東京警察病院多摩分院及び本院内科にて過去7年間 (1980~1986) に経験した肺炎症例270例のうち, X線写真と動脈血ガスを同時期に検査された48症例を対象とした. 対象を, 65歳未満の若年群21例と, 65歳以上の老年群27例に分け, レ線病変の拡がりと動脈血ガスの関係を分析した. レ線病変の拡がりは, 正面胸部レントゲン写真において全肺野中に占める浸潤影の割合 (%) と定義し, 全肺野および浸潤影の面積計算はデジタイザーを用いて算出した.
1. 老年者肺炎のガス交換異常は, PaO
2単独低下を示す酸素化障害が主であり, 肺胞気動脈血酸素分圧較差 (AaDO
2) の開大をともなった換気血流不均等などによるものと考えられた.
2. 老年者肺炎のレ線病変の拡がりと酸素化異常には, 有意の相関が認められた.
3. 老年者肺炎でのPaO
2低下, AaDO
2開大の程度は, 同等のレ線病変の拡がりに対し, 若年者より高度であり, 呼吸不全に陥りやすいことが示唆された. PaO
2 60Torrに対応するレ線病変は, 若年群で38%に対し, 老年群では24%であった.
4. 以上より, 老年者肺炎においてはレ線病変の拡がりが比較的軽度であっても, 早期の酸素治療を要する症例が多いことに留意すべきであると思われた.
5. 目測法とデジタイザー法によるレ線病変の面積計算では, 両者で大きな差異を認めなかった. この結果より, 目測法によるレ線病変の拡がりは比較的精度が高く, 臨床上も十分に応用されうることが示唆された.
6. 正面・側面法によるレ線病変の拡がりを算出したところ, 正面法単独との相関係数は0.983と高く, 両方法で20%以上の差異を認めた症例は21例中1例のみ (左舌区肺炎) であった. 従って, 左舌区肺炎などを除けば, 正面法によるレ線病変の拡がりは, 立体的肺炎病変を比較的よく反映していると思われた.
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