日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
36 巻, 7 号
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  • 富田 明夫, 木沢 仙次, 新井 哲輝
    1999 年 36 巻 7 号 p. 449-456
    発行日: 1999/07/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    近年, わが国では高齢化が進み, 1997年 (平成9年) の調査では65歳以上の高齢者は総人口の15.7%であったのが, 2020年 (平成32年) になると26.9%と4人に1人は高齢者になると推定されている. 高齢化社会になると生活習慣病や腦 (脳) 血管障害, 骨粗鬆症による骨折などに基づく寝たきり老人を診療する機会が益々増加してくるものと思われる. このような高齢者の診療に当って高齢者の臨床検査の正常値・基準値についての考え方そしてその設定が急務となっている. 高齢者の正常値・基準値については現在いわゆる健常者の多数例によるデータは乏しくまた健常者と思われる高齢者も栄養の問題, 運動の問題など生活習慣の差が極めて大きく何をもって健常者と見做すかが問題である. このように高齢者の臨床検査値を論ずるときはこのような生活環境因子や種々の要因を考慮すべきである. 1992年にアメリカ臨床検査標準委員会 National Comittee for Clinical Laboratory Standards, NCCLS) のガイドラインが報告され従来の正常値, 正常範囲に代って基準値, 基準範囲という言葉が使用されるようになり, さらに1995年にはその Approved Guideline が発表された. 著者らはこの考え方に従って検査値の基準値, 基準範囲を設定して来た. ここで云う基準範囲は基準母集団での中央値を含む95%の範囲 (中央値±2SD) としている. 本稿では著者らは実際に27項目の生化学検査について Clinical Reference Range Program, CRRPの改良法を用いて基準範囲を設定した. その結果27項目のうち性差のみられなかったものは8項目, 若年成人 (20~30歳代) と高齢者 (65歳以上) との比較では差のみられなかったものは9項目に止まり, 性差, 年齢差が多くみられることがわかった. 以上より, 高齢者の健康管理や診療に当っては高齢者の基準値, 基準範囲の設定が必要と思われた.
  • 森 聖二郎
    1999 年 36 巻 7 号 p. 457-465
    発行日: 1999/07/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    PDGFは血小板中に存在し, 主として間葉系細胞に対し増殖・遊走刺激活性を有する因子として同定された. PDGFは構造の類似したA鎖とB鎖のダイマーであり, 受容体も構造の類似したαとβの2種類が同定されている. 受容体は細胞内領域にチロシンキナーゼ活性を有する膜1回貫通型の膜蛋白で, リガンド非存在下ではモノマーとして存在する. 受容体の活性化はリガンド結合による受容体のダイマー化によって開始され, 細胞内領域がチロシンキナーゼによって自己リン酸化され, それに伴い受容体キナーゼ活性が上昇する. そして, 種々のシグナル伝達因子が自己リン酸化した受容体と会合し, 複合体をなして機能する. 活性化した受容体の細胞内情報伝達メカニズムについては, 核へのシグナル伝達経路として, 受容体が直接的に, あるいはShcないしSHP-2を仲介して間接的にGrb2/Sos複合体をリクルートする古典的Ras活性化経路とともに, Srcの活性化からMycの誘導に至る経路, さらにはStatのリン酸化を介する経路などが想定されている. 一方, 細胞骨格へのシグナル伝達経路としては, ホスファチジルイノシトール3キナーゼからRacを活性化する経路とともに, Rasからp38 MAPキナーゼを活性化する経路が, いずれもPDGF刺激によるアクチン再構築や細胞遊走に関与していることが知られている. 活性化した受容体はポリユビキチン化され, プロテアソームにより速やかに分解されシグナル伝達は終了する. ノックアウトマウスから得られた知見として, PDGF-B鎖ならびにβ受容体はメサンギウム細胞ならびに周細胞の発生に, A鎖は肺胞平滑筋細胞の発生に, α受容体は筋板の発生ならびに神経堤由来非神経細胞のアポトーシスの抑制に重要であることが明らかとなった. PDGFは動脈硬化発症過程において重要な働きをしているのみならず, 各種腫瘍細胞において遺伝子変異による過剰発現, あるいは構造変化により形質転換能を獲得した異常分子の発現を介して, 腫瘍細胞の自律性増殖能獲得さらには悪性化にも寄与している.
  • 溝上 聡, 海老原 禎博, 藤田 拓男, 藤井 芳夫
    1999 年 36 巻 7 号 p. 466-471
    発行日: 1999/07/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    変性性関節疾患は, 骨粗鬆症と並んで加齢と共に増加し, 両者に老化に基づく共通の背景が考えられる. 一方変性性関節疾患殊に変形性脊椎症では, 骨の変形及び骨棘等の過剰骨の形成のために, その進行と共に骨密度が見掛け上増加する事がある. このために骨密度の減少が主な所見である骨粗鬆症と変形性脊椎症との合併を証明し難い事から, これらの両疾患は対極的関係にあり, 両立し難い疾患であるとする考え方もある. この両疾患の関係を明らかにするためには, 骨の変形の少ない部位での正確な骨密度の測定が必要となるので, 橈骨で末梢型定量コンピュータ断層法 (pQCT) を用い, 変形性脊椎症の重症度との関係を検討した. 脊椎の変形を数量的に表現する試みとして, 二重エネルギーX線吸収法 (DXA) による第1~第4腰椎正面の骨密度の平均, 標準偏差, 変動係数 (標準偏差/平均), 最大値, 最小値, 最大値-最小値, 及び (最大値-最小値)/平均を求めた. X線所見上の変形性脊椎症の進行と共に, 脊椎骨密度及びその変動は増加したが, 橈骨遠位端の海綿骨密度, 骨幹部の皮質骨密度および皮質骨容積は減少の傾向を示し, 変形性脊椎症の進行と共に, 変形を起こさない橈骨では, 骨密度が減少し, 骨粗鬆症が平行して進行していることを示唆した. 骨粗鬆症の治療薬であり, 破骨吸収を抑制するエチドロン酸ナトリウムの投与により, 第1~第4腰椎骨密度の平均値は増加したが, 最大値は不変であり, 変形の程度を示す各椎体間の変動は著明に減少し, 骨粗鬆症と変形性脊椎症が共に改善したことが示唆された.
  • 5年間の追跡研究から
    鈴木 隆雄, 杉浦 美穂, 古名 丈人, 西澤 哲, 吉田 英世, 石崎 達郎, 金 憲経, 湯川 晴美, 柴田 博
    1999 年 36 巻 7 号 p. 472-478
    発行日: 1999/07/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    比較的健康な地域在宅高齢者527名を対象として, 面接聞き取り調査, 身体属性の測定, 腰椎骨密度および歩行能力などの運動能力を1992年の初回調査時に測定し, その後5年間追跡調査を行ない, その間での2回以上の複数回転倒者について, その関連要因の分析を行なった.
    その結果, 2回以上の複数回転倒者では非転倒者あるいは1回だけの転倒者に比較して初回調査時において, 自由歩行速度, 最大歩行速度, 握力などの運動能力や, 皮下脂肪厚, および老研式活動能力指標総得点などで有意な差が認められた. さらに, 5年間での追跡期間中の複数回転倒の有 (1), 無 (0) を目的変数とする多重ロジスティック回帰モデルによる分析を行なった結果,「過去1年間の転倒経験」が最も強い正の, そして自由歩行速度および皮下厚が負の有な関連として抽出された.
    このような地域高齢者を対象とする縦断的追跡研究の結果から, 転倒や転倒に基因する多くの骨折に対して,「過去の転倒経験」を問診で詳細に聞き取ることや, 簡便な「自由歩行速度」を測定することにより, 転倒ハイリスク者をスクリーニングすることが可能であり, ひいては転倒・骨折予防に極めて有効な指標となることが考えられた.
  • 西浦 公朗
    1999 年 36 巻 7 号 p. 479-488
    発行日: 1999/07/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    要介護老人のケアは施設から在宅へと移行し, 最近, 地域において在宅のケアを支援するサービスの整備が行われてきている. そこで, 本研究は大都市近郊のT市にある老人保健施設 (以下老健施設と略す) からの退所先に関連する要因について検討した. T市の三老人保健施設に在所していた入所者とその家族204人を対象にアンケート調査を行い, さらに調査から6カ月後の退所の転帰を調べた. 退所先別に家庭復帰群と病院入院群, 家庭復帰群と老健施設継続群とに区分し, 家庭復帰に関連する要因を検討した. 入所者は, 男性46人 (22.5%), 女性158人 (77.5%), 平均年齢84.4歳 (男性82.3歳, 女性85.0歳), 障害老人の日常生活自立度BおよびCに該当する寝たきりの者が71.6%, 痴呆を有する者は84.3%であった. 病院から入所した者が62.7%と多く, 約半数の者は2回以上老健施設を利用していた. 大部分の家族は, 老健施設に入所する前に老人の介護経験があり, 介護負担を感じていた. 老健施設の入所期間はできるだけ長くを希望しており, 家庭復帰を希望している家族は45.1%であった. 6カ月後の退所先は家庭復帰が60人 (29.4%), 病院入院が64人 (31.4%), 老健施設継続が80人 (39.2%) で, 家庭復帰率は29.4%であった. 家庭復帰群と病院入院群, 家庭復帰群と老健施設継続群の比較において, 家庭復帰の要因には, 家族の希望退所先が家庭である, 家庭から入所した, 日常生活動作の移動の自立度が高い, 退所先を老人と相談する, 老健施設の費用の支払いが老人の年金である, 定期的な投薬がないなどの項目が関連していた.
    以上の結果から, 家庭復帰には, 家族の希望退所先も大きく関連していることを認めた. 家庭復帰のためには, 家族の希望退所先を考慮した施設からの指導が有効であると考えられる.
  • シストメトリーによる客観的評価と塩酸プロピベリンによる治療
    森 敏, 小島 宗門, 酒井 泰一, 中島 健二
    1999 年 36 巻 7 号 p. 489-494
    発行日: 1999/07/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    尿失禁を呈する痴呆性老人46名の膀胱機能をシストメトリーで評価した. 次に, これらの患者に塩酸プロピベリン (20mg/日) を2週間投与し, 膀胱容量・失禁回数の両面から薬効を評価した. 膀胱容量は25ml以上の増減をもって「改善」あるいは「悪化」とし, その他を「不変」とした. 同じく, 失禁回数は2回以上の増減をもって「悪化」あるいは「改善」とし, その他を「不変」とした. 膀胱内圧パターンは, アルツハイマー型痴呆では overactive (over 型) 58.1%, normoactive (normo 型) 35.5%, low compliant (low 型) 6.4%で, 脳血管性痴呆では over 型90.9%, low 型9.1%であった. 本剤投与により, 膀胱容量・失禁回数はいずれも約4割の症例で改善した. 病型別の改善率には有意差は見られなかったが, 内圧パターン別の改善率は, over 型が normo 型より有意に高かった. 尿失禁を呈する痴呆性老人は一般の高齢者に比べ膀胱機能異常を伴う率が高い. これらの患者を塩酸プロピベリンで治療する場合は, 痴呆病型よりも膀胱内圧パターンが効果の指標になると考えられる.
  • 勝岡 宏之, 三森 康世, 満岡 恭子, 森野 豊之, 黒川 勝己, 原田 暁, 中村 重信
    1999 年 36 巻 7 号 p. 495-498
    発行日: 1999/07/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    症例は77歳男性. 1988年糖尿病と診断され, 経口血糖降下薬で加療されていた. 1997年1月下旬に感冒症状が出現し, 2月下旬には上肢脱力が, 続いて両下肢脱力が出現した. 感覚・排尿障害は認めなかった. 末梢神経伝導検査では遠位優位の脱髄性神経障害の所見で, ギラン・バレー症候群として免疫吸着療法 (IAT) を行い, 完全に回復した. 4月下旬より再び四肢脱力が出現し, IATおよびステロイド漸減療法を行い, 現在まで再発をみていない. 6月, 内視鏡検査にて胃癌が発見され, 胃亜全摘術を受けた. このような経過から, 本例はCIDPの急性発症例と考えられる. 高齢者ニューロパチー患者では複数の原因が関与していることも多い. 症状の進行や増悪をみた場合には, そのような可能性を考慮して検索をすすめ, 治療可能な原因を見逃さないことが重要である.
  • 安達 典子, 近藤 昭, 林 恭一
    1999 年 36 巻 7 号 p. 499-502
    発行日: 1999/07/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    食後性低血圧は高齢者の失神の原因として重要とされているが, 病態の詳細は不明で, 治療法は確立されていない. 今回, 長時間にわたる失神をくり返し薬剤投与によって予防し得た症例を経験したので報告する.
    症例は86歳男性. 脳出血後遺症で入院中, 夕食後に血圧低下とともに意識消失を繰り返し, 約1~2時間後, 血圧上昇に伴って自然に意識が回復した. 食後性低血圧による失神と考え midodrine hydrochloride, amezinium metilsulfate, dihydroergotamine mesylate を投与した. しかし, いずれも単独の投与では食後に50~60mmHgの血圧低下とそれに伴う失神がみられた. そこで, amezinium metilsulfate と dihydroergotamine mesylate の併用を試みたところ, 食後の血圧低下は30mmHg程度となり失神には至らなかった. amezinium metilsulfate は内因性ノルアドレナリン作用を増強させ, 主に動脈系の血管抵抗を増加することによって血圧を上昇させる. これに対して, dihydroergotamine mesylate は血液の静脈プーリングを防止して静脈環流量を増加させることによって血圧を上昇させる. 本症例では食後性低血圧に伴う失神を予防するのに作用機序の異なる2種類のα受容体刺激薬の併用が有効であり, 高齢者の食後性低血圧の治療におけるこれらの薬剤の併用療法の意義について, 今後更に検討される価値があると思われる.
  • 1999 年 36 巻 7 号 p. 503-513
    発行日: 1999/07/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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