地域在住高齢者の総括的機能評価を行うことを目的に, Mini Mental State (MMS), 長谷川式簡易痴呆スケール改訂版 (HDSR), Kohs 立方体テスト簡易版 (Kohs), コンピュータを用いた視空間認知・運動協応動作テスト (VCPS), ボタンテスト (Button-S), Up & Go, Functional reach (FR) の7項目の神経行動機能の評価を行った. 対象は高知県香北町 (香北) 在住の75歳以上の高齢者332名 (男:女=137:195, 平均年齢80.5歳) および鹿児島県上屋久町 (屋久) 在住の75歳以上の高齢者194名 (男:女=68:126, 平均年齢79.0歳) である. 同時にADL (歩行, 階段昇降, 食事, 更衣, 排泄, 入浴, 整容, 服薬の8項目), 情報関連機能 (視力, 聴力, 会話, 記憶, 電話の5項目), およびライフスタイルに関するアンケート調査を実施し, 神経行動機能との関連を検討した. 神経行動機能の各項目は香北では加齢にともなって有意に低下したが, 屋久におけるMMS, HDSR, Button-S, FRは, 年齢と相関しなかった. 地域間比較では, 香北がMMS, Kohs, VCPSなど認知機能を反映する項目が屋久より有意に成績がよく, FRは, 屋久の方が優れていた. 両地域に共通して, Button-S, Up & Go, FRはADLの状態を良く反映し, MMS, HDSR, Kohs の項目は情報関連機能の状態をよく反映した. ライフスタイルとの関連では, 香北では独居群, 仕事を持っている群が有意に神経行動機能が優れていたが, 屋久では両者の差は有意差に達しなかった. 一部の神経行動機能は有意な地域差を認め, 高齢者の知的, 身体的機能は環境や生活習慣の影響も大きいと考えられた. このような地域比較研究は, 高齢者の機能との関連で, よりよき環境, 生活習慣を考察するうえで, 重要な基礎データとなるものと考えられた.
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