日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
18 巻, 5 号
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  • 山之内 博, 東儀 英夫, 朝長 正徳, 飯尾 正宏
    1981 年 18 巻 5 号 p. 297-307
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    大脳半球白質の陳旧性虚血性病変とCT上の低吸収域, periventricular lucency (PVL) との関係を追求する事を目的に, 脳に虚血性病変の認められた37剖検例と, CT上PVLのみられた17剖検例を対象に組織学的に検索し, CT所見と対比検討した.
    1) 虚血による高度の脱髄部位, あるいは空胞化によって白質組織が全体として疎になっている部分は, CT上低吸収域として検出された. しかし, 虚血に伴う脱髄部位に著明なグリア線維の増殖が認められた場合には, CT上低吸収域とし検出されないことが多かった. 不完全軟化や変性に伴う脱髄が軽度の部位は, CTで低吸収域として検出されなかった. 以上の結果より, 虚血性変化に伴う脱髄が高度なほど, 空胞化による組織の疎の状態が強い程CT上低吸収域として検出されやすく, グリア線維の増殖が強い程低吸収域として検出されにくい. 白質の陳旧性虚血性病変は常にCTで検出されるとは限らない, と結論された.
    2) PVLを有した例の約1/3の例では, PVLにほぼ一致する前頭葉白質の広範な梗塞, 脱髄, 空胞化がみられた. この中には大脳半球白質に広範な虚血性病変を有する, いわゆる Binswanger 型白質病変を示したものが多かった. 白質の虚血性病変はあるがCT上のPVLとは一致しなかったもの, PVLに相当する白質病変のないもの, 側脳室前角前方に虚血性病変はあるがCTではPVLの認められなかったものもみられた. 以上の結果より, PVLの中には前頭葉白質の広範な虚血性病変を反映している場合が少なくないと結論された.
  • 本間 昭
    1981 年 18 巻 5 号 p. 308-318
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    加齢に伴い染色体数が45以下あるいは47以上である異数性細胞の出現頻度が増加することは, 培養した静脈血中のリンパ球の染色体数の観察から古くより知られている. 老年痴呆の本態は中枢神経の老化が病的に加速された状態とも考えられているが, 老年痴呆群では対照群と比較し明らかに異数性細胞の出現頻度が高いことが認められている.
    本論文では老年痴呆と比較して若年発症型であるアルツハイマー病患者男子5名を対象として細胞遺伝学的方法により染色体の異数性の検討を行った. また, 心理学的および放射線学的方法などにより痴呆の程度の診定を行い異数性との関連を追求した.
    異数性細胞の出現頻度は静脈血中のリンパ球を培養し, 染色体数を観察し, 高二倍性細胞の出現頻度を二倍性細胞数に対する比として求めた. CT scanner および application computer を用いて側脳室前角と後角および体部を通るスライスでの脳実質面績, また皮質のみを通るスライスで髄液腔面績を算出し脳萎縮の示標とした. 知能スケールは長谷川式簡易痴呆スケール, ベンダーゲシュタルトテスト, コース立方体組合せテストを用いた. さらに臨床的な痴呆程度により3段階に分け, 脳波の優位基本周波数を検討した.
    高二倍性細胞の出現頻度は2.3%であり, 健康正常老人にみられるそれと比較し, 明らかに高頻度であった. 過剰染色体はX染色体である可能性が示された. 5症例における高二倍性細胞の出現頻度と長谷川式簡易痴呆スケール得点との間には推計学的に有意な逆相関が認められた. 高二倍性細胞の出現頻度とその他の評価方法との間には特に相関はみられなかった.
    加齢および老化性痴呆にみられる異数性細胞の出現頻度および発現機序について簡単な展望を試み, 高二倍性細胞の出現頻度が痴呆性変化のパラメーターのひとつとしての意義をもつ可能性を考察した.
  • I. 発症疾患と検査項目との対比
    森下 健, 平井 順一, 長谷川 駿, 長谷川 元治, 川崎 健, 荒井 親雄, 柏倉 義弘, 駒沢 勉
    1981 年 18 巻 5 号 p. 319-324
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    動脈硬化, 高血圧を基盤として発症する諸疾患の予知法, 診断法として現在血圧, 心電図, 眼底, 血清脂質の測定があり, これらの所見から総合的に判定されている. しかし正常血圧者からも脳梗塞, 心筋梗塞の発症が多数みられること, また日本人に多い脳梗塞が血清脂質の正常者から多く発症していることも事実である. 著者らは大動脈脈波速度法 (PWV) を開発し, これを従来の検査法に加え, 1967年以降動脈硬化, 循環器集団検診を実施して来た. 延検診総数は421,762名で, 既往を持たぬ160,600例を調査対象とし, 68,684名の有効回答をえた. 発症者は198名でその内訳は心筋梗塞36名 (18%), 狭心症50名 (25%), 脳梗塞64名 (33%), TIA 24名 (12%), 脳出血14名 (7%), クモ膜下出血10名 (5%) である. 実施した検査は血圧, 心電図, 眼底, 血清コレステロール, PWVの5項目で, 本稿は第一報として, 名検査所見と発症疾患の関係を年代別に対比し検討した.
  • 佐藤 秩子, 甲谷 憲治, 林 幸子, 田内 久
    1981 年 18 巻 5 号 p. 325-335
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    在日日本人男子剖検肝についての微計測的成績についてはすでに田内, 佐藤によって検討され,田内らが本質的な老化の形態学的指標の一つとしている肝細胞の加齢にともなう減数を始め, 2核細胞の増加とその後の減数, 肝細胞体, 核の減数にともなう増容などがみとめられている. 更に米白人, コスタリカ人, 在ハワイ日本人男子剖検肝についても同様の検索がなされ, 肝の成熟成長期における栄養環境によって, 高齢期における老化様相がある程度規制される点が指摘された.
    本報告においてはこれ迄検索した在日日本人群 (1950年から1960年に剖検, A群とする.) からおよそ15年後に剖検された21歳から97歳の各年代の日本人男子 (1965年から1976年間に剖検) 83例 (B群とする) についてこれまでと同様の微計測的検索ならびに組織学的検索を行い, 在日日本人A群, 在ハワイ日本人群におけるこれまでの成績と比較検討した.
    これらB群においては, 肝重量は在ハワイ群よりは軽く在日A群よりは重く (何れの2群間にも有意差あり) 逐齢的に減少する.
    肝細胞数はB群では50歳以後減数がみられ70歳以後は有意となる. 39歳以下では在ハワイ群に近い値を示しA群より有意に多いが, 70歳代では肝重が有意に大であるにも拘らず細胞数は有意に少い.
    2核肝細胞数の逐齢的消長は在日A・B群間に有意差をみとめず70歳代を中心にピークがあり, 在ハワイ群のみ50歳代にピークがみられた.
    肝細胞体の大きさはB群では逐齢的増容がとくに辺縁層で顕著で, 加齢とともにA・B両群の差が顕著となり在ハワイ群に近づく. これに対して肝細胞核の大きさならびにその逐齢的消長はA・B両群間に殆んど差をみず在ハワイ群に比し有意に小さい. 肝内動脈硬化度の逐齢的消長もA・B両群間には大差をみなかった.
    在日B群の各例毎に栄養環境の変遷を検討し, その成熟期における栄養環境が老年期の肝細胞減数に及ぼす影響の大であるとの示唆を得た.
  • WKY対比によるエラスチン, コラーゲンの年齢推移
    長谷川 元治, 川崎 健, 斉藤 光代, 伊藤 浩行, 岡本 耕造, 荒井 親雄, 柏倉 義弘, 吉村 正蔵
    1981 年 18 巻 5 号 p. 336-341
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    岡本らにより開発された脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット (SHRSP) は発育早期より重症の高血圧を遺伝的, 家族的に認め, ほぼ90%に脳卒中を発症する. この高血圧性動脈病変を解明する一法として大動脈における中膜結合識, 特にエラスチン, コラーゲンを顕微分光測定法 (microspectrophotometry, MSP) を用い組織化学的に定量し Wistar-Kyoto (WKY)と対比のもとに年齢推移を検討した.
    対象・方法
    対象は年齢36日から622日までSHRSP 243例, WKY 44例, 計287例の大動脈胸部で, SHRSP中112例は脳卒中群, 他は非卒中群である. エラスチン は Weigert 染色, コラーゲンは Van Gieson 染色を施し, 各々最大吸光度波長特性は590nm, 563nmで中膜含有量を測定した. エラスチン, コラーゲンのMSP法による測定の基礎的問題はすでに検討し, Lambert Beer の法則適用のもとに定量法は確立している.
    成績
    1. WKY 44例, SHRSP 287例の胸部大動脈中膜組織エラスチン, コラーゲンの年齢推移をMSP法で定量, 比較検討した.
    2. WKYエラスチン, コラーゲンの年齢推移はほぼ同じ動態を示し, 生後150~200日まで動脈成長と共に増量, 以後加齢により漸減する.
    3. SHRSPエラスチン, コラーゲンの年齢推移は生後すでに異常増生反応があり, 300日まで急減する一群 (severe hypertension) と300日以降漸減する一群 (moderate hypertension) でその結合識代謝の動態は異なる. 又両群を通して150日前後を境としWKYとの量的関係は逆転する.
    4. SHRSP脳卒中群の両結合識は150日以上350日未満で非卒中群に比し有意の低値を示す.
    5. SHRSPにおけるエラスチン, コラーゲン代謝は病的な推移を辿りつつその増減に正の相関(r=0.614) を認める.
  • 中 透, 荻原 俊男, 波多 丈, 圓山 アンナ, 三上 洋, 中丸 光昭, 後藤 精司, 舛尾 和子, 大出 博功, 岩永 圭市, 熊原 ...
    1981 年 18 巻 5 号 p. 342-348
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    健常者 (54名. 11~88歳) と本態性高血圧症患者 (37名. 17~82歳) において, 尿中カリクレイン排泄量 (UkalV) の加齢による変動を検索した. 尿中Na (UNaV), K (UKV), クレアチニン (UcrV), アルドステロン (UAldV) 排泄量も同時に測定した.
    両者において, UNaVとUKVと加齢との間には有意な相関を認めなかった. 健常者では加齢とUkalV (r=-0.45. p<0.001), UAld (r=-0.58. p<0.01), UcrV (r=-0.40. p<0.005) との間には有意な負の相関を認めた. UkalVは, UAldV (r=0.44. p<0.001), UcrV (r=0.56. p<0.001) と有意な正の相関を示した. 本態性高血圧症患者においては, UAldV (r=-0.36 p<0.05), UcrV (r=-0.44 p<0.01) は, 加齢と有意な負の相関を示したが, UkalVは有意な相関がなく, また, UkalVとUAldV, UcrVとの間にも有意な相関を認めなかった. 60歳以上の高齢者においてのみ健常者より本態性高血圧症患者のUkalVは有意に増加していた (p<0.05).
    健常者におけるUkalVの加齢による減少は, 加齢によるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の低下, 腎血流量の減少に起因するものと推測された. 健常者と異なり本態性高血圧症患者では, 加齢によりUkal1Vに明らかな変動を示さなかったことの本態性高血圧症の病因・病態への関与については, 今後の検討を要する.
  • 心房容積の検討
    杉浦 昌也, 大川 真一郎, 植山 千秋, 慶田 喜秀, 阿部 仁, 上田 慶二, 嶋田 裕之
    1981 年 18 巻 5 号 p. 349-353
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    (1) 60歳以上の老人1,000例の連続剖検例中における心房細動の頻度は169例, 約17%で固定性73例と一過性96例に分けられる.
    (2) 固定性心房細動の基礎疾患は (1) 弁膜症, (2) 高血圧, (3) 洞機能不全などであり, 一過性心房細動の誘因としては (1) 感染症, (2) 代謝異常, (3) 心膜炎, (4) 心筋梗塞, (5) 末期の状態など多彩であった.
    (3) 心房容積を固定性, 一過性両群について比較すると左房, 右房および両心房の合計でいづれも前者は後者よりも有意に拡張していた. 左房は82対47ml, 右房は76対43ml, 合計は158対89mlであった. 以上の心房拡張は心房細動の維持と関係が深いものと推定した.
    (4) 心房容積は心胸郭比と0.49, 心重量と0.53程度の相関を示した.
  • 杉山 誠
    1981 年 18 巻 5 号 p. 354-360
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    ウィスター系ラットを, 長期間 metal mesh 上で飼育すると, 足底部に潰瘍形成性肉芽をみる. その発生原因を, 老若ラットを対比しつつ, 主として, 形態面より検索した. そして, これらの疾患モデルの, 個体の抵抗性の加齢による変化を研究する上での意義についてふれた.
    形態学的検索には, 次の方法を用いた. 病理組織学的検査, 毛細血管鋳型, 骨格生標本, 硬・軟X線による単純撮影および動脈撮影, デンシトメトリーによる血管分布の半定量的測定, デンシトレーサーによる組織増殖過程の観察などである.
    その結果, 病理組織学的には, 非特異的炎症性肉芽であるが, 老齢にもかかわらず, 死の直前まで, mitosis を含む旺盛な過形成性変化をみた. そして, これらの病変は, 足底部で, 最も加重がかかり, しかも, 軟部組織の発達が, 生理的に極めて悪く, 乏血管性である第4, 5中足部1/3から足底部にかけて発生をみた.
    循環系の検索によると, 下肢に行く血行は, 全般的にはむしろ保たれているが, 潰瘍の発生部では, 加重負担により, 乏血管部への圧迫のため, 局所的貧血が起り易い. その上, 老ラットでは, 末梢神経に, 節性変化を主体とする病変が起り, これらの変化とあいまって, ヒトにおける褥創と同じような病変を来す. そして, 皮膚など上皮性組織の局所性破壊と, 間葉系組織の反応性増殖へと導かれるものと解された.
    これらの疾患モデルは, 老個体の刺激に対する抵抗性の変化を考える場合, 心, 脳, あるいは間葉系組織など, postmitotic, mitotic な組織の加齢による変化を, 個々別々に観察するのではなく, 常に両者を相対的にとらえ, 両者のバランスを統禦するものは何か. その組織間のバラツキのくずれが, いかに個体を破壊へ導くかを観察することが必要であることを示していよう.
  • 辻本 真人, 津田 忠昭, 大畑 雅洋
    1981 年 18 巻 5 号 p. 361-369
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    我々は老年者血清が免疫抑制因子を含んでいることを報告したが, 今回老年者血清がリンパ球幼若化反応のどの時期に影響をおよぼすかを知るために検索をおこなった.
    健常人リンパ球を若年者血清を含む培養液中でPHAおよびCon A刺激下に培養し, 培養開始より種々の時間に老年者血清を添加し, リンパ球の3H-TdRあるいは3H-UdRの取りこみを測定してその抑制作用を検討した. また肝癌患者血清, 妊婦血清を種々の時間に添加し, その抑制作用を老年者血清と比較した. つぎにリンパ球を若年者血清, 老年者血清, 肝癌患者血清あるいは妊婦血清を含む培養液中でPHA, Con A刺激下に培養し, 分裂中期の細胞を算定して, 各血清間で比較した.
    健常人リンパ球培養で, 若年者血清加培養と老年者血清加培養を比較すると, リンパ球のPHA, Con Aに対する反応は老年者血清加培養で, 24, 48, 72時間培養とも低値であった.
    若年者血清を含む培養液でのリンパ球培養に, 種々の時間に老年者血清を添加すると, いずれの時間に添加しても, PHA, Con A刺激とも, リンパ球の3H-TdR, 3H-UdRの取りこみは同じ程度に抑制された. この抑制作用を肝癌患者血清, 妊婦血清とで比較すると, 肝癌患者, 妊婦血清ともに, 培養初期に添加した場合最もその抑制作用は強く, 肝癌患者血清では培養開始より24時間以降, 妊婦血清では48時間以降に添加した場合抑制作用は認めなかった. このことより老年者血清の抑制作用と肝癌患者血清および妊婦患者血清の抑制作用はその機序が異なることがわかった.
    分裂中期の細胞の出現率は若年者血清加培養に比較して, 老年者血清加培養, 肝癌患者血清加培養, 妊婦血清加培養で有意に低値を示した.
    以上により老年者血清はリンパ球が mitogen に反応するその初期を抑制するのではなくて, mitogen に反応したリンパ球が増殖する過程を主に抑制することがわかった.
  • 1981 年 18 巻 5 号 p. 370-402
    発行日: 1981/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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