日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
44 巻, 6 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
第49回日本老年医学会学術集会記録〈特別講演〉
第49回日本老年医学会学術集会記録〈シンポジウムI:循環器疾患の老年医学〉
第49回日本老年医学会学術集会記録〈ジャーナリスト企画セッション〉
原著
  • 杉浦 圭子, 伊藤 美樹子, 三上 洋
    2007 年 44 巻 6 号 p. 717-725
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/16
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は在宅認知症高齢者の問題行動に由来する特有の介護者負担に着目し,従来の介護負担感尺度とは異なる視点から新たに介護負担感(Caregiver's Burden caused by Behavioral and psychological symptoms of Dementia:CBBD,以下CBBDと略す)を評価する項目を作成し,高齢者の介護者全般を対象にした大規模サンプルを用いて測定した上で,CBBDの特性を統計学的に明らかにすることを目的とした.方法:大阪府東大阪市の介護保険サービス利用者から層別無作為抽出した5,000人に対し,H15年10月に郵送による無記名自記式質問紙調査を行った.得られた回答から介護者不在等を除外し,1,818人の介護者を分析対象とした.調査項目は,介護者·要介護者の基本属性,過去の調査や先行研究を元に作成したCBBD 10項目,要介護者の認知障害の有無,全般的介護負担感であった.結果:CBBDは全項目において要介護者に認知障害がある方が有意に選択されていた.特に予想不可で怖い·不安,介護者の言うことを理解しない,理解不能でイライラというような介護者に心理的な緊張や圧迫を与えるような負担のリスクは高かった.認知症の症状とCBBDの関係をみるとCBBDは全項目にて認知症高齢者の興奮·妄想的行動と強い関連がみられた.その他の症状については夜何回も起きる,常時監視の必要性,不潔に嫌悪感は要介護者の記憶障害と,近所に迷惑,非難拒否がつらい,予想不可で怖い·不安という負担は認知症高齢者の見当識障害と強い関連がみられた.さらに,家事が増えた,不潔に嫌悪感がするという負担は認知症高齢者の異食行動と強い関連が確認された.結論:CBBDは要介護者の認知障害に対する感度が高く,問題行動に由来する介護者の心理的な緊張や圧迫などの負担をより詳細に表現することができるため,介護者に対する援助の際の支援ニーズの把握に利用可能であると考えられる.
  • 渋谷 孝裕
    2007 年 44 巻 6 号 p. 726-733
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/16
    ジャーナル フリー
    目的:地域高齢者において,1日平均歩数が健康づくり指標として活用できるか明らかにすることを目的とした.方法:大都市近郊に在住し老人福祉センターを利用している60歳から89歳の高齢者339人(男性96人,女性243人)を対象に,身体測定(1日平均歩数,通常歩行速度,Timed Up & Go test,握力,全身筋肉量,骨密度)と心理的,身体的,日常生活因子に関する自記式質問紙調査を行い,1日平均歩数の特徴と健康日本21の目標値によって区分した2群と関連する因子の解析を行った.結果:1日平均歩数の平均値は男性8,075歩,女性7,902歩であった.男性の41.7%,女性の28.8%は健康日本21の目標値未満であった.1日平均歩数は男女とも加齢と共に減少し,通常歩行速度,Timed Up & Goと相関を認めた.健康日本21の目標値で区分した場合,目標値未満群に関連する因子は,間欠性跛行の自覚症状がある,転倒不安感があるであった.目標値以上群には散歩をほぼ毎日する,健康維持のためいつも体を動かしているが関連した.結論:高齢期における1日平均歩数は歩行速度や歩行バランスなどの歩行能力と関連しており,特に定期的な散歩習慣は歩数の多さに寄与していた.高齢期の健康づくりに歩数を用いて指導することは有用であると結論づけられる.
  • 伊賀瀬 道也, 中村 俊平, 越智 雅之, 小原 克彦, 永井 康徳, 三木 哲郎
    2007 年 44 巻 6 号 p. 734-739
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/16
    ジャーナル フリー
    目的:これまで末期癌患者のケアは病院で行われてきたが,近年これにかわるものとして在宅診療に焦点が当てられている.今回我々は,病院から在宅診療へのスムーズな移行に影響を与える重要な因子は何かを検討した.方法:在宅医療専門診療所「ゆうの森たんぽぽクリニック」のスタッフが訪問診療に携わった連続66例の末期癌患者データを検討した.検討項目は以下の通りである.1)全身状態,2)家族での介護者の内訳,3)介護保険申請率,4)退院カンファレンスを行った症例の割合,5)死亡時間,6)訪問診療開始後1週間および最後の一週間あたりの訪問診療回数.結果:66症例の平均年齢は71.1±2.0歳(男性58%)であった.1)初診時認知症が30%,中心静脈栄養管理症例が23%,持続的酸素吸入は45%であった.排泄も70%で何らかの介助を必要とした.2)主介護者は7割が女性であり介護に携われる人数は一家庭あたり平均2.0人であった.3)50%もの症例で介護保険を申請されていなかった.4)紹介元病院とクリニックとの間の退院前カンファレンスは21%でしか行われていなかった.5)自宅で死亡した43例の死亡時刻は通常勤務帯(8:00∼18:00)以外が70%を占めていた.6)平均在宅医療機関は62.5日であったが在宅医療開始後2週間で10%を越える患者が離脱(死亡あるいは病状悪化による再入院)していた.離脱前1週間の訪問診察回数は,在宅医療開始1週間と比べて有意に増加していた.(5.0±0.2 VS. 3.9±0.2,P<0.01)訪問看護の頻度も同様に増加しており(3.2±0.2 VS. 2.4±0.2,P<0.01)両者をあわせると離脱前一週間は1日一回以上の訪問診療が必要であった.結論:1.末期癌患者の在宅医療を入院でのケアと同様に行うためには,24時間対応の在宅医療専門診療所が必要である.2.家庭で家族とゆとりある時間を持つためには早期の在宅診療への移行が必要である.このためには在宅医療への調整を目的とした在宅医療専門診療所と紹介元病院との間の退院前カンファレンスが最も重要である.これに加えて患者および家族が入院中に介護保険を申請する必要があり医療スタッフが情報提供および援助をすべきである.
  • 秋山 明子, 沼田 久美子, 三上 洋
    2007 年 44 巻 6 号 p. 740-746
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/16
    ジャーナル フリー
    目的:社会の要請となりつつある高齢者の在宅での看取りを実現する要因を検討する.方法:現時点で80%の在宅死亡率を達成している在宅医療専門機関の遺族(以下,介護者とする)326人を対象に無記名自記式質問紙の郵送による調査を行った.療養者と介護者の基本的背景や介護者の不安などと在宅死との関係,介護者の在宅療養の評価などと在宅療養や看取りにおける満足や悔いとの関係を検討した.結果:療養者と介護者双方の在宅死希望が在宅死に強く影響していた(OR=19.42).在宅療養の満足,看取り時の満足,看取り時の悔いを目的変数とした重回帰分析の決定係数(R2)はそれぞれ0.68,0.55,0.62であり,療養者の安らかな死,介護者の精神的安定,医師との信頼関係,サービス体制の充実が有意に影響していた.結論:在宅での看取り実現において重要な要素となる在宅療養や看取りにおける満足の構成要因は,1)療養者の安らかな死,2)介護者の精神的安定,3)医師との信頼関係,4)サービス体制の充実である.
症例報告
  • 永井 勅久, 伊賀瀬 道也, 越智 雅之, 永井 彩子, 高田 清式, 小原 克彦, 三木 哲郎
    2007 年 44 巻 6 号 p. 747-751
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.1990年に左腎細胞癌の診断にて左腎摘出術を施行された.その際遠隔転移は見られず,以後経過観察されていた.2005年6月下旬,右腋窩に腫瘤を自覚し,7月4日精査のため当科に入院した.入院時右腋窩に小鶏卵大,弾性硬の腫瘤を触知し,エコーでは26×24mm,辺縁平滑で血管に富む腫瘤であった.血液検査上,腫瘍マーカーに大きな異常を認めなかった.胸部造影CTで同腫瘤は強い造影効果を認めた.腹部造影CTでは右腹直筋内および,膵鉤部にも造影される腫瘤を認めた.8月2日右腋窩腫瘤の切除生検を行った.組織所見が1990年に切除した左腎細胞癌と同様であったため,腎細胞癌の遠隔転移巣と診断した.全身状態良好であったため手術切除の適応と判断し,当院外科で膵および腹直筋の腫瘍核出術を施行した.切除病理標本はいずれも腎細胞癌由来の組織所見であった.その後の経過は良好であり,現在まで外来にて経過観察中である.本症例の経過は,根治術と考えられる腎細胞癌術後も長期にわたり全身の再発巣の有無を検索する必要性を示すものと考えられる.
  • 廣田 智子, 辻川 知之, 木藤 克之, 安藤 朗, 佐々木 雅也, 藤山 佳秀
    2007 年 44 巻 6 号 p. 752-755
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/16
    ジャーナル フリー
    86歳女性.突然の心窩部痛,背部痛が出現し,当科紹介された.初診時,心窩部に軽度の圧痛を認めたが,腹部超音波検査では胆石を認めるも壁肥厚なく,腹水も見られなかった.血液検査ではWBC 11,600/μLと上昇認めたが,CRPは陰性であった.翌日の上部消化管内視鏡検査では,十二指腸粘膜の浮腫状変化のみを認めた.その後悪寒を伴う発熱が出現し再度来院した.腹部症状の増悪はなかったがCRPは14.79mg/dlまで上昇し,腹部CT検査を施行したところ十二指腸下行脚周囲にfree airと膿瘍の形成を認め十二指腸穿孔と診断した.その後急速に症状悪化し,入院7時間後にはseptic shockを呈した.緊急開腹所見では十二指腸下行脚の憩室に穿孔を認め,ドレナージ術を施行した.術後は膵炎の合併もみられたが,術後58日で退院となった.十二指腸憩室は消化管憩室の中では二番目に多いが,合併症を伴うことは少なく,穿孔は最も稀な合併症とされている.確定診断には腹部CT検査が有用であるため,高齢者の診断困難な心窩部痛や背部痛では,症状が軽度でも本症を考慮して早期に腹部CTを施行すべきと考えられた.
  • 川上 明夫, 中江 吉希, 豊島 堅志, 今井 豊, 金子 英司, 下門 顕太郎
    2007 年 44 巻 6 号 p. 756-760
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は79歳女性.アルツハイマー型痴呆,パーキンソン病の診断にて治療中.7年前より,かかりつけ医にて2型糖尿病の診断にて経口血糖降下薬を処方されていた.2006年3月より,頻尿·多尿出現.4月3日に発熱を認め飲食が困難となり,4日朝嘔吐し当科を受診中に意識レベル低下(JCS II-30)を認め緊急入院となった.血液検査にて,血糖676mg/dl, Na 153mEq/l, HbA1c 9.7%,尿ケトン体陰性,動脈血pH 7.42であり,高血糖高浸透圧昏睡と診断された.生理食塩水による脱水·高Na血症の補正,速効型インスリンの持続静注により,第3病日までには意識障害の改善を認めた.その後も経口摂取が困難であったため経管栄養を行ったが,血糖コントロールに一日46単位のインスリンを要し,入院以前より血糖コントロールにインスリンが必要な状態だったと考えられた.高齢糖尿病患者でインスリンが必要な者の相当数が,何らかの理由でインスリン治療を受けていないと考えられ,その実態·対処法に関して議論が必要と考えられた.
  • 大田 秀隆, 山口 泰弘, 小島 太郎, 大池 裕美子, 江頭 正人, 秋下 雅弘, 大内 尉義
    2007 年 44 巻 6 号 p. 761-766
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/01/16
    ジャーナル フリー
    今回我々は,高齢女性においてGroup B streptococcus菌血症,皮下膿瘍および反応性多発関節炎を生じた一例を経験したので,文献的考察を加え報告する.症例は,基礎疾患として変形性膝関節症,心房細動のある77歳女性.両側変形性膝関節症に対して近医(整形外科)にてヒアルロン酸ナトリウムを関節内投与された.翌日より発熱し,両側膝痛増悪,左肩痛も出現,歩行困難となり当院来院し緊急入院となる.入院時,発熱,左肩および両膝の発赤,腫脹,疼痛及び著明な白血球数,血清CRP値の上昇を認めた.血液培養にてGroup B streptococcus陽性.CTでは,左肩および両膝の疼痛部位に液体貯留を認めた.Group B streptococcusによる化膿性関節炎を疑い,関節穿刺をおこなうも関節液はやや混濁しているものの細菌培養検査は陰性であった.抗菌薬静注による治療を開始したところ,緩余に炎症所見低下するも完全には陰性化せず,左膝の膿瘍は悪化したため外科的ドレナージを施行,術中の関節造影では膿瘍と関節腔との交通は認めなかった.したがって,皮下膿瘍がprimary focusとなりGroup B streptococcus菌血症,反応性関節炎に至ったものと判断した.手術後,抗菌薬大量静注を継続し,症状軽快,炎症反応も陰性化した.
    反応性関節炎は感染生物と滑膜との免疫学的交差反応で生じるが,Group B streptococcusによる報告はほとんどない.Group B streptococcus感染症は,必ずしも妊娠とは関係なくとも感染症をおこす原因となり得て,糖尿病や脳血管障害など重篤な基礎疾患を持つ一般成人だけでなく,高齢者の感染症の原因としても重要であることが近年明らかとなってきており,注意が必要である.
速報
日本老年医学会地方会記録
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