1990年3月から1992年10月までに, 当院にて全身麻酔下に施行した整形外科手術38例において, 術中・術後の合併症の発症につき心機能障害を有する群と正常群に分けて比較検討した. 男性6例, 女性32例. 年齢は70~99歳, 平均84歳であった. 基礎疾患は, 脳血管障害後遺症38例, 心疾患22例, 高血圧9例, 老年痴呆6例, パーキンソン病5例, 悪性疾患3例, 糖尿病2例であった. 1) 心エコーにより, 明らかな異常のない例を正常群, 左室機能低下 (左室駆出率50%以下), 中等度以上の弁膜症の1つ以上を認めた例を心機能障害群とした. 2) 両群については術前の年齢, 体重, 小野寺の栄養指数, 日常生活動作, Mモード心エコー法により求めた心拍出量, 左室駆出率, 術前の血色素量, 血清尿素窒素, 血清アルブミンなどにつき検討した. 3) 心機能障害群をさらに術後心不全を合併しなかった群, 合併した群に分け, 前出の検討項目に手術時間, 麻酔時間, 術中・術後の水分出納量などを加えた.
心機能障害群は, 正常群に比し日常生活動作, 小野寺の栄養指数が有意に低下していた. 術中合併症は心機能障害群と正常群に差はなく, 術後合併症は心機能障害群に高率に出現し, 心不全が最も多かった. 心不全合併群は, 心不全非合併群に比し心機能において有意な低下はないが, 術前にやや貧血を認め, 麻酔時間が有意に長かった. また, 心不全合併群は, 心不全非合併群に比し術後の水分出納が過剰となっていたことが判明した. 以上より, 心機能障害のある例は, 術後合併症を防ぐために術前は貧血などの補正に努め, 術後には慎重な水分管理をおこなうことが必要であると思われる.
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