった. コレステロール値が210mg/dl以上の高血圧例では症例の26.5%が頭蓋内主幹動脈に25%以上の狭窄を合併しており,184mg/dl以下の例に比較し約5倍の頻度に達した. 非高血圧群ではコレステロール値と動脈硬化度との間に明らかな関連を見出すことはできなかった.
  • 蔵本 築, 松下 哲, 上田 慶二, 三船 順一郎, 坂井 誠, 岩崎 勤, 杉浦 昌也, 嶋田 裕之, 村上 元孝
    1976 年 13 巻 6 号 p. 400-405
    発行日: 1976/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者の出血, 手術に際し輸血により急激にヘマトクリットを上昇させた際, 一過性に急性心筋梗塞様心電図を示したが, 剖検上心筋梗塞の認められない7例を示した.
    基礎疾患は消化器癌4例, 胃潰瘍2例, 偽膜性大腸炎1例であり, 心電図は異常Qと共にST上昇冠性Tと典型的心筋梗塞所見を示したが, その持続は2-7日と短かく輸血前の所見に回復した. ヘマトクリットは800乃至1800mlの輸血により28.9から47.9と上昇し, 血管内凝固症候群を5例に認めた. GOTは1例を除き正常範囲の上昇であった.
    病理所見は新鮮例に壁在血栓から thebesius 静脈系の血栓とその周囲の限局性小壊死巣を認め, 陳旧例では血栓の吸収, 間質線維化, 心筋の軽度脱落と網状線維化等修復像を認めた. これ等臨床及び病理所見から本症候群に対し reversible myocardial infarction の概念を提唱し, その成因として血管内凝固症候群, ヘマトクリット上昇の関与を推定した.
  • 柴田 博, 松崎 俊久, 七田 恵子, 斉藤 紅仁
    1976 年 13 巻 6 号 p. 406-410
    発行日: 1976/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老人ホームに居住する60歳以上の老年者のうち, 心筋硬塞, 心臓弁膜症, 脳卒中後遺症を除く1671名 (男617, 女1054) の心胸廓係数 (CTR) を70mm間接・写真により計測し, 他の臨床的指標との関連を検討した. CTRはいずれの年代においても男より女に有意に大であった. 加齢に伴う増大傾向を男女に認め,女では有意であった.
    1) 男女で, 高血圧とCTRの間に有意な関係を認めた.
    2) 肥満度の上昇によりCTRは有意に大となった.
    3) 女では, ヘマトクリット値が大きくなるとCTRは小になり, 男では関係が無かった.
    4) 心電図上のQRS左軸偏位, T波異常は, 男女でCTRの大なる老に高率であった. 左側高電位差は男にのみCTRと正の関係があり, 女には一定の関連が無かった. 心房細動はCTRの大なる者に多く, 右脚ブロックは一定しなかった.
    5) 心筋硬塞, 脳硬塞, 脳出血は各れもCTRの大なる者より高頻度に発生したが, 推計学的には有意でなかった.
    肥満は, CTRを大ならしめる修飾因子の一つであるが, 経年に伴い, 男の肥満度は不変, 女の肥満度は低下する. 加齢によるCTRの増加は心拡大を意味することになる. 血圧は加齢と共に, 収縮期血圧は上昇, 拡張期血圧は下降し, 男女に顕著な差を認めない. 女により極立っている経年変化は, 貧血の影響によると考えられる. 男女で加齢によるヘマトクリット値の低下があるが, 貧血は女のCTRに敏感に反映した. 女にみられたCTRと心電図における電位差の不一致は肥満度の大なることに帰因すると考えられる.
  • Temporal profile からのアプローチ
    平井 俊策, 森松 光紀, 江藤 文夫, 吉川 政己, 松岡 茂
    1976 年 13 巻 6 号 p. 411-418
    発行日: 1976/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者にみられる痴呆中もっとも大切な老年痴呆, 脳血管性痴呆および両者の混合型痴呆を, 痴呆の出現とその経過, 特に脳血管性発作や神経症状出現との時間的関係すなわち temporal profile という面から分析して次の結果を得た.
    1) Temporal profile から, I, II, IIIの3型に大別し得たが, 剖検例との対比などから, I型は老年痴呆, II型は脳血管性痴呆, III型は混合型痴呆と考えられた. Temporal profile の詳しい分析が, これらの鑑別診断に有用と思われる.
    2) I型すなわち老年痴呆の20%に, 末期に脳血管障害の合併を認めたが, これはIII型 (混合型) とは区別すべきであると考えた.
    3) II型すなわち脳血管性痴呆は, 従来, 脳動脈硬化性痴呆とよばれて来たが, 脳血管性痴呆とよぶのが妥当である旨を指摘した. またこの型の痴呆の8割は脳卒中後痴呆であり, また卒中発作がなくとも老年痴呆とは異なる神経症状を呈するものが大部分で, 神経症状なしに高度の痴呆を徐々に示すような脳血管性痴呆は, たとえあるにしてもまれと思われる.
    4) 脳血管性痴呆では, 左片麻痺ないし左麻痺優位の両側性麻痺に, 精神症状を呈する例が有意に多くみられた.
    5) Transient global amnesia をくり返した後に, 脳血管性痴呆に至る例のあることを指摘した.
    6) 混合型痴呆は, その精神症状の出現頻度においても, 老年痴呆と脳血管性痴呆の中間に位した.
    7) 老年痴呆は脳血管性痴呆に比し, 俳徊, 無意味な多動, 日中の独語, 大声, 濫集癖が有意に多く, 逆に情動失禁は脳血管性痴呆に多くみられた.
    8) 混合型痴呆を狭義に用いるべきことを述べ過去の剖検例の結果と併せ考え, 老年痴呆と脳血管性痴呆がこの3型の痴呆のそれぞれ35~40%, 残りが混合型であることを述べた.
  • 池田 研二, 池田 澄江, 岩田 毅, 難波 益之
    1976 年 13 巻 6 号 p. 419-426
    発行日: 1976/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    ニホンザル脳脈絡叢上皮細胞体内に出現するPAS陽性封入体 (Biondi body) について検索した. 0~35歳にわたるニホンザル18頭を用いて, 光顕下で封入体と加齢との関係, 形態および組織化学的特徴を調べた.
    封入体はサルの加齢とともに, 一般的に数と大きさが増大する傾向が見られる. 形態的には以下の4群に分類される. 第1群; 小顆粒状で1細胞内に多数散在する. 第2群; 小リング状構造の集合体で全体に円形を呈する. 第3; リング状構造が単独で存在する. 第4群; 第2群と第3群の中間型. 第2~4群の封入体は1細胞内に通常1箇, 時に2~3箇存在する. 各群の封入体には年代特異性が見られ, 第1群は幼若ザル, 第3, 4群は老年ザルに多く出現する. 第2群は若年以降のサルに出現するが, 加齢に伴って, 封入体の構成単位である小リング状構造の増大により, 巨大化する傾向が見られる.
    組織化学的には, 第1群に分類された封入体はおもに lipid, 第2~4群の封入体は lipid, lipofuscin で形成され, さらに老年ザルではアミロイド様物質が存在する.
    封入体の成立機転は不明であるが, 形態的には subunit の集合体であり, 組織化学的にも数種の構成物による複合体である. これらの所見はヒト脳脈絡叢上皮細胞に出現する Biondi body に類似しており, 老年変性産物の一つと考えられる.
  • 渡辺 務, 小林 正, 水谷 浩也, 山本 楯, 水谷 恵次, 高橋 昭夫, 加藤 忠之
    1976 年 13 巻 6 号 p. 427-435
    発行日: 1976/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    虚血心における冠不全発生機序を心筋酸素消費面から検討するために, 定型的な狭心発作誘因となる階段昇降による運動負荷を用い, 血行力学的応答を非観血的な方法により生理的条件下で観察し, 虚血心の冠不全成立機序に係わる血行力学的特性を検索し, あわせて虚血性心疾患患者の心機能について若干の考察を加えた.
    マスター試験陽性の狭心症患者17例 (IHD群) と, それにほぼ対応する年齢の正常者30例 (正常群) を対象とし, Master の single two step test の基準による運動負荷の前後に, 心電図・心音図・頚動脈波の同時記録による心機図検査と血圧測定を施行し, 得られた心機図から preejection period (PEP), ejection time (ET), RR間隔を計測し, 心機能指標としてPEP, ETc, ET/PEP, Pd (拡張期血圧)/PEP, (ETc/PEP)・RRを求め, 心筋酸素消費量の指標として Katz's index (KI) を求めた. また各群10例ずつについて, 軽負荷 (single Master) と重負荷 (triple Master) に対する応答を比較検討した.
    IHD群は安静時にはPEP延長, ETc不変, ET/PEP減少を示し, 運動負荷後値でも正常群に比しPEP大, ETc小, ET/PEP小と心機能指標は低下の pattern を示したが, 負荷による各指標の変化度には有意差はなかった. しかし重負荷時にはIHD群は血圧, 心拍数の増加度が正常群に比し著明となり, Pd/PEPの変化率も正常群では軽負荷時と大差がなかったのに反し, IHD群では有意に増大し, 過剰応答を示した. 一方, 著者らの心機能指標, (ETc/PEP)・RRでみると重負荷時には低下しており, 心機能は低下の状態にあると判断された. またKIは重負荷により明らかに増大し心筋酸素消費量の著明な増加が示唆された.
    以上の成績から, 虚血心では心機能は低下の状態にあるが, 運動負荷に対しては血行力学的に過剰応答を示し, この過剰応答が冠不全成立機序における一要因になると思われる.
feedback
Top