老年者本態性高血圧症例10名 (男4, 女6, 69.8±4.8歳) を対象とし, 6g/日の減塩食下に nifedipine 徐放剤20mg/日を8週間投与し, 投与前後における平均血圧, 心拍出量および末梢局所循環動態ならびに血漿ホルモン動態の検討を行った. 更に nifedipine の薬物動態学的検討を併せて行った.
(1) Nifedipine 徐放剤の血漿濃度推移から, C max は59.1±31.3ng/m
l, AUCは288.2±165.8ng・hr/m
l, T maxは3.4±1.6hr, t 1/2は5.5±3.3hrであった. 更に, 血漿 nifedipine 濃度に応じ降圧効果が認められた.
(2) Nifedipine 徐放剤投与により心拍出量は変化せず, 末梢局所血流はすべての領域において不変であった. 総末梢血管抵抗および各末梢局所抵抗は, nifedipine 徐放剤投与により観察期に比して有意に減少した. Nifedipine 徐放剤投与による拡張度を総末梢血管抵抗の変化率に対するその局所血管抵抗の変化率の割合とし, 血圧低下に対する寄与度を総 conductance 変化に対するその局所領域の conductance 変化の割合と定義すると, 拡張度, 寄与度共に, 腹腔動脈および上腸間膜動脈領域すなわち腹部内臓領域への影響が大きく, 腹部大動脈終末部領域に対する効果が最小であった.
(3) Nifedipine 徐放剤投与前後において, plasma renin activity, angiotensin II, aldosterone, atrial natriuretic peptide, noradrensline, adrenaline に有意の変化を認めなかった.
老年者本態性高血圧においても, nifedipine 徐放剤は充分な血漿濃度が得られ降圧効果を期待できると考えられる. Nifedipine 徐放剤投与により心拍出量及び末梢局所血流への有意な影響はなく, その結果全ての領域において血管抵抗は減少した. また, 各ホルモン動態にも変化を認めなかった. しかし nifedipine 徐放剤は腹部内臓領域への血管拡張効果が大きく, 一方, 下肢筋血流を灌流する大動脈終末部領域への影響が少ないことから, 高齢者の下肢虚血, さらに歩行および rehabilitation における下肢血流への影響を考慮する必要があると考えられた.
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