目的: 近年, 剖検率の低下が著しく剖検の意義に再検討がせまられている. 当院は成人・老年病の専門病院として診療しているので当院の老年者剖検例を対象にその臨床的有用性について検討する.
対象と方法: 対象は1986~1995年までの10年間の当院における総死亡609例のうち剖検231例 (剖検率37.9%: 男性95例, 女性136例, 平均年齢80.5歳) である. これらの症例について臨床診断と剖検診断の比較, 老年者剖検例の特徴などを検討した. 尚, 臨床診断名の分類は Merck Manual (第15版) によった.
結果: 剖検231例のうち剖検によりその主死因を明らかにしたえたのは218例 (94.4%) であり, 残る13例 (5.6%) は主死因は明らかにしえなかった. この13例の臨床診断による主死因は呼吸器疾患6例 (肺炎5, 気管支喘息1例) と最も多かった. 主死因からみた臨床診断と病理診断との比較では両者が一致した疾患は呼吸器疾患 (肺炎など), 悪性腫瘍, 心・血管系疾患 (心筋梗塞など), 中枢神経疾患 (脳梗塞など) に多かった. 一方, 不一致の疾患は臨床診断に関係なく剖検により心・血管系疾患 (心筋梗塞, 腹部動脈瘤破裂, うっ血性心不全など), 悪性腫瘍, 感染症 (敗血症, 肺膿瘍, 横隔膜下膿瘍など), 呼吸器系疾患 (肺炎, 肺梗塞など) と診断された症例が多かった. また潜在癌, 多重癌については潜在癌28例 (12.1%), 多重癌3例 (1.3%) が剖検により発見された. 剖検の目的別検討成績では, その目的に応じ種々の病態生理を明らかにし得, 臨床への有用なフィードバックとなった.
考察: 老年者に臨床診断を的確に行うことのむずかしさは今回の剖検成績との対比により明らかであり, 加齢に伴う全身の動脈硬化の進展, 免疫能の著しい低下にその基礎があるものと思われ, 老年者の臨床に有用な所見を得ることが出来た.
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