日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
44 巻, 5 号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
第49回日本老年医学会学術集会記録〈会長講演〉
第49回日本老年医学会学術集会記録〈特別講演〉
第49回日本老年医学会学術集会記録〈Meet the Expert〉
第48回日本老年医学会学術集会記録〈シンポジウムII:認知症の早期発見と治療〉
原著
  • 磯部 秀樹, 高須 直樹, 水谷 雅臣, 木村 理
    2007 年 44 巻 5 号 p. 599-605
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/30
    ジャーナル フリー
    目的:がん罹患率のなかで大腸癌が増加しているが,高齢者に対する手術や化学療法も増加してきている.高齢者に対する外科治療の問題点を明らかにすべく,近年の高齢者大腸癌の特徴を調べた.方法:1990年から2004年までの15年間に手術を施行した80歳以上の高齢者大腸癌67例(男性38例,女性29例)について,70歳∼74歳の大腸癌症例130例を対照とし,臨床病理学的特徴,手術術式,術前の併存基礎疾患,術後合併症,化学療法,術後生存率に関して検討した.結果:大腸癌の進行度としては80歳以上群でDukes Bが多く,70∼74歳群でDukes Aが多かった.結腸癌では2群間に手術術式による差はなかったが,直腸癌においては,80歳以上群にハルトマン手術と経肛門的局所切除が多かった.リンパ節郭清では結腸癌においては有意差をみとめなかったが,80歳以上群の直腸癌において郭清度が低く,直腸癌において2群間に有意差を認めた.根治度には有意差はなかった.術前併存基礎疾患は80歳以上群で76%に認められ,循環器疾患が多く,次いで呼吸器疾患,脳梗塞後遺症,老人性認知症が続いた.80歳以上の51%に術後合併症が認められ,70∼74歳群と比べ術後せん妄が多かったが他の合併症に差はなかった.80歳以上群に術死は認めなかった.結論:高齢者においても全身状態に応じた手術を行うことにより,合併症の発症を抑えQOLを損なうことなく安全な手術を行うことができると考えられた.
  • 平川 仁尚, 益田 雄一郎, 葛谷 雅文, 井口 昭久, 植村 和正
    2007 年 44 巻 5 号 p. 606-610
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/30
    ジャーナル フリー
    背景:高齢社会を迎え,認知症を患う高齢患者が増加している.米国では,急性心筋梗塞において認知症患者は認知機能が正常である患者と比較して医療行為が控えられる傾向がある上,認知機能が正常である者に比べて死亡率も高いとの報告がある.しかし,わが国において認知症と急性心筋梗塞の管理および予後との関係を明らかにした先行研究はない.そこで,本研究は認知症の診断が急性心筋梗塞の管理および院内死亡率に与える影響を明らかにすることを目的に実施された.方法:TAMISは,1995年1月から1997年12月までの間に東海地区の13の急性期病院に急性心筋梗塞の診断で入院した全患者2,020人を対象とした多施設後ろ向き研究である.患者の特徴·入院中の治療·臨床経過に関するデータの収集は,医師もしくはデータ収集について一定期間のトレーニングを受けた看護師らがカルテの閲覧を行うことにより行われた.認知症の診断については医師記録もしくは看護師記録に明記されている場合に「認知症あり」とした.TAMISに登録された2,020人のうち,65歳以上の患者全員を解析対象とした.対象者を認知症の有無により2群に分け,一般的特徴·入院中の管理·臨床経過を比較検討した.結果:解析対象は,全体で1,052人(認知症22人,認知症なし1,030人)となった.認知症患者は,認知症がない患者と比べて,高齢で,日常生活機能の障害が多く,やせであった.また,認知症患者は,認知機能正常患者と比べて,狭心症の既往が少なく,脳血管障害の既往が多かった.喫煙歴は認知症患者で少なかった.臨床経過,梗塞の部位,CPK最高値には両群で差がみられなかった.血栓溶解療法やPCIなど急性心筋梗塞の管理において,実施率に両群間に差がみられなかった.また,認知症患者において院内死亡率高い傾向がみられたが,調整前後において両群間に統計学的な有意差はみられなかった.結論:カルテから推察できた認知症は,高齢急性心筋梗塞患者の管理および院内死亡に影響を与えていなかった.
  • 河野 直子, 梅垣 宏行, 茂木 七香, 山本 さやか, 鈴木 裕介, 井口 昭久
    2007 年 44 巻 5 号 p. 611-618
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/30
    ジャーナル フリー
    目的:日本において,精神科,神経内科による「もの忘れ外来」の報告は多数あるが,老年科による「もの忘れ外来」に関する報告は多いといえない.本調査は,当院当科の「外来もの忘れ検査」枠の利用現状を記述し,先行報告と比較考察することを目的とする.方法:名古屋大学医学部附属病院老年科「外来もの忘れ検査」枠の診療録及び検査記録を,後ろ向きに検討した.2000年1月から2006年6月末までを診療統計算出の対象期間とした.さらに,2004年1月から2006年6月までに当院当科の外来もの忘れ検査枠を初回利用した232名のうち,検査結果などの研究利用について合意が得られ,かつ調査対象項目値に欠損がなかった223名について詳細に分析した.結果:期間中の延べ利用者数は778名,利用者総数は577名であった.利用者の基本特性は,平均年齢74.5±8.3歳,MMSE得点23.8±4.7点,教育歴年数10.7±2.9年であった.最新2年6カ月間の受診者を対象とした詳細分析の結果,利用者の疾患構成は,健常8.1%,アルツハイマー病45.3%,脳血管病変によるもの5.4%,混合型2.2%,前頭側頭型3.1%,Mild Cognitive Impairment 15.7%などであった.結論:当院当科「外来もの忘れ検査」枠の利用者特性として,他施設の報告と比べて高学歴の,認知症前臨床層を含めた軽症例による利用が多い傾向が確認された.現状が総括され,今後の課題が論じられた.
  • 鈴木 直子, 牧上 久仁子, 後藤 あや, 横川 博英, 安村 誠司
    2007 年 44 巻 5 号 p. 619-626
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/30
    ジャーナル フリー
    目的:これまで日本では高齢者のIADL(instrumental activities of daily living)の評価に,日常生活課題の「能力」を評価する老研式活動能力指標の手段的自立が汎用されてきた.しかし改正介護保険制度で用いられる基本チェックリストでは,老研式活動能力指標と同様の日常生活課題について「実行状況」を評価している.本研究ではIADLの「能力」と「実行状況」を比較し,「実行状況」による評価の意義を検討することを目的とした.方法:地域在住高齢者を対象に,面接による聞き取り調査を行った.IADLの「能力」は「バスや電車で外出」,「日用品の買物」,「食事の用意」,「請求書の支払い」,「預貯金の出し入れ」が「できるかどうか」をたずねた(老研式活動能力指標の下位尺度).「実行状況」は上記と同じ生活課題を「しているかどうか」をたずねた(「バスや電車で外出」,「日用品の買物」,「預貯金の出し入れ」が基本チェックリストに含まれている).これらの「能力」と「実行状況」の回答から,対象者をIADLの良好群(3項目すべてできる·している),境界群(すべてできるが,少なくとも1項目していない),不良群(少なくとも1項目できない)の3群に分類し分析を行った.結果:IADL 5項目のうち男性は「食事の用意」,女性は「請求書の支払い」で「できるがしていない」と答え,「実行状況」と「能力」に乖離がみられる者が多かった.IADLが境界群であった者は男12.5%,女13.4%であった.また,良好群,境界群,不良群の順に身体,社会,心理面が悪化する傾向が見られた.結論:境界群は高齢者の生活機能低下の早期の段階であると考えられる.基本チェックリストは「実行状況」をたずねることにより,「能力」ではスクリーニングできない境界群を抽出することが可能であり,介護予防を進めていく上で意義があると考えられた.
  • 三浦 宏子, 苅安 誠
    2007 年 44 巻 5 号 p. 627-633
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/30
    ジャーナル フリー
    目的:虚弱高齢者の服薬状況についての報告は少なく,嚥下機能の低下と服薬との直接な関連性については十分に明らかになっていない.そこで,本研究では,虚弱高齢者に対して服薬模擬調査を行い,大きさの異なる各錠剤の服用時において,嚥下機能の低下が服薬行動に与える影響を調べた.併せて,錠剤サイズと取り扱い作業時間との関連性についても調べた.方法:被験者は,虚弱高齢者73名である.この被験者に対して,ADL20を用いた日常生活機能評価,反復唾液嚥下テスト(RSST)を用いた嚥下機能評価,ならびに服薬模擬場面を設定した実地調査を実施した.実地調査においては,直径が異なる5種のサンプル錠(6mm,7mm,8mm,9mm,10mm)を用いて,錠剤を口に含む手前までの動作を被験者にしてもらい,その際の飲み込みやすさと取り扱い性について主観的評価を行うとともに,取り扱い作業時間を計測した.結果:嚥下機能低下群と正常群において,各錠剤サイズ3錠のサンプル錠を用いて,服薬動作の比較を行ったところ,10mm以外の錠剤サイズにおいて,嚥下機能と服薬分割回数の間に有意な関連性が認められ(p<0.05),低下群では錠剤を複数回に分けて服用する傾向がみられた.また,すべての錠剤サイズにおいて,ADLと模擬動作における錠剤の取り扱いに要した時間との間に有意な関連性が認められた(p<0.01).次に,飲み込みやすさと取り扱い性の両者を考慮して,最も処方薬として至適であると感じた錠剤サイズとして7mmを選択した者が30.1%,8mmを選択した者が28.8%であった.また,最も好ましくないと感じた錠剤サイズとして,10mmを選択した者が61.6%,6mmを選択した者が28.8%であった.結論:虚弱高齢者の嚥下機能とADLの低下は,服薬行動と密接な関連性を示した.また,虚弱高齢者の服薬に適した錠剤サイズは7∼8mmであることが示唆された.
  • 奥野 純子, 戸村 成男, 柳 久子
    2007 年 44 巻 5 号 p. 634-640
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/30
    ジャーナル フリー
    目的:虚弱高齢者は,下肢機能の低下が特徴的で,介護を要する疾患として転倒·骨折が多い.血清ビタミンD濃度は筋力低下や転倒と関連があると報告されているが,日本における虚弱高齢者の血清ビタミンD濃度の分布状況やビタミンD濃度と生活機能,身体機能との関連についてはほとんど知られていない.そこで,虚弱高齢者を対象に血清ビタミンD濃度として血清25-hydroxyvitamin D[以下25(OH)D]を用い,その分布状況と,25(OH)D濃度と生活機能や身体機能との関連を検討することを目的とした.方法:平成17年6月から平成18年9月までに,介護予防教室に参加した茨城県八千代町(北緯36度)に在住の65歳以上の虚弱高齢者76名を対象とした横断研究である.対象者には質問紙による面接調査と体力測定,血液検査を行った.25(OH)D濃度が50nmol/L以上と未満で生活機能·身体機能等を比較検討した.結果:52.6%は転倒を経験,75.0%はふらつき·つまずきを経験しており,約20%が閉じこもり高齢者であった.平均25(OH)D(±SD)は60.4±13.6nmol/Lで,25(OH)D<50.0nmol/Lの者は約21%おり,25(OH)D≥50.0nmol/Lに比し,「歩く時支えが必要な者」,「過去1年間につまずき·ふらつきがよくある者」,「外出回数が週1回未満の者」の割合が有意に高かった.また,多重ロジスティック回帰分析より,「つまずき·ふらつき」の危険因子は,25(OH)D<50nmol/L(OR:4.41, 95%CI:CI 1.31∼14.86)であった.結論:虚弱高齢者の25(OH)D<50nmol/Lの者は,バランス能力·歩行能力の低下と関連があり,50nmol/L以上は必要であることが示唆された.今後,効率的な介護予防を実施するに当たり,25OHD濃度の把握は重要である.
  • 阿部 庸子, 藍 真澄, 金子 美智子, 佐原 まち子, 長野 宏一朗, 下門 顕太郎
    2007 年 44 巻 5 号 p. 641-647
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/30
    ジャーナル フリー
    目的:大学病院を含む特定機能病院では社会的入院がもたらす医療資源の損失は非常に大きいが,退院後も効果的な医療を患者が受けられることが必要不可欠である.そのため,大学病院における高齢入院患者の早期退院を阻害する要因を明らかにし,今後の政策面·各現場での改善策の検討を目的とした.方法:平成15年度に全大学病院に退院支援の現状に関するアンケート調査を実施.5大項目(家族·心理的側面·身体·医療処置·環境)に分類した34小項目の質問に対する回答の定量的評価を行い全国の共通傾向や地域差に関する検討を行うとともに,自由記述欄の回答をグラウンデッド·セオリーに則りカテゴリー化し,各病院から寄せられた意見を更に抽出し検討した.結果:アンケートの最終回収率は73.6%(全大学病院125カ所中回答92件).全国共通の阻害要因に「家族」「心理的側面」「身体」が挙げられ,特に「家族」で高スコアであった.逆に地域差が認められた要因は「医療処置」「環境」であり,関東で「医療処置」が高スコア,北海道·東北では低スコアであった.また九州·沖縄の「環境」が特に低スコアであった.同時期の厚生統計では,関東の65歳以上人口10万対病床数が他地方に比べ少なかった.自由記述欄の回答から,「政策的な問題」と「連携の問題」が浮上し,更に「政策的な問題」は[医療費抑制の是非][医療格差][連携の機能不全][その他]に四分類され,「連携の問題」は[チーム医療][院外との医療連携]に二分類された.結論:国家規模では医療制度と国民の間の乖離や,医療現場での福祉業務が機能不十分である面が抽出された.また全国共通的な傾向や地域差のある要因を捉えることで現在退院を阻害している背景を検討することが出来た.国は現状のモニタリングと同時に医療に関する国民の認識を向上するための啓発活動等が必要である.
症例報告
  • 石井 正紀, 矢可部 満隆, 寺本 信嗣, 大池 裕美子, 小川 純人, 飯島 勝矢, 江頭 正人, 山本 寛, 花岡 陽子, 山口 泰弘, ...
    2007 年 44 巻 5 号 p. 648-652
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/30
    ジャーナル フリー
    今回我々は,経皮内視鏡的空腸瘻造設術(PEJ)による栄養療法を継続中に小腸重積を発症した超高齢者の一例を経験したので,虚弱高齢者の栄養療法選択の問題点についても考察を加え,報告する.症例は94歳女性.食道裂孔ヘルニア,非結核性抗酸菌症(NTM),骨粗鬆症等を基礎疾患として,誤嚥性肺炎を繰り返し,在宅医療を受けていた.2006年1月,肺炎およびNTM悪化にて当科入院し,抗菌薬,抗結核薬の投与にて症状は改善したが,低栄養による再燃を予防するため,経管栄養が必要と判断した.その際,嚥下障害,胃食道逆流,座位困難などを考慮して,経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)ではなく,PEJを施行し,在宅復帰となった.同年8月,嘔吐,発熱が出現し,誤嚥性肺炎の診断にて当科入院.肺炎は軽快したが,同年9月,水様性下痢,下腹部痛,嘔吐出現し,腹部造影CTおよび消化管造影にてPEJによる小腸重積と診断した.しかし,腸管は完全閉塞ではなかったため手術は行わず,イレウス管および胃瘻造設部からの陰圧持続吸引にて経過観察し,消化管造影にて通過障害は改善し,その後も大きな合併症なく順調に経過し,他院に転院となった.成人の腸重積は,悪性腫瘍が原因となることが多いが,本症例はPEJチューブが原因と考えられた.その機序は必ずしも明らかではないが,PEJチューブは,小腸遠位に留置され,管の動きの自由度が制限されることによる腸管のバルーンより口側への手繰りこみ現象や腸管の痙性収縮などの機序が推定される.さらに超高齢者では,小腸蠕動運動が一層低下していたことが悪化要因であった可能性が考えられる.PEJは,誤嚥予防策としても期待される経管栄養法であるが,腸管蠕動の低下した高齢者では,腸重積等の合併症もあり得るので,よく適応を吟味する必要がある.また,PEJ留置後の合併症に配慮したきめの細かい対応が必要であると考えられた.
Letters to the Editor
日本老年医学会地方会記録
feedback
Top