本態性高血圧症患者59名を含む60歳未満の男性96名を対象として, 自転車ニルゴメーターを用いて段階的運動負荷を加え, その循環動態を左心収縮時相とインピーダンス法により測定した. 対象は, 健常群37名, 動揺型高血圧症18名, 心電図上異常をみない固定性高血圧症20名, 左心肥大を有する高血圧症21名の四群に分類された. 方法は, 十分な安静臥床の後に自転車エルゴメーターにより50ワット5分間の負荷を加え,10分後再び100ワット5分間の負荷を加えて10分まで観察した. 心機図とインピーダンス法による測定は運動前, 運動直後および回復期1分間隔とし, 同時に換気諸量を連続記録した. なお一部症例には125ワット5分間の負荷を加えた.
結果は, 高血圧症各群で次のような特徴を示した. 動揺型高血圧症では, 安静時心拍数, double product, 分時酸素摂取量の増加, QS
2I, LVETIの短縮をみとめ, 運動負荷時には心拍数上昇が大で, 心拍出量, 末梢血管抵抗の変化度は50ワット直後で小さく, 100ワット直後で健常群と有意差ないが速かな回復を示した. 又LVETI, LVETcの短縮が顕著であった. 合併症のない固定性高血圧症では, 安静時PEP延長, LVETI,PTT短縮をみとめ, 運動負荷時には心拍出量の増加度, 末梢血管抵抗の減少度が大きく, PEP短縮, LVETc延長の程度も大であった. 心拍数や血圧の上昇の程度は健常群と差異がなかった. 左室肥大を有する高血圧症では, 安静時上述の変化は一層顕著となり, QS
2I QS
2cの延長をもみとめ, 運動負荷時は収縮期および拡張期圧の著しい上昇, 心拍数, 心拍出量, 一回駆出量の増加抑制があり, PEP, QS
2I, QS
2cは運動直後も他群と比較して有意に延長していた.
以上より, 本態性高血圧初期と思われる動揺型高血圧症ではβ受容体感受性や血管反応性の亢進が推測され交感神経系優位であるが, 固定性高血圧症では心収縮能異常, 動脈硬化のような器質的変化の関与が認められ, 殊に左室肥大群で循環動態への影響が大であった.
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