日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
45 巻, 6 号
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第50回日本老年医学会学術集会記録〈日本老年医学会設立50周年記念式典・記念講演:日本老年医学会の過去・現在・未来〉
第50回日本老年医学会学術集会記録〈Meet the Expert II:老年者診療に関する最近の話題〉
第50回日本老年医学会学術集会記録〈Meet the Expert III:高齢者の診療ガイドライン〉
第50回日本老年医学会学術集会記録〈パネルディスカッションII:高齢者の終末期医療―病院外での高齢者ターミナルケアのあり方を探る〉
第50回日本老年医学会学術集会記録〈イブニングセミナー:老年期における認知症のトピックス〉
  • 園原 和樹, 鳥羽 研二, 中居 龍平, 小林 義雄, 守屋 祐貴子, 長谷川 浩, 神崎 恒一, 松田 博史
    2008 年 45 巻 6 号 p. 615-621
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/29
    ジャーナル フリー
    目的:認知症高齢者の日常生活機能に関する意欲の変化に呼応する脳血流変化を脳血流SPECT検査を用い画像統計解析し,脳内における生活意欲関連領域を特定する.方法:対象は杏林大学病院もの忘れセンターを受診した患者で,うつ状態と前頭側頭型認知症の症例を除外し,抗うつ薬,向精神薬,漢方薬,抗認知症薬,脳循環代謝改善薬の服用をしていない患者123名(男性39名,女性84名,77.7±6.7歳)である.意欲を評価するためにVitality Index(以下VI)を行い,併せて99mTc-ECDによる脳血流SPECT検査を施行した.結果:(1)総合的機能評価ではVI 9.0±1.3点と軽度の意欲低下を認めた.またMMSE 22.1±5.1点と軽度の認知機能の低下を認めた.(2)Statistical Parametric Mapping(SPM)を用いた意欲低下と脳血流変化(相対値)に関する解析では,意欲の低下と関連を認めた領域は両側の横側頭回,上側頭回,中側頭回,レンズ核と,右側の眼窩回,内前頭回,下前頭回,前部帯状回,帯状回,尾状核頭および左側の視床,尾状核であった.(3)Three-dimensional stereotaxic ROI template(3DSRT)を用いた意欲低下と脳血流変化(絶対値)に関する解析では,意欲の低下と関連した脳血流低下領域は両側の前部帯状回,眼窩回,直回,上側頭回,横側頭回,海馬傍回,尾状核頭,視床下部と,左側の中側頭回,梁下野,扁桃体,視床,右側の帯状回であった.この中で眼窩回は,もっとも関連が強かった.結論:相対値及び絶対値の検討から,意欲の低下を来す脳血流変化として,眼窩回を中心とする前頭葉が重要であるが,大脳辺縁系や白質の血流障害が関連する可能性が示唆された.
原著
  • 佐々木 恵, 新井 明日奈, 荒井 由美子
    2008 年 45 巻 6 号 p. 622-626
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/29
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は,訪問看護師を対象とした調査により,要介護高齢者の死亡場所に関する要介護高齢者本人あるいは家族からの希望と実際との関連について検討することを目的とした.方法:本研究は2年間の縦断研究により行われた.Time 1において,398名の要介護高齢者が家族介護者と同居していた.Time 2(2年後)では,これら398名の要介護高齢者に関する調査に対して,訪問看護師が回答した.要介護高齢者の死亡場所について,要介護高齢者あるいは家族が希望する死亡場所と実際の死亡場所との関連を検討した.結果:398名の要介護高齢者のうち,追跡調査期間内に死亡した者は105名(26.4%)であった.要介護高齢者本人の6割,家族の約4割について,要介護高齢者の死亡場所に関する意向を訪問看護師が把握していなかった.要介護高齢者の死亡場所について,要介護高齢者本人あるいは家族の意向を訪問看護師が把握していた場合には,要介護高齢者の実際の死亡場所が意向どおりになる割合が高かった.結論:要介護高齢者本人や家族の意向に沿った最期の迎え方を実現させるためには,死亡場所に関する要介護高齢者本人および家族の意向を,訪問看護師が的確に把握することが必要である.
  • 大野 洋美, 須藤 元喜, 小山 貴夫, 矢田 幸博, 土屋 秀一
    2008 年 45 巻 6 号 p. 627-633
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/29
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者の静的および動的姿勢制御の特性を明らかにするために,高齢者と若年者の安静立位時·動作時·動作後静止立位時の重心動揺を測定し比較検討を行った.今回は動的平衡能力を測定する際の動作として,排泄時の衣服の着脱動作に着目し,パンツ型オムツはき上げ動作時の重心動揺の比較を行った.その際はきやすさを調節したオムツを使用し,動作負荷を変化させたときの姿勢制御特性の調査を行った.方法:評価サンプルには,はきやすさを調整するために,お腹周り全体の収縮率を低応力から高応力まで5段階に操作したパンツ型オムツを用意した.被験者には最初に,開眼および閉眼立位状態で重心動揺の測定を行い,その後,重心動揺プレート上でオムツおよび下着を装着し,動作時および動作後静止立位時の重心動揺を測定した.さらにその後,はきやすさに関する主観的評価を行った.結果:安静立位時の重心動揺は,開眼時·閉眼時ともに高齢者群の方が若年者群よりも大きくなる傾向が見られたが有意差は認められなかった.また,はき上げ動作時では,はきやすいオムツを履くときの重心動揺の大きさは両群で同等であるが,はきにくいオムツを履いた時に,高齢者群で揺れが顕著に増大した.さらに動作後の静止立位時においても,高齢者群でのみ,はきにくいオムツを履いた後に重心動揺の増大が継続するという現象がみられた.結論:静的姿勢制御能力が低下していない健常な高齢者においても,動作時には動作の負荷に相関して重心動揺が増加する,つまり動的姿勢制御が低下することが明らかになった.さらに高齢者では動的姿勢制御相がその後の静的姿勢制御能力にも影響を及ぼし,機能を低下させる可能性が示唆された.転倒防止の観点から,介護者は明らかな身体能力低下がみられない高齢者に対しても,動作時および動作後の動向に注意を向けることが必要だと考えられた.
  • 今中 俊爾
    2008 年 45 巻 6 号 p. 634-639
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/29
    ジャーナル フリー
    目的:日本の心房細動の疫学に関する報告は少ない.罹患率は,加齢によって増加するが,超高齢地域を対象に,高齢者心房細動の罹患率を検討した.方法:京都府北端に位置する超高齢町を対象とした.当診療所の診療圏内高齢化率は,39.9%である.65歳以上を対象に,平成18年3月から1年10カ月間に,診療所に受診歴のある外来患者(診療所患者群),老人保健法により健康診断を受けた住民(心電図により診断;健診群),およびインフルエンザ予防接種時に来院した住民(検脈により診断;検脈群)の3群を対象とし,心房細動罹患者を抽出した.結果:診療圏内65歳以上の81.2%(550名)をスクリーニングできた.心房細動患者は,診療所患者群419名から42名,健診群97名から2名および検脈群34名からは見つからなかった.計44名,罹病率8.0%であり,65歳以上住民数に対しては6.5%であった.年齢は65∼94歳,男性は36.4%,慢性心房細動は52.3%,であった.診療所患者群42名を対象に詳細に検討すると,非弁膜性心房細動は88.1%,高血圧は71.4%に認めた.一過性脳虚血発作を含む脳梗塞は8例,19.0%,無症候性心房細動は10例,23.8%であった.CHADS2スコアーは,3点以上に37.8%が分布した.抗凝固療法は23例,54.8%,抗不整脈療法は15例,35.7%に施行されていた.結論:超高齢地域の65歳以上高齢者心房細動の罹患率は8.0%と高率であり,脳梗塞などの高リスク群に属している.無症候性心房細動の存在を念頭におき,高齢者心房細動患者のADL,QOLを維持するために,適切な薬物療法を行うことは重要な課題である.
  • 新井 明日奈, 荒井 由美子
    2008 年 45 巻 6 号 p. 640-646
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/29
    ジャーナル フリー
    目的:一般生活者における,自身の介護の要望に関する事前の意思決定と意思表示の実態を明らかにし,要介護状態をもたらす要因の一つである認知症に対する意識との関連性について検討した.方法:一般生活者パネル登録者から抽出した2,500名を対象に,自記式質問票を用いて横断研究を実施した.質問票では,基本属性のほか,認知症に対する意識(不安及び知識),自身の介護の要望についての意思決定及び意思表示の有無を尋ね,統計学的に解析した.結果:解析対象者2,161名において,自身が介護を要する状態になった時に,介護の要望に関して意思決定がなされている,あるいは,考えたことがある者は,併せて全体の44.6%であった.さらに,自身の要望について既に意思決定がなされている274名において,その要望を,家族等に表明している者の割合は39.5%であった.特に,若年層ほど,介護の要望に関する意思決定及び意思表示の割合が低かった.また,認知症への不安が高いほど,あるいは,認知症に関する知識が高いほど,自身の介護について何らかの要望を有している傾向が認められた.一方,そうした要望を家族等に意思表示することについては,認知症に対する意識(不安·知識)との有意な関連性を示さなかった.結論:わが国の一般生活者において,自身の介護に関する要望についての事前の意思決定や意思表示は,積極的に実行されていないという実態が明らかになった.また,介護に関する要望を事前に意思決定するにあたっては,認知症等の介護に対する意識の高さが動機付けとなっている可能性が示唆される.しかし,自身の要望を周囲に表明するにあたっては,新たな動機付けが必要であると推測される.個人の意思を尊重した介護の実現に向けて,今後,介護に関する事前の意思決定·意思表示のあり方とその促進に有用な手段及び支援体制について,検討を深めていく必要がある.
  • 広田 千賀, 渡辺 美鈴, 谷本 芳美, 河野 令, 樋口 由美, 河野 公一
    2008 年 45 巻 6 号 p. 647-654
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/29
    ジャーナル フリー
    目的:Trail Making Test(以下TMT)は,欧米において遂行機能の指標として研究されてきた.しかし,日本においてTMTに関する研究は少ない.本研究では地域在住高齢者の健康づくり支援を目指して,TMTの特徴と身体機能との関連を明らかにし,TMTの有用性について検討することを目的とした.方法:大都市近郊T市に在住している65歳以上の高齢者175人(男57人,女118人)を対象とした.TMTと8項目の身体機能を測定した.身体機能は介護予防項目として通常歩行,Timed Up & Go test(以下TUG),開眼片足立ち,握力の4項目,移動·歩行機能項目として最大歩行,課題付加TUG,階段昇降,障害物歩行の4項目である.TMTの評価には⊿TMTを用い,身体機能との関連は性と年齢を共変量とした多項ロジスティック回帰分析を行った.結果:⊿TMTの中央値は男性58.61秒,女性65.67秒で,男女とも年齢群間に有意な差を認め,特に80歳以上が高値であった.性差は観察されなかった.身体計測項目と⊿TMTとの関連について,⊿TMTの不良なものはTUGと握力の成績が有意に低かった.移動·歩行機能項目では,⊿TMTの不良なものは,最大歩行,課題付加TUG,階段昇降,障害物歩行の成績が有意に低かった.また,最大歩行の「中間/高い」比較でも,⊿TMTの不良なものは有意に成績が低かった.結論:TMTはより認知の必要な複雑な歩行機能と関連したことから,高齢期の健康づくりにおける遂行機能の評価指標としての有用性が示唆される.
  • 森 聖二郎, 千葉 優子, 山本 精三, 細井 孝之, 堀内 敏行, 上宮 文, 田村 嘉章, 荒木 厚, 井藤 英喜
    2008 年 45 巻 6 号 p. 655-659
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/29
    ジャーナル フリー
    目的:オーダーメイド診療システムの確立を目指したパイロット的な取り組みとして「遺伝子情報を活用した骨粗鬆症診療システム」を開設した.方法:ビスフォスフォネート剤に活性型ビタミンD剤を併用することの可否ならびに有用性を,「トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)遺伝子のT869C多型(以下TGF-SNPと呼ぶ)を活性型ビタミンD剤に対する反応性の指標」に,「血清25水酸化ビタミンD(25OHD)値をビタミンD充足状況の指標」に用いてオーダーメイドで決定した.結果:エントリーされた112症例の初期データを解析したところ,脊椎骨折を有する例がTGF-SNPのCC型30例中6例であるのに対し,CT/TT型では82例中35例あり,CC型で骨折罹患率が有意(p=0.027)に低値を示した.TGF-SNPがCC型ではCT/TT型に比較して脊椎骨折罹患率が低いことは,D不足群(25OHD<22 ng/mL)でも充足群(25OHD≥22 ng/mL)でもともに認められた.また同じ遺伝子型であれば,D不足群が充足群に比較して骨折罹患率が高値であった.すなわち,D充足群でTGF-SNPがCC型の症例がもっとも脊椎骨折の罹患率が低く(脊椎骨折罹患率12%),一方,D不足群でCT/TT型ではもっとも罹患率が高かった(同50%).そして,D不足群でCC型(同31%)あるいはD充足群でCT/TT型(同38%)では,骨折罹患率は中間的な値であった.活性型ビタミンD剤が投与され1年以上経過を観察し得た44症例において,大腿骨頸部骨密度は,CC型では前値に対して平均101.6%と増加したが,CT/TT型では97.9%と減少した.すなわち,CC型がCT/TT型に比較して活性型ビタミンD剤に対する反応性が良好であることも確認された.結論:TGF-SNPと25OHDは,脊椎骨折罹患率に影響を及ぼす重要な因子であることが示された.さらに,これら2つの指標により,活性型ビタミンD剤の至適量を予測できる可能性が示唆された.
症例報告
  • 鳥羽 梓弓, 田村 嘉章, 筬島 裕子, 金原 嘉之, 佐藤 道子, 山賀 亮之介, 橋本 亮, 森 聖二郎, 宮腰 重三郎, 大田 雅嗣, ...
    2008 年 45 巻 6 号 p. 660-665
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/29
    ジャーナル フリー
    症例は76歳女性.体重減少と発熱を主訴に近医を受診し,腹部エコーにて両側副腎の腫大(左9×8 cm,右5×2 cm)を認め,精査目的に入院となった.不明熱の精査のために造影CTを施行したところ,両側副腎以外に鼻腔内にも腫瘍があり,Gaシンチで鼻腔と副腎の腫瘍に一致して異常集積を認めた.血液検査ではLDHとsIL-2Rが高値であった.鼻腔内腫瘍の生検を行い,鼻型NK/T細胞リンパ腫と診断した.生検腫瘍組織のEBV-encoded RNAは検出されなかった.入院時CTで肺動脈塞栓を偶然認めたために,ヘパリン,及びワルファリンで治療し,塞栓は消失した.悪性リンパ腫に対して,THP-COP療法を施行し,鼻腔,副腎の腫瘍は共に一時的に縮小を認めたが,再燃した.治療経過中に腹痛が出現し,悪性リンパ腫に原因すると考えられる小腸穿孔と診断した.全身状態が不良のために,開腹せず経過観察し,第61病日に死亡された.内分泌学的検査では血液ACTH 158.0 pg/ml,コルチゾル14.6 μg/dlであり,潜在性副腎不全が考えられたが,コルチゾル分泌の日内変動は消失し,1 mgと8 mgのデキサメサゾン負荷試験で十分に抑制されず,preclinical Cushing症候群の診断基準も満たした.副腎の巨大腫瘤を伴う鼻型NK/T細胞リンパ腫は極めて稀であり,両側副腎腫大を呈する疾患の鑑別上重要であり,報告した.
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