成人男子14名を対照とし, 脳出血23例, 脳梗塞16例, クモ膜下出血11例の急性期において髄液および血清の fructose-1, 6-diphosphate aldolase (ALD), lactic dehydrogenase (LDH) を測定して以下の如き結論を得た.
1) 酵素活性値 (M±SE) は対照で髄液のALD 1.9±0.2, LDH 23.7±3.2, 血清ではそれぞれ6.0±0.4, 272.4±15.5U/m
l. 脳出血で髄液のALD 9.3±0.9, LDH 175.6±29.8, 血清でそれぞれ12.5±1.5, 426.2±31.4U/m
l. 脳梗塞で髄液のALD 2.9±0.4, LDH 32.7±7.1, 血清でそれぞれ8.2±1.0, 370.4±34.6U/m
l. クモ膜下出血で髄液のALD 6.8±1.3, LDH 58.3±17.2, 血清でそれぞれ10.0±2.9, 344.8±41.9U/m
lであった.
対照に比して, 脳出血で髄液および血清のALD, LDHが, 脳梗塞で血清LDHが, クモ膜下出血で髄液のALD, LDHが有意に高値であった. さらに脳出血は脳梗塞に比して髄液のALD, LDHが有意に高値であったが, 血清酵素活性は両疾患で差異をみなかった.
2) 脳出血で初回検査時23例中9例 (39%), 経時的観察で5例 (21.7%) が清澄髄液であった. 脳出血を血性 (14例), 非血性髄液群 (9例) に分けた. 両群ともに髄液ALD, LDHは脳梗塞に比して有意に高値であった. 血清では血性髄液群のLDHが脳梗塞より高値であった.
3) 脳出血患者の重症群は軽症群に比して, 髄液ALD, LDHは有意に高値であった. 一方, 血清では両群間に差異はなかった.
4) 脳出血患者で髄液, 血清の酔素活性の最高値は発作7日以内にみられた. 正常値への回復は髄液で血清よりも遷延する傾向がみられた.
5) 脳血管障害全体および脳出血で, 髄液ALDと髄液蛋白量, 髄液ALDおよびLDHと髄液細胞数の間に相関が認められた. 脳梗塞およびクモ膜下出血ではこれらの間に相関をみなかった.
6) 脳血管障害全体でALD, LDHそれぞれの髄液, 血清の活性に相関がみられた. 疾患別では脳梗塞でALDのみが相関した.
以上の成績より, 髄液のALD, LDH測定が脳血管障害の鑑別診断, 予後判定に役立ちうることを認めた. しかし髄液あるいは血清の酵素活性上昇の機序については, なお今後の検討を要する.
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