近年, 高齢化社会傾向に伴ない老年者の心血管病変, 中でも冠動脈硬化を基盤とする心筋梗塞発症は特に重要な課題といえる. しかし老年者での本病態の特性は不明な点が多く, 特に冠動脈病変及び左心機能に関する臨床報告は少ない. そこで cineangiography を用いて検索した900症例のうち60歳以上の比較的老年者について冠動脈病変及び左心機能の解析を行ない, 更に各種冠危険因子との関連を検討した. 対象は119例 (男96, 女23), 年齢は60~78歳 (平均64歳) で, 疾患別には冠動脈疾患100 (男83, 女17), 弁膜疾患13 (男9, 女4), 特発性心筋症6 (男4, 女2), を示す. 冠動脈疾患患者100例の臨床診断の内訳は心筋梗塞46, 狭心症54. 左室造影所見では aneurysm (26例), akinesis (26例), hypokinesis (5例) で合計が57%を占めた. 各種左心機能では, LVEDP (14.6±6.0mmHg), LVEDVI (100.0±32.9m
l), EF (0.61±0.16), LVdp/dt/p (40.5±11.5) LVSWI (66.6±25.5g/m
2) で心臓の拡張動態の障害傾向を認め, 多枝病変については ejection phase の障害も同時に認めた. 冠動脈病変については, 狭窄を全く認めないもの9例, 非有意 (50%以下) 狭窄病変を認めたもの10例, 有意1枝病変16例, 有意2枝病変24例, 高度3枝病変30例, 高度4枝病変7例と自然発生 spasm 4例を認め, 多枝病変が半数以上を占めた. 冠危険因子のうち喫煙, 高血圧, 耐糖能異常を有する割合は多枝病変群で高率に認められた. また多枝病変群では triglyceride の高値, HDL-cholesterol の低値が有意に認められた. 以上の結果は比較的老年者に於ける左室瘤合併を含む広範囲梗塞の発症の可能性が高いことを示唆し, これが難治性のポンプ失調に結びつくと解される. また老年者では喫煙, 高血圧, 耐糖能異常, 血清脂質の異常が高率に合併し, これが multiple atheromatous lesion の発現に関与し高度の心筋虚血に結びつくため治療プログラムにおけるこれら冠危険因子の是正が必須と結論される.
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