日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
30 巻, 11 号
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  • 埴原 和郎
    1993 年 30 巻 11 号 p. 923-931
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    本稿で紹介した日本人集団の二重構造モデルは従来の諸説を比較検討し, また最近の研究成果に基づく統計学的分析によってえられた一つの仮説である. このモデルの要点は次のとおりである.
    (1) 現代日本人の祖先集団は東南アジア系のいわゆる原モンゴロイドで, 旧石器時代から日本列島に住み, 縄文人を生じた.
    (2) 弥生時代から8世紀ころにかけて北アジア系の集団が日本列島に渡来し, 大陸の高度な文化をもたらすとともに, 在来の東南アジア系 (縄文系) 集団に強い遺伝的ならびに文化的影響を与えた.
    (3) 東南・北アジア系の2集団は日本列島内で徐々に混血したが, その過程は現在も進行中で, 日本人は今も heterogeneity, つまり二重構造を保っている.
    以上の観点からさらに次のことが導かれる.
    (1) 日本人集団の二重構造性は, 弥生時代以降とくに顕著になった.
    (2) 弥生時代から現代にかけてみられる日本人集団の地域性は, 上記2系統の混血の割合, ならびに文化的影響の程度が地域によって異なるために生じた. 身体形質や文化における東・西日本の差, 遺伝的勾配なども北アジア系 (渡来系) 集団の影響の大小によるところが大きいと思われる.
    (3) アイヌと沖縄系集団の間の強い類似性は, 両者とも東南アジア系集団を祖先とし, しかも北アジア系集団の影響が本土集団に比較してきわめて少なかったという共通要因による. 換言すれば, 弥生時代以降著しく変化したのは本土集団であった.
    (4) 古代から中世にかけてエミシ, ハヤトなどと呼ばれた集団は, 本土集団とアイヌ・沖縄系集団が今日のように分離する前の段階にあったもので, その中間的形質をもっていたと考えられる.
  • 荻原 俊男
    1993 年 30 巻 11 号 p. 932-940
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者高血圧は加齢という要因が加わり若年, 壮年期の本態性高血圧と病態が大きく異なる. 特に, 主要臓器の血流低下, 自動調節能の障害, 電解質, 調圧系ホメオスターシスの破綻さらに合併症が多いなどの点は, 治療上重要な意味を持つ特徴である. このような年代の高血圧治療はその妥当性と限界をわきまえて治療すべきである. QOL, コンプライアンスについても配慮が必要である.
  • 心機能障害群と正常群との比較
    隈井 知之, 荻原 雅之, 宮川 浩一, 山本 俊幸, 竹市 冬彦
    1993 年 30 巻 11 号 p. 941-946
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    1990年3月から1992年10月までに, 当院にて全身麻酔下に施行した整形外科手術38例において, 術中・術後の合併症の発症につき心機能障害を有する群と正常群に分けて比較検討した. 男性6例, 女性32例. 年齢は70~99歳, 平均84歳であった. 基礎疾患は, 脳血管障害後遺症38例, 心疾患22例, 高血圧9例, 老年痴呆6例, パーキンソン病5例, 悪性疾患3例, 糖尿病2例であった. 1) 心エコーにより, 明らかな異常のない例を正常群, 左室機能低下 (左室駆出率50%以下), 中等度以上の弁膜症の1つ以上を認めた例を心機能障害群とした. 2) 両群については術前の年齢, 体重, 小野寺の栄養指数, 日常生活動作, Mモード心エコー法により求めた心拍出量, 左室駆出率, 術前の血色素量, 血清尿素窒素, 血清アルブミンなどにつき検討した. 3) 心機能障害群をさらに術後心不全を合併しなかった群, 合併した群に分け, 前出の検討項目に手術時間, 麻酔時間, 術中・術後の水分出納量などを加えた.
    心機能障害群は, 正常群に比し日常生活動作, 小野寺の栄養指数が有意に低下していた. 術中合併症は心機能障害群と正常群に差はなく, 術後合併症は心機能障害群に高率に出現し, 心不全が最も多かった. 心不全合併群は, 心不全非合併群に比し心機能において有意な低下はないが, 術前にやや貧血を認め, 麻酔時間が有意に長かった. また, 心不全合併群は, 心不全非合併群に比し術後の水分出納が過剰となっていたことが判明した. 以上より, 心機能障害のある例は, 術後合併症を防ぐために術前は貧血などの補正に努め, 術後には慎重な水分管理をおこなうことが必要であると思われる.
  • 社会生活を中心に
    稲垣 俊明, 山本 俊幸, 吉田 達也, 稲垣 亜紀, 新美 達司, 橋詰 良夫, 小鹿 幸生
    1993 年 30 巻 11 号 p. 947-952
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    名古屋市厚生院〔老人病院 (以下病院と略す), 特別養護老人ホーム (以下特養と略す)〕および関連の老人施設〔養護老人ホーム (以下養護と略す), 軽費老人ホーム (以下軽費と略す)〕の老年者160例 (男45例, 女115例, 平均81.8歳) について老年者の総合的機能評価を施行し, 社会生活の評価を中心に検討し, 以下の結果を得た.
    1) 社会生活に影響を与えていたのは, 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (以下HDSRと略す), 日常生活動作能力 (以下ADLと略す), 身体情報機能であった.
    2) 施設別に検討すると, 経済状態は養護, 家族状況は軽費, 家族関係は病院, 集団行動は病院に有意差がみられたが, 婚姻状況は有意差がみられなかった. 社会生活の総得点は病院が有意に低値であった.
    以上より, 本評価法は老人施設の老年者の社会生活を評価するのに有用性があるように考えられたが, 今後さらに本評価法について信頼性, 妥当性, 予測性について検討する必要がある.
  • 加藤 雅子, 志越 顕, 高田 雅史, 梅田 正法, 塚原 敏弘, 白井 達男
    1993 年 30 巻 11 号 p. 953-957
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    7例の高齢者非ホジキン・リンパ腫を対象として, 化学療法後の好中球減少期にG-CSFを投与し, G-CSF投与前, 投与中の好中球機能を測定した. 大腸菌由来のG-CSF75μg/d・皮下注投与を好中球が1,500/μl以下に減少した時に開始し, 10,000/μl前後に増加するまで続けた. 高齢者非ホジキン・リンパ腫症例のG-CSF投与3日目の貪食活性は1,130±403粒子/100PMNsであり, 投与前と比較し185.7±31.4%と顕著に (p<0.001) 亢進していた. NAP活性も前値と比べ, G-CSF投与3日後には398.3±69を示し135.2±5.1% (p<0.001) に亢進していた. 2例にG-CSF投与中または投与直後間質性肺炎を併発した. 間質性肺炎は好中球数が増加し, 好中球機能が亢進した時に急激に発症している. 2例のG-CSF使用中の貪食活性は, 使用前のそれぞれ644±29/100PMNs, 465±69/100PMNsと比べると, それぞれ1,090±26/100PMNs, および772/100PMNsに亢進していた. NAP活性もG-CSF投与中は372と, 投与前の264と比べ同様に亢進していた. 1例でG-CSF投与中, 一過性の呼吸不全を併発した. 好中球数は13,000/μl以上に増加し, 貪食活性も949±105/100PMNsに亢進した時に発症したが, PaO2の低下を伴った呼吸困難はG-CSFの投与を中止すると同時に改善し, 可逆性であった. 高齢者には肺機能検査を頻回に行わなくてはならない.
  • 新しい dual energy QCT法の臨床応用
    丹野 宗彦, 堀内 哲也, 横山 孝典, 荻原 真理, 川上 睦美, 中山 雅文, 間島 寧興, 遠藤 和夫, 五十嵐 三都男, 山田 英夫
    1993 年 30 巻 11 号 p. 958-963
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    CTによる骨塩定量法 (QCT法) の一つである4 Equation-4 Unknwon method (以下4E-4U) の臨床応用を可能とした. 本法を用いて腰椎海綿骨密度と骨塩量 (椎体1cm当たり) を算出し, 加齢の影響を検討した. また腰椎皮質骨密度, 腰椎皮質骨塩量/海綿骨塩量比などの検討も行った. その結果, 加齢による腰椎海綿骨塩量の変化は男性群および女性群ともほぼ同じ傾向を示した. 他方, 腰椎皮質骨は男女間で異なる変化を示した. 特に女性群における皮質骨塩量は男性のそれと比較して加齢と共に顕著な減少を示した. 以上の知見より腰椎海綿骨のみならず皮質骨の骨密度, 体積および骨塩量などを測定することは高齢者の骨代謝の変化を知る上で有益な情報を提供するものと考えられる.
  • 特に重症度について緊急治療例を中心に
    有馬 範幸, 内山 敏行, 菱川 留王, 斎藤 雅文, 松尾 武文, 栗栖 茂, 梅木 雅彦, 喜多 泰文, 小山 隆司, 八田 建, 大藪 ...
    1993 年 30 巻 11 号 p. 964-968
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    急性閉塞性化膿性胆管炎を含む胆管結石嵌頓による急性胆管炎は緊急治療を必要とする胆道感染症である. 当院では胆管結石嵌頓に対して積極的に緊急内視鏡治療を施行しているが今回は70歳以上の高齢者胆管結石嵌頓症例の病像を, 緊急治療例を中心に検討した.
    1984年4月より1992年12月まで緊急治療を施行した胆管結石嵌頓症例は163例で, 緊急内視鏡治療例は126例, 緊急経皮経肝胆管ドレナージ治療例は23例であった. 緊急内視鏡治療例126例のうち重症例である急性閉塞性化膿性胆管炎の占める割合は69歳以下では46例中5例 (11%) であるが, 70歳から79歳まででは52例中14例 (27%), 特に80歳以上では28例中12例 (43%) と年齢別では高齢者になるほど高率に認められた. 症例数が少ないものの, 緊急経皮経肝胆管ドレナージ治療症例23例でも同様な傾向であった. さらにいわゆる Reynolds 5徴を呈する超重症の急性閉塞性化膿性胆管炎は緊急内視鏡治療例が6例, 緊急経皮経肝胆管ドレナージ治療例が1例であったが, 70歳以上が6例で, 特に80歳以上が5例を占めた. また死亡例は4例経験したが全例超重症の5徴症例であった. 年齢別では69歳以下では経験せず80歳以上が3例を占めた. つまり死亡率は69歳以下では0%であったが, 70歳から79歳まででは7.1%さらに80歳以上では12%と高齢老ほど高率であった. 高齢者の胆管結石嵌頓症は重症例が多く予後も不良であった.
  • 川村 昌嗣, 清水 健一郎, 高山 美智代, 石田 浩之, 本間 聡起, 広瀬 信義, 谷 正人, 中村 芳郎
    1993 年 30 巻 11 号 p. 969-973
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    80歳, 男性. 出血性ショックをきたし緊急入院となり, 輸血などの保存的治療に反応せず緊急血管造影検査を施行された. 空腸動脈枝末端より造影剤の血管外漏出を認めたため Gelfoam により塞栓術を施行された. 待期的手術を予定し退院となったが, その後再出血を認め再入院となり外科転科となった. 保存的治療にて止血し, その後施行された血管造影にて異常血管は認めたが, 明らかな出血はなく高齢であることや他の身体状況から根治的手術は施行されず退院となった. 現在当科外来通院加療中である.
    消化管からの大量出血の原因疾患として小腸疾患は比較的稀なものではあるが, 臨床医としては念頭に置かなければならない疾患である. 緊急血管造影検査は出血部位の確認ばかりでなく塞栓物質や薬剤の投与などの治療も同時に施行することができ, 可能な限り積極的に施行すべきである.
  • 池田 俊太郎, 井上 義一, 藤野 俊, 藤岡 精二, 濱田 泰伸, 横山 彰仁, 河野 修興, 日和田 邦男
    1993 年 30 巻 11 号 p. 974-977
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性. 7年前より咳, 膿性痰を認め, 近医で対症療法を受けていた. 半年前より膿性痰の増強と呼吸困難を認め, 平成4年8月28日当科に入院した. 胸部X線写真上両側肺野に気腫性変化を伴うびまん性小粒状影を認め, 呼吸機能検査と経気管支肺生検の所見よりびまん性汎細気管支炎と診断した. 気管支鏡検査施行時, 気管軟骨輪の左右壁が近接し膜様部が気道内腔に突出していた. 咳嗽時には左右気管壁が接し気管軟化症, 刀鞘型と診断した. 気管軟化症は気管支鏡施行例の0.9%に認められるが, 多くは半月型であり刀鞘型は極めて稀である. 本症例の気管軟化症の発症には, 慢性気道炎症が影響していると思われる.
  • 須藤 英一, 福地 義之助, 徐 中宇, 石田 喜義, 寺本 信嗣, 松瀬 健, 長瀬 隆英, 松井 弘稔, 折茂 肇
    1993 年 30 巻 11 号 p. 978-984
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    70歳男性と92歳女性にみられた間質性肺炎の急性増悪例の治療及び経過中の末梢血全血の活性酸素産生能の変動に焦点を当てて検討した. 第1例は70歳, 男性. 主訴は呼吸困難, 咳嗽. 1987年間質性肺炎と診断されたが, 病像は安定しており, 経過を観察していた. 1990年2月, 間質性肺炎の急性増悪をきたし, 当科へ緊急入院となった. 入院後メチルプレドニゾロン1g/日3日間連続投与によるステロイドパルス療法を始めた. 3回目のパルス療法後, CRP, 血沈, 血液ガスは著明に改善した. その後も全身状態の改善とともにプレドニゾロン60mgによる維持療法に移り, 74病日目にウィーニングを開始し, プレドニゾロンを20mgに減量し退院となった. 第2例は92歳, 女性. 主訴は腰痛, 左下半身の小水疱を伴う紅斑であり1991年4月25日, 当科外来を受診し帯状疱疹と診断された. 4月27日, 当科へ入院後, アシクロビル750mgの投与により皮疹は痂皮化し, 5月下旬には痛みを残すのみとなった. 5月中旬より, 発熱, 6月初旬より呼吸状態が悪化し, 間質性肺炎の急性増悪と判断した. メチルプレドニゾロン (500mg/day) によるパルス療法を2回行い, 血液ガス, CRP, LDHなどは一時的に改善したが, 7月中旬に死亡した. この2例においてステロイドパルス療法後の末梢血全血の活性酸素産生能の変動を検討したところ, 第1例はK値 (末梢血全血で規準化した活性酸素産生能) は1.0以下に下がり臨床症状の改善をみたが, 第2例はK値は1.0以下に下がることなく, 呼吸不全が進行し, 死亡した. このように, 末梢血全血の活性酸素産生能を測定し, その変動を知ることは, 間質性肺炎の急性増悪例の治療及び経過中にその病態を把握するのに有用であると思われた.
  • 新津 望, 志越 顕, 高田 雅史, 梅田 正法
    1993 年 30 巻 11 号 p. 985-989
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    症例は87歳, 女性. 昭和57年より甲状腺機能低下症にて当院通院中であったが, 平成4年11月下旬に左頸部腫脹に気づき超音波検査にて甲状腺内に腫瘤を認めたため12月15日精査加療目的にて入院となる. 入院後甲状腺の生検にて非ホジキンリンパ腫(NHL; 瀰漫性小細胞型, B細胞性) と診断, 左頸部のリンパ節腫脹を認めた他は種々の検査に異常を認めず, Ann Arbor 分類にてII期Aと診断した. 入院時検査所見ではWBC4,400/μl, Hb13.6g/dl, PLT 10.1万/μl, GOT 51IU/L, GPT 31IU/Lで, TSH1.17, F-T4 1.03, F-T3 2.04, マイクロゾームテスト1,600倍であった. また, 病期分類のために行った胃内視鏡検査にて胃体中部にIIa+IIcの胃癌を認め, 組織学的には腺癌であった. コロノファイバーにてもS状結腸にポリープを認めポリペクトミーを行い, 組織学的には中等度分化型の腺癌であった. 1月20日よりCOP-BLAM療法(CPM600mg, VCR1.2mg, ADR30mg day1, PDN40mgとPCZ100mg day 1→10, BLM 7.5mg day14)を開始した. それにより左頸部リンパ節の消失, 甲状腺内の腫瘤の縮小を認め, 2月15日より2クール目開始した. しかし, 2月25日呼吸困難出現し, 諸検査にて心不全, 真菌性肺炎を認めたが, 酸素投与, 利尿剤, 抗真菌剤投与にて軽快した. そのため, 強力な化学療法の継続は不可能と考え3月25日よりVP-1625mg/body 持続経口投与により完全寛解 (CR)となったため4月10日退院した. 現在外来にてVP-16少量持続投与療法を継続中である.
    橋本病の経過中甲状腺原発NHLを発症し, 胃癌及び結腸癌を同時に認め化学療法にてCRとなった一例を経験したので報告した.
  • 小糸 仁史, 大久保 直彦, 若山 由佳, 中森 久人, 鈴木 淳一, 岩坂 壽二, 稲田 満夫, 加藤 勤
    1993 年 30 巻 11 号 p. 990-996
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    85歳の女性が全身倦怠感, 動悸, 体位変換にて変動する胸部不快感を主訴に来院. 心電図上洞性頻脈, 心房性期外収縮, 左房負荷を認め, 胸部X線にてCTR53%, 心陰影左第3弓突出, 肺動脈基部拡大を認めた. 高齢のため胸廓変形が強く断層心エコー法で良好な画像を得難かったが apical と subcostal view で左房内心房中隔側に腫瘤状陰影を認めた. T1-201, Ga-67シンチでは腫瘤への取込は認められなかったが, Tc-99mによる心電図同期SPECT断層心プールシンチでは左房内心房中隔側に陰影欠損像が認められた. 心電図非同期造影CTでは左房内に明らかな腫瘤は示されなかった. 心電図同期MRIのT1強調画像では左房内に比較的低信号の腫瘤がうっすらと描出された. ガドリニウムDTPAにて造影することにより腫瘤は高信号に描出され辺縁も明瞭になった. 体軸断面像, 矢状断面像, 冠状断面像から心房中隔に茎を持つ大きさ4×4×3cmの腫瘤で内部に一部低信号部位があることが判明した. T1-201, Ga-67の取込がないこと, 左房内で心房中隔に茎を持つこと, MRIのT1強調画像で比較的低信号, ガドリニウム造影で高信号に描出されること等から左房粘液腫と診断された. 高齢で手術の危険も伴うことや患者, 家族とも手術をのぞまなかったので, 内科的に心不全の治療や抗凝固療法で経過をみているが一年たった現在も著変なく通院中である. 高齢者の左房粘液腫は臨床症状が非特異的で診断が難しいが, 原因不明の心症状を認める時は左房粘液腫の可能性も考えまず断層心エコーを施行し良好な画像が得られない時や心臓腫瘍が疑われた時はガドリニウムDTPA造影を含むMRI検査を施行することがその診断に有用と考えられた. MRIはガドリニウムDTPA造影を追加することにより腫瘤の大きさ, 部位, 解剖学的位置関係のみならず, 腫瘤の性状まで推察できるので左房粘液腫の診断に有用と考えられた.
  • 野垣 宏, 柿沼 進, 福迫 俊弘, 佐々部 富士男, 根来 清, 森松 光紀, 福岡 善平
    1993 年 30 巻 11 号 p. 997-998
    発行日: 1993/11/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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