血小板凝集能が高齢者の生命予後にどのような影響を及ぼすかを知る目的で, 60歳以上の外来患者に血小板凝集能検査を施行後, その生命予後を後ろ向きに検討した. 対象は種々の疾患を有するが, 観察開始時には抗血小板療法の行われていない連続347例で, 疾患では脳血管障害慢性期例が107例と多かった. 平均年齢は77.0±7.6歳, 男性161例, 女性186例で, これらを血小板凝集能よりI群 (低下群: n=40), II群 (正常群: n=208) およびIII群 (亢進群: n=99) に分類した. 血小板凝集能は凝集惹起物質にADPを用い, 従来の吸光度法より得られた grading curve (以下GC) を血小板凝集能の指標とし, 143例には3~6カ月後に再検査した. 追跡期間は平均3.9年で, 調査は再診や診療録, 電話による聞き取り調査に基づいた. 各群の平均年齢は76.3~78.0歳となり, III群には高齢の女性が多かった. 血小板凝集能の再現性はGCの型を3群間で検討すると一致率は0.72, 一致係数κは0.37となった. 死亡数はI群3例, II群33例, III群30例, 年間死亡率は各群の2.1%, 4.0%, 7.5%となり, III群が有意に高かった. 死因は肺炎が各群に多くみられ, さらにIII群では脳梗塞が15例あった. これより血管性事故による死亡数はI群1例, II群5例, III群17例となり, 年間死亡率は各群の0.7%, 0.6%, 4.2%となった. 観察期間中に各群の約15%に抗血小板療法が行われていたが, これらを除いた生存分析でもIII群の年間死亡率は有意に高かった. Cox比例ハザードモデルでは死亡全体に影響する因子としてADLの状態, 血小板凝集能が各々ハザード比2.8, 1.4で, また, 血管性事故による死亡に影響する因子として血小板凝集能, 糖尿病が各々ハザード比2.3, 2.2で有意に高かった. 以上より, 血小板凝集能の亢進例では血管性事故による死亡率が高く, 予後は悪かった. この成績は, 亢進した血小板凝集能が既に進展している血管病変を示唆するのと同時に,このような例では抗血小板療法による治療を検討する必要があると考えられた.
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