日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
36 巻, 3 号
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  • 江藤 文夫
    1999 年 36 巻 3 号 p. 153-161
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高齢者のリハビリテーションの目的は, 個人にとって病前の機能や生活状態を取り戻すことであり, 或は生物学的および環境的制約の中で機能的自立を最大化し維持することである. そのためには医師, 看護婦, 理学療法士, 作業療法士, ソーシャルワーカーなど多職種によりチーム・アプローチを必要とする.
    加齢とともに障害 (disability) を有する人口比は指数関数的に増大し, その原因となる主要疾患としては脳卒中, アルツハイマー病, パーキンソン病, 骨関節炎, 大腿骨頸部骨折があげられる. リハビリテーションの治療対応を計画する第一段階は障害の評価であり, 機能形態障害, 能力障害, 社会的不利を的確に同定することが求められる. 障害の構造は保健医療サービスにおける社会生活モデルとしてとらえられ, 総合機能評価法が開発されてきた. 評価の領域には身体機能, 精神機能, 社会的状況, QOLなどのアセスメントが含まれる. 生活活動を制限することになる能力障害の評価に関するADL (日常生活活動・動作) は疾病の重症度評価にも利用されてきたものであり, 老年科医には必須の知識である.
    高齢患者へのリハビリテーションの取組としては, 機能低下の予防と, 加齢, 疾患, 外傷などによる合併症の予防と管理が含まれる. 急性期管理の臥床安静がもたらす多発性障害は廃用症候群として急性期からのリハビリテーションにより予防管理され, 社会復帰後の慢性的体力低下や機能低下に対しては老年医学的デイケアなど社会資源の充実で対応される. 脳卒中や大腿骨頸部骨折だけでなく急性疾患も含めた高齢患者一般において多職種チームによる取組が, 在院日数を短縮し, 機能予後を改善させる効果を有することが報告されている.
  • 宮園 浩平
    1999 年 36 巻 3 号 p. 162-166
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    Transforming growth factor (TGF)-βスーパーファミリーの因子にはTGF-βの他, アクチビン, 骨形成因子 (bone morphogenetic protein) などが含まれる. これらの因子は in vivo では生体の形づくりなどに密接に関わっている. TGF-βスーパーファミリーの蛋白質は2種類のセリン-スレオニンキナーゼ型レセプター (I型とII型) に結合し, この結果, Smad と呼ばれる一群の蛋白質が活性化される. Smad はその構造と機能から R-Smad, Co-Smad, Anti-Smad の3つに分けられる. 活性化されたTGF-βI型レセプターはR-Smad (Smad2やSmad3) と直接結合する. この結果, R-Smad のセリンがリン酸化され, Co-Smad であるSmad4と複合体を作り核内へ移行して, 標的遺伝子の転写を調節する. Smad複合体はさまざまな転写因子と複合体を作って間接的にDNAと結合するが, 一方でSmad3やSmad4はDNAに直接結合する. さらに Smad は転写の coactivator であるp300/CBPとも結合し大きな複合体を形成する. これに対し Anti-Smad はレセプターによるR-Smad の活性化を抑制する働きをもつ. Smad はこうして標的遺伝子の転写を調節し, 細胞の増殖抑制や, 分化・アポトーシスの制御などを行っている. TGF-βレセプターや Smad の異常は大腸癌や膵臓癌の進展と密接に関わっていることが最近明らかとなった.
  • 荻原 俊男, 中野 重行
    1999 年 36 巻 3 号 p. 167
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
  • 石崎 高志
    1999 年 36 巻 3 号 p. 168-172
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高齢者は一般的に60歳以下の成人に比べ薬物反応に敏感で, それに伴う副作用発現率も高いことが知られている. その主たる原因は臨床薬物動態要因のうち体内からの薬物消去にかかわる腎排泄と肝代謝クリアランスの加齢に伴う低下にあるとされる. しかし高齢者の薬物療法に対する臨床薬物動態理論の応用は, 主として加齢に伴う腎機能の低下と腎から未変化体のまま主として排泄される薬物についてなされてきた. よって本項ではこの問題に焦点を当てて記載し, さらに加齢に伴う薬力学的反応性の変化について今日迄報告されてきた知見をまとめる.
    高齢者における薬物療法をより安全に且つ有効ならしめるためには, 薬物動態理論に基づく初期治療計画とそれに引き続く治療薬物モニタリングのデータに基づく投与計画の再調整, 多剤投与を可及的に回避, より単純な投与スケジュール, 漸増的薬物投与計画, コンプライアンスの把握などを行うことにあると結論される.
  • 中野 重行, 豊澤 英子
    1999 年 36 巻 3 号 p. 173-175
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
  • 澤田 康文
    1999 年 36 巻 3 号 p. 176-180
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
  • 鳥羽 研二, 秋下 雅弘, 水野 有三, 江頭 正人, 金 承範, 阿古 潤哉, 寺本 信嗣, 長瀬 隆英, 長野 宏一朗, 須藤 紀子, ...
    1999 年 36 巻 3 号 p. 181-185
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    加齢とともに薬物有害作用出現頻度が上昇するが, これは多剤投与と密接な関係があり, 投与薬剤が増加するにつれ Medication Error も増える. 緊急入院症例の1/3は Medication Error による過量投与である. 高齢者の薬物有害作用は重篤な例が増加し, 発現臓器も多岐にわたり, 薬剤起因性老年症候群と呼ぶことも可能である. 多剤投与の原因は加齢により病名数が増加し, 症状所見が増加することによる. 高齢者の薬物有害作用を減少させるためには, 患者の総合的機能評価を行い, 患者からみた薬の優先順位を考え (Patient-Oriented Medication), 非薬物療法を常に念頭におく. こうした観点を踏まえた高齢者の薬物療法の教育体制の整備が重要である.
  • 三上 洋, 荻原 俊男
    1999 年 36 巻 3 号 p. 186-190
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高齢者の生活の質 (QOL) は健康状態, 罹患疾患による身体症状やADLの影響を受けやすく, さらに加齢とともに低下する. このような背景を有する高齢者に対して薬物療法を行う際には, 薬物自体の作用の他に, QOLを低下させる原因である薬剤の副作用に留意し, 治療薬の選択には注意が必要である. 可能な限りQOLへの影響が評価された薬物で処方を構成することが望ましい. 高齢者に対しては, 残された生活の「量」と「質」とのバランスを常に考慮して診療, ケアにあたる必要がある.
  • 吉本 照子, 川田 智恵子
    1999 年 36 巻 3 号 p. 191-198
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    生活環境の整備による高齢者の保健行動の変化を予測することをめざし, 在宅高齢者の保健行動, 外出行動および交通環境 (利用可能な交通手段の意味で用いる) に対する認識の関連性について, 郵送留置調査をもとに検討した. 調査期間は1995年7月27日~8月12日である. 調査項目は保健行動, 健康状態, 日常生活水準, 保健行動に対する態度, 外出の活発さ (外出欲求を含む), 交通環境に対する認識である. 調査地域は, 公共交通が比較的不便な地域として神奈川県A郡A町を選択し, 調査対象は, 層別無作為抽出法によりH地区在住の60歳以上の男女567名とした. 回答者397名 (回収率74.2%; 死亡・転居等を除く) のうち, 1人では外出困難でかつほとんど外出しない人を除く368名を分析対象とし, 単回帰分析および重回帰分析を適用した. 目的変数および説明変数として, 保健行動およびその関連要因に対する質問項目 (計42項目) に対し“あてはまる”と回答した項目数を投入した. 加えて交絡変数として年齢を投入した. 保健行動の関連要因のうち, 標準回帰係数が危険率5%で有意な要因を抽出した.
    結果は, (1) 保健行動の活発さを目的変数とした重回帰分析の決定係数は男性で42%, 女性で48%であり, 男女ともに年齢・日常生活水準・保健行動に対する意識が関連していた, (2) 女性では外出の活発さが増すと保健行動の活発さが増し, 交通環境について感じる問題が増すと外出行動が抑制されるが, 男性では関連がみられなかった, (3) 男性では単回帰分析において保健行動と健康状態の関連がみられたが, 女性では関連がみられなかった. 重回帰分析においても男性では女性にくらべて健康状態の標準回帰係数が大きかったことから, 男性では保健行動に対する健康状態の寄与が, 女性よりも大きいと考えられた.
    今回の結果は, 公共交通の比較的不便な地域に居住する在宅高齢者の保健行動と関連する要因には男女差があり, 女性では交通環境に対して感じる問題が外出行動を抑制し, 保健行動を抑制する可能性を示唆している.
  • 患者の満足度と家族の介護ニーズ
    早乙女 郁子
    1999 年 36 巻 3 号 p. 199-205
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    大学病院リハビリテーション科を退院した脳卒中患者の満足度と家族の介護ニーズにかかわる問題と要因を検討するために, 1995年4月から1997年3月の間に脳卒中後のリハビリテーション目的で入院した連続109例の患者のうち, 退院後に死亡確認された4例および調査時再入院中の1例を除く104名を対象として, 現在の生活状況について郵送によるアンケート調査を実施した. 調査票は患者記入用と家族記入用に分けた. 患者用の質問では現在の生活場所, 主観的改善度, 外出の有無, 移動手段などについて各選択肢を用意し, さらに現状についての満足度をVAS (visual analogue scale) により求めた. 家族用には客観的改善度として家族の視点から患者の状態を評価し, また介護ニーズを6段階分類により回答を求めた. 86名から回答が得られ, その中で新たに死亡の確認された7例を除く79例 (男性49例, 女性30例, 平均年齢60.4歳) について分析検討した.
    患者自身による満足度の評価では50%台にピークを認めた. 統計的には相関を有するものの, 主観的改善度で「改善した」と回答しているにもかかわらず満足度では不満傾向を示し, 両者間での乖離のみられる例が15%あった. 家族による介護ニーズの評価では「状況により介助が必要」を選択したものが最も多かった. 有料, 無料にかかわらず専門介護職に介護を依存していたものは3例のみだった. 満足度にかかわる要因のロジスティック分析では主観的改善度, 外出の有無, 年齢が抽出され, 同様に介護ニーズにかかわる要因としては客観的改善度と年齢が抽出された.
    主観的改善度と満足度は患者のQOL (quanity of life) 評価の方法として使用されるが, 両者間で乖離を示す例も少なくない. 家族による患者の改善度評価は介護ニーズの側面から患者の状態を推察する指標として有用と考えられた.
  • レーダーチャート方式採用と解析の試み
    峯廻 攻守, 加藤 隆正
    1999 年 36 巻 3 号 p. 206-212
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    要介護老年者の医学的総合機能評価とその結果を医療スタッフ全員が容易に理解し, 把握できる事を目的にレーダーチャート方式による医学的総合機能評価を試みた. 更に評価に用いた各指標を統計学的に検討し, 主要診断別の病態・機能の特色を明らかにするべく試みた. 対象は, 1997年5月時, 当科入院中の50例 (男性12例, 女性38例, 年齢73~101歳, 平均85±5.4歳) を対象とし, 主要診断名, 精神機能, 身体機能, 栄養, 全身合併症, 冠危険因子, 社会背景のデーターベースを作成し, 最終的に主要診断名以外の各因子をスコア化したものでレーダーチャートを作成した. その結果, (1) 本法は老年者個々人の全体像を医療スタッフ全員が容易に理解し把握するのに有用であると同時に, 各主要診断別病態の特色をパターンで認識するためにも有用と思われた. (2) 脳血管障害群では精神, 身体, 栄養の三指標間相互に有意の正相関を認め, 治療, 看護, リハビリ等のケアプラン作成上, これら三つの指標に対して, より総合的に戦略を立てる必要性のある事が示唆された. (3) 一方アルツハイマー型痴呆群では身体, 栄養の二指標間に正相関を認めるのみで, 精神機能との関連では唯一罹病期間との間に有意の負の相関を認めた. 即ち本症では, 精神機能と罹病期間の関係を念頭に, そのQOLに重点を置いたケアプラン作成が重要課題と思われる. (4) 後期老年者あるいは超老年者においては, 身体, 精神機能に対するケアと同等かそれ以上に, 栄養学的評価とそれに基づく栄養ケアの重要性が示唆された.
  • 安田 日出夫, 吉田 敦, 増田 義重, 深山 牧子, 喜多 也寸志, 稲松 孝思
    1999 年 36 巻 3 号 p. 213-217
    発行日: 1999/03/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    levofloxacin (以下LVFXと略す) は広く使用されているフルオロキノロン系 (いわゆるニューキノロン) 抗菌薬である. 今回我々は本剤投与経過中に不随意運動, 幻視, 痙攣などを呈した高齢者の2症例を経験したので報告する. 症例1は胃, 胆嚢摘出状態, アルコール依存症を基礎に有する67歳男性で, 感冒症状に対してLVFX 300mg, flufenamic acid 750mg/日 (分3) が投与され, 4日目より手足の震え, 歩行障害, 幻視を自覚し, 7日目に痙攣発作で入院した. 入院時, tremor, myoclonus が見られ, 本薬を中止した翌日には消退, 一週間で歩行障害も消失した. 肝腎機能は正常であったが, 入院時のLVFX血中濃度は3.6μg/ml (100mg服薬後3時間) と高値であった. 症例2は85歳男性で慢性気管支炎に対しLVFX 200mg (分2) の長期投与を受け, 68日目頃から歩行障害, 言語障害, 四肢の震えを自覚し, 76日目に当院を受診した. 四肢の chorea 様の不随意運動が見られ, 薬剤中止翌日には改善し, 14日で消失した. 中等度腎障害が見られ, 入院時のLVFX血清中濃度は2.55μg/ml, 髄液濃度は1.12μg/ml (100mg服薬後3時間) であった. 2例とも明らかな神経疾患の既往はないが, 脳CTで全般的な萎縮が見られた. 高齢者に潜在する腎機能障害, 中枢神経異常が背景となって, 本系常用量によるこのような副作用が発現したと考えられた.
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