日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
36 巻, 6 号
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  • 腹臥位および, その変形諸姿勢を利用して
    並河 正晃
    1999 年 36 巻 6 号 p. 381-388
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者の身体的特徴は, 一人が複数の疾患・病態を持つことであり, 老年者尿失禁も他病態と共存すると共に, 複数の尿失禁起因疾患による複数の尿失禁の型を基に生じていることが多い. また, 常に寝たきりの状態になると, 尿失禁と大便失禁が必発する. 老年者尿失禁に対する安易な医学的介入 (加療) は, ことに寝たきり絡みの場合, 薮蛇的結末を招きやすく, おしめ・バルンカテーテルと尿バッグの使用が, 無難な解決方法として選ばれ, その後長期にわたって用いられることとなる. 寝たきりの場合, その間に寝たきり廃用症候群が発来・進行し, 本人の活動性を低下させ, 介護量を増加させ, 社会資源の消費量を膨らませ続ける. そして今日, 痴呆と共に, 寝たきりと尿便失禁に対する老年者介護は, 一大社会問題となるに至っている. 他方, 持続する老年者尿失禁の原因群は, 数種類の共存疾患・病態群であることが多い. それらと, 四種類の尿失禁の型との関係の整理, 排尿に関する男女差の理解, 解決順序の決定と実行, および調節状態の把握, が適切であれば, 効果的で安全な尿失禁改善の可能性が, ことに女性の場合, 大きく存在する. 寝たきり絡みの尿便失禁の解決には, 適切な排泄姿勢の受動的な確保が前提条件となる. その姿勢は, 仰臥位やファウラー位 (半坐位) ではなく, 通常の和式・洋式排泄姿勢および体幹前傾姿勢である (Fig. 6c). 寝たきり絡みの尿便失禁の解決に役立つ体幹前傾姿勢, 並びに腹臥位は, 尿便失禁ばかりでなく, 寝たきり廃用症候群の全てを予防し, すでに生じている場合は, 短期間に改善し, 時には治癒もさせる事実が次第に明らかになってきている. さらに体幹前傾姿勢も取れる生活台は, そのような効果を持つ上, 車椅子が用いられてもなお介護が必要な老年者に自立の機会を理論的に与え得る. これらの姿勢と器具がリハビリテーション・看護・介護の分野で活用されれば, 現行の老年者介護の抜本的解決方法の一つとなる可能性が大である.
  • 門脇 孝
    1999 年 36 巻 6 号 p. 389-395
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    インスリン抵抗性の成因は遺伝素因, 肥満などの生活習慣, 高血糖それ自体に大別される. 肥満に伴うインスリン抵抗性は肥大した脂肪細胞から分泌されるTNF-αや遊離脂肪酸 (FFA) が関与している. インスリン抵抗性の分子レベルでの共通の特徴は, (1)インスリン受容体チロシンキナーゼ・P13キナーゼ活性の低下, (2)GLUT4トランスロケーションと糖取り込み低下, (3)グリコーゲン合成酵素活性低下である. インスリン抵抗性は, 膵β細胞のインスリン分泌能や増殖能に障害のある場合には, 2型糖尿病の強力な発症要因となる. 最近, 糖代謝に関するインスリン作用に加えて, 血管や腎でのインスリン作用が解明されつつある. IRS-1欠損マウスはインスリン抵抗性のモデル動物である, シンドロームXの諸徴候を呈する. 今後, インスリン抵抗性の分子機構の解明により, 2型糖尿病やシンドロームXをはじめとするインスリン抵抗性症候群のより良い治療・予防を目指すことが重要である.
  • とくに脳血管障害後遺症とパーキンソン病について
    若山 吉弘, 前田 眞治, 春原 経彦, 加知 輝彦, 米山 栄
    1999 年 36 巻 6 号 p. 396-403
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高齢神経疾患のQOLを調査するため, 我々が作製したQOL調査表を用いて脳血管障害後遺症 (CVD) 106例 (65歳以上76例, 未満30例) とパーキンソン病 (PD) 136例 (65歳以上91例, 未満45例) を対象に, それぞれの患者の背景因子とQOLを調査した. QOLは physical, functional, psychological, social health の各項目を調査し, 高齢群と非高齢群とを比較した. その結果, 背景因子ではPDの高齢者で歩行が障害され同居人数が少なく, 主たる介護人は妻と嫁が多くなった. PDの非高齢者では wearing off が多く, 家庭での役割をもつ者が多かった. 一方, CVDでは高齢者で出血より梗塞が多く多発性であり, 上肢の麻痺が強かった. CVDの非高齢者では出血が多く, リハビリテーションを受ける患者と身体障害者手帳の所持者が多かった. CVDとPDを加えたものでは全体的傾向はPDの結果と似ていたが, 異なる点は高齢者で痴呆が多くなっていた. 次にPD, CVDそれぞれの疾患でのQOLに関して高齢, 非高齢の比較ではCVDではQOLの全ての項目で有意差が認められなかった. 一方PDでは, physical health では高齢群で手足の不自由さ, 前傾姿勢, すくみ足の頻度が多く, 方向転換, 転倒, 座位からの起立, 排便, 排尿がより障害されていた. functional health では階段昇降, 外出, 炊事, 洗濯がより障害されていた. psychological health では高齢群で物忘れや加齢感を感ずる人が多く, social health では高齢群で旅行に出かけたり, 家族や親戚の相談にのることが少なくなる点でQOLが有意に低下していた. またPDとCVDを合わせたQOLの解析では高齢群でPD高齢者の特徴とほぼ同様であった. 尚 physical, functional, psychological, social health 別々にCVDとPDそれぞれの高齢群, 非高齢群でクロンバッハα値を計算した所, すべての値は0.732から0.948の間にあった.
  • 林 幹男, 越阪部 徹, 牛尾 房雄, 瀬山 義幸
    1999 年 36 巻 6 号 p. 404-407
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈の石灰化部位, その近傍部位, 遠位部位およびこれらから得たエラスチン画分についてカルシウム含量 (Ca), リン含量 (P), マグネシウム含量 (Mg), コレステロール含量, デスモシン (エラスチン特有の架橋成分) 含量, 遊離SH (総SHと遊離SHとの比), 疎水性を生化学的に比較検討した. それぞれの部位における平均値および相関関係から動脈石灰化部位に下記の特徴が認められた.
    1) 動脈のCaとPとMgは石灰化部位では他の部位に比較して増加の傾向が認められた. 動脈のCaとPとMgはそれぞれ正の相関関係が認められた.
    2) エラスチン画分中のCaとPとMgは石灰化部位では他の部位に比較して有意に増加していた. エラスチン画分中のCaとPとMgはそれぞれ正の相関関係が認められた.
    3) コレステロール含量は石灰化部位と遠位部位との差は認められなかった. また, コレステロール含量はCaとPとMgとそれぞれ相関関係が認められなかった.
    4) 石灰化部位のエラスチン画分中のデスモシン含量は遠位部位比較して有意に低下していた. デスモシン含量はCaとPとMgとそれぞれ負の相関関係が認められた.
    5) 遊離SHは石灰化部位と他の部位では差が認められなかった.
    6) 疎水性は石灰化部位と他の部位では差が認められなかった. 一方, 疎水性はエラスチン画分中のCaやMgとは負の相関関係が認められた.
  • 調査法による差異
    久保 晃, 丸山 仁司, 高橋 龍太郎
    1999 年 36 巻 6 号 p. 408-411
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 老人病院へ入院し理学療法を施行した延べ130症例を対象に, 入院中に発生する転倒実態の信頼性を聴き取り法と記載拾い出し法で検討することである. また, 対象者を75歳を境に前期高齢者と後期高齢者に分類し, 加齢による特徴についても検討を加えた.
    記載拾い出し法では本人や家族, 同室者などからの申告による転倒情報で, かつ傷害が発生しない転倒が把握されにくかった. また, この傾向は75歳未満の前期高齢者群に顕著だった. したがって, 記載拾い出し法の転倒発生率は有意に低くなり, 転倒による大腿骨頸部骨折などの受傷率は上昇した. このため, 記載拾い出し法は転倒の実態調査結果の信頼性に問題を呈すると結論された.
    また, 転倒により大腿骨頸部骨折や縫合処置が必要となったのはすべて75歳以上の後期高齢者であった. よって後期高齢者に対する傷害予防対策が急務であると考えられた.
  • 新津 望, 中山 道弘, 梅田 正法
    1999 年 36 巻 6 号 p. 412-415
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    ホジキン病 (Hodgkin's disease; HD) は, 非ホジキンリンパ腫に比し予後良好な疾患で, 若年者に多いと言われている. しかし, 近年高齢化に伴い65歳以上のHDも増加している. 今回我々は高齢者HDに対し, COP-BLAM療法を施行し, 治療成績・薬物有害反応を検討したので報告する.
    対象は1987年4月より1997年12月に当科で経験した65歳以上のHD 14例で, 年齢中央値68歳, 男性8例, 女性6例である. 臨床病期I・II期で予後不良因子を認めた5例ではCOP-BLAM療法を3コース施行し involvedfield (IF) を追加した. またIII・IV期9例では, COP-BLAM療法を6コース施行した. 全例評価可能で, 治療効果は14例中12例 (85.7%) に完全寛解, 2例 (14.3%) に部分寛解を得, 病期別では, I・II期100%, III・IV期77.8%に完全寛解を得た. 全症例の5年生存率は76.2%, 無病生存率は75.7%であった. 薬物有害反応は, grade 3以上の白血球減少35.7%, 血小板減少7.1%認め, 非血液毒性は grade 3以上のものは, 口内炎, 末梢神経障害を1例ずつ認めたのみであった. 高齢者HD症例に対しCOP-BLAM療法は, 安全に行えまた長期生存を得られると考えられた.
  • 石井 健男, 木田 厚瑞, 桂 秀樹, 山田 浩一, 野村 浩一郎, 神野 悟, 紀 健二, 田久保 海誉
    1999 年 36 巻 6 号 p. 416-419
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    肺癌の胃粘膜下転移の症例を経験したので報告する. 66歳, 男性. 1年前より労作時呼吸困難出現, 胸部X線上, 右上肺野に異常陰影を指摘された. 気管支鏡および画像所見より原発性肺癌 (大細胞癌, stage IV) と診断さる. 放射線療法およびステロイド薬投与により呼吸困難は改善し退院したが, 一カ月後, 化学療法施行目的にて再入院. この際, 急速に進行した貧血, 便潜血陽性より消化管出血を疑い上部消化管内視鏡施行. 胃体大彎側に粘膜下腫瘍を認め, 生検により大細胞癌と判明, 肺癌の胃粘膜下転移と診断した.
    生前に肺癌の胃粘膜下転移が発見された症例は稀であり, 従来の報告例との差異を考察した.
  • 篠原 規恭, 小手川 雅彦, 清原 裕, 加藤 功, 岩本 廣満, 陣内 重三, 藤島 正敏
    1999 年 36 巻 6 号 p. 420-424
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    症例は86歳, 女性. 13年来高血圧にて治療中であった. 1997年7月15日朝自宅の庭で意識消失して倒れているところを家族に発見され, 入院となった. 血圧は76/64mmHgと低く, 頻脈 (110/分) で, 四肢にチアノーゼを認めた. 検査所見では凝固系の亢進, 低酸素血症, 代謝性アシドーシス, 軽度の炎症所見があり, 心電図や心臓超音波検査は急性右心不全の所見を呈していた. また, 胸部造影CTで肺動脈主幹部から右肺動脈本幹にかけて造影欠損像があることより, 肺動脈塞栓症と診断した. 更に腹部造影CTにて左腎上極に腫瘍を, 右腎には嚢胞を認めた. 入院後直ちに昇圧を図るとともに, 第2病日より血栓融解療法を開始したが, 第5病日に永眠された.
    剖検にて, 肺動脈本幹から両肺動脈主幹部にかけて騎上型血栓性塞栓を認めた. 血栓の一部に後述する腎瘍の平滑筋細胞が見られた. 骨盤内静脈叢や下大静脈に血栓は見られず, 下肢のミルキングにても血栓は認めなかった. 左腎上・下極および右腎の嚢胞と思われた部位に同じ外観の腫瘍を認め, 組織学的所見は血管筋脂肪腫であった. 腫瘍の静脈洞様の血管内部にはフィブリン血栓が多数認められたが, 悪性所見はなかった.
    腎血管筋脂肪腫の他に塞栓源はなく, 組織学的に共通の平滑筋細胞が見られることから, 腎血管筋脂肪腫にできた血栓が肺動脈塞栓症を起こしたと診断した. 腎血管筋脂肪腫による肺塞栓症の報告はほとんどなく, 静脈内塞栓形成の報告例も少ない.
    腎血管筋脂肪腫の治療は, 腫瘍の大きさと症状の有無が参考にされ, 無症状の場合は経過観察になる場合が多い. しかし, 無症状であっても本症例のような合併症を起こすことを考慮すれば, 血栓や塞栓を合併している腎血管筋脂肪腫には積極的治療が必要であることが示唆される.
  • 1999 年 36 巻 6 号 p. 425-446
    発行日: 1999/06/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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