日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
16 巻, 6 号
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  • とくに加令との関係について
    甲斐 之泰, 及川 真一, 後藤 由夫
    1979 年 16 巻 6 号 p. 489-497
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    1971年から1975年までの日本病理剖検輯報から2,921例の糖尿病症例を収集し, そのうちの2,515例の一次性糖尿病症例について死因, 主要病理所見の頻度を年齢, 性別に検討した.
    死因では血管障害が40.2% (糖尿病性腎症15.0%, 脳血管障害12.5%, 冠動脈硬化性心疾患9.2%) と最も多く, 次いで感染症 (19.6%), 悪性腫瘍 (19.4%), 糖尿病昏睡 (2.4%), 低血糖 (0.8%) の順である. 感染症では結核や肺炎は減少し尿路感染が4.1%で最も多い. 悪性腫瘍では胃癌が最も多いが (4.0%), 肺気管支癌, 肝胆道癌も各々3.8%, 3.5%と多い.
    脳血管障害, 冠動脈硬化性心疾患, 悪性腫瘍の割合は年齢とともに増加する. 感染症は40歳代まで増加し, その後同じ割合であるが80歳を越えると再び増加する. 糖尿病昏睡は若年者で多い. 腎症は30歳代で最も多く, 以後減少し60歳代で脳や心臓の血管障害と同率となり, 70歳以上ではさらに少くなる.
    病理所見では心筋梗塞15.1%, 脳梗塞14.8%, 脳出血6.9%, 腎糸球体硬化症34.1%という頻度である. 心筋梗塞, 脳梗塞は年齢とともに増加するが脳出血には年齢変化はない. 腎糸球体硬化は30歳代で最も高頻度であり症例の49.4%に存在し, 以後年齢とともに減少するが高年齢でも他の血管病変の頻度より高い.
    以上から日本の糖尿病患者の死因には, 依然冠動脈硬化性心疾患が少くて腎症, 感染症が多いという特徴があることが分かる. しかし, 脂肪摂取量の増加, 人口の高齢化と糖尿病の治療の普及による糖尿病患者の寿命の延長による高年齢糖尿病症例の増加により, 今後は冠動脈硬化性心疾患の増加, 悪性腫瘍の増加が予想される. また高齢者の感染症も問題となってこよう. 一方高齢者にも高頻度に存在する腎糸球体硬化症が, 患者の寿命延長に伴い糖尿病の臨床像や死因にどのような影響をおよぼすようになるかが注目される.
  • 佐藤 秩子, 田内 久
    1979 年 16 巻 6 号 p. 498-505
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    年齢の異る呑竜白鼡 (4か月と16か月) にパラビオーゼ結合手術を施し, 健康で8か月を経過したもの (若側12か月, 老側24か月) 13対, 年齢の等しい (4か月) 白鼡をパラビオーゼさせ8か月経過したもの7対を中心に, 単独老 (24~29か月) 12匹, 単独若 (12か月) 10匹を対照として, 肝細胞ミトコンドリアの超微計測的検討を行った.
    単独老白鼡肝細胞ミトコンドリアは, 単独若に比し, 数は減少し, その大きさは有意に大である. 又各面積群毎にみたミトコンドリア内クリステの全長は, 単独老に有意に大で, クリステは密である.
    若同志のパラビオーゼ群では, 単独若に比し, ミトコンドリア数に差はないが大きさは大. しかしクリステの密度に差はなくむしろ疎でさえあった.
    老若パラビオーゼ群において, 若側パートナーは, 数, 大きさ, クリステの密度の何れにおいても単独老に近く, 老側パートナーではむしろ単独若に近く, 単独での老若の関係が逆転しているのがみとめられた. これらの超微計測的検討成績は, すでに報告した同一材料における細胞学的検討, すなわち肝細胞数, 2核肝細胞数, 核, および細胞容積などにみられた成績と全く軌を一にしている.
  • 骨塩含量と血清25-hydroxycholecalciferol
    白木 正孝, 中尾 純子, 吉田 章子, 山内 広世, 折茂 肇
    1979 年 16 巻 6 号 p. 506-512
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    加齢に伴う生理的な骨塩含量の減少と, 病的な骨塩含量の減少を, 生化学的に区別することを目的として以下の検討を行った.
    60歳以上の老年者女性例53例において, photon absorption method により左橈骨骨塩含量 (RMC) を測定し, さらに血清Ca, P, Ca×P積, Al-P活性, estradiole (E2)および, 25-hydroxycholecalciferol (25-OHD3)を測定し以下の結果を得た.
    (1) 血清各種パラメータ相互の相関を検討したところ, 25-OHD3値と, 血清Ca値が相関係数0.460なる有意 (p<0.01) の相関を示す他は, 各因子間に, 相関を認めなかった.
    (2) 血清各種パラメータと, 年齢の間にも, 有意の相関は示さなかった.
    (3) RMCと各種パラメータの間には種々の相関を認めた. 即ち年齢と, -0.408, 血清Ca値と, 0.345,E2値と0.396, および25-OHD3値と0.510なる有意 (p<0.01~0.02) の相関係数を示した.
    (4) 対象群53例を骨折の有無で2群に分類したところ, 骨折 (大腿骨頚部骨折および脊椎圧迫骨折) 例18例および非骨折例35例を認めた.
    (5) この骨折, 非骨折群間で各パラメータの差異を検討した. 両群間で年齢に差を認めなかった. RMC値は骨折群 (0.43±0.018g/cm2) に比し, 非骨折群 (0.49±0.015g/cm2) は有意に高値を示した. 骨折群は, 非骨折群に比し, 血清Ca値低値, 血清P値高値の傾向を示したが, Ca×P積, Al-P活性及びE2値は両群で差を認めなかった. 血清25-OHD3値は骨折群では10.7±2.21ng/mlを示し, 非骨折群では26.7±2.55ng/mlを示し, 前者は, 後者に比し有意 (p<0.01) に低値を示した.
    以上より, 老年者女性のRMCは生理的加齢に伴う減少を示す以外に, 25-OHD3値の低値, 骨折で特徴ずけられる病的な, RMCの減少過程が存在することが示唆された.
  • 小沢 利男, 半田 昇, 氏井 重幸, 岸城 幸雄
    1979 年 16 巻 6 号 p. 513-521
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    体重身長指数は身長との相関が少なく, 体重と相関が大であることを要する. この点について四つの指数I1=W/H (比体重, Wは体重, Hは身長), I2=W/H2 (Body Mass Index, BMI) PI=H/3√W (Ponderal Index), BK=W/(H-100)×0.9 (Broca-桂の指数) を検討した. 対象は10歳代から70歳代に及ぶ健常男子6,272名, 女子7,230名, 計13,502名である. その結果男女各年代層を通じてBMIが身長との相関が最も小さく, 体重との相関は比体重についで大であった. 又20歳代を対象として5cm毎に区分した各身長に対する各指数の変化をみると, BMIが最も一定した値を示した. 加齢に伴うBMIの変化をヒストグラムからみると, 男子では30歳代で20歳代より右に偏るが, その後60歳代に至るまでほぼ同じ分布を示した. 女子では20歳代から加齢と共に漸次右方に偏る傾向がみられた. 血圧との関係ではBMIの高いものに高血圧の出現頻度が高く, 特に男子でこの傾向が顕著であった. 男子における喫煙量とBMIとの間には一定の関係がみられなかった.
  • 佐々木 憲二, 福島 保喜, 水上 陽真, 村井 容子, 田口 悦子
    1979 年 16 巻 6 号 p. 522-527
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    一酸化炭素 (約0.04%CO) を用いた恒常状態法肺拡散能力DLCO SSを, 正常老年者 (男19名, 平均年齢67.7±5.7 (1SD), 女:12名, 平均年齢71.6±7.7 (1SD)) と若年 volunteer (男11名, 平均22.3±2.0 (1SD)) とにおいて測定した. DLCO SS測定時に, 終末呼気CO濃度を肺胞気濃度とみなすことにより, Bohr の式から得られるVD/VT値は, COに関する一種の生理学的死腔と考えられ, VDとVTとの間には次の回帰式がえられた; 老年者, VD=0.289VT+0.012 (1S.E; 0.027, r; 0.860), 若年者VD=0.303VT+0.015 (1S.E; 0.022, r; 0.903). 又, 1-FEX/FI(=COF), DLCO SS (BP-47)/VEとは, 1-VD/VTを漸近線とする双曲線の関係にあることを示した.
  • 白倉 卓夫, 高橋 龍太郎, 村井 善郎, 村上 元孝, 松田 保, 菅井 芳郎
    1979 年 16 巻 6 号 p. 528-535
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    循環赤血球量は正常で, とくにその増加はないにも拘わらず, つねに末梢血の赤血球系諸値の異常増加を示し, 慢性に経過する, 原因不明の stress erythrocytosis は, 全血粘度の異常亢進を伴い, とくに老年者では, 血栓形成に関連して無視しえない一疾患と考えられる. 従来, かかる老年者 stress erythrocytosis に対する諸家の関心は必ずしもつよくはなく, これに関する研究報告も少ない. ここでは, 著者らが経験した老年者例について検討した血液学的成績を報告し, その成因に考察を加えることを目的とした.
    対象は全例60歳以上の男性13例で, 通常の生活をおくり, 外来通院が可能であった. 全例, 入院前や入院時の静脈血ヘマトクリット (Ht) 値は, つねに48%以上を示した. しかし放射性クローム標識法で測定した循環赤血球量は, 全例, 正常対照に比して, その増加はなく, 一方, 高Ht値のあった時点で検討しえた, T-1824や125I-RISAで測定した循環血漿量は, 12検討例中11例で, その減少を認めた. Body Ht/venous Ht比は, 12例全例で, 低下した. 入院後の静脈血Ht値の変化を11例で検討した. 入院後1から2日でHt値の減少が既にみられ, 入院後3から5週で, 高Ht値は全例で消失した. さらに, これら症例中3例で, 高及び正常Ht値の時点で血漿量を測定したが, Ht値正常化に伴って, いずれも血漿量は減少した. 入院後のHt値と血圧の関連が10例で検討されたが, Ht値と収縮圧, 拡張期圧に有意の相関は認められなかった. 全血粘度は, shear rate 0.00062あるいは0.073sec-1で12例中10例, 同じく4.6sec-1で, 著明に亢進した.
    以上の諸成績から, stress erythrocytosis では血漿容積の縮少と, 血漿, 赤血球の血管内における不均一分布の両者の存在が推定された. かしの如き老年者 stress erythrocytosis 例では, 血液粘度の異常亢進が必発であり, 血栓形成を予防する上で, 積極的対策が必要であることが強調された.
  • 松原 充隆, 佐藤 磐男, 小出 幸夫, 仁田 正和, 前田 甲子郎, 中尾 裕子, 熊田 和徳, 加藤 一暁, 小鹿 幸生
    1979 年 16 巻 6 号 p. 536-544
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    内頚動脈閉塞症患者の全身循環調節機能を検索する目的で, 45°head-up tilt に対する心血行力学的反応を検討した. 発症後6カ月以上経過した症状安定期の内頚動脈閉塞症12例 (男8例, 女4例, 平均年齢73歳) と同年齢の健康老人20例 (男9例, 女11例, 平均年齢74歳) を対象とした. また, 内頚動脈閉塞症患者はその症状の重症度を, ADL 15点評価法を中心に, ADL 5点以上 (ADL良好群, 6例) とADL5点以下 (ADL不良群, 6例) の2群に分類し, 比較した. 電動式 tilt board を用いた45°head-up tilt 前, 直後,5分後, 10分後に, マンシェット法による血圧と, 心電図による心拍数と, ear-piece を用いた色素希釈法による心拍出量を測定した. 安静時心機能は, 内頚動脈閉塞症患者が健康老人に比して, 収縮期血圧, 拡張期血圧, 平均血圧が高値を示した以外両群間で差はなかった. 両群の起立時の心血行力学的反応では, 心拍数の反応は, 内頚動脈閉塞症患者が健康老人に比して, 増加が大であった. 収縮期血圧, 拡張期血圧, 平均血圧, 脈圧の反応では, 内頚動脈閉塞症患者が健康老人に比して, いづれもその低下が大であった. 心機能の反応では, 心係数, 一回拍出係数ともに内頚動脈閉塞症患者が健康老人に比し, その低下が大であった. 全末梢循環抵抗の反応は, 両群間で差がなかった. ADL不良群とADL良好群の心血行力学的反応の比較では, 収縮期血圧, 拡張期血圧, 脈圧の反応は, それぞれADL不良群がADL良好群に比し, その低下が大で, 心係数,一回拍出係数の低下の大なる傾向を認めたが, 全末梢循環抵抗の反応は, 両群間で差がなかった.
    内頚動脈閉塞症では, 起立に対する全身循環調節機能異常が存在し, その原因として, 本疾患での起立による心拍出量の低下と細小動脈の反応性の低下によるものと考えられた. また, 運動能力の低下が著しい患者ほど, この調節異常が著しいことから, 内頚動脈閉塞症の治療管理上有用と考えられた.
  • 朝長 正徳
    1979 年 16 巻 6 号 p. 545-550
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    青斑核は, 脳幹におけるメラニン含有神経細胞よりなる核であり, 呼吸調節, 排尿反射, 循環調節, 睡眠覚醒の調節, 情動, 記憶などと関連した機能が考えられている. 本報告では, 老人脳につき, 青斑核の加齢に伴う変化を検討し, 種々な老年期変性神経疾患の際の青斑核の病変とその意義について考察を加えた. 対象は東京都養育院附属病院連続剖検脳より抽出し, 光顕・電顕的に検索した.
    1) 神経細胞数の変化: 変性神経疾患を有しない60歳より105歳までの老人脳60例について, 青斑核のほぼ中心部での横断面でみられた神経細胞数を計測し, 60歳未満の12例のそれと比較した結果, 60歳以上, 神経細胞数は漸減し, 80歳以上では54%の減少を示した.
    2) 神経原線維変化および Lewy 小体: 神経原線維変化は, 60~90歳代では10~20%にみられ, 100歳以上では100%にみられた. 電顕的には, 大脳皮質にみられるものと同じ twisted tubule 構造を示した. Lewy 小体は, 90歳以上で33%にみとめられた. Lewy 小体出現例では, 神経細胞数の減少の著しいものが多かった.
    3) 変性神経疾患における変化: パーキンソン病, 多系統変性症 (OPCA, SND), 老年痴呆で著明な神経細胞数減少がみられた. 神経原線維変化の多発する進行性核上性麻痺の2例では減数はみられなかった.
    4) 高血圧, 脳出血との関係: 神経細胞数と高血圧, 脳出血の有無との間に関連はみとめられなかった. Lewy 小体出現例では, 高血圧, 脳出血のないものが多かった.
    以上より, 老年者では青斑核の変化は著しく, また, 老年期の変性疾患で障害されることが多い. これらの事実は, 老年者および老年期変性疾患における, 睡眠異常を含めて, 種々の自律神経症状に関連して来るものと考えられる.
  • 松尾 武文, 大木 康雄, 近藤 信一
    1979 年 16 巻 6 号 p. 551-555
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    正常人のアンチトロンビンIIIを単純一元免疫拡散法で測定した. 正常人を男女別, 年代別に各25名づつ選び合計300名の測定値をみると, その平均値は30.9±4.4mg/dlで加齢に従い男性では40歳代以後に有意の低下がみられたが, 女性では加齢との関係は明らかでなかった. このことからアンチトロンビンの増減を比較する場合には, Sex age matched control が必要と考えた.
    血栓性疾患 (DIC, 心筋硬塞急性期, 脳硬塞, 糖尿病) と肝硬変のアンチトロンビンIIIを Sex age matched で比較した. するとDIC, 心筋硬塞急性期, 肝硬変, 脳硬塞の順に有意の低下がみられた. これは, 凝固法によって得られた結果と同しであった. 血管障害のない糖尿病は正常人のアンチトロンビンIIIと有意差はなかったが, 網膜症が合併し増悪するに従って有意の低下がみられ, 増殖性網膜症では22.8±6.7mg/dlと著明であった. また, 糖尿病では, 罹病期間が長期間の例や, 血小板機能亢進例でもアンチトロンビンIIIの低下がみられた. とくに網膜症があり, 罹病期間が5年以上で血小板機能の亢進例でのアンチーンビンIIIは20.0±6.9mg/dlと低値を示した. 以上のことから糖尿病でのアンチトロンビンIIIは血管障害の増悪と関係していると考えられた.
  • 森 邦雄
    1979 年 16 巻 6 号 p. 556-568
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    大動脈壁組織中のフィブリノーゲン, フィブリン濃度を測定し, 粥状硬化性変化にともなう分布の変動を追求した. すなわちヒト大動脈の内中膜を硬化の進展度により5段階に分類採取し, その homogenate より, フィブリノーゲン, フィブリンについての凝固成分, 非凝固成分および不溶成分を分離し, single radial immunodiffusion 法による定量を行った. 各測定値は, 当モルのフィブリノーゲン量に換算して, mg/wet tissueg で表示した.
    肉眼的正常部における測定値の平均は, 凝固成分0.149±0.076, 非凝固成分0.138±0.155, および不溶成分0.408±0.223で, 各成分はおのおのフィブリノーゲン, FDPおよびフィブリンを主として反映しているものと考えられる. 各成分はいずれも全例に陽性であり, フィブリノーゲン, フィブリンが動脈壁組織中の常在成分であることが示された. このうち, 凝固成分, 不溶成分は硬化性変化の進展にともなって有意に増加し, 従来の電顕的, 免疫組織学的な観察結果と符合する結果を得た. これらの結果を20歳ごとの年齢階層に分けて比較すると, 同一硬化度群では凝固成分, 不溶成分とも加齢にともない増加の傾向にあった. 同様に流動血屍群を非流動血屍群と比較すると, 凝固成分が有意な変動を示さないのに対し, 不溶成分は有意に低値であった. この差は壁在沈着フィブリンに由来することが推定された. 一方, 非凝固成分は, 硬化度の進展にともなう有意な変動を示さないほか, 加齢の影響, 屍体血の性状による差は認められなかった.
    以上, フィブリノーゲン, フィブリンは, 生理的条件下で内皮を通過して, 壁組織中に常存していること, および, フィブリノーゲン, フィブリンの分布と粥状硬化性変化との間には, 密接な関係の存在することが示された.
  • 岩崎 勤, 蔵本 築, 松下 哲, 大川 真一郎, 三船 順一郎, 坂井 誠, 品川 達夫, 桑島 厳, 鎌田 千鶴子, 藤岡 俊宏, 村上 ...
    1979 年 16 巻 6 号 p. 569-573
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者非リウマチ性僧帽弁閉鎖不全症 (MR) 23例 (54歳~90歳, 平均77.8歳) に於て収縮期雑音, 僧帽弁逆流量, 心拍出量等に対するイソプロテレノール (ISP) の効果を検討し, 老年者MRの僧帽弁支持機構不全を中心に考察を加えた.
    ISPによる収縮後期雑音減少群では16例, 非減少群は7例であった. 収縮期雑音の強さは減少群平均 Levine 2.7°で非減少群2.4に比して弱くなく, 一方心不全は減少群でやや軽度であった. 心胸比は差がなく, 減少群では心筋梗塞7例 (43.7%), 非減少群では0%と心筋梗塞が多く見られた. 色素稀釈法による僧帽弁逆流量は減少群で48.9%, 非減少群で76.4%であった. ISPによる変化では心拍出量増大は減少群で大であった. 心エコー図と色素稀釈法より推定した僧帽弁逆流量も非減少群44.1ml, 減少群28.4mlと減少群で少なかった.
    以上老年者MRの中にはISPによる心筋収縮力増強により僧帽弁支持機構不全の改善により僧帽弁逆流を減少させうる症例を認めた. 一方, 心不全の軽快や心拡大の減少と共に収縮期雑音減少を示す症例も認められ, MRの発生機序として左室収縮力の障害も一因と考えられた.
  • 青山 栄, 河村 奨, 西尾 和政, 播磨 一雄, 相部 剛, 竹本 忠良
    1979 年 16 巻 6 号 p. 574-579
    発行日: 1979/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    山口大学第1病理学教室の過去8年間の剖検例423例を年代別にわけて組織学的検索を加え, 加齢によるいわゆる老性変化の有無について検討した. さらに, 慢性膵炎の頻度および成因別頻度についても若干の検討を加えた結果, 次のような結論を得た.
    1) 加齢による膵のいわゆる老性変化として明らかなのは, 膵内動脈硬化のみであるが, 脂肪細胞浸潤, 膵管上皮の杯細胞化生および扁平上皮化生においても, 加齢とともに頻度の増加がみられた.
    2) しかし, 結合織の増生および外分泌腺にみられる形態学的変化の多くは, 加齢よりも基礎疾患による2次的修飾像の可能性が強い.
    3) 慢性膵炎は39例 (9.2%) にみられ, その約半数は60歳以上の高齢者であった. また39例のうち, 臨床的に慢性膵炎の診断がついていたのは, わずかに1例であった.
    4) 3)が示すように, 剖検例において組織学的に慢性膵炎と診断される症例の頻度は, 臨床的に診断される頻度よりはるかに多く, 潜在性の慢性膵炎はかなり多い.
    5) 慢性膵炎の成因別頻度をみると, アルコール, 腹部手術, 消化性潰瘍, 胆砂~胆石の順にみられ, 原因不明のものも38.4%みられた.
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