リポフスチンは古くから加齢とともに増加するといわれているが近年になってから画像解析装置を用いた研究は行なわれるようになった. 中枢神経系においては脳における報告は多数みられるが, 脊髄についての報告はほとんどない.
本論文は剖検123例を対象とし脊髄神経細胞のリポフスチンの量を画像解析装置及びスコア方法を用いて定量的に検索し, 神経細胞の機能の異なるものすなわち前角細胞, 胸髄核, Onufrowicz 核, 中間質外側核について, また運動神経細胞に関しては Betz 巨細胞, 頚髄, 腰髄の前角細胞について検索し, 又神経系の老化の所見としてリポフスチンの他にアミラセア小体, 老人斑, アルツハイマー原線維変化等があげられているが, 本論文はこれらの所見と対比を行った. 一方変性疾患である筋萎縮性側索硬化症 (以下ALSと略す) Duchenne 型筋ジストロフィー症 (以下PMDと略す) についてリポフスチンの定量も行なった. 1) 脊髄神経細胞にしめるリポフスチンの割合は年齢とともに回帰直線をとって増加し, 前角細胞, 胸髄核, Onufrowicz 核, 中間質外側核の順に早期より出現し, リポフスチンの量も多かった. 2) 同一の運動機能を有する神経細胞では Betz 巨細胞, 頚髄前角, 仙髄前角と下位に行くに従ってリポフスチンの量は増加した. 3) 高齢者におけるリポフスチンの量とアミラセア小体の量とは無関係であった. 4) 脊髄では老人斑をみとめなかった. 大脳皮質で老人斑をみとめたものでは Betz 巨細胞のリポフスチンの量は多かったが脊髄前角細胞ではリポフスチンの量は差をみとめなかった. 5) 脊髄でアルツハイマー原線維変化を80代の3例にみとめたが, 対照群と比しリポフスチンの量は差がなかった. 6) ALSでは対照群に比しリポフスチンの量は明らかな高値を示し, PMDでは差がなかった.
以上脊髄神経細胞においてリポフスチンの量が加齢とともに増加し, 神経細胞の機能や部位による差があることを明らかにし, 他の形態学的変化, 病的症例についても検討を加えた.
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