MDSのE項-(診断と症状) は1~4から成り, すべての項目を医師が記録する. E1は28種の病名があらかじめ印刷された選択肢 (不動文字) から成る欄, E2はそれがない場合, 具体的な病名を書く欄, E3, E4は過去7日の「問題状態など」と「状態安定性」に関する欄である.
本報では, ある高齢者医療施設の1,735名の患者について, 医師をふくむ全職種が連携してケアを行った経緯に基いて, E項の有用性と, 日本で使用したときの不利な点を展望し, 分析の結果を資料として示す.
私共はE1をなるべくA-(要介護状態の基礎疾患), B-(Aの症候・続発状態), C-(合併症) に分けて分析したが, 骨・関節の疾患は充分に分析できなかった. Aを2個以上もつほとんどの場合は, アルツハイマー型 (ア型) 以外の痴呆と脳血管の損傷の2つのみかけの合併で, 病歴, CT上, 多発性ラクナ梗塞が痴呆化した例など, 実際は単一の疾患であり, 米国の実情による不動文字の用意のされ方によるみかけの合併で, それらを除くと, 要介護状態の出発点となる基礎疾患は原則として1個であった. 骨・関節の疾患を除いて, 1) ア型痴呆, 2) パーキンソン病, 3) ビンスワンガー病など神経症候の乏しい血管性痴呆, 4) 痴呆をもつ脳血管障害, 5) 痴呆のない脳血管障害の5種で, それらの合計は男女の順に要介護入院患者の94.3%, 91.6%を占めていた.
「問題状況・症候・症状」の過去7日間の発生は不動文字が存在する範囲で1,000人1日当たり189.7件で, 障害高齢者が問題をかかえる状況が定量的に示された. また過去180日間の大腿骨骨折は女は年間で5%弱となった.「状態の安定性」については, 過去7日間で男は5.9%, 女は4.2%に急性発作・再発をみた.
E項の利点は, 1) 要介護患者の医療的問題点を簡潔に示せる, 2) 記録時点の状態と, 先行する7日間の動態を分けて記録できる, 3) 情報を多職種で共有できる. 一方, 不利な点は, 1) 不動文字が少なく, 米国の実情のままである, 2) 要介護状態の出発点が明記できない, 3) 症状の程度を示す方法がない, などである.
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