要介護老人のケアは施設から在宅へと移行し, 最近, 地域において在宅のケアを支援するサービスの整備が行われてきている. そこで, 本研究は大都市近郊のT市にある老人保健施設 (以下老健施設と略す) からの退所先に関連する要因について検討した. T市の三老人保健施設に在所していた入所者とその家族204人を対象にアンケート調査を行い, さらに調査から6カ月後の退所の転帰を調べた. 退所先別に家庭復帰群と病院入院群, 家庭復帰群と老健施設継続群とに区分し, 家庭復帰に関連する要因を検討した. 入所者は, 男性46人 (22.5%), 女性158人 (77.5%), 平均年齢84.4歳 (男性82.3歳, 女性85.0歳), 障害老人の日常生活自立度BおよびCに該当する寝たきりの者が71.6%, 痴呆を有する者は84.3%であった. 病院から入所した者が62.7%と多く, 約半数の者は2回以上老健施設を利用していた. 大部分の家族は, 老健施設に入所する前に老人の介護経験があり, 介護負担を感じていた. 老健施設の入所期間はできるだけ長くを希望しており, 家庭復帰を希望している家族は45.1%であった. 6カ月後の退所先は家庭復帰が60人 (29.4%), 病院入院が64人 (31.4%), 老健施設継続が80人 (39.2%) で, 家庭復帰率は29.4%であった. 家庭復帰群と病院入院群, 家庭復帰群と老健施設継続群の比較において, 家庭復帰の要因には, 家族の希望退所先が家庭である, 家庭から入所した, 日常生活動作の移動の自立度が高い, 退所先を老人と相談する, 老健施設の費用の支払いが老人の年金である, 定期的な投薬がないなどの項目が関連していた.
以上の結果から, 家庭復帰には, 家族の希望退所先も大きく関連していることを認めた. 家庭復帰のためには, 家族の希望退所先を考慮した施設からの指導が有効であると考えられる.
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