日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
22 巻, 5 号
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  • 安静時及び運動負荷時の換気応答性
    蘇 寛泰, 福地 義之助, 西 功, 原澤 道美
    1985 年 22 巻 5 号 p. 399-412
    発行日: 1985/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    安静時及び運動負荷時の呼吸中枢機能の加齢変化を検討した.
    1) 安静時の呼吸中枢の応答: 肺機能を含む臨床検査は正常を示した健常者の中で若年者19例, 中年者18例, 老年者14例を対象として分時換気量P0.1及び呼吸パターンを測定した. 室内気吸入ではP0.1, VE両者は三群の間で有意差はなかった. CO2再呼吸時は呼気終末CO2分圧とP0.1, VEの間の直線回帰式のスロープを応答性の指標として, 若, 中, 老年者の三群で平均値を求めたところ, この有意差は見られなかった. またVEスロープと年齢の間には有意な相関関係は成立したがP0.1スロープと年齢の間には有意な相関はなかった.
    2) 運動負荷時の呼吸中枢の応答: 安静負荷時と同様に健常者の中で若年者22例, 中年者15例, 老年者13例を対象とした. 自転車エルゴメータにより漸増法負荷試験を行い, 安静時と同様の指標とVO2, VCO2の間の直線回帰式のスロープを換気応答性の指標とした. VO2, VCO2に対する換気応答の平均値を算出して, 若, 中, 老年者を比較すると, 老年者は若, 中年者より大きかった. VO2, VCO2に対する換気応答, 75watt負荷時のP0.1と年齢の間に有意な正相関が認められた.
    3) 安静時及び運動負荷時の呼吸中枢応答性の相互関係: 安静時の中枢応答の指標であるP0.1スロープと運動時の換気応答の諸指標を同一個体で比較すると, 若, 中, 老年者とも両者の間には有意な相関関係は認められなかった.
    以上より, つぎのように結論した.
    (1) 呼吸中枢機能の加齢変化は安静時と運動負荷時とは異なっていた.
    (2) 安静時CO2負荷に対する呼吸中枢応答は加齢とともに軽度の減衰を示したが, この変化は有意ではなかった. これに対し運動負荷時には老年者呼吸中枢応答が有意に増強し, 呼吸器インピダンスおよび死腔換気率の増大にうちかって, 動脈血の恒常性を保持していた.
    (3) 安静時の呼吸中枢機能と運動負荷時のそれとの間には相関関係はなく, この点に関する加齢変化は認められなかった.
  • 80歳代を中心にして
    渡辺 俊允, 木村 博光, 斉藤 宏, 尾賀 幹, 藤本 利明, 松村 秩, 杉浦 昌也
    1985 年 22 巻 5 号 p. 413-419
    発行日: 1985/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    加齢に伴う脳卒中後片麻痺患者の下肢機能の予後とリハビリテーション (以下リハと略す) 阻害因子などを知るために, 脳CTスキャン上1側の内包後脚のみに大きさが固定した長径15mm以下 (実物大計算値) の責任病巣がみられた98例 (43~87歳) を検討し次の結論を得た.
    I. 下肢機能の予後: (1)加齢に伴い, 独歩自立は直線的に減少し (p<0.01), 一方歩行不能は漸増し (p<0.05) 80歳代で急増傾向がみられ, 年齢が強く関与していると考えられる. (2)独歩自立の質的内容では, 加齢に伴い, 杖使用歩行は直線的に増加し (p<0.01), 一方屋外歩行自立は漸減し (p<0.05), 80歳代では前者は全例となり後者は急減傾向がみられた. 従って80歳代の一般論的なリハ目標は, 家庭復帰と屋内ADL自立であると考えられる. (3)脳病巣の部位と大きさでは部位のみが関連し, 脳病巣が内包後脚後半部にある症例は大きさに関係なく予後が悪かった (p<0.05). (4)脳出血, 脳梗塞の病型及び左右片麻痺による予後の差はみられなかった.
    II. リハ阻害因子: (1)出現頻度が年齢と相関するものは, 健側筋力低下, 意欲低下, 尿失禁, 痴呆の4つで (各々p<0.05), 前者2つは80歳代で, 後者2つは70歳代で増加した. (2)80歳代の下肢機能の予後と関連があるものは, 健側筋力低下, 意欲低下, 尿失禁の3つで (各々p<0.05), 痴呆は相関の傾向がみられるのみであった. (3)前記の4つのリハ阻害因子が独歩自立と歩行不能のどちらに関連が強いかをみると, 前者3つは歩行不能と関連が強く (各々p<0.01) 痴呆は独歩自立とのみ負の関連がみられた (p<0.05). (4)80歳代の健側筋力は臥床により急速且容易に低下し回復が容易でないことが観察されることから, 可及的早期にリハを開始することに特に留意すべきである.
    以上の結論を得たが, 脳卒中後片麻痺患者の下肢機能の予後は, 年齢, 脳病巣の部位やリハ阻害因子などが複雑に絡みあった上に成り立っており, これらの因子が単独で予後を規定することは極めて稀であると考えられる.
  • 正常老年者女性におけるカルシウム (Ca) 代謝調節ホルモン値の正常値決定の試みとその生理学的意義
    白木 正孝, 秋口 格, 井藤 英喜, 石塚 試一, 折茂 肇
    1985 年 22 巻 5 号 p. 420-425
    発行日: 1985/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    Ca代謝, 糖代謝, 腎機能および骨塩含量に異常を認めない75例の正常老年女性においてCa代謝調節ホルモン値および左橈骨骨塩含量を測定し以下の結論を得た.
    老年者女性のCa代謝調節ホルモンの正常値はPTH値が0.16~0.55ng/ml, 25-OHD値が13~39ng/ml, 24,25(OH)2D値が1.0~3.3ng/ml, 1,25(OH)2D値が11~55pg/mlであると考えられた.
    血中PTH値は25-OHD, 24,25(OH)2Dと有意の負相関を示し年齢とは有意の正相関を示した. 血清Ca値は25-OHD, 24,25(OH)2D, 1,25(OH)2DおよびRMCと有意の正相関を示した. RMC値は25-OHD, 24,25(OH)2DおよびCa値とそれぞれ有意の正相関を示し年齢と負相関を示した. これらの結果から, 老年者女性にあっては, 骨塩含量及び血清Ca値の維持にビタミンD代謝産物が極めて重要な意義を有していると考えられた.
  • 山城 守也, 江崎 行芳, 橋本 肇, 高橋 忠雄, 紀 健二, 大坪 浩一郎
    1985 年 22 巻 5 号 p. 426-431
    発行日: 1985/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者の胃癌は, 一般に発育進展速度が遅いとされているが, 進行の速い胃癌症例に遭遇することも稀でない.
    老人施設からの入院死亡者945名と, 一般入院者1,055名を加えた計2,000名の剖検例を母集団とした. 胃癌は306名 (15%) あり, このうち胃癌切除例が94名含まれている.
    胃切後患者のうち, 組織所見不明のもの (19名) と, 切除後3年以上を経過しているもの (7名) を除く67例と, 剖検時発見された胃癌212例, 計279例, 313病変が胃癌検討の材料とされた.
    胃癌発生母地として重要な腸上皮化生は, 加齢と共に進行するが, 80歳以上の高齢者でも, 全くといつてよいほど腸上皮化生のない胃が, 約10%にみられる. また60歳以上では各年代共約70%は萎縮型 (atrophic pattern) の粘膜を示す.
    粘膜萎縮と腸上皮化生は, 局所の細小動脈の硬化性病変と比例関係を示すが, 他臓器の悪性腫瘍, 心・大血管病変などとは無関係であった.
    組織型では, 早期癌は97%が分化型癌であるが, 進行癌では63%が分化型癌であった. 組織型が早期と進行期とで1対1の対応をなしうるとすると, 老年者に発生する癌は75%が分化型癌で, 25%が未分化型癌である.
    以上の資料から, 早期癌から進行癌へ移行する時間は, 分化型癌が未分化型癌の9.1~11.2倍と算出される.
  • 高山 嘉朗, 山沖 和秀, 関 顕, 天野 晶夫, 藤井 潤
    1985 年 22 巻 5 号 p. 432-436
    発行日: 1985/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    昭和54年から58年までの5年間に入院した70歳以上の高血圧者59例の安静時血漿レニン活性を測定し, 老年者の高レニン高血圧の臨床的特徴について検討した. 59例中血漿レニン活性3.0ng/ml/hr未満が50例 (対照群), 3.0ng/ml/hr以上が9例 (高レニン群) であった. 高レニン群では, 対照群に比べ, 拡張期血圧が高い例, 短期間の間に血圧が急激に上昇した例が多く, 尿蛋白陽性, 血清尿素窒素25mg/dl以上, 血清カリウム3.0mEq/l以下, 血清コレステロール250mg/dl以上を示す例の頻度が有意に高く, 眼球, 頚動脈, 腹部, 大腿動脈のいずれかに血管雑音を有する例が有意に多かつた. 合併症では, 脳卒中, 虚血性心疾患とも両群で差はないが, 間歇性跛行および, これら3つのうち, いずれか1つ有する例は高レニン群で有意に多かった. 腎血管性高血圧と考えられる症例は, 対照群で50例中1例 (両側腎動脈狭窄), 高レニン群で9例中6例みられ, 6例中3例は1日3.0g以上の高度蛋白尿をともなっており, 2例はネフローゼ症候群の基準を満たした. 以上, 老年者で高レニン血症を示した高血圧の2/3は腎動脈狭窄による疑いがあり, 急激な血圧の上昇で発症したものが多かった.
  • 松井 玲子, 杉浦 昌也, 大川 真一郎, 宮川 明彦, 今井 保, 大河原 節子, 松下 哲, 上田 慶二, 嶋田 裕之
    1985 年 22 巻 5 号 p. 437-449
    発行日: 1985/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者連続剖検3,700例中, 心症状を呈した心アミロイド症は6例 (男女3例ずつ), 年齢60~90歳 (平均80歳) で, 0.2%の頻度であった. 臨床診断は, 1例が直腸生検によりアミロイドーシス, 1例がミオパチー (剖検で骨髄腫), 4例が虚血性心疾患であった. 全例に心不全をみとめ, 3例が急死し, うち2例はジギタリス中毒であった. 胸部レ線上, 心拡大 (CTR 55%以上) が5例にみられた. 心電図では心筋梗塞様所見 (4例), 左軸偏位 (5例), 低電位差 (4例) の頻度が高い. 心エコー図は3例で記録されたが, 左房の拡張と左室壁運動の低下がみられた. 201Tl心筋シンチは4例中2例で欠損像をみとめた.
    病理学的に, アミロイド沈着部位の優劣により心房型と心室型に分けた. 心房型の3例は心重量230~350gと正常範囲内であった. 心室型の3例は心重量550~590gと肥大心であった. 心室型はいずれも生前は心筋梗塞と診断されていた. 4例で両心房の拡張がみられた. 心室型の2例は高度の冠動脈硬化が加わり, 両心室の拡張を伴なっていた. アミロイド沈着は心内膜, 心筋間質, 心筋内血管壁にみられたが, 心外膜冠動脈を狭窄するものはなかった. アミロイドの過マンガン酸カリウム処理によるコンゴーレッド染色性は, 全例で不変であった. 骨髄腫の1例を含め, いずれも他臓器へのアミロイド沈着も認められた.
  • 辻本 真人, 津田 忠昭, 大田 喜一郎, 前田 次郎
    1985 年 22 巻 5 号 p. 450-456
    発行日: 1985/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老化とともに免疫能に異常をきたすことが知られている. この老年者の免疫異常におけるmonocyte の役割を知るために以下の検索をおこなった.
    Mitogen に対する末梢リンパ球の反応が, monocyte の helper 能を必要とすることを確認するために, 25~35歳の健常若年者末梢単核球より, リンパ球と monocyte を分離して, リンパ球+MMC処理 monocyte の組み合わせを作成し, PWMおよび Con A刺激下に培養した. 培養3日目に3H-TdRの取りこみを, 8日目にIgG産生量を測定して検討した.
    PWMおよびCon A刺激培養とも, リンパ球のみの場合は3H-TdRの取りこみは低値であり, 加える monocyte の数を増加するにつれて3H-TdRの取りこみは高値を示すようになった. またPWM刺激培養時のIgG産生もリンパ球のみの場合は極めて低値であり, monocyte 数を増加するにつれて高値を示した. しかし monocyte の数が1×105/0.2mlと過剰になると逆にIgG産生が低下する例もみられた.
    以上によりPWM, Con A刺激下でのリンパ球反応は monocyte の helper 能を必要とするが, 培養中の monocyte が過剰になると反応が抑制される場合もあることを示している.
    この monocyte の helper 能を若年者と老年者で比較検討するために, 若年者リンパ球+若年者 monocyte または老年者 monocyte の組み合わせを作成して, PWMおよびCon A刺激下培養をおこなった. 3日間培養とも若年者リンパ球+若年者 monocyte の培義のほうが若年者リンパ球+老年者 monocyte の培養に比較して高値を示した. また8日間培養時のIgG産生も同様の傾向にあったが, monocyte の数が5×104コ/0.2mlの場合両者に差を認めなかった.
    以上により老年者 monocyte の helper 能に一部異常があることが示唆された.
  • 長寿の遺伝素因に関する家族歴の case control study
    鈴木 信, 森 久恒, 安里 哲好, 佐久川 肇, 石井 寿晴, 細田 泰弘
    1985 年 22 巻 5 号 p. 457-467
    発行日: 1985/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    常識的に考えて長寿は遺伝と環境との相互作用によって得られるものと考えられる. 本論文は長寿の達成に遺伝子が関与しているか否かを解明することを目的とし, ことに遺伝に関する一連の研究のうち家族歴についての case controlled study を行ったものである. 現在まで長寿の遺伝に関する論文は数多くあるが, それらは単に事実について発表しているものであって, 長寿は長寿家系より生ずることを積極的に証明しているものは, 1974年に Abbott が発表した論文が唯一のものである. しかし彼の論文では, 対照群の選択にバイアス因子が混入していると考えられる. 我々は厳重な条件を設定した. 即ち, 百寿者と同一部落に生れ育ち, 死亡した人で, 同胞の末子, または末より2番目であり, 統計処理上自殺, 他殺, 原因不明死, 事故死, 戦争関係死を除く病死者の同胞が3名以上いることを必要とした. また彼らは調査時点の沖繩の平均寿命より年長であり, さらに彼らの長兄ないし長姉が調査時点で生きていれば100歳から105歳である人とした. さらに彼らから充分満足できる解答がえられることが必要条件であった. 以上の結果, 対照として選ばれた者は65歳以上の同部落老人2,270人中11人であった. これらの両家系について寿命に関する各種の指標を算出して, 父親群・母親群・男同胞・女同胞・全同胞・全家族の5群別に比較検討した.
    推計学的に有意差を示したものは平均寿命では全家系群, 80↑/65↓と90↑/65↓では女同胞と全家族群, 80歳達成率では全同胞と全家族群, 90歳達成率では女同胞・全同胞と全家族群, 65歳以下若年死の平均死亡年齢では母親群・男同胞・全同胞・全家族群, R90では女同胞・全同胞と全家族群であった. これらの結果から長寿への遺伝の関与が推察された. それらは主として女性を介するように考えられたが男性を介するものも認められた.
  • 1985 年 22 巻 5 号 p. 468-501
    発行日: 1985/09/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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