日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
29 巻, 9 号
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  • 平島 得路, 山城 守也, 橋本 肇, 野呂 俊夫, 高橋 忠雄, 津布久 裕, 吉田 昌
    1992 年 29 巻 9 号 p. 635-643
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    救急手術例109例を含む, 60歳以上, 計634例の開腹手術例を対象として, 待期的手術と救急手術, および60歳台, 70歳台, 80歳台, 90歳以上の各年代間における, 術前併存症の頻度や, 術後合併症の発生率を比較検討し, 併せて, 呼吸器, 循環器, 脳血管障害, 術後精神障害, 術後感染症などの, 術後合併症に関する術前危除因子を, 多変量統計解析法にて検討した. 救急手術例における死亡率は11.9%で, 待期的手術例の3.8%に比して, 有意 (p<0.01) に高く, 不良な術前状態が術後も回復し得ないまま, MOFを併発 (85%) して死亡する例が多かった. 救急手術に占める悪性疾患の率 (25%) は,待期的手術例に比して低いが, そのうち, 大腸癌による腸閉塞 (59%) や穿孔例 (19%) の占める率が高い事が, 特徴的であった. 待期的手術例においては, 術後肺炎による死亡が, 全死亡の70%を占める一方で, 循環器合併症による死亡は, 5%と少なかった. 呼吸器合併症に関する術前危険因子の検討では, 低栄養, 年齢, 男性, 悪性疾患, 痴呆, 脳血管障害, 呼吸機能低下の合併に, 有意性を認めたが, これらの危険因子は, 同時に, 術後MRSA感染症発生の, 危険因子ともなっていた. しかし, 呼吸器合併症の重症例 (術後肺炎) は, 呼吸機能低下例より, むしろ, 脳梗塞症や大腿骨骨折などにより, 術前のADLが低下した例や, 再手術を受けた例に多く, また, これらのADL低下例の50%は, 栄養指数40未満の, 低栄養状態にある事も認めた. 従って, ADLの低下を合併した高齢の担癌例では, 特に, 栄養状態や免疫能の低下が著明であり, MRSA感染症 (メチシリン・セフェム耐性黄色ブドウ球菌感染症) を併発しやすく, また, 重症化も, しやすかったものと推測された.
    以上より, 術前の脳血管障害を中心としたADLの低下は, 術後の呼吸器合併症の危険因子のなかで, 高齢者に比較的特徴的と考えられるとともに, その発生予防としての栄養管理の重要性が示唆された.
  • 加齢と病変との関係について
    小林 康孝, 水谷 俊雄, 高崎 優, 江崎 行芳, 嶋田 裕之
    1992 年 29 巻 9 号 p. 644-651
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    筋萎縮性側索硬化症の上位運動ニューロンと下位運動ニューロンにおける病変の程度と死亡時年齢の関係, 老年性変化と死亡時年齢の関係を, 55例 (40歳代8例, 50歳代8例, 60歳代20例, 70歳代12例, 80歳代7例, 罹病期間6カ月~14年) について検討した. なお, 各年代に正常5例を対照とした. 罹病期間と死亡時年齢には明らかな相関は認められなかったが, 各年代とも人工呼吸器使用例では罹病期間が延長し, 非使用例に比べると病変は強かった.
    病変と死亡時年齢の関係は頚髄膨大部前角に最も現れており, 若年者に比べると高齢者では明らかに病変が軽かった. 40歳代では前角神経細胞の著明な脱落, 線維性グリオーゼとともに前角の萎縮がみられた. 80歳代ではほとんど前角の萎縮は認められず, 神経細胞の脱落も軽度であったが, 残存細胞の多くはリポフスチン沈着が高度であった. グリオーゼも軽度であった. このような変化は腰髄, さらに脳幹運動核にも認められた. 一方錐体路に関しては, 若年者ではほとんどの症例に変性が認められたのに対して, 高齢者では変性が高度な症例とほとんど変性を見いだせない症例があるため, 前角病変ほど加齢との関係は明瞭ではなかった.
    一方, 大脳皮質を中心にした老年性変化は5例を除いて, 高齢者ほどアルツハイマー神経原線維変化および老人斑が出現していたが, 対照例と差が見いだせず, 本症で老年性変化が対照例に比べて加速されているという形態学的証拠はなかった. 5例はいずれも60歳以上で, 明らかに正常の上限を越える老人斑が新皮質に出現していたが, そのうち痴呆を認めたのは1例のみであった.
  • 川原田 信, 浦澤 喜一
    1992 年 29 巻 9 号 p. 652-660
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳血管障害 (以下CVD) 患者は, とくにその急性期に急性肺炎等の重症感染症を合併することがある. このような患者はルーチンの検査のうえからはリンパ球の著しい減少 (1,000/μl以下) を伴った症例に多く, このことは中枢神経系と免疫能との関連を示唆するものと考えられる.
    そこでCVD25症例 (CVDの疾患別では脳出血5例, 脳梗塞20例で, CVDの病変部位別では右脳病変11例, 左脳病変14例) について細胞性免疫能 (NK活性, リンパ球幼弱化反応, リンパ球サブセット, T, B細胞数) をCVD発症時より2~4週間隔で検査し, CVDの臨床経過 (とくに重症感染症の合併) と細胞性免疫能, CVD病変部位との関連等について検討した.
    リンパ球サブセット, T, B細胞数についてはCVDの臨床経過の各時点で有意な変動を示さなかった. CVD症例での細胞性免疫能 (NK活性, リンパ球幼弱化反応) の低下はCVDの臨床経過中左脳病変例の64.3%, 右脳病変例の63.6%にみられ両者に差はない. しかし左脳病変例では発症2カ月以内の急性期に細胞性免疫能が低下する症例が多く, 重症感染症の合併は左脳病変例中の66.3%に対し, 右脳病変例では14.3%と左脳病変例は右脳病変例に比較して易感染性であった.
    CVD発症時より免疫能を測定し, 易感染性を prospective に知ることにより, とくにCVDの急性期における感染症の合併による予後不良例を少しでも減少させることが可能ではないかと期待される.
  • 下沢 達雄, 桑島 巌, 鈴木 康子, 金子 晶子, 蔵本 築
    1992 年 29 巻 9 号 p. 661-666
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者高血圧例10例, 正常血圧者10例に食事負荷, 経口糖負荷, 水負荷試験を行い, 血圧, 脈拍数の変化および体液性因子の変化について検討した.
    1. 食事負荷試験後, 高血圧患者では食前収縮期血圧と食後収縮期血圧の較差が-12.0±4.1mmHgで正常血圧者の+4.0±3.2mmHgに比して有意に大であった.
    2. 食後血圧の時間的経過では食後30, 45, 60分後において食前に比し有意の血圧下降を示したが, 正常血圧者では食後血圧変化はみられなかった.
    3. 食事前後の血圧較差は糖負荷試験前後の血圧較差と有意の相関が認められたが, 水負荷時の血圧変動との相関はみられなかった. 食後低血圧の発現には糖摂取が重要であることが示された.
    4. 食事負荷, 糖負荷いずれにおいても正常血圧群では負荷後PNE, PRAの上昇が認められたのに対し, 高血圧群では有意の変化がみられなかった. また食事前後の収縮期血圧の変化とPRAの変化は有意な相関を示した.
    以上のことから老年者高血圧群における交感神経系の障害の存在が食後低血圧の病因に関与している可能性が示唆された.
  • 吉峯 徳, 三浦 悟, 舟木 千明, 林 登志雄, 五藤 勉, 安藤 富士子, 葛谷 文男
    1992 年 29 巻 9 号 p. 667-671
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者において, 嚥下障害のため経鼻経管栄養法を用いて長期間栄養管理を施行中の患者が, 症状悪化により死亡し, 剖検により急性胃潰瘍を認めた2症例を経験したので報告する. 症例1は61歳男性. 10年前からパーキンソン病のため当科通院中であったが, 昭和63年秋ごろからADL低下, 嚥下障害の重篤化が進み, 平成1年3月27日に第3回目の入院となり経鼻胃管栄養も開始した. 3カ月後退院し, 在宅経管栄養管理法の適用を受け通院治療を行っていたが, 平成3年4月15日突然吐血し, 緊急入院したが一時間後死亡した. 剖検により血性内容物の充満した急性胃拡張があり, 経鼻胃管の先端部に一致して, 体中部大弯から後壁にかけて最大径50mmで凝血の付着した不整形潰瘍を認め, UL3の急性胃潰瘍の所見であった. 症例2は83歳女性. 多発性脳梗塞, 狭心症, 慢性心不全等で入退院をくりかえし, 平成2年4月16日慢性心不全悪化 (NYHA分類III度) で入院, 寝たきり状態となった. さらに, 多発性脳梗塞後の仮性球麻痺による嚥下障害増悪のため, 経鼻胃管栄養を施行していたが, 徐々に心不全症状悪化, 平成3年5月23日急変し, 死亡した. 剖検により, 胃は全体に出血, び爛を認め, 経鼻胃管の先端部にあたる体上部大弯に直径10mm, 体下部大弯に直径30mmの潰瘍を認め, UL3の急性潰瘍であった. 急性胃潰瘍の原因の特定は困難なことが多いが, 2症例共に通常では病変の少ない胃体部大弯に限局して認められ, しかもその部位が経鼻胃管の先端にほぼ一致していたことより, 長期に亘る経鼻胃管の留置が急性胃潰瘍の発症の誘因となった可能性が考えられる. 我々の症例は, 今後経管栄養法が汎用されるに伴ってこの様な合併症に充分注意すべきことを示唆したものと考え報告した.
  • 宮下 善行, 森本 茂人, 福尾 恵介, 荻原 俊男
    1992 年 29 巻 9 号 p. 672-676
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    血中高比重リポ蛋白コレステロール (以下HLD-Cと略す) 高値を示す88歳の女性例を経験した. 本症例は心電図で虚血性病変の所見は認めず, 胸部及び腹部X線像で大動脈壁のカルシウム沈着を認めず, 眼底検査においても高度の動脈硬化病変を認めなかった. 本症例の血清総コレステロール値は292mg/dlと高値を示したが, これは血中HDL-C (148mg/dl), 特にHDL2 (100mg/dl) の上昇に由来し, HDL3 (15mg/dl) および他のリポ蛋白は正常範囲内にあった. またアポ蛋白分析ではアポA-I,C-II, C-III, Eがそれぞれ高値を示した. またヘパリン静注後血漿リパーゼ活性も増加傾向を示したが, 肝性リパーゼ活性は正常範囲内にあった. HDLとLDL及びVLDLとの間のコレステリルエステルの転送活性 (以下CETAと略す) は本症例において欠損していた. 本症例は, CETA欠損を証明しえた最高齢の症例である.
  • 大庭 幸生, 山本 清, 森松 光紀
    1992 年 29 巻 9 号 p. 677-680
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    症例は78歳, 女性. 1991年3月突然, 時間, 場所, 家族の名前などがわからなくなり, つじつまの合わない事を言い始めたため近医を経て当院に入院した. 入院時の意識状態はJCSで10. 神経学的には右同名半盲と右手指巧緻運動障害を認めた. 頭部CT, MRIにて左側の海馬, 海馬傍回, 海馬采および後頭葉に梗塞が認められた. 三宅式記銘力検査, ベントン視覚記銘検査, ウェクスラー記憶尺度などの記憶検査を施行したところ即時記憶, 長期記憶は比較的保たれていたが短期記憶は著しく障害されていた. 記憶障害は9カ月以上遷延し, 海馬領域の梗塞による健忘性卒中であると考えられた. 左海馬, 海馬傍回, 海馬采領域の梗塞が健忘性卒中の責任病巣であることをMRIにて画像上明確に証明し, 左一側性海馬とその周辺の病変のみで健忘性卒中が生じ得ることを強調した.
  • 新井 望, 金子 晴生, 梅田 正法, 塚原 敏弘, 白井 達男
    1992 年 29 巻 9 号 p. 681-685
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    症例: 77歳, 男性. 平成2年8月右陰嚢腫大出現し徐々に腫大するため, 当院泌尿器科受診し, 8月21日右高位除睾術施行. 組織学的に非ホジキンリンパ腫 (び漫性大細胞型) と診断され, 精査加療目的にて9月11日第一内科転科となった. 腹部大動脈周囲のリンパ節腫脹を認め, Ann Arbor 分類にてII期Aと診断. 9月21日よりCOP-BLAM療法 (CPM, VCR, PDN, BLM, ADR, PCZ) を3クール施行し (11月8日より3クール目開始), 完全寛解の状態となった. しかし, 11月16日より肝機能障害出現し, 11月29日にはGOT 6,700IU/L, GPT 2,120IU/Lと上昇し, 黄疸が増悪したためPDN使用開始, GOT, GPTは徐々に改善したが, 黄疸が改善しないため12月22日腹腔鏡施行し, 肝生検にて組織学的に薬剤性肝炎混合型と診断された. また, CPMのリンパ球芽球化反応が陽性であった. 12月29日には肝不全状態となったため, 血漿変換などを行うも改善せず, 1月15日死亡した.
    CPMによると思われた肝障害を合併し, 肝不全にて死亡した高齢者非ホジキンリンパ腫の1例を経験したので報告した.
  • 松本 香, 野垣 宏, 森松 光紀
    1992 年 29 巻 9 号 p. 686-689
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    症例は72歳, 女性. 65歳時に脳動脈瘤破裂の既往がある. 約2年間, 本態性振戦の診断のもと trihexyphenidyl HCl (以下THPと略す) 6mg/日を近医より投与されていた. その後, 患者が抑うつ状態に陥ったため三環系抗うつ剤 dosulepin HCl (以下DLと略す) が追加投与された. DL投与開始から約2週間後, 起床時より, 頸部, 眼球, 舌, 口唇に不随意運動が出現した. 不随意運動は1カ月以上持続したが, THP, ついでDL投与中止で徐々に軽減, 約2週間でほぼ消失した. また, THP再投与により増悪した. 本症例はTHP, DLの抗コリン作用が重複し, 線条体アセチルコリン, ドーパミン作動系の機能バランスがくずれたため不随意運動が生じたと考えられた.
  • 1992 年 29 巻 9 号 p. 690-700
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
  • 1992 年 29 巻 9 号 p. 701-727
    発行日: 1992/09/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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