日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
26 巻, 6 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
  • 北村 伸, 赫 彰郎, 荒木 俊彦, 坂本 静樹, 氏家 隆, 添田 敏幸, 飯尾 正明
    1989 年 26 巻 6 号 p. 557-562
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    多発梗塞性痴呆患者と痴呆のない多発性脳梗塞患者について, 脳血流量 (CBF) と脳酸素消費量 (CMRO2) における違いを検討した.
    対象は, X線CTで皮質には病巣を認めないが基底核部や白質に多発性の病巣が認められる25人の多発性脳梗塞患者 (14人に痴呆を認める) と5人の同年代健常者である. 脳循環代謝の測定は, 15O2, C15O2持続吸入法によるポジトロンエミッションCTにより, CBF, CMRO2そして脳酸素抽出分画 (OEF) を測定した.
    多発性脳梗塞患者では, 健常者と比べてCBFとCMRO2は有意に低下していたが, 痴呆のある群とない群の間には, CBFとCMRO2に有意な差はなかった. しかし, 痴呆のある患者の多くで, 前頭葉と頭頂葉でのCBFとCMRO2の relative value (局所の値/皮質平均値) の低下が認められた. 対象のうち4人については4カ月から34カ月の間をおいて2回の脳循環代謝の測定を行なった. そのうち2人については, CMRO2の低下に先行したCBFの低下と痴呆の進行が認められた.
    これらの結果は, 基底核部や白質に多発性の病巣を認める多発性脳梗塞患者における痴呆の発現に, 前頭葉と頭頂葉の機能低下と慢性の脳血流低下がある役割を果たしていることを示唆していると考えられた.
  • 神経突起伸長効果の定量的検討
    田中 真, 金井 裕子, 平井 俊策
    1989 年 26 巻 6 号 p. 563-570
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老齢および若年マウス脊髄後根神経節細胞を無血清培地を用いて培養し, 神経成長因子 (NGF) とガングリオシド (Ggl) の神経突起伸長効果を検討した. これらの物質を種々の濃度に培養系に添加して最大突起長と総突起長を老齢群と若年群について測定し以下の結論を得た.
    1. NGFもGglも老齢マウスにおいて若年マウス同様の神経突起伸長効果が得られ, これらの物質を介した神経突起伸長能力の老化による低下は見いだされなかった.
    2. NGFは最大突起長と総突起長を有意に増加させた. 一方Gglは総突起長にのみ有意に効果を発現し, 最大突起長には効果がみられなかったことからGglが神経突起の分枝を促進する可能性が示唆された.
    3. Gglは無血清培地において従来の血清添加培地より低濃度で十分な効果を示すが, Gglがアルブミンとよく結合することがその理由であると考えられた. またその効果発現に血清の直接の関与はないことが見いだされた.
    4. Gglは高濃度では神経突起伸長作用はなかった.
    5. 老齢動物における神経突起再生能力の低下の原因の一つとして, 標的細胞や神経細胞周囲からの再生促進因子放出の低下も考慮する必要があると思われた.
    6. 今回の検討に用いた動物は, NGFやGglによる神経突起伸長効果が保たれる程度の加齢動物であった可能性も残され, 今後さらに長期生存した対象を用いて検討する必要がある.
  • CT値の度数分布を用いた新しい方法
    井手 宏, 栗原 教光, 間島 寧興, 遠藤 和夫, 丹野 宗彦, 千葉 一夫, 山田 英夫
    1989 年 26 巻 6 号 p. 571-576
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    動脈硬化の臨床的評価法としては, 血管造影法やX線単純写真, X線CT, MRIなど画像を用いる方法や大動脈波速度を測定する方法などがあるが, なかでもX線CTは簡便でしかも定性・定量性が高く優れた検査法である. しかし従来のX線CTを用いた方法は, 動脈の石灰化を視覚的に判定しスコアー化するもので動脈硬化の程度や経年的変化を正確に判定することは困難と思われる. そこで, われわれはX線CTを用いて腹部大動脈硬化を定量的に評価する新しい方法を考案した. 方法は第1, 第3, 第4腰椎の中心面を通る高さの腹部大動脈を拡大撮影し, 大動脈壁内縁を正確に同定出来ないことを考慮し, 大動脈壁の外縁と内縁に相当する部位に円形の関心領域を設定し各々の関心領域内の pixel 当りのCT値の度数分布を求めた. 次に, 大動脈壁内縁に設定した関心領域-すなわち大動脈内腔-のCT値の度数分布よりその最大値を求め, 動脈硬化を定量化するためのCT値のカットオフ・レベルを決定した. 大動脈壁外縁に設定した関心領域のCT値の度数分布の中で, カットオフ・レベル以上のCT値の階級を有意とし, その各CT値の段級値と度数の積の総和を求め, 大動脈径で補正したものをそのスライスの大動脈硬化指数 (SIe) とし, 各スライスのSIeを平均したものを平均大動脈硬化指数 (SI) した. 今回対象とした45症例中6例 (13%) が artifact などにより判定困難であり, 39例 (男16例, 女23例) に関してSIを求めた. 39症例の大動脈内腔のCT値の最大値は60~99の範囲であり, 今回の検討ではCTのカットオフ・レベルを一様に100に設定した. SIは加齢とともに増加し, 男性に高く, 加齢による増大率は女性に大である傾向を示し, 従来の報告と一致した. 今回考案した定量法は, X線CTの利点であるCT値の度数分布を用いることにより, 従来の視覚的方法に比しより定量的に大動脈硬化を評価しえ, 動脈硬化の経年的変化や治療効果を判定する上で有用と考えられた.
  • 森崎 信尋, 森 聖二郎, 村野 俊一, 西川 哲男, 斎藤 康, 吉田 尚
    1989 年 26 巻 6 号 p. 577-581
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    Werner 症候群は代表的な遺伝性早老症候群の一つであり, 動脈硬化症の早期進展を特徴とする. 動脈硬化症の発症・進展に関する機序のうち平滑筋細胞の増殖が有力視されている. そこで本症候群患者血清と尿中の平滑筋細胞に対する増殖因子を健常人のそれと比較した. 0.5%血清の家兎大動脈培養平滑筋細胞へのDNA合成刺激活性は Werner 症候群で有意に上昇していた. この血清中の因子の検討の為, 既知の増殖に関与する因子を測定したところ, 血清成長ホルモン, 血漿ソマトメジンC, 尿中上皮成長因子に関しては正常例が多かった. 一方, 空腹時血清インスリンは Werner 症候群7例中6例で高値を示した. 次に本症候群患者血清の高いDNA合成刺激活性がインスリンによるのかどうかを, in vitro で検討したところ, 外因性インスリンが増殖刺激活性を示す為には血清中の濃度の1万倍以上必要であることが明らかとなった. また, 血清インスリン濃度と増殖刺激活性との間には相関がみられなかった. 更に Werner 症候群患者尿中には平滑筋細胞に特異性の高い未知の増殖因子が含まれていた. 以上より, Werner 症候群の早期動脈硬化進展の機序の一つに血清中増殖因子の上昇が推測された. その原因物質として血小板由来増殖因子 (PDGF) あるいは未知の因子を今後検討する必要があると考えられる.
  • 河野 和彦, 遠藤 英俊, 山本 孝之, 葛谷 文男
    1989 年 26 巻 6 号 p. 582-588
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    痴呆専門病棟に入院した老人性痴呆患者に対し, 5カ月間にわたる知的機能評価を実施し, それが改善したグループと改善しなかったグループの比較検討を行った. 調査対象とした患者の条件は, 痴呆症状に対しての初めての入院であり, 脳循環・代謝改善薬の投与が今回初めてであること, 頭部CTを施行されていることとした. 対象となった痴呆患者は, 69名 (男12名, 女57名) で, 平均年齢75.6歳, 平均罹病期間は2.5年, 病型は, アルツハイマー型痴呆34名, 脳血管性痴呆30名, 混合型痴呆5名であった. 治療は経口薬剤 (主治医が自由に選定した脳循環・代謝改善薬) および知的作業療法 (患者の94.2%に対して, 週10時間) である. 長谷川式スケールを入院時とそれ以後1カ月に一度, 5カ月間 (計6回) 施行し, その変化パターンで患者を5群 (不変・悪化, 動揺, 入院直後の1カ月間のみ上昇, 入院1カ月以降から上昇, 入院後から一貫して上昇) に分類した. 入院直後の1カ月間のみ上昇した群は除外して, 残りの4群を“非改善群”(25名) と“改善群”(38名) の各2群にまとめ, 患者の特徴を両群間で比較した.
    改善群は非改善群に比し, 罹病期間が有意に短く, 脳波における徐波化が軽度である傾向があり, CT上の脳萎縮度も平均値としては軽い値を示した. 以上より, 痴呆の早期治療開始の必要性が客観的に示された. また, 治療困難といわれるアルツハイマー型痴呆の患者ですら, 長谷川式スケールの得点が増加するケースがあり, 痴呆専門病棟での患者の生活環境整備と職員の適切な対応が痴呆患者の周辺症状 (意欲減退, 自発性低下, 抑うつ, 夜間せん妄, 不安・焦燥, 幻覚・妄想, 問題行動) を大幅に軽減できることが示唆された.
  • 荻原 雅之, 宮川 浩一, 新美 達司, 山本 俊幸, 白井 智之, 鈴木 孝弘, 青木 久三, 山本 正彦
    1989 年 26 巻 6 号 p. 589-593
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    昭和55年1月から昭和63年6月までの名古屋市厚生院における老年者剖検550例 (年齢56~102歳, 平均81.5±7.8歳, 男性243例, 女性307例) の中の68症例 (年齢56~97歳, 平均82.0±8.0歳, 男性24例, 女性44例) に急性心筋梗塞を認めた. この心筋梗塞症例中, 14例 (年齢67~93歳, 平均82.5±8.3歳, 男性4例, 女性10例) に心臓破裂を認めた. 心臓破裂症例は60歳台2例, 70歳台4例, 80歳台3例および90歳台5例であった. 胸痛を訴えた症例は4例で無痛性心筋梗塞が多かった. 再梗塞は1例で初回梗塞が多かった. 既往症では脳血管障害を9例に, 高血圧症を7例に, および糖尿病を1例に認めた. 心臓の肥大を9例に, 菲薄化を7例に認めた. 破裂部位については前壁4例, 前壁中隔3例, 前壁側壁1例, 側壁4例, 後壁1例および心尖部1例で前壁または側壁梗塞が多かった. 以上, 心筋梗塞に合併した心臓破裂症例を臨床および病理学的に検討した結果を報告する.
  • 佐藤 秩子, 伊藤 美武, 水野 俊昭, 田内 久, 稲垣 俊明, 山本 俊幸
    1989 年 26 巻 6 号 p. 594-601
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    56歳から101歳までの女性100例の剖検脳の海馬領域に限り, 顆粒層, 錐体細胞層における, 神経細胞数, アルツハイマー原線維変化, 老人斑などの発現様相について形態学的に検討し, 症例の年齢, 痴呆の種類, 程度との間の関連性について対比検討した.
    神経細胞数は顆粒層, 錐体細胞層ともに加齢により減少が認められた. 痴呆の程度との間には平行関係はみられず, 年齢差の関与の強い群間に有意差が認められたに過ぎない.
    アルツハイマー原線維変化の発現は年齢とともに増加し, さらに痴呆の程度の上昇に伴って (痴呆の種類を問わない) 一層増加する. 一方, 老人斑の発現も年齢とともに増加するが, 痴呆の種類により発現様相が異なる. すなわち, 脳血管性痴呆では軽度であり, 一般に痴呆の程度の高いものの多い混合型痴呆でも, 老人斑の発現は顕著でなく, Alz型老年痴呆例で, 痴呆の程度に伴って増加し, この型の痴呆とかなり特異的な関連性を持つことが示唆された.
  • 海馬を中心として
    伊藤 美武, 甲谷 憲治, 佐藤 秩子, 田内 久, 稲垣 俊明, 山本 俊幸
    1989 年 26 巻 6 号 p. 602-607
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    92例の女性剖検例 (56歳~101歳) の海馬領域の顆粒層, 錐体細胞層の神経細胞内における自家蛍光色素顆粒の量を形態学的量的に分析し, 年齢, 痴呆度, アルツハイマー原線維変化, 老人斑などの発現様相との関連について検討するとともに, 小脳のプルキンエ細胞, 歯状核細胞内の色素顆粒量と年齢との関連を参照して考察した.
    小脳では細胞の種類により自家蛍光色素顆粒の量には有意差が認められたが, 海馬でも顆粒層の細胞に加齢による減量が認められたのみで, 年齢, アルツハイマー原線維変化, 老人斑などの発現様相, 神経細胞数との間には, 関連性が認められなかった. 自家蛍光色素顆粒に単なる age pigment としての意義を認めるよりもその発現様相の差は各細胞の脂質代謝の形態学的表現の差であろうとするこれまでの私どもの成績, 考えを確認した.
  • 臨床的知見及び薬物治療について
    板垣 晃之, 菱村 将隆, 八田 美鳥, 吉田 亮一, 竹中 星郎, 安原 治, 漆原 彰
    1989 年 26 巻 6 号 p. 608-616
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    我々は高齢者において, 経口血糖降下剤やインスリンの使用していない例で原因不明の著明な低血糖を発症した8例を経験したので, 報告するとともに, 各症例の身体・精神的特徴や服用薬物との関連についても検討を加えた.
    症例は66歳から88歳の男女8例 (平均年齢: 78.5歳) の入院患者である.
    1: 全例が高齢者で, 脳梗塞, 知能障害, 意欲低下などの症状が認められた.
    2: 発症経過では, 数日前から食思不振や摂取量の減少を認め, 急激に意識障害を呈した.
    3: 検査所見は, 全例に著明な低血糖, 7例に白血球増多 (1例は未検査), 3例に代謝性のアチドーシス, 5例にGOT, 2例にGPTの上昇, 1例に尿素窒素の著増, 4例にCRP陽性を認めた.
    4: 薬剤は, 脳代謝賊活剤 (ホパンテン酸カルシウム7例, イデベノン1例) を服用していた. イデベノン例はその服用の4カ月前まで11カ月間ホパンテン酸カルシウムを服用していた.
    5: これらの所見は, 小児で報告されたホパンテン酸カルシウムによる Reye like Syndrome に類似していた.
    以上の事から, 脳代謝賦活剤である薬物 (ホパンテン酸カルシウム) が, 何等かの形で糖新生系を障害して, 低血糖を発症した可能性が考えられ, Reye like syndrome との因果関係や多臓器障害を有する高齢者の血中薬物動態に関しての検討が必要と思われる.
  • 本間 昭, 新名 理恵, 石井 徹郎, 平田 進英, 長谷川 和夫
    1989 年 26 巻 6 号 p. 617-623
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    246人の老年期痴呆患者にGBS Scale 日本版を施行し, その信頼性と妥当性を検討した. 痴呆の臨床的な程度は Functional Assessment Staging によって評価し, 知的機能の外部基準として, 長谷川式簡易知的機能診査スケールを用いた. 以下の結果を得た. 1) 精神科医のペアと精神科医と臨床心理士のペアの間の項目の評価者間信頼性は「覚醒度の障害」と「錯乱」を除いて十分に高いことが示された. 2) 項目とFASTとの関連では,「錯乱」,「焦燥」,「不安」,「苦悩」,「感情の抑うつ」および「落ち着きの無さ」を除いた20項目では痴呆の程度が高度になるに従って有意な得点増加あるいは得点増加の傾向が示された.「感情の抑うつ」では有意ではあるが大部分の項目とは異なり, 負の相関が認められた. さらに,「身体活動の障害」と「摂食行動の障害」,「覚醒度の障害」および「焦燥」では痴呆の程度よりはむしろ身体機能障害の程度を反映することが示された. 3) 痴呆に共通なその他の症状を除く3つの下位尺度は痴呆の程度をよく反映することが示された. 4) 感情機能と痴呆に共通なその他の症状の2つの下位尺度に, 項目の構成上の問題があることが示唆された. 以上の結果より, GBS Scale日本版の問題点について考察した.
  • 山口 克彦, 田中 由利子, 久保 秀樹, 高木 泰, 立川 信三, 勝沼 英宇
    1989 年 26 巻 6 号 p. 624-629
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高齢者 (47例, 平均年齢79.9歳) のMRI上のSE像 (TR 2,000msec, TE 40msec) における側脳室周囲の高吸収域 (PVHIS: periventricular high intensity signal) と脳血管透過性の異常を知るために以下の検討を行った. まず, MRI上のPVHISをその広がりの程度により3群に分類した. すなわち, Mild 群 (20例), Moderate 群 (18例), Severe 群 (9例) である. また, 血清アルブミン値, 髄液アルブミン値, 血清IgG値, 髄液IgG値を測定し髄液・血清アルブミン比 (Alb ratio), 髄液・血清IgG比 (IgG ratio) 等を求め, これらの値を脳血管透過性の指標として3群間の比較検討を行った. 血清アルブミン値, 髄液アルブミン値, 血清IgG値, 髄液IgG値, IgG ratio において, それぞれ3群間には統計学的に有意差はなかった. Alb ratio に関して Mild 群と Moderate 群, Moderate 群と Severe 群の間には有意差はなかったが, Mild 群と Severe 群の間には統計学的に有意差 (p<0.05) を認めた. また, Severe 群においては, 他の2群に比し脳梗塞 (5/9), 高血圧症 (8/9), 痴呆 (7/9) の疾患を有する症例が多かった. 中枢神経系における免疫産生の有無を見るIgG index においても3群間に統計学的に有意差はなかった.
    これらのことよりMRI上大脳白室病変示すPVHISは, 高血圧症, 脳梗塞等の様々な病態で高度, 広範囲に認められ, PVHISにおける脳血管透過性の亢進は, 低潅流等の多元因子による白質穿通枝の循環不全にこより血管内皮細胞の障害に起因すると思われる.
  • NMSによる測定
    堀 史朗, 宇佐美 謙治, 山田 通夫
    1989 年 26 巻 6 号 p. 630-637
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    リンパ球膜上のムスカリン性アセチルコリン受容体 (m-AChR) が, 加齢の指標 (Aging Marker) になりうるかどうかを決定する為に, この受容体と特異的に結合する N-methyl scopolamine (NMS) を使用して, 受容体結合実験をし, 受容体の数 (Bmax値) と結合力 (Kd値) の加齢に伴う変化をしらべた. 受容体結合実験は女性の健常者群 (N=27, 40~69歳) と, 臨床的に Alzheimer 病と診断された女性患者群 (N=17, 54歳~71歳) からの新鮮な末梢静脈血リンパ球を材料にして行われた.
    その結果, 健常者群では, 老化に伴い受容体の親和性が低下 (Kd値の増加) し, Kd値 (Y) と年齢(X) との間には, Y=12.2X-272.6の回帰直線 (N=27, r=0.453, p<0.05) で表される正の相関関係がある事がわかった. また受容体数 (Bmax 値, Y) は年齢 (X) と共に増加し, 回帰直線Y=401X-16, 302, (N=27, r=0.387, p<0.05) で表される正の相関がある事が確認された. つまり健常者では受容体の親和性は加齢と共に低下し, 受容体の数は加齢と共に増加する事が示された. さらに健常者群を40歳代 (N=9, 40~49), 50歳代 (N=8, 50~59), 60歳代 (N=10, 60~69) に分けて各年代のKd値, Bmax 値の平均を比較したところ, 40代~60代間に, Kd値, Bmax 値とも有意の差 (p<0.05) が認められた.
    アルツハイマー病患者群からは受容体の親和力及び数の両者と加齢との関係について, いずれも統計的な有意差は見られなかった. アルツハイマー病における痴呆の重症度とKd値, Bmax 値の相関性を検定したところ, Kd値では相関性が認められなかったが, 少数例ではあるが Bmax 値では5%の危険率で有意差が認められた. つまり症状の悪化に伴って, 受容体数が増す事がわかった. 同一の年齢構成に揃えた健常者群 (N=16, 55~69歳) とアルツハイマー病患者群 (N=17, 54~71歳) の群間比較では, Kd値に差は見られなかったが, Bmax 値では5%の危険率でアルツハイマー病患者群の値が健常者群の値より小さい事が認められた.
    上記の結果から, Aging Marker として m-AChR受容体機能 (Kd値, Bmax 値) が使用可能である事が示された.
  • 前田 吉昭, 森瀬 公友, 金山 和広, 齋藤 祐一郎
    1989 年 26 巻 6 号 p. 638-643
    発行日: 1989/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    小腸に限局し, 腸管外瘻孔および腫瘤形成をきたした老年者クローン病の1例を報告し, 本邦報告例の文献的考察を加えた. 患者は, 62歳の女性で腹痛, 発熱, 下痢を主訴に入院した. 理学的には左下腹部に圧痛を認め鵞卵大の腫瘤を触知した. 血沈は1時間値65mmと亢進し, CRPは3+であった. 生化学検査は, 総蛋白, アルブミン, 総コレステロールの低下がみられ, Hb 7.8g/dlと貧血を認めた. また末梢血の免疫学的検査では, OKT3は69.2%であったが, OKT4/8比は0.88と低値を示し, OKIalは44.9%, OKMlは41.9%と高値であった. 小腸二重造影では, 病変部の空腸に狭少化, 壁不整があり2カ所にバリウムの腸管外への漏出を認め, 腸管外瘻孔と診断した. 上腸間膜動脈造影では, 空腸動脈は狭窄, 壁不整を認めたが, 異常血管増生, 造影剤貯留は認めなかった. 手術が施行され, トライツ靱帯より70cmの空腸は瘻孔形成部を含め一塊の腫瘤を形成し, バウヒン弁より20cmの回腸末端部にも約40cmの範囲に腸管の肥厚がみられ, 周囲のリンパ節も腫大していた. 各々40cm, 60cm腸切除した. 組織学的には, 散在する非乾酪肉芽腫内に巨細胞を認めクローン病と診断した. 日本では現在までに老年者クローン病は13例が報告されている. 日本での老年者クローン病は, 1) 臨床症状や画像診断では若年者と差はない. 2) 小腸病変が多い (54%). 3) 手術施行例は, 46%であった. 4) 老年者は若年者に比し診断が遅れ, 重篤になりやすい. 5) 肛門病変を認めない. などの特徴がみられた.
    老年者であってもクローン病の存在の可能性を常に念頭に置いて的確に診断し, 治療を行う必要があると考えられた.
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