従来から, 腎重量には左右差が存在し, 左側は右側に比べわずかに重いことがしられているが, 老年者の剖検記録の中には, この差が30gもあり, しかも, 臨床的, 病理学的に偏腎性疾患の明らかでない症例がある. 最近, 高血圧症との関連から, 偏腎性疾患が臨床的にも重視されてきているので, その基礎的資料として, また, 病的腎との関連を求める目的から, われわれは, 老年者腎重量の左右差について検討してみた.
材料には, 浴風園の5年連続剖検例中, 60才以上, かつ, 両側に腎をもつ症例591例を使用した.
591例中, 99例は, 偏腎性疾患, またはその可能性ある疾患に罹患していたので, 一括して第1群とした. 残された腎は, 臨床記録も参照して, 動脈硬化性および, 細動脈硬化性腎以外の内科的腎疾患を除外して, 第2群とした. 第2群は, 老年者腎の一般的特徴を示すものとみなし, 腎重量の経年的変化および左右差の分布を求める対象とした. 老年者腎は60才以降も各年代ごとに5~10gずつ漸減する.一方, 左右差には, 年代間の差はない. 左右差の分布は, 0~10g重い症例がもっとも多いが, 分布の形はほぼ正規型で, 右腎が左腎より重い例や, 左右差の絶対値が30g程度のものは, 偏腎性疾患でなくともみられる結果がえられた.
この分布からえられた左右差の1%危険率棄却限界値は (左腎-右腎) gの値で, 男子, (-33.0, +46.4)g, 女子 (-28.2, +41.6)gであった. この値を用いて全症例を検討し直すと, 44例が, 有意と判定され, このうち, 42例は偏腎性疾患に属した. 疾患との関連では, 水腎症, 腎動脈疾患で, 有意の左右差を示す症例が多い.
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