食餌制限による寿命延長効果は, すでに実験的に多くの動物種で明らかにされているが, その作用機序は未だ明らかとなっておらず, 生理的機能低下の抑制や病変発生の抑制と遅延, 酸化的ストレスによる障害の軽減作用などさまざまな報告がある.
本報告では加齢と食餌制限について, 酸化的ストレスの関与を明らかにするため, ドンリュウ系雄ラットを用いて, 自由摂取群と食餌制限下 (給餌量を自由摂取群摂取量の60%に制限) で飼育した制限群の2群について, 3~4, 6, 12, 18ヵ月齢時の血漿, 肝臓, 腎臓における過酸化脂質の変化を比較検討した.
過酸化脂質の指標として, 脂質の酸化反応第一生成物ヒドロペルオキシドに高い選択性を示す蛍光試薬ジフェニル-1-ピレニルホスフィンを用いて, 高速液体クロマトグラフィーポストカラム蛍光法により, ホスファチジルコリンヒドロペルオキシド (PCOOH) を測定した. その結果, 従来より汎用されているチオバルビツール酸法による結果と比較して特異的且つ高感度に, 加齢に伴う過酸化脂質の変化および食餌制限による過酸化脂質への影響を観察することができ, 以下の結果が得られた. 1) 血漿, 腎臓, 肝臓において加齢に伴いPCOOHは増加した. 2) 食餌制限により加齢に伴うPCOOHの上昇は, 血漿では顕著に抑制され, 肝臓においては抑制の傾向が認められ, 腎臓においては顕著な影響は認められなかった.
これらの結果から, 加齢に伴いPCOOHは増加し, この増加は食餌制限によって抑制される傾向にあることが明らかとなった. また, この抑制作用は臓器によって異なり, 血漿では著しく抑制されることも判明した. 以上から, 加齢に伴うPCOOHの増加は生体膜の障害を引き起こし, それが疾病の発症へ導く要因の一つとなり, さらに寿命短縮につながるのではないかと考えられた. また, 加齢に伴うPCOOHの増加が食餌制限により抑制傾向にあることから, これが加齢に伴う疾病の発生を抑制するものと推測された.
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