目的:地域在住の高齢女性肥満者における老年症候群の有症状況を把握したうえで,体力,健康度自己評価,生活機能,既往歴の特徴および肥満関連要因を分析する.
方法:平成18年11月に行ったお達者健診に参加した70歳以上の地域在住高齢者957名の中で,Body Composition Analyzer(InBody720)による身体組成の計測ができた925名のデータを分析した.身体組成のデータに基づいて体脂肪率30%未満を正常群,30∼35%未満を軽度肥満群,35%以上を肥満群と定義した.3群間で聞取り調査項目(転倒,尿失禁,高次生活機能など)および体力(筋力,バランス,歩行速度)を比較した.多重ロジスティック回帰分析法により肥満関連要因を抽出した.
成績:3群で有意差が見られた項目は,尿失禁の有症率(正常群35.4%,軽度肥満群41.1%,肥満群51.0%,
P<0.001)であった.しかし,排尿回数(昼間,夜間),尿失禁期間,過去1年間の転倒率,転倒恐怖感に有意差はなかった.高次生活機能の下位尺度の中で,手段的自立(
P=0.046),知的能動性(
P=0.009)に3群間で有意差が見られ,肥満群で障害率は高かったが,社会的役割の障害には有意差が見られなかった.また,高血圧の既往,3種類以上の服薬,体の痛みの割合および体脂肪量,腹囲,臀囲,下腿三頭筋周径囲の値は肥満群で高く,歩行速度(通常,最大),開眼片足立ちの成績は肥満群で低かった.肥満は,高血圧の既往(オッズ比(OR)=1.70, 95%信頼区間(CI)=1.25∼2.32),体の痛み(OR=1.46, 95%CI=1.07∼2.01),尿失禁(OR=1.44, 95%CI=1.08∼1.92),SBP(OR=1.02, 95%CI=1.01∼1.03),通常歩行速度(OR=0.43, 95%CI=0.24∼0.75)に関連していた.
結論:高齢女性の肥満群に多くみられる尿失禁の有症,歩行機能やバランスの能力の低下,生活機能障害を改善するためには,日常生活における身体活動量の増大に結び付く生活習慣の形成が重要であることが示唆された.
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