特別養護老人ホームに入所している80歳以上の高齢者100名を対象に, 貧血 (11g/d
l未満) の発生率, Hb濃度, 血清鉄, TIBCを測定し, 年代 (80~84歳, 85~89歳, 90歳以上), 性と生活様態 (自力歩行者, 車椅子生活者, 寝たきり状態) 別に検討した. また貧血の原因となりうる合併疾患についても検討した. 生活程度別では活動性が低下するに従ってHbは低値を示す傾向を示した. 平均Hb濃度は年代別では, 80歳代前半がそれ以上の年代群に比べて約0.5g/d
l高く, 男性は女性に比べて1g/d
l高かった. また, 寝たきり状態者群の平均Hb濃度は非寝たきり状態者群に比べて約1.2g/d
l低く, 両群間で有意 (p<0.001) の差を認めた. 貧血の発生率では, 年代や性では差を認めず, 生活様態別の比較でのみ有意の差を示した. すなわち, 自力歩行者は27例中2例 (7%), 車椅子生活者は23例中4例 (17%) であるのに対し, 寝たきり状態者では50例中22例 (44%) と高率な貧血発生率が認められた (p<0.001). また, 尿路感染症, 褥瘡, 慢性気管支炎, 進行癌, 慢性関節リウマチの五疾患を貧血要因疾患として調査したところ, 対象症例中53例に認められた. これらの貧血要因疾患を生活様態別にみると, 自力歩行者29.6%, 車椅子使用者30.4%であるのに対し, 寝たきり状態者では76%となり, 寝たきり状態者は前二者を合わせた非寝たきり状態者の30%と比較して有意 (p<0.001) に多く貧血要因疾患を合併していることが認められた. そこで寝たきり状態者群の中だけで貧血要因疾患を持つ38例と, 持たない12例における平均Hb濃度と貧血症例の頻度を比較したところ, それぞれ11.06g/d
l, 47%と11.45g/d
l, 33%となり, ともに有意の差を認めなかった (p>0.1). これらのことより, 80歳以上の高齢者においては, 寝たきり状態が貧血の誘因となっており, 尿路感染症, 褥瘡などが合併しやすいことも確かめられたが, 貧血の原因はこれらの合併症によるのではないことが示唆された.
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