ウィスター系ラットを, 長期間 metal mesh 上で飼育すると, 足底部に潰瘍形成性肉芽をみる. その発生原因を, 老若ラットを対比しつつ, 主として, 形態面より検索した. そして, これらの疾患モデルの, 個体の抵抗性の加齢による変化を研究する上での意義についてふれた.
形態学的検索には, 次の方法を用いた. 病理組織学的検査, 毛細血管鋳型, 骨格生標本, 硬・軟X線による単純撮影および動脈撮影, デンシトメトリーによる血管分布の半定量的測定, デンシトレーサーによる組織増殖過程の観察などである.
その結果, 病理組織学的には, 非特異的炎症性肉芽であるが, 老齢にもかかわらず, 死の直前まで, mitosis を含む旺盛な過形成性変化をみた. そして, これらの病変は, 足底部で, 最も加重がかかり, しかも, 軟部組織の発達が, 生理的に極めて悪く, 乏血管性である第4, 5中足部1/3から足底部にかけて発生をみた.
循環系の検索によると, 下肢に行く血行は, 全般的にはむしろ保たれているが, 潰瘍の発生部では, 加重負担により, 乏血管部への圧迫のため, 局所的貧血が起り易い. その上, 老ラットでは, 末梢神経に, 節性変化を主体とする病変が起り, これらの変化とあいまって, ヒトにおける褥創と同じような病変を来す. そして, 皮膚など上皮性組織の局所性破壊と, 間葉系組織の反応性増殖へと導かれるものと解された.
これらの疾患モデルは, 老個体の刺激に対する抵抗性の変化を考える場合, 心, 脳, あるいは間葉系組織など, postmitotic, mitotic な組織の加齢による変化を, 個々別々に観察するのではなく, 常に両者を相対的にとらえ, 両者のバランスを統禦するものは何か. その組織間のバラツキのくずれが, いかに個体を破壊へ導くかを観察することが必要であることを示していよう.
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