日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
16 巻, 1 号
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  • 老人斑多数出現例の臨床病理学的検討
    朝長 正徳
    1979 年 16 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 1979/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    一般老人病院における老年期痴呆の形態学的背景として脳血管性痴呆の多いことが知られているが, 一方, 老年痴呆がどの程度にみられるかは明らかでない. 今回は老人斑多数出現例についてこの点を検討した.
    対象は60歳以上の剖検脳500例のうち, 側頭葉・アンモン角について老人斑の多数みとめられた44例 (SP例) と, 老人斑陰性の50例である. これらについて, 脳の肉眼的所見特に硬塞性病変, 組織学的所見を対比し, 以下の結果を得た.
    1) SP例は高齢化とともにその頻度が増加し, 90歳以上では女性の方に頻度がか高った (30%).
    2) SP例では, 生前痴呆の明らかであったものは85%を占めていた.
    3) 脳萎縮はSP例で高度で, 脳室拡大は逆に老人斑陰性群の方に著明であった.
    4) 脳底部の動脈硬化はSP群で57%, 対照群で74%で, SP群にやや少いが有意差はなかった.
    5) 脳血管障害性変化の有無は, SP群65%で対照群72%に比してやや少いが有意差はなかった. 中, 大硬塞と小硬塞がほぼ半数であった.
    6) 脳動脈硬化, 硬塞巣の全くないSP例は6例あり, 65歳から84歳で, 男2, 女4例であった. 2例の脳重量は平均以下で, 老人斑は側頭葉, 後頭葉に著しく, 神経細胞の脱落, アルツハイマー原線維変化, 顆粒空泡変性, 平野小体もほぼ全例にみとめられた. 臨床的には, 高血圧はなく, 生前に老年痴呆と診断されていない.
    7) 老年期痴呆の形態学的分類として, 別の原因によるものを除いた101例中, 脳血管性痴呆は54%, 老年痴呆 (pure form) は16%であったが, 硬塞巣を有するが老年痴呆と考えられるものを入れると32%になり, 老年痴呆は実際にはかなり存在すると思われる. 両者の合併したもののどこまでを混合型にするかについては, 尚多くの臨床病理学的検討が必要と考えられた.
  • 白石 純三, 稲岡 長, 奥田 純一郎, 金子 仁郎
    1979 年 16 巻 1 号 p. 7-16
    発行日: 1979/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    一次変性痴呆型 (primary degenerative dementia type=PDD) と, 脳動脈硬化性痴呆型 (arteriosclerotic dementia type=ASD) からなる高年器質性痴呆患者34名 (平均61.2歳) につき, 阪大式老年者用知能テストを用いて痴呆の程度を軽度, 中等度および重度の3段階に分け, また臨床的に上記の2病型に鑑別, 分類した. これらの対象各症例について, 左右の内頚動脈および椎骨動脈血流を超音波ドプラ法により測定し, その流速脈波を分析, 検討してつぎの結果をえた.
    1) 痴呆の程度が進むにつれて内頚動脈循環血流量は減少する傾向を示した.
    2) 痴呆患者では, 内頚動脈血流量は右側に比し左側で有意に低下しており, それはとくに重度痴呆群, ASDで顕著であった.
    3) 流速脈波の波高値を, 心収縮期初期峰 (S1), 第2峰 (S2), incisura (I), 拡張期峰 (D) および拡張末期 (d) の各時期で比較すると, 痴呆の程度が進むにつれ, 内頚動脈でI, D, dにおける最高流速が低下した. また, S1における最高流速はASDに比しPDDで有意に大であった.
    4) 波高比D/S2およびS2/S1を指標として流速脈波パターンを比較すると, 内頚動脈では痴呆の程度がすすむにつれてD/S2値は低下した. S2/S1比はASDでは年齢相当の値であったがPDDでは若年型を示した. なお椎骨動脈血流は上記の4項目につき痴呆症例間で有意な変化は認められなかった.
    以上, 高年器質性痴呆患者では, 痴呆の程度にしたがい大脳半球血流量 (ことに左) がとくに心拡張期で減少することが示され, 収縮期における波高比S2/S1はPDDとASDで異なり, 両病型における脳循環動態の相違を示唆するとともに鑑別診断上の指標としても有効であろうと考えられた.
  • HDLコレステロール測定法の検討
    矢野 芳和, 入江 昇, 都島 基夫, 本間 康彦, 五島 雄一郎
    1979 年 16 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 1979/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高比重リポ蛋白コレステロール (HDL-CH) 濃度の測定は, 動脈硬化性疾患の危険因子の解析に重要である.
    今回我々は, HDL-CH測定法として, 超遠心法, ヘパリンと塩化マンガンによる沈降法 (ヘパリン・マンガン法), 燐タングステンソーダと塩化マグネシウムによる沈降法 (燐タングステン法) の三法を比較検討し, 以下の成績を得た.
    (1) 三法の相関係数は, 超遠心法とヘパリン・マンガン法0.939 (n=32), 超遠心法と燐タングステン法0.915 (n=32), ヘパリン・マンガン法と燐タングステン法0.966 (n=138) であった.
    (2) 三法により測定した平均HDL-CH値は, ほぼ近似した値を示した.
    (3) 超遠心法とは, ヘパリン・マンガン法が, 燐タングステン法より高い相関を示した.
    (4) 血清を生食水で2倍に稀釈することにより, ヘパリン・マンガン法では血清トリグリセライド値600mg/dl, 燐タングステン法では1,000mg/dl以下が, HDL-CH測定可能な範囲であった.
    (5) ヘパリン・マンガン法, 燐タングステン法は, いずれも簡便で臨床応用が可能であり, HDL-CHの日常臨床検査に適している.
  • 老年者における動脈壁石灰化と血清 estradiol 値および骨塩含量の関係について
    中尾 純子, 折茂 肇, 大山 俊郎, 白木 正孝, 井藤 英喜
    1979 年 16 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 1979/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    動脈壁石灰化と血清 estradiol 値および骨塩含量の関係を明らかにする目的で, 老年者女性77名, 男性59名 (平均年齢はそれぞれ71歳と70歳) 計136名を対象に臨床的検索を行なった. 動脈壁石灰化の有無はレ線写真上肉眼的に判定し, 血清 estradiol は radioimmunoassay にて測定し, 骨塩含量は Bone Mineral Analyzer にて橈骨含塩量 (以下RMCと略す) を測定した. その結果 (1) 動脈壁石灰化と血清 estradiol 値との関係は, 女性では腹部大動脈に石灰化を有する群の血清 estradiol 値 (11.5±1.3pg/ml) は, 石灰化を有さない群のそれ (15.7±2.5pg/ml) に比し有意に低く, (p<0.01), また腸骨動脈に石灰化を有する群の血清 estradiol 値 (8.4±1.4pg/ml) は, 石灰化を有さない群のそれ (16.1±1.6pg/ml) に比し有意に低かった.(p<0.001). 男性では, 腸骨動脈に石灰化を有する群の血清 estradiol 値 (19.2±2.5pg/ml) は, 石灰化を有さない群のそれ (29.7±2.4pg/ml) に比し有意に低かった. (p<0.01). (2) 動脈壁石灰化と骨塩含量の関係は, 女性では腹部大動脈に石灰化を有する群のRMC (0.46±0.02g/cm2) は, 石灰化を有さない群のそれ(0.52±0.02g/cm2) に比し有意に低く (p<0.02), また腸骨動脈に石灰化を有する群のRMC (0.44±0.02g/cm2) は, 石灰化を有さない群のそれ (0.52±0.01g/cm2) に比し有意に低かった. (p<0.001). 一方男性においては, 動脈壁石灰化とRMCの間には関係が認められなかった. (3) 血清 estradiol 値とRMCとの関係は, 血清 estradiol 値をX, RMCをYとすると, 女性ではY=0.0025X+0.4551という関係式が成立し, 両者の間に正の相関関係の存在することが認められた. (p<0.02), 一方, 男性では両者の間に関係が認められなかった. 以上の結果は, 内因性 estrogen 不足が動脈壁石灰化を促進させる可能性があるという点については, 本質的には性差がなく, また estrogen は骨吸収を介する以外の系で-おそらくは動脈壁に対する直接の作用により, 動脈壁をCa沈着から保護するという可能性を示唆する. 女性においては血清 estrogen 低値による動脈への直接の影響に加えて, さらに骨からのCa遊出の増大が加わっている可能性が考えられる.
  • 桑島 巌
    1979 年 16 巻 1 号 p. 29-37
    発行日: 1979/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    頻脈, 心拍出量増加などを呈する hyperkinetic heart を伴った高血圧は, 従来若年者に特有な病態とされてきた. 著者は老年者高血圧にもかかる病態を有する例のあることに着目し, その血行力学的及び臨床的特徴について検討した. 対象は心係数4.0L/min/M2以上を有する老年老高血圧21例 (男9女12平均年齢72.5歳) (HH群) で, 他に対照として老年老正常心拍出量性高血圧21例 (男10女11, 74.3歳) (NH群) と老年者正常血圧17例 (男4女13, 75.1歳) (NT群) についても検討を行った.
    1) 色素稀釈試験により測定した血行力学的評価ではHH群の心係数平均は4.57L/min/M2であった. HH群の心拍数, 1回心拍出量は共に他の2群のそれに比し有意に大であった (p<0.02). HH群とNH群との間に血圧の有意差は認められなかった. 2) 各群に isoproterenol 0.02μg/kg/min. を5分間静注し, 前後で血行動態の測定を行った. 負荷後におけるHH群の心拍数の増加は平均33.6/分で, これはNH群, NT群のそれに比し有意に大であった (p<0.02). また心係数の増加もHH群では他の2群に比し有意に大であった (p<0.05). 3) 臨床的特徴; 11年以上の高血圧既往歴を有する例はHH群26.3%, NH群28.6%で動揺性高血圧の頻度はHH群47.6%, NH群38.0%で両群に差を認めなかった. ヘマトクリット値, TSH, T3-RSU, T4, BUNおよび末梢血レニン活性値にはHH, NH群間に有意差がなかった. また心胸郭比, 循環血漿量も両群間に有意差が認められなかった. 臓器重症度ではHH群はNH群に比し軽症例がより多くみられた. 4) β遮断薬の降圧効果; HH群9例にβ遮断薬 (propranolol 60mg/日5例, oxprenolol 60mg/日4例) を投与し, 16週間血圧, 脈拍を観察した. 投与前血圧194.2/96.3mmHgから16週後には174.0/86.6と有意に下降し, 脈拍数も治療前97.3/分から16週後77.0/分と有意に低下した (p<0.05).
  • 青山 栄, 河村 奨, 竹本 忠良, 西尾 和政
    1979 年 16 巻 1 号 p. 38-47
    発行日: 1979/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    胃潰瘍, 十二指腸潰瘍, 早期癌の診断のもとに手術された60歳以上の切除胃66例と, 無病変胃として60歳以上の剖検胃10例, 他目的で切除された4例の合計80例について, 胃壁動脈硬化度と大動脈硬化度, 胃壁動脈硬化度と慢性胃炎の各種要素との相関々係の有無を検索した結果, 次のような結論を得た.
    1) 胃壁動脈硬化は, 大動脈硬化との間に相関傾向を有する.
    2) 胃壁動脈硬化は, 早期胃癌よりも胃潰瘍, 十二指腸潰瘍において高度であった.
    3) 胃潰瘍において, 胃壁動脈硬化は, 胃粘膜に萎縮性変化をもたらし, 胃粘膜抵抗を減弱せしめることにより, 間接的に潰瘍形成に関与する.
    4) 十二指腸潰瘍においては, 胃壁動脈硬化は, 何ら関与しておらず, 十二指腸潰瘍形成は, 胃粘膜の強い抵抗性によるところが大きい.
    5) 早期胃癌における胃粘膜は, 軽度の胃壁動脈硬化によっても速やかに萎縮性変化を生じ, しかも再生, 増生能力が旺盛であるため, 次第に悪性化していくものと思われる.
    6) 腺境界は加齢と共に上昇し, しかも中間帯も加齢と共に広がる傾向がみられた.
  • 佐藤 秩子, 井上 淳子
    1979 年 16 巻 1 号 p. 48-51
    発行日: 1979/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老性変化の病理学的研究の一環として, さきに報告した在日日本人, 在ハワイ日本人剖検膵の逐齢的変化の検討につづいて膵管構築の年齢的消長を微計測的に比較検討した.
    在日日本人男子剖検例 (21歳から97歳迄) の膵内膵管で, 壁, 粘膜, 周辺腺組織の何れにも特記すべき病変をみとめないものを, 小葉内小排泄管から主膵管に到る各サイズに亘るよう各年代毎に100~150個選び, その顕微鏡写真について微計測を行うとともに, 膵管壁の弾力線維の形状の逐齢的変化を組織学的にも検討した.
    各々の壁の断面積に対する内腔の広さは, 70歳以上でバラツキが多く, 又その平均値も高齢者群に概ね大で, 病変のない状態において軽度に拡張気味である事がうかがわれたが, これは推計学的には有意ではなく, ただ80歳以上では小排泄管 (壁の断面積5,000μ2以下) ではその拡張は若年群に比し有意であった.
    膵管壁の弾力線維の形態にはとくに組織学的に年齢差を抽出し得なかった.
    さきの著者らの報告において, 膵の実質細胞 (外分泌腺細胞) 数は70歳代より, 膵管を含む間質成分は80歳代より有意に減少することを同一材料においてみとめている. 間質と実質細胞との間には, その有意な逐齢的減少の発現に10年のずれがあり, 実質に近い小排泄管にのみ80歳以上で有意な拡張をみたのは興味深い.
    加齢にともなう結合織, 弾力線維の変化については質的な変化, 機能面からの検索成績に対して形態学的な検索成績に乏しい現在, 今後の病的状態における年齢差を検討する際の一つの基礎的成績を得たと考える.
  • 1979 年 16 巻 1 号 p. 52-86
    発行日: 1979/01/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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