日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
45 巻, 4 号
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第49回日本老年医学会学術集会記録〈シンポジウムII:介護予防の老年医学:介護予防の現状〉
第49回日本老年医学会学術集会記録〈シンポジウムIII:高齢者終末期医療:高齢者は何処へ行くのか〉
原著
  • 佐藤 武, 牧上 久仁子
    2008 年 45 巻 4 号 p. 401-407
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/28
    ジャーナル フリー
    目的:死が切迫していない状況の患者·家族に主治医が終末期医療の選択·意思決定に関して説明し,その効果を検討する.方法:療養病棟と回復期リハビリテーション病棟へ入院した患者を主治医から終末期医療に関する啓発を行う224名(介入群)と行わない114名(非介入群)に分け,退院後に終末期医療の選択に関する質問紙調査を実施し,計104通(30.8%)の回答を得た.結果:「以前に家族で終末期医療のあり方について話しあった」割合は介入群50.7%と非介入群40.0%と有意差を認めなかったのに対し,「家族で退院後に患者の終末期について話し合った」割合は介入群(42.0%)が非介入群(31.4%)に比べて有意に高かった(P=0.015).介入群では主治医による説明で86.7%が人工呼吸器,経管栄養について「理解できた」と回答し,「家族の推定意思」については59%が「理解できた」と回答した.その一方,非介入群では,それぞれの用語についての認知度は3∼4割にとどまった.終末期医療に関する説明を受けるタイミングについて尋ねたところ,介入群では37名(53.6%)が「説明を受けるタイミングが良かった」など時間的余裕のある時期を希望する回答が多く,状態急変時に説明してほしいという希望は有意に少なかった.介入群では今回の終末期に関する説明は45名(65.2%)が「参考になった」と答え,さらに42名(60.9%)が回答者自身の参考になったと答えた.結論:療養病棟や回復期リハ病棟で終末期医療の選択·意思決定に関する啓発を行い,患者·家族の受け入れはおおむね良好であり,退院後家族でこの問題に関する話し合いを促す効果が認められた.短時間ではあるが医師との話し合いにより終末期医療の理解を深め,退院後には家族の話し合いが多くなる可能性があると思われた.
  • 平尾 健太郎, 羽生 春夫, 金高 秀和, 清水 聰一郎, 佐藤 友彦, 岩本 俊彦
    2008 年 45 巻 4 号 p. 408-413
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/28
    ジャーナル フリー
    目的:アルツハイマー病(以下ADと略す)の脳代謝·血流パターンは発症年齢により変化することが報告されている.しかし,超高齢ADの脳代謝·血流パターンの検討はあまりされていないので,今回我々は脳血流SPECT(Single photon emission CT)を用いて検討した.方法:軽度∼中等度ADの各年齢群(若年群,老年群,超高齢群)の初診時脳血流SPECTをそれぞれの年齢にあわせた健常コントロール群と3D-SSP(three-dimensional stereotactic surface projection)を用いて比較解析し,超高齢ADの脳血流低下パターンを評価した.結果:群間比較において,若年AD,老年ADはコントロールに比し後部帯状回,楔前部,側頭頭頂葉での血流低下が高度にみられたのに対し,超高齢ADはコントロールに比し後部帯状回,楔前部,側頭頭頂葉での血流低下が若年AD,老年ADよりも比較的軽度で,前頭葉,内側側頭葉の血流低下を高度に認めた.結論:超高齢ADは若年ADや老年ADの脳血流低下パターンと異なり,若年AD,老年ADとは病理学的に若干異なる可能性が示唆された.さらに,超高齢ADと診断された症例の中には,神経原線維変化型老年認知症のようにADとは異なる疾患が存在する可能性も示唆された.
  • 金 憲経, 鈴木 隆雄, 吉田 英世, 吉田 祐子, 島田 裕之
    2008 年 45 巻 4 号 p. 414-420
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/28
    ジャーナル フリー
    目的:地域在住の高齢女性肥満者における老年症候群の有症状況を把握したうえで,体力,健康度自己評価,生活機能,既往歴の特徴および肥満関連要因を分析する.方法:平成18年11月に行ったお達者健診に参加した70歳以上の地域在住高齢者957名の中で,Body Composition Analyzer(InBody720)による身体組成の計測ができた925名のデータを分析した.身体組成のデータに基づいて体脂肪率30%未満を正常群,30∼35%未満を軽度肥満群,35%以上を肥満群と定義した.3群間で聞取り調査項目(転倒,尿失禁,高次生活機能など)および体力(筋力,バランス,歩行速度)を比較した.多重ロジスティック回帰分析法により肥満関連要因を抽出した.成績:3群で有意差が見られた項目は,尿失禁の有症率(正常群35.4%,軽度肥満群41.1%,肥満群51.0%,P<0.001)であった.しかし,排尿回数(昼間,夜間),尿失禁期間,過去1年間の転倒率,転倒恐怖感に有意差はなかった.高次生活機能の下位尺度の中で,手段的自立(P=0.046),知的能動性(P=0.009)に3群間で有意差が見られ,肥満群で障害率は高かったが,社会的役割の障害には有意差が見られなかった.また,高血圧の既往,3種類以上の服薬,体の痛みの割合および体脂肪量,腹囲,臀囲,下腿三頭筋周径囲の値は肥満群で高く,歩行速度(通常,最大),開眼片足立ちの成績は肥満群で低かった.肥満は,高血圧の既往(オッズ比(OR)=1.70, 95%信頼区間(CI)=1.25∼2.32),体の痛み(OR=1.46, 95%CI=1.07∼2.01),尿失禁(OR=1.44, 95%CI=1.08∼1.92),SBP(OR=1.02, 95%CI=1.01∼1.03),通常歩行速度(OR=0.43, 95%CI=0.24∼0.75)に関連していた.結論:高齢女性の肥満群に多くみられる尿失禁の有症,歩行機能やバランスの能力の低下,生活機能障害を改善するためには,日常生活における身体活動量の増大に結び付く生活習慣の形成が重要であることが示唆された.
  • 尾内 善四郎, 山木 垂水, 松井 道宣
    2008 年 45 巻 4 号 p. 421-427
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/28
    ジャーナル フリー
    緒言:われわれの施設でインフルエンザ菌(以下HIと略す)感染症の多発があり,一部は重症肺炎にまで進行した.高齢者のHI感染症の臨床的特徴と介護老人保健施設における流行予防について検討したので報告する.方法:対象は介護老人保険施設において平成17年7月20日∼8月31日の期間の2階入所者46人であり,HI非感染群(21例)とHI感染症群(25例),その内の重症HI肺炎群(6例)の3群に分け,基礎疾患,機能障害,体重,体重変化,年齢,性,身体障害および認知障害に関する生活自立度評価尺度,臨床症状,臨床検査を比較した.また喀痰8,血液1検体で細菌培養と薬剤感受性検査およびHI血清型を検査した.また流行直前の風邪症候群散発を検討した.結果:低い身体障害自立度と低体重がHI感染症およびHI重症肺炎に有意に罹患し,脳梗塞はHI感染症に罹患する傾向が高かった.更に認知自立度は重症HI肺炎罹患と有意に関連した.HI感染症の発端者はフロアの一番端に位置する多床室から発生したが,その部屋から離れるに従い発症時期が遅れた.最初のHI検出までに15例(60%)が感染し,内5例(33%)が重症肺炎に進行した.その後10例(40%)が感染したが,この時期には38°C以上の発熱で直ちに抗生剤を投与したが,重症肺炎への進行は1例(10%)のみであった.有意差は得られなかったものの早期抗生剤投与で重症肺炎が減った.培養HIは全てBLNARであり,さらにCCL, CFDNの感受性(-),また血清型はnontypeableであった.なおHI感染症に先立って死亡した1例を加えて,7例が風邪症候群に罹患した.考察:高齢者はHI感染症罹患および重症化の危険性が高い.老人介護施設では医療上の制約が大きいが,感染症の流行を可能な限り早く認識し,速やかに治療を開始することが重要である.
症例報告
  • 佐藤 友彦, 羽生 春夫, 赤井 知高, 高崎 朗, 櫻井 博文, 岩本 俊彦
    2008 年 45 巻 4 号 p. 428-433
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/28
    ジャーナル フリー
    症例は76歳の男性で,高血圧と糖尿病を合併した早期アルツハイマー病(AD)である.前医で投薬されていた降圧薬(Ca拮抗薬のnifedipineとβ遮断薬のbetaxolol)をCa拮抗薬のnilvadipineとアンギオテンシンII受容体拮抗薬であるtelmisartanに変更し,さらにインスリン抵抗性改善薬のpioglitazoneを併用した.約6カ月後には,verbal fluency(1分間の動物名や野菜名の想起)やfrontal assessment batteryで改善がみられ,脳血流SPECTでも前頭葉や側頭頭頂葉で血流の改善が認められた.本症例は,脳移行性の高いnilvadipineとペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ作用を有するpioglitazoneやtelmisartanの併用が認知機能や脳血流の改善に有効であったと考えられ,これら治療薬のADに対する効果について考察を加えた.
  • 亀野 まみ, 高田 俊宏, 安田 尚史, 原 賢太, 岡野 裕行, 櫻井 孝, 永田 正男, 横野 浩一
    2008 年 45 巻 4 号 p. 434-438
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/28
    ジャーナル フリー
    今回我々は,意識消失にて発症し,細菌性髄膜炎に続発性血管炎を合併した高齢者の一例を経験したので,考察を加えて報告する.症例は83歳の女性.2006年7月末より意識消失発作による転倒を繰り返した.8月初旬より発熱認め,他院入院.頭部MRI,頸部血管超音波検査,脳波,ホルター心電図にて異常なく,腰椎圧迫骨折,尿路感染に対する抗生剤治療後,心因反応も疑われ前医転院した.転院後,再び発熱したため,髄液検査が行われ,好中球優位の細胞数増加,糖低下認め,細菌性髄膜炎として加療開始された.細胞数の低下を認めるも意識障害が遷延し,巣症状も出現したため,細菌性髄膜炎に続発性血管炎の合併を疑い,当院転院となった.髄液の細菌,真菌培養,各種ウイルス抗体は陰性であった.本症例は,細菌性髄膜炎の典型的症状に乏しく,発熱にて入院したにも関わらず,早期診断がなされなかった.髄膜炎加療中に,左錐体路徴候が出現し,拡散強調画像にて右放線冠に高信号および右中大脳動脈の狭窄を認め,血管炎の合併が考えられた.続発性血管炎の標準的な治療は定まっていないが,ステロイドパルス療法が著効した報告例がいくつかあり,本症例も報告例に準じてステロイドパルス療法を行った.2回のパルス後に意識障害及び錐体路徴候は改善し,虚血病変は局所的に止ったが,認知症の状態を残した.
日本老年医学会地方会記録
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