目的:一般生活者における,自身の介護の要望に関する事前の意思決定と意思表示の実態を明らかにし,要介護状態をもたらす要因の一つである認知症に対する意識との関連性について検討した.
方法:一般生活者パネル登録者から抽出した2,500名を対象に,自記式質問票を用いて横断研究を実施した.質問票では,基本属性のほか,認知症に対する意識(不安及び知識),自身の介護の要望についての意思決定及び意思表示の有無を尋ね,統計学的に解析した.
結果:解析対象者2,161名において,自身が介護を要する状態になった時に,介護の要望に関して意思決定がなされている,あるいは,考えたことがある者は,併せて全体の44.6%であった.さらに,自身の要望について既に意思決定がなされている274名において,その要望を,家族等に表明している者の割合は39.5%であった.特に,若年層ほど,介護の要望に関する意思決定及び意思表示の割合が低かった.また,認知症への不安が高いほど,あるいは,認知症に関する知識が高いほど,自身の介護について何らかの要望を有している傾向が認められた.一方,そうした要望を家族等に意思表示することについては,認知症に対する意識(不安·知識)との有意な関連性を示さなかった.
結論:わが国の一般生活者において,自身の介護に関する要望についての事前の意思決定や意思表示は,積極的に実行されていないという実態が明らかになった.また,介護に関する要望を事前に意思決定するにあたっては,認知症等の介護に対する意識の高さが動機付けとなっている可能性が示唆される.しかし,自身の要望を周囲に表明するにあたっては,新たな動機付けが必要であると推測される.個人の意思を尊重した介護の実現に向けて,今後,介護に関する事前の意思決定·意思表示のあり方とその促進に有用な手段及び支援体制について,検討を深めていく必要がある.
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