高齢化が著しく進行している現在, 高齢者の排尿障害を効率よく診断し, 治療を行っていくシステムが必要である. 近年, 国際前立腺症状スコア (I-PSS) とQoLスコア, 残尿と最大尿流率を組み合わせた排尿機能, 前立腺体積をもとに重症度の評価を行う泌尿器科医向きの前立腺肥大症に対する評価基準が作成された. 重症度が軽度であれば治療の必要なく, 中等症, 重症であれば治療の必要ありとするものである. 排尿障害を有する50歳以上の男性112例と女性21例を対象に, この評価基準が高齢者の排尿障害全般の初期評価に有用であるかどうか検討した. さらに, I-PSSとQoLスコアの2つを用いたレベルI (患者・介護者・看護師レベル) の評価法と, I-PSSとQoLスコアに残尿測定を加えたレベルII (一般内科医レベル) の評価法を設定し, I-PSS, QoLスコア, 排尿機能, 前立腺体積 (女性では含まない) によるレベルIII (泌尿器科医レベル) の評価との一致率, 敏感度, 特異度に関して検討した. レベルIIIで中等症, 重症と判定された124例中121例は治療が必要であり, 軽症であった9例中8例は治療不要であると考えられた. レベルIIIの評価基準を用いて133例中129例 (97.0%) の高齢者において排尿障害の程度を正しく判定でき, レベルIIIの評価基準は, 前立腺肥大症だけでなく, 高齢者排尿障害一般にも使用可能であると考えられた. レベルI, IIで全般的重症度が中等症以上と判定されたそれぞれ102例, 111例はすべてレベルIIIの評価でも中等症以上と判断された. 一方, レベルI, IIで軽症と判断された31例中22例 (71.0%), 22例中13例 (59.1%) はレベルIIIでは中等症と判断された. レベルI, IIいずれも特異度は100%であったが, I-PSS, QoLスコアに残尿を加えることで敏感度は82.3% (102/124) から89.5% (111/124) に向上した. 1日2,000m
l以上の多尿は33例 (24.8%) に認められ, 排尿記録は高齢者排尿障害の評価に有用であった. レベルIにおける全般的重症度が軽症31例, 中等症91例, 重症11例では, 50m
l以上の残尿がそれぞれ9例 (29.0%), 22例 (24.2%), 4例 (36.4%) にみられ, 自覚症状の強弱に関らず, 無視できない残尿を有する症例が存在した. 高齢者排尿障害に対して一般内科医が行うべき初期評価法には, 排尿記録と残尿測定が必ず含まれるべきである. I-PSSとQoLスコアによるレベルIの評価基準でも, I-PSSとQoLスコア, 残尿を用いたレベルIIの評価基準でも, 中等症以上であれば治療が必要であるとして問題はない. しかし, いずれのレベルでも, 軽症と判断された高齢者の半数以上は, 泌尿器科医レベルでは治療が必要な症例であった.
抄録全体を表示