平成7年9月から平成9年5月までの一連の入院患者 (男性173名, 女性142名, 年齢: 68.3±12.9歳) を対象として超音波断層法を用いて腹壁脂肪厚を測定し, 従来より知られている動脈硬化の各種危険因子との関連性をみるとともに, 総頸動脈硬化性病変との関係について検討したので報告する. 方法では, 脂肪厚の観察には日立EUB-565の超音波断層装置と7.5MHzのリニア型B-modeプローブを用い, 評価に際しては, 肝の前面での腹膜前脂肪の最大の厚さ (以下腹膜前最大脂肪厚, Pmax) と腹壁皮下脂肪の最小の厚さ (以下腹壁皮下最小脂肪厚, Smin) とを計測し, 体格による差を考慮してそれぞれPmax身長比 (Pmax/身長) とSmin身長比 (Smin/身長) を求めた. Pmax身長比は, 単回帰分析では収縮期血圧 (r=0.18), 拡張期血圧 (r=0.18), T-Chol (r=0.29), TG (r=0.34), LDL-C (r=0.34), 動脈硬化指数 (r=0.30), 血清インスリン (r=0.33) とは正の関連を, 年齢 (r=-0.12), Brinkman index (r=-0.14), HDL-C (r=-0.14) とは負の関連を認めた. Smin身長比はT-Chol (r=0.23), TG (r=0.16), LDL-C (r=0.22), 血清インスリン (r=0.35) とは正の関連を, Brinkman index (r=-0.26), 空腹時血糖 (r=-0.13) とは負の関連を認めた. 脂肪厚身長比をそれぞれ上位より6分割して各種動脈硬化の危険因子合計頻度との関係をみると, Pmax身長比ではそれが高い群ほど危険因子の合計頻度は多くなり, 上位2群では最も低い群と比較して有意な差異を認めた (各々p<0.002) が, Smin身長比ではそうした関係はみられなかった. 総頸動脈内膜中膜複合体厚に関して既知の動脈硬化の危険因子とPmax身長比あるいはSmin身長比を説明変数としてロジスティック回帰分析を行ったところ, Pmax身長比は有意な独立寄与因子であった (危険率6.59, 95%CI2.10-20.68). 超音波断層法により得られたPmax身長比は動脈硬化の危険因子の評価として有用であろう.
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