日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
40 巻, 4 号
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  • 大類 孝, 山谷 睦雄, 荒井 啓行, 佐々木 英忠
    2003 年 40 巻 4 号 p. 305-313
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    口腔は, 皮膚と腸管とともに3大細菌網で, 口腔雑菌を知らず知らずに飲み込んでいる. 誤嚥性肺炎患者では, その口腔の中のセンサーが悪く, 唾液がたまったことを感知できない, いわゆる嚥下反射が低下している. そして気管に誤嚥したときは咳として出さなければいけないけれども, 咳反射も低下している. そして不顕性誤嚥を何回も起こしているうちにいつか肺炎になる.
    それではなぜ嚥下反射, 咳反射が落ちるかというと, 迷走神経あるいは舌咽神経の知覚枝の頸部神経節でつくられるサブスタンスPという物質が少ないからである. サブスタンスPがなぜ少ないかというと, 黒質線状体でつくられるドーパミンという物質が少ないからである. なぜドーパミンが少ないかというと, 深部皮質における脳血管性障害があるからである.
    サブスタンスPが少ないことから, 抗生物質に頼らないお年寄りの肺炎の予防が可能になる. カプサイシンという物質がサブスタンスPを強力に放出する物質であるため, カプサイシンを口の中に入れてやると嚥下反射が良くなる.
    ドーパミンが少ないため, ドーパミンを上げてやれば良い. アマンタジン (シンメトレル®) はドーパミンの遊離を促す. ドーパミンを投与した群としない群に分け, 3年間にわたって投与したところ, 肺炎の発生率を1/5に減らすことができた.
    アンジオテンシン変換酵素阻害薬はサブスタンスPの分解も阻害するため咳が出るが, 肺炎をくり返すお年寄りは咳が出ないで困っているので, ACE阻害薬を投与した. イミダプリル (タナトリル®) を2年間にわたって投与したところ, 投与しない群に比べて肺炎の発生率を1/3に減らすことができた.
    65歳以上であれば半分の人たちは何らかの脳血管障害がある. 深部皮質に不顕性脳血管障害がある人は, 2年間に30%が肺炎を起こすという成績が得られた. したがって要介護老人のみの問題ではなく, 65歳以上であれば身近な問題であると言える.
    脳血管性障害を防ぐことがお年寄りの肺炎を防ぐことにつながる. シロスタゾール (プレタール®) を3年間にわたって投与したところ投与しない群に比べて脳梗塞の発生率を半分に減らすことができた. しかも肺炎の発生率も半分に減らすことができた.
  • 高木 由臣, 小森 理絵
    2003 年 40 巻 4 号 p. 314-318
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    「原核細胞から真核細胞へ」,「Germ から Soma へ」,「分裂性細胞から非分裂性細胞へ」,「1倍体から2倍体へ」,「単細胞から多細胞へ」という進化の方向性に沿って, 細胞寿命 (分裂限界) と生物時間の起源について考察し, 提唱した作業仮説をゾウリムシで検証する実験について紹介した. (1) 原核細胞から真核細胞への移行に際し, 直径で約10倍, 容積で約1,000倍の細胞の大型化が起こった. 細胞の大型化は情報の大型化を伴った. (2) 大型化に伴い, (1) 大容量DNAの収納, (2) 細胞表面積の不足, (3) 細胞内輸送, (4) 細胞構造の保持, (5) 突然変異の蓄積, といった問題が生じた. (3) (1) に対応して核と染色体構造の構築, (2), (3) に対応して細胞内膜系の発達, (4) に対応して細胞骨格の発達という真核細胞に共通の特徴が確立した. (4) 真核細胞の特定の系統で, (5) に対応する策として,「Germ と Soma への分化」,「ゲノムの2倍体化」が起こった. (5) 生物が置かれた環境の中で,「時機をみて」2倍体 Germ が1倍体化するようになった. 1倍体化の時機を計ることが発生時間の本質であり, 有性生殖を行う性成熟開始までの時間制御の基礎となった. (6) 一方,「2倍体 Germ の1倍体化機構」は「2倍体 Soma の分裂停止機構」とカップリングした. すなわち「細胞寿命」は, 当初,「2倍体 Germ が1倍体化するまでの分裂回数」であった. (7) のちに分裂停止機構は死の機構へと発展し, 形態形成が可能となったことにより, 多細胞生物の登場を促した. この仮説のうち, 特に (4), (5), (6) が本論の要諦である. ゾウリムシの発生系において, Germ の1倍体化機構と Soma の分裂停止機構とのカップリングを外す方策について考え, 2倍体 Germ が1倍体化出来ない突然変異株を分離する試みについて紹介した.
  • 滝沢 俊也
    2003 年 40 巻 4 号 p. 319-321
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    近年発症3時間以内の脳塞栓症に対してrt-PA静注療法の臨床的有用性が示されたが, 一方で発症3~5時間後のrt-PA静注では逆に脳梗塞巣の増大や出血性梗塞の合併を来すと報告されている. 脳虚血再灌流状態においてO2-, NOなどの free radical の生成に続き毒性の強いONOO-が産生されることが知られており, ONOO-の視標である nitrotyrosine は血管閉塞直後より再灌流48時間後まで経時的に増加し72時間後に減少する. また24時間永久血管閉塞と比較して2時間血管閉塞/22時間再灌流では nitrotyrosine は過剰に産生され梗塞巣も増大する. こうした再灌流で増強されるフリーラジカル・活性酵素の生成は心原性塞栓症の重篤な臨床症候を説明し得る. 今後の新しい治療として, 血栓溶解療法と free radical scavenger の併用療法が therapeutic time window の延長や出血性梗塞の軽減につながると期待されよう.
  • 山下 武志
    2003 年 40 巻 4 号 p. 322-324
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 松井 敏史, 海老原 孝枝, 大類 孝, 山谷 睦雄, 荒井 啓行, 佐々木 英忠
    2003 年 40 巻 4 号 p. 325-328
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    高齢者肺炎は, 嚥下機能・免疫生体防御機能・上部消化管機能の低下などが関与した誤嚥性肺炎が特徴であり, 再発 ―ADLの低下―死への転帰をたどる. その病態は生命維持の根幹である‘食すること’が一転して今度は病因となったもので, 根本治療は抗生物質投与でなく‘食すること’の機能改善である. 嚥下・咳反射に重要な大脳基底核領域から咽・喉頭, 気管に投射するドパミン―サブスタンスP系ニューロンは日本人の脳血管障害に多い基底核梗塞で破錠し, 誤嚥性肺炎の発症へとつながる. 治療はドパミン―サブスタンスP系の賦活と脳血管障害の予防と治療である. サブスタンスPの分解を阻害するACE阻害薬やサブスタンスPの放出を促す口腔ケア, ドパミン放出作用のある塩酸アマンタジンや, ドパミン生成に関与する葉酸の投与は誤嚥性肺炎を抑制し得る. 一方, 痴呆患者における周辺症状の緩和に用いられる抗ドパミン作用を有する薬剤の乱用や, 寝たきり患者の食直後の臥位姿勢は肺炎を誘発しうる.
  • 加藤 弥生
    2003 年 40 巻 4 号 p. 329-331
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 心不全とエストロゲン
    野出 孝一
    2003 年 40 巻 4 号 p. 332-335
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 浦野 友彦
    2003 年 40 巻 4 号 p. 336-338
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 後藤 公宣
    2003 年 40 巻 4 号 p. 339-340
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 細田 洋司, 寒川 賢治
    2003 年 40 巻 4 号 p. 341-343
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 櫻井 孝, 楊 波, 横野 浩一
    2003 年 40 巻 4 号 p. 344-347
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    神経細胞は通常, グルコースをエネルギー源として利用するが, エネルギー危機的状態においては, 乳酸やケトン体などを利用できる. 本研究では老化における乳酸/ピルビン酸の代謝とシナプス機能について検討を行った. シナプス機能は, モルモット海馬切片の歯状回の顆粒細胞層で記録される場の集合電位の振幅にて評価した. 生後3~4週齢のモルモットから作成した海馬切片では, 細胞外液の乳酸は, シナプス活動を30分以内に一過性に抑制したが, 自然に回復させた. 細胞外液にタンパクリン酸化酵素C (PKC) の阻害薬である chelerythrine を加えると, 乳酸はシナプス活動を維持できなかった. 一方, cAMP依存性リン酸化酵素, チロシンリン酸化酵素の阻害薬であるH-89, lavendustin A の投与は, 乳酸によるシナプス活動に作用しなかった. また生後24月齢のモルモットの海馬切片では, 乳酸は神経活動を維持できなかった. これらの結果より, シナプス機能が乳酸により維持されるためには, PKCを介した代謝性変化が関与すること, またシナプスでの乳酸代謝は加齢にともない低下することが示された.
  • 宮田 敏男, 上田 裕彦, 南学 正臣
    2003 年 40 巻 4 号 p. 348-351
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 岡村 菊夫, 長浜 克志, 宇佐美 隆利, 長田 浩彦, 安部 崇重, 勝野 暁, 川野 圭三, 佐藤 滋則, 原田 雅樹
    2003 年 40 巻 4 号 p. 352-359
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    高齢者の排尿障害を効率良く評価・治療を行うためには, 一般内科医向きの治療効果判定基準が必要である. 近年, 国際前立腺症状スコア (I-PSS) とQoLスコア, 尿流測定における最大尿流率をパラメータとした泌尿器科医向きの前立腺肥大症に対する治療効果判定基準が作成された. 泌尿器科医が排尿障害に対し評価・治療を行った50歳以上の男性85例と女性16例に対して, この効果判定基準が前立腺肥大症のみならず, 高齢者排尿障害全般の効果判定に有用であるかどうか検討した. さらに, I-PSSとQoLスコアの改善度を用いたレベルIの効果判定法と, PSSとQoLスコア, 残尿量の改善度を用いたレベルIIの効果判定法を設定し, I-PSSとQoLスコア, 最大尿流率の改善度によるレベルIIIの効果判定法による判定結果との一致率について検討した. レベルIIIの効果判定法において,「やや有効」と判断された1例は「悪化」と,「不変」と判断された1例は「やや有効」と判定したほうがよいと考えられたが, 101例中99例 (98.0%) では適切な効果判定ができており, レベルIIIの効果判定法は, 前立腺肥大症だけでなく高齢者の排尿障害全般に対する治療効果判定にも有用であると考えられた. レベルIとレベルIIIの判定結果の比較では, レベルIの「著効」・「有効」例がレベルIIIで「不変」・「悪化」と判定されることはなく, レベルIの「不変」・「悪化」例がレベルIIIで「やや有効」以上と判定されることはなかった. レベルIで「やや有効」であった35例中6例が, レベルIIIでは「不変」と判定された. レベルIIの「著効」・「有効」例が, レベルIIIにおいて「不変」・「悪化」と判定されることはなく,「悪化例」が「やや有効」以上と判定されることはなかった. レベルIIの「やや有効」の38例中11例と「不変」の35例中4例が, レベルIIIではそれぞれ「不変」,「やや有効」と判定された. 一般内科医向きの効果判定では, 初期評価では行うべきであった残尿測定は必要なく, I-PSSとQoLスコアを用いた簡便な判定法が有効であると考えられた.「著効」・「有効」・「やや有効」と判定された場合は治療を続行してよく,「不変」・「悪化」と判定された場合は泌尿器科医との連携が奨められる. しかし,「やや有効」と判定された場合には, 泌尿器科医レベルでは17%程度の症例が「不変」と判定される可能性がある.
  • 患者・介護者・看護師, 一般内科医, 泌尿器科医レベルの評価法の比較
    岡村 菊夫, 長浜 克志, 宇佐美 隆利, 長田 浩彦, 安部 崇重, 勝野 暁, 川野 圭三, 佐藤 滋則, 原田 雅樹
    2003 年 40 巻 4 号 p. 360-367
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    高齢化が著しく進行している現在, 高齢者の排尿障害を効率よく診断し, 治療を行っていくシステムが必要である. 近年, 国際前立腺症状スコア (I-PSS) とQoLスコア, 残尿と最大尿流率を組み合わせた排尿機能, 前立腺体積をもとに重症度の評価を行う泌尿器科医向きの前立腺肥大症に対する評価基準が作成された. 重症度が軽度であれば治療の必要なく, 中等症, 重症であれば治療の必要ありとするものである. 排尿障害を有する50歳以上の男性112例と女性21例を対象に, この評価基準が高齢者の排尿障害全般の初期評価に有用であるかどうか検討した. さらに, I-PSSとQoLスコアの2つを用いたレベルI (患者・介護者・看護師レベル) の評価法と, I-PSSとQoLスコアに残尿測定を加えたレベルII (一般内科医レベル) の評価法を設定し, I-PSS, QoLスコア, 排尿機能, 前立腺体積 (女性では含まない) によるレベルIII (泌尿器科医レベル) の評価との一致率, 敏感度, 特異度に関して検討した. レベルIIIで中等症, 重症と判定された124例中121例は治療が必要であり, 軽症であった9例中8例は治療不要であると考えられた. レベルIIIの評価基準を用いて133例中129例 (97.0%) の高齢者において排尿障害の程度を正しく判定でき, レベルIIIの評価基準は, 前立腺肥大症だけでなく, 高齢者排尿障害一般にも使用可能であると考えられた. レベルI, IIで全般的重症度が中等症以上と判定されたそれぞれ102例, 111例はすべてレベルIIIの評価でも中等症以上と判断された. 一方, レベルI, IIで軽症と判断された31例中22例 (71.0%), 22例中13例 (59.1%) はレベルIIIでは中等症と判断された. レベルI, IIいずれも特異度は100%であったが, I-PSS, QoLスコアに残尿を加えることで敏感度は82.3% (102/124) から89.5% (111/124) に向上した. 1日2,000ml以上の多尿は33例 (24.8%) に認められ, 排尿記録は高齢者排尿障害の評価に有用であった. レベルIにおける全般的重症度が軽症31例, 中等症91例, 重症11例では, 50ml以上の残尿がそれぞれ9例 (29.0%), 22例 (24.2%), 4例 (36.4%) にみられ, 自覚症状の強弱に関らず, 無視できない残尿を有する症例が存在した. 高齢者排尿障害に対して一般内科医が行うべき初期評価法には, 排尿記録と残尿測定が必ず含まれるべきである. I-PSSとQoLスコアによるレベルIの評価基準でも, I-PSSとQoLスコア, 残尿を用いたレベルIIの評価基準でも, 中等症以上であれば治療が必要であるとして問題はない. しかし, いずれのレベルでも, 軽症と判断された高齢者の半数以上は, 泌尿器科医レベルでは治療が必要な症例であった.
  • 藤巻 博, 粕谷 豊, 各務 志野, 川口 祥子, 古賀 史郎, 高橋 忠雄, 水野 正一
    2003 年 40 巻 4 号 p. 368-374
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    高齢の慢性腎不全症例において, 透析導入後の短時日における転帰の規定要因について検討を行った. 東京都老人医療センターにおける年齢60歳以上の透析導入例119例を対象とした. 男性例は70例, 女性例は49例, 年齢は74±7歳 (平均±標準偏差) であった. 個々の症例において, 腎臓専門医への照会から透析導入までの期間 (以下, 照会時期), 透析導入の緊急度, 腎不全の基礎疾患, 栄養状態, 脳血管障害の有無, 虚血性心疾患の有無, 歩行の可否, および認知機能の良否について検討した. 照会時期は月数を単位として評価し, 一ヵ月以上を早期照会, 一ヵ月未満を晩期照会とした. 栄養状態は血清アルブミン濃度により評価した. また, 透析導入後の転帰は, 病状の軽快が得られたか, あるいは病状が軽快せずに死亡されたかで評価した. 軽快例は107例, 死亡例は12例であった.
    始めに, 照会時期 (早期照会/晩期照会) と導入の緊急度 (非緊急導入/緊急導入) との関係, および導入の緊急度と導入後の転帰 (軽快/死亡) との関係について検討した. 統計学的評価にはχ2検定を用いた. 早期照会例に比して晩期照会例では, 緊急導入例の割合が有意に多かった (p<0.0001). また, 非緊急導入例に比して緊急導入例では, 死亡例の割合が有意に多かった (p=0.016). 次に, 症例の背景因子を説明変数とし, 導入後の転帰を目的変数として, 多変量ロジスティック回帰分析を行った. 統計学的に意義のあるロジスティック回帰係数が得られた項目は, 導入の緊急度 (p=0.040), アルブミン濃度 (p=0.022), および脳血管障害の有無 (p=0.002) であった.
    死亡12例において, 病状と著しい係わりのあった急性併発症について検討したところ, 重篤な感染症 (肺炎, 敗血症) が過半数の症例で認められた. 規定要因3項目は, それぞれ, 感染機会の増加, 感染防御能の低下, 嚥下反射の低下や喀痰排出能の低下を介して, 感染症発症と繋がりを持っていた可能性が示唆された.
  • 5年間の縦断的検討
    濱田 富雄, 近森 大志郎, 西永 正典, 土居 義典
    2003 年 40 巻 4 号 p. 375-380
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    近年, 高血圧が脳・心血管疾患を引き起こすのみでなく, 高齢者の認知機能や神経行動機能も低下させることが報告されている. さらに高齢者において, 高血圧は自立生活を障害して要介護状態に至る原因としても注目されている. しかし, 日常生活動作 (activities of daily living; ADL) の自立を維持している健常高齢者においても, 高血圧や加齢が認知・神経行動機能や心機能に潜在的な影響を及ぼすか否かについては明らかでない.
    【対象・方法】基本的ADLが自立維持された地域在住の健常高齢者25名 (平均69±3歳) を対象に, 加齢と高血圧が認知・神経行動機能および心機能に及ぼす影響について心エコー図検査, 自由行動下血圧測定, 認知・神経行動機能検査を用いて5年間の追跡調査を行った.
    【結果】1) 左室心筋重量: 高血圧群では正常血圧群に比して, 5年間で有意に増加した (変化率; +5.3%vs. -0.8%, P=0.03). 2) non-dipper: 高血圧群で5年間でその割合が増加した (初回; 20% (2/10名) vs. 追跡時; 58% (7/12名), p=0.04). 3) 高次神経行動機能評価スコア: 高血圧群では正常血圧群に比し, 5年間で有意に低下した (初回; 2,344±110vs. 2,380±102, ns, 追跡時; 2,149±181vs. 2,356±159, p=0.04).
    【結論】基本的ADLが5年間自立維持されていても, 高血圧は潜在的な臓器障害を進行させ, 神経行動機能の低下に影響していた. 高血圧のコントロールは心血管事故の予防だけでなく, 高齢者の生活の質を維持する上でも重要である.
  • 黒田 晶子, 神田 直, 浅井 憲義
    2003 年 40 巻 4 号 p. 381-389
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    介護を必要とする在宅脳卒中患者の介護者の健康に関連した生活の質 (HRQOL) に影響を及ぼす要因を明らかにする目的で, 検討を行った. 対象は, 北里大学病院神経内科に脳卒中で急性期に入院し生存退院した604例のうち, 日常生活に介護が必要と回答した在宅脳卒中患者167例 (平均年齢71.6±9.9歳) とその主たる介護者150例 (平均年齢61.0±12.3歳) である. 郵送によるアンケートによって介護者について, 患者との続柄, 年齢, 職の有無, 1日の介護時間, 家族の支えの有無を尋ね, 患者については, 退院時の移動能力, 退院後の機能状態の変化, 退院後再発作の有無, 調査時の日常生活活動 (ADL), 公的介護保険の要介護度を調査した. HRQOLの評価は, アンケートに同封した日本語版 EuroQol 開発委員会による調査票の回答をQOL効用値に換算して行った. 介護者のQOL効用値の平均0.82±0.18は, 患者の平均0.57±0.20より統計学的に有意に高値を示した (P<0.001). 前述の調査項目毎に介護者のQOL効用値の比較を行った結果, 介護者側の要因としては年齢, 介護時間, 続柄, 家族の支えの4項目, 患者側では, 記憶, 身の回りの管理, 普段の活動, 痛み/不快感, 不安/ふさぎ込みの5項目に有意差がみられた. さらに, これら9項目を説明変数, 介護者のQOL効用値を目的変数とする重回帰分析では, 介護者の年齢 (P<0.01) と家族の支え (P<0.05), 患者の不安/ふさぎ込み (P<0.05), 痛み/不快感 (P<0.05), 記憶 (P<0.05) の5項目が介護者のQOL効用値に影響を及ぼす要因として抽出された (R2=0.20). また, EuroQol の項目毎に患者と介護者の効用値の相関関係をみたところ, 不安/ふさぎ込みと痛み/不快感で両者の間に有意な相関が認められた (いずれもP<0.001). これらの結果から介護者のQOL向上のためには, 患者の精神状態の改善と介護者に対する家族の協力が重要であることが示唆された.
  • 家族構成, 身体状況ならびに生活機能との関連
    長谷川 明弘, 藤原 佳典, 星 旦二, 新開 省二
    2003 年 40 巻 4 号 p. 390-396
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は高齢者における「生きがい」の有無と家族構成や生活機能ならびに身体状況との関連について, 農村地域と大都市近郊ニュータウン地域において比較検討することである. また「生きがい」の存在を規定する関連要因を明確にすることにより, 今後「生きがい」の構造を検討する際の基礎研究に位置づけようとするものである.「生きがい」という言葉は日本独特の意味を持っており, 専門家間での一致した定義づけは必ずしもなされていない. あえて英語に訳すならば, self-actualization (自己実現) や meaning of life (人生の意味), purpose in life (人生の目的) となる. 本研究では「生きがい」を「今ここに生きているという実感, 生きていく動機となる個人の意識」と定義して議論を展開した.
    対象は農村地域として2000年10月現在, 新潟県Y町に居住している65歳以上の住民で回答が得られた1,544名であり, 大都市近郊ニュータウン地域として2001年1月現在, 埼玉県H町ニュータウン区域に居住している65歳以上の住民で回答が得られた1,002名であった.
    農村地域と大都市近郊地域の間で「生きがいあり」の割合に有意差を認めなかった.「生きがい」の関連要因として, 両地域共に健康度自己評価, 知的能動性ならびに社会的役割が示された. 農村地域では家族構成が強い関連を認め, 性別や世代によって関連の強さが異なった. また大都市近郊ニュータウン地域では男性において入院経験の有無が「生きがい」の有無との間に強い関連があり, 世代によって正負の関連が変動した.「生きがい」を構成する内容についてはあまり検討されていない中, 今後は共分散構造分析を用いて「生きがい」の構造を明確することが望まれる. 更には, 自治体における「生きがい」推進事業を展開する上で具体的方策が開発されることが期待される.
  • 光永 眞人, 宮内 直子, 秋山 由里香, 斉間 恵樹
    2003 年 40 巻 4 号 p. 397-401
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    免疫低下状態に伴う糞線虫症の重症化については以前よりその流行地を中心に報告されている. 我々は, ネフローゼ状態を呈した高齢男性に対して副腎皮質ホルモンを投与中に糞線虫症が顕在化した症例を経験した. 症例は生来健康な75歳男性. 鹿児島県徳之島在住. 平成12年11月頃より労作時の呼吸困難および下腿浮腫が出現し, 急速進行性糸球体腎炎を疑われ平成13年1月に紹介入院となった. 生化学検査にて腎機能は正常であったが, 中等度の顕微鏡的血尿および1日3g以上の尿蛋白を認めた. 高齢で著しい脊柱後弯があり, 腎生検の実施が困難と予想されたため, 禁忌疾患を否定のうえでネフローゼ状態に対して, プレドニゾロン1日30mgの投与を診断的治療として開始した. 明らかな臨床症状の変化はみられずに経過したが, 投与開始後21日目の喀痰および便の鏡検にて多数の糞線虫が認められた. 副腎皮質ホルモン投与により惹起された重症糞線虫症と診断し, イベルメクチンが投与された. 投与後5日目に虫体は消失し, その後の経過で尿所見異常は改善傾向を示した. 本症例では糞線虫症が尿所見異常の原因と関連する可能性が考えられた.
  • 青木 昭子, 佐藤 貴子, 五十嵐 俊久
    2003 年 40 巻 4 号 p. 402-403
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 2003 年 40 巻 4 号 p. 404-408
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 2003 年 40 巻 4 号 p. 409-414
    発行日: 2003/07/25
    公開日: 2011/02/24
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