高比重リポ蛋白コレステロール (HDL-CH) 濃度の疫学的検討を行ない, 以下の成績を得た.
(1) 日本人におけるHDL-CH濃度の正常値 (平均±S.D.) は, 男性 (244名) 56±16mg/d
l, 女性 (234名) 61±15mg/d
lで, 女性に有意に高く, 加齢による変化はみられなかった. また, 日本人のHDL-CH濃度は, 欧米諸国の報告と比較すると高値であった.
(2) HDL-CH濃度は, 肥満度, トリグリセライド濃度, pre βリポ蛋白比とは負の相関が, アルコール摂取量, αリポ蛋白比とは正の相関がみられた.
(3) Atherogenic index (総CH-HDL-CH/HDL-CH) の正常値は, 男性2.9±1.3, 女性2.6±1.2であり. 男性では加齢による変化はみられなかったが, 50才以上の女性では, 49才以下の女性より高値であった.
(4) 臍帯血のHDL-CH濃度は, 男児 (34名) 39±12mg/dl. 女児 (41名) 40±12mg/d
lで臍帯血総CH濃度の約55%を占め, 欧米諸国の報告と差がみられなかった.
(5) 日本在住欧米人のHDL-CH濃度は, 男性 (40名) 55±13mg/d
l, 女性 (17名) 60±11mg/d
lであり, 日本人のHDL-CH濃度と同じであった.
(6) IIb型, IV型高脂血症者では, HDL-CH濃度の低下がみられた. 総CH濃度が300mg/d
l以下のIIa型高脂血症者の平均HDL-CH濃度は, 正脂血症者より軽度増加していたが, 総CH濃度が300mg/d
l以上のIIa型高脂血症者では, HDL-CH濃度の低下がみられた.
(7) 虚血性心疾患, 糖尿病, 脳梗塞, 肝疾患, 血液透析中の慢性腎不全の平均HDL-CH濃度は, いずれも低値であった. 糖尿病, 肝疾患では高値を示す例もみられた.
(8) わが国で虚血性心疾患の発生が欧米諸国より低い理由として, HDL-CH濃度の高いことが, その一因として推測され, またわが国と欧米諸国のHDL-CH濃度の差は, 食事その他の環境因子が重要な役割を占めていると考えられる.
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