日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
19 巻, 6 号
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  • 田村 直俊, 島津 邦男, 稗貫 誠, 大岩 海陽, 金 浩澤, 濱口 勝彦
    1982 年 19 巻 6 号 p. 563-570
    発行日: 1982/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    近年, 脳血管障害・パーキンソン病・脊髄小脳変性症など種々の神経疾患において, 自律神経系に対する検討が行なわれている. ただし, 自律神経機能は生理的加齢に伴っても変化するため, 患者の自律神経機能を評価するにあたっては, 常に加齢による影響を考慮する必要がある. 我々は, 加齢に伴う自律神経機能の変化を, より詳細に検討する目的で, 高血圧・糖尿病・神経学的異常・一般検査における異常のいずれをも有しない, 各年代層の健常者81例を対象として, 血圧・脈拍・呼吸の連続記録下に hemodynamic functional tests を施行した. さらに, パーキンソン病患者36例・脊髄小脳変性症患者26例にも同様の検討を行ない, 同年代層ごとの健常者の成績と比較した.
    1) 副交感神経機能の指標である Aschner 試験・Valsalva maneuver の反射性徐脈は, 加齢に伴い緩徐な反応性低下を示した.
    2) 交感神経機能の指標である寒冷昇圧試験の反射性頻脈・反射性血圧上昇は, 30歳代で急速に低下し, それ以降の年代では変化が少なかった.
    3) 起立性血圧下降は, 40歳代以降で著明となった.
    4) パーキンソン病・脊髄小脳変性症における起立性低血圧の出現頻度は, 年齢をマッチさせた場合, 健常者との間に有意差を認めなかった.
    以上の結果より, 加齢による自律神経機能の変化は, 一般に理解されている以上に大きく, 各種疾患における自律神経機能を検討する場合には, 加齢による影響を十分に考慮しなければならないと考える.
  • 奥田 文悟, 宇高 不可思, 岡田 方子, 岡江 俊二, 大槻 雄三, 塩 栄夫, 亀山 正邦
    1982 年 19 巻 6 号 p. 571-576
    発行日: 1982/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    ADPを用いた血小板凝集能を脳梗塞及び脳出血例について, 急性期より固定期にかけて測定し比較検討した. 対象として脳梗塞は急性期 (発症後1週間以内) 68例, 固定期 (4週間以上) 74例について, 脳出血は急性期46例, 固定期45例について測定したが, このうち脳梗塞39例と脳出血37例は急性期より固定期にかけて連続的に測定した. 凝集能は2次凝集を起こしうる最低APDにより3段階に分類した. 1, 2, 4μMADPにて2次凝集を起こしうるものをそれぞれ「亢進」「中等度」,「低下」とした. 急性期においては脳梗塞68例中49例 (72%), 脳出血46例中32例(70%) が低下していた. 固定期においては脳梗塞74例中33例 (45%) が亢進, 26例 (35%) が低下しており, 脳出血45例中14例 (31%)が亢進, 19例 (42%) が低下していた.
    脳梗塞 (P<0.001), 脳出血 (P<0.02) ともに固定期は急性期より有意に亢進例が多かった. 脳梗塞, 脳出血, 対照群の順に急性期では凝集能は低下しており, 固定期ではその順に亢進していた. 脳梗塞固定期における凝集能は対照群より有意 (P<0.02) に亢進を示したが, その他の差は有意ではなかった. 急性期より固定期にかけて連続的に測定した例では, 内頚動脈系の脳梗塞例に亢進する傾向が強いのに対して, 椎骨脳底動脈系の脳梗塞例では亢進傾向を認めなかった.
    脳梗塞, 脳出血の固定期の凝集能を65歳前後で比較すると, いずれも65歳以上で亢進例が多く, 凝集能は加齢とともに亢進する傾向を認めた.
  • 田中 隆一郎, 下坂 国雄
    1982 年 19 巻 6 号 p. 577-582
    発行日: 1982/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    特別養護老人ホーム黒潮園に在住する“ほぼ寝たきり”の高齢者 (平均年齢77.9±8.1歳) 57例を対象に排便傾向の調査とビフィズス菌醗酵乳 (以下ビ菌醗酵乳) の飲用に伴う排便傾向の改善をしらべた. 対象者57例中40例 (70%) は2日に1回以下の排便回数であった. また, 便秘薬常用者は22例 (39%) にも認められ, その排便回数は1週間当り2回以下であった.
    ビ菌醗酵乳100mlを連日20日間飲用させることにより, 自然排便者9例の排便回数は, 飲用前の5.7±3.3回/10日間 (平均±SD) から, 前半10日間の飲用で7.0±2.5回 (P<0.05), 後半10日間では8.1±1.6回 (P<0.01) のように増加した.
    便秘薬常用者10例でも, 飲用前の2.1±0.3回/10日間から, 前半10日間飲用で3.8±1.9回, (P<0.05), 後半10日間では4.4±1.8回 (P<0.01) のように増加した. 一方, 対照とした未醗酵乳では, 自然排便者群で後半10日間の飲用期にのみ有意の増加を認めた.
    上記のビ菌醗酵乳の飲用効果は, 自然排便者の対象を26例に増やしても, 飲用前10.8±3.8回/20日間, 飲用中13.1±3.9回 (P<0.001), 飲用後10.8±3.5回のように確認された.
    以上の結果から,“ほぼ寝たきり”の高齢者では便秘傾向が顕著であること, ビ菌醗酵乳の飲用によりこれらの排便傾向が明らかに改善されることがわかった.
  • 宮原 忠夫, 村井 淳志, 亀山 正邦
    1982 年 19 巻 6 号 p. 583-587
    発行日: 1982/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    一元放射状免疫拡散法 (SRID) を用いたアポ蛋白A-I, A-II測定法の信頼性について検討した.
    ヒト血清より精製したアポ蛋白A-I, A-IIで家兎を免疫して, アポ蛋白A-I, A-IIに対する特異抗血清を作製した. この抗血清を含むアガロースゲル平板を作製し, SRID法によりアポ蛋白A-I, A-IIを定量した. 検体は, 血清よりヘパリン・Mn沈降法により分離した高密度リポ蛋白 (HDL) 分画を用い, 前処置としてテトラメチルウレア (TMU) で脱脂し, Tris-Urea 緩衝液で稀釈した. アガロースゲル平板の試料孔に検体を注入し, 48時間後に沈降輪の直径を二方向に計測した. 標準アポ蛋白A-I, A-IIより求めた検量線に基づいて, 検体濃度を算出した.
    前処置のTMUによる脱脂や Tris-Urea 緩衝液による稀釈により, 他の前処置と比較して, 十分に良好な沈降輪の形成が認められた. 試料添加後の測定時間は室温にて48時間で十分であった. 測定の変動係数は許容範囲内と考えられた. これらの測定条件の検討により, SRID法によるアポ蛋白A-I, A-II測定の有用性が確かめられた.
  • 健常群, 脳梗塞群の対比
    川崎 健, 竹内 光吉, 長谷川 元治, 八木 晋一, 中山 淑, 柏倉 義弘, 荒井 親雄, 高山 吉隆, 岸 良典, 比嘉 康宏
    1982 年 19 巻 6 号 p. 588-595
    発行日: 1982/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳動脈硬化の早期発見を目的とし, 脳動脈硬化に先行し動脈硬化性病変が出現する総頚動脈の管軸方向弾性特性の分布を計測した. 対象は50代, 60代の健常群30例, 脳梗塞群40例, 計70例である. 計測部位は総頚動脈鎖骨直上部より頚動脈洞までを4等分し, 頚動脈洞(E部)および中枢側D, C, B部の計4点である. 計測パラメータは stiffness parameter βである. βは応力-歪構成法則を指数函数であらわした場合の指数係数で数値の大なる程血管が変形しにくい, すなわち機能的に硬いことを意味する. 臨床的にはβは次式よりえられる. β=(lnPs/Pd)・Dd/(Ds-Dd)(Ps: 最大血圧, Pd: 最小血圧, Ds, Dd各々の口径). 血管径の計測装置は超音波変位計を用いた. 本装置は超音波エコーの位相を追跡するシステムを採用し変位量に対し高い計測精度を有している. これよりえられた口径変位波形から最小血圧時口径Dd, 最大血圧時口径Ds, 変位振幅ΔDをもとめた. また血圧は圧力トランスジューサーを用いた上腕動脈圧の間接的測定法により求めた.
    総頚動脈管軸方向口径分布をみると, 各群各年代ともB, C, D部に比し頚動脈洞E部の口径が約20%大であった. 又脳梗塞群は健常群に比べ各部位の口径とも大であった. 口径変位は各部位間に明らかな差はみとめないが, 脳梗塞群は健常群に比べ小であった. 一方管軸方向のβ分布をみると, 健常群では50代, 60代とも総頚動脈の各部位(B, C, D部)のβはほぼ一定で, 頚動脈洞部は他部位に比し17~18%大である. 脳梗塞群ではこの傾向はさらに増強し, 頚動脈洞は総頚動脈に比し33~37%大となる. 又, 脳梗塞群βは各年代各部位とも健常群に比し明らかに高値を示し有意差をみとめるが特に頚動脈洞部では45~63%大であった.
    以上超音波変位計により非観血的に計測された総頚動脈管軸方向β分布特性から生理的脈動流下での力学的な機能特性を評価し, 脳動脈硬化を推定する本法は, 間接的脳動脈硬化診断法として有効である.
  • 早川 富博, 宮治 真, 片桐 健二, 岸本 高比古, 友松 武, 山本 俊幸, 前田 甲子郎, 伊藤 誠, 武内 俊彦
    1982 年 19 巻 6 号 p. 596-602
    発行日: 1982/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高齢者45例 (平均年齢76歳) における内視鏡的逆行性膵管造影施行時の白血球数, Benz-Arg-PNA水解酵素活性 (以下T.L.E.と略す). 血清アミラーゼ値の変化を壮年者26例 (平均年齢42歳)と比較検討し, また高齢者の検査によるHt値の変化についても検討し考察を加えた. 白血球数, T.L.E.活性は検査によって軽度の上昇を示したが, 高齢者群と壮年者群との間に差はなかった. 血清アミラーゼ値は両群とも検査2時間後に有意な上昇を示したが, 高齢者群では壮年者群に比して約1/3の値であった. また, 血清アミラーゼ値の上昇率と主膵管径との間に逆相関(n=68, r=0.361, P<0.01) が得られた. これより高齢者では十分な膵管像が得られ易いと考えられた. しかし高齢者群では前値に復するのが壮年者群に比して還延しており, 検査後の十分な観察が必要と考えられた.
    高齢者群におけるHt値は検査によって有意の上昇を示し, 血液粘性の上昇が示唆された. 検査時間が50分におよんだ為に頻回な空気の吐逆を起こし, mallory-Weiss 症候群を合併した症例を呈示した.
    高齢者の内視鏡的逆行性膵管造影施行時には壮年者に比して注意すべき点が多いが, 検査前から被験者の状態把握, 十分な補液と経過観察, 検査時間の短縮などを考慮すれば, 診断に適した十分な膵管像が得られると考えられた.
  • 伴野 祥一, 大島 茂, 羽鳥 幹子, 山本 節子, 佐藤 邦雄, 岡本 正司, 村田 和彦, 塩原 雄二郎, 伊藤 公雄, 茅 博
    1982 年 19 巻 6 号 p. 603-609
    発行日: 1982/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    X線写真でみられる大動脈弓部および腹部の石灰化出現頻度について, 東京を中心とする大都市生活者 (男子1,828例, 女子1,093例) と深谷, 本庄を中心とした地方都市およびその周辺在住者 (男子436例, 女子352例) を年代別に比較した. また, 地方都市例については, 農家例と非農家例の大動脈石灰化出現頻度の比較および, 血清総コレステロール, HDLコレステロールと石灰化像の有無について検討した. 石灰化像はルーチンの胸部背腹方向と, 腰椎側方向のX線写真にて判定した.
    大動脈弓部におては男女とも地方都市例の方が石灰化出現頻度は高く, 50才代, 60才代ではその差は統計的に有意であった. 対象を耐糖能別, 血圧の程度別に比較しても, 同様に地方都市例に大動脈石灰化出現頻度は高い傾向にあった. 腹部大動脈については大都市例と地方都市例の間に有意の差はなかった. 地方都市例における農家例と非農家例の比較では, 弓部, 腹部とも両群間に差はみられなかった.
    地方都市例について血清コレステロールおよびHDLコレステロール値と, 石灰化の有無について検討したが, 石灰化の有無による差は認められなかった.
  • ST, T, R変化の意義及び心筋梗塞例の検討
    門脇 孝, 蔵本 築, 松下 哲, 坂井 誠, 万木 信人, 村上 元孝
    1982 年 19 巻 6 号 p. 610-616
    発行日: 1982/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    我々は老年者虚血性心疾患の診断に isoproterenol (ISP) 負荷試験を導入し, 負荷後の虚血性ST低下が冠狭窄の診断に有用であることを報告してきた. 今回は多数例でST変化の有用性を確認すると共に, R波高・T変化の診断的価値を検討し, 合わせて心筋梗塞例のISP負荷により梗塞部以外の冠狭窄の評価及び予後の推定が可能であるか否かを検討した.
    対象はISP負荷試験を行ない後に剖検の機会を得た60-90歳の150名で, 内訳は有意冠狭窄のない86例のコントロール群 (C群), 少なくとも1枝に75%以上の狭窄を有する40例の冠硬化群 (S群), 負荷時既応に心筋梗塞を有した24例の心筋梗塞群 (I群) である. ISPは0.02μg/kg/minを5分間静注し, 心電図は標準12誘導及びC5-C5R誘導を用いた.
    負荷後のST虚血性低下0.5mm以上という基準は有意冠狭窄の有無の診断に対し sensitivity 73.3%, specificity 81.1%であった. また2枝以上の狭窄群でST低下の程度が大だった. 負荷前の陽性Tは各群とも減高例が多く, 一方陰性TはS群の72.2%, I群の81.8%で基線に近づくか陽性化することを認めたが, C群でも51.9%に認められ負荷後のT変化により冠狭窄を判定することは出来なかった. ISP負荷後のR波高 (C5-C5R) は三群とも減高例が多く, 不変・増高例の割合はC群25.8%, S群41.9%, I群18.8%とS群で多い傾向を認めたが有意ではなかった.
    心筋梗塞24例のうち負荷陽性の13例中10例に梗塞部支配冠動脈以外の冠狭窄を認めたのに対し, 陰性例では11例中2例と少数であった. またISP陽性例で高率に心筋梗塞の再発を認めた.
    以上の結果からISP負荷試験によるST変化が冠狭窄の診断・評価に有用であること, T変化・R波高の意義の少ないこと, 心筋梗塞のISP負荷により梗塞部支配冠動脈以外の冠狭窄の程度を判定出来, 陽性例は再発作との関連の大きいことを認めた.
  • 富名腰 徹, 松本 雅裕, 今村 浩一郎, 牟田 和男, 牧 俊夫, 若杉 英之, 井林 博
    1982 年 19 巻 6 号 p. 617-624
    発行日: 1982/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    加齢に伴う膵外分泌能の変動について, 健常者323例を対象に, 早朝空腹時の血清RNase (polyC基質法), 血清 elastase 1 (RIA), アミラーゼ値を測定し, また pancreozymin secretin test (PS 試験) 施行の372例を健常者を対象に各年齢別検討を加えた. なお, 血漿 Human pancreatic polypeptide (hPP) の変動についても検討した. 対象症例の年齢は15~116歳で, 以下の成績を得た.
    1) 血清RNase値は加齢と伴に有意の漸増を認め (r=0.61, p<0.001) 特に70歳以降に著明な上昇向を示したが, 特に有意の性差を認めない.
    2) 血漿hPP値も加齢と伴に有意の漸増を示し特に80歳以上の高齢者で著明高値例を認めるが, 老年者では個体別変動が大であった. なお, 血清RNaseとhPP間には有意の正相関が認められた (r=0.44, p<0.001).
    3) 血清 elastase 1は加齢に伴う有意の変動を認めえなかった.
    4) 血清アミラーゼ値は70歳代でやや低値傾向を示したが, 各年代間に有意の変動は認めえなかった.
    5) PS試験では, 指標3因子中液量とアミラーゼ排出量は10歳代と70歳代でやや低値傾向を認めたが, 最高重炭酸濃度を含め, 3因子ともにいずれも加齢による有意の変動を認めえなかった.
    従ってこれら諸検査項目の中で特に血清RNase及び血漿hPP値の判定に際して年齢への配慮が必要と結論される.
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