日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
45 巻, 5 号
選択された号の論文の20件中1~20を表示しています
第50回日本老年医学会学術集会記録〈会長講演〉
第50回日本老年医学会学術集会記録〈特別講演〉
第50回日本老年医学会学術集会記録〈Meet the Expert I:プロが伝える高齢者診療のコツ〉
第50回日本老年医学会学術集会記録〈Meet the Expert II:老年者診療に関する最近の話題〉
原著
  • 高井 逸史
    2008 年 45 巻 5 号 p. 505-510
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/05
    ジャーナル フリー
    目的:注意や判断,言語など認知機能が要求されるバランス練習が要介護高齢者のFunctional Reach Test(FRT),重心動揺(Body Sway:BS)を改善するかどうか検討した.対象:軽度要介護状態の後期高齢者23名(平均年齢81.5±4.8歳)を無作為に運動群と認知群に分類した.方法:運動群は作成したバランスボードを水平に保つ課題とした.認知群は上記の運動メニューに難易度を設定し,身体が感じていること,内的表象を口頭で報告してもらった(内部観察).ベースライン期,介入期,追跡期の歩行速度,FRT, BSを計測した.結果:歩行速度は両群とも変化はなかった.運動群はBS一部に改善が見られたが,持続性は認められなかった.一方認知群はFRT, BS全般に改善が有意にみられ,BS一部に効果の持続性が認められた.結論:認知機能を考慮したバランス練習が姿勢バランスの改善をもたらせた.持続した効果から考えると注意や判断,言語など要求される難易度の設定や内部観察が運動学習につながった可能性が示唆される.
  • 宗岡 克政, 井川 真理子, 栗原 典子, 木田 次朗, 三上 智子, 石原 勇, 内田 淳子, 塩屋 桐子, 内田 直, 平澤 秀人
    2008 年 45 巻 5 号 p. 511-519
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/05
    ジャーナル フリー
    目的:紫色蓄尿バッグ症候群(PUBS)は膀胱留置カテーテル使用中に蓄尿バッグが紫色に着色する病態である.便秘と関連したトリプトファン代謝異常と尿路内細菌増殖によるアルカリ環境下でのインジゴ生成が,発現機序として提唱されている(トリプトファン―インジゴ仮説)が,PUBSの発生状況や発生機序に関して,さらなる検討が必要であると思われた.方法:認知症病棟において発生した6例(男性3例,女性3例)のPUBSに対して生化学的,細菌学的検査を行い発現機序について検討した.結果:経過中3例で抗生剤使用後に,1例で自然経過中にPUBSの消失がみられた.全例で慢性の便秘がみられた.1例は経口食物摂取不能例での発生であった.PUBS発生中の6例のうち,アルカリ尿が4例で,尿中インジカン陽性が4例(うち擬陽性1例)でみられた.PUBS消失後,4例の尿pHはすべて中性化し,尿インジカンは陰性化した.一方,尿細菌培養結果では,PUBS発生中にEnterococcus faecalisがMorganella morganni(3例),Pseudomonas aeruginosa(1例)とともに検出されたほか,Klebsiella pneumoniaeとCitrobacter属の単独感染がみられた.PUBS消失後では検出菌種は変化したが,無菌化した例はなかった.アミノ酸値では,トリプトファン値に一定の傾向がみられなかった一方,血中および尿中α-アミノ-n-酪酸値がPUBS消失後の4例全例で減少していた.PUBS自然消失例では,血中タンパクの増加がみられた.また,尿中インジカン定性結果,尿pHおよびアミノ酸値は,新鮮尿とバッグ内尿で差異がみられた.結論:今回みられた所見は「トリプトファン―インジゴ仮説」を支持するものであったが,矛盾する結果も少なからずみられ,当該仮説では説明のつかない病態のあることが示唆された.また,あらたに注目すべき点として,一定の菌の常在化,α-アミノ-n-酪酸の代謝およびタンパク合成能低下がPUBS発生要因として示唆された.
  • 三浦 宏子, 苅安 誠, 角 保徳, 山崎 きよ子
    2008 年 45 巻 5 号 p. 520-525
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/05
    ジャーナル フリー
    目的:口唇閉鎖は摂食·嚥下機能のみならず口腔調音と関係するが,虚弱高齢者の口唇閉鎖力の低下と心身の健康状態の関連について解析した研究は少ない.本研究では虚弱高齢者における口唇閉鎖力が日常生活機能(ADL)や認知機能とどのような関連性を有するかについて検証した.方法:虚弱高齢者92名(男性28名,女性64名)を被験者とし,口唇力計測器リップデカムを用いて口唇閉鎖力を測定した.併せて被験者の基本属性,ADL20スケールを用いたADL評価,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用いた認知機能スクリーニングを行うとともに,摂食·嚥下障害関連症状の発現状況,流涎の有無について調べた.結果:口唇閉鎖力とADL20総スコアならびにADL20下位スコアとの間に,それぞれ有意な相関関係が認められた.口唇閉鎖力とHDS-Rスコア値との間にも有意な相関関係が認められた.一方,口唇閉鎖力と有意な関連性を示した摂食·嚥下障害関連症状は,「体重の低下」,「発熱」,「飲み込みづらさ」,「食べこぼし」,「胸部つまり感」であった.また,流涎のある者は無い者と比較して有意に口唇閉鎖力が高かった.結論:虚弱高齢者において,口唇閉鎖力の低下に随伴してADLならびに認知機能の低下が有意に低下していた.これらの知見より,口唇閉鎖力の低下は口腔機能の低下にとどまらず,より包括的な生活機能の低下と関連性を有することが示唆された.
  • 菊地 令子, 神崎 恒一, 川島 有実子, 岩田 安希子, 長谷川 浩, 井形 昭弘, 鳥羽 研二
    2008 年 45 巻 5 号 p. 526-531
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/05
    ジャーナル フリー
    目的:転倒予防は寝たきりを予防するために重要である.我々は鳥羽らが作成した「転倒スコア」を用いて,運動習慣を有する60歳以上の女性を対象に,転倒リスクを縦断的に調査した.方法:対象はシステム三井島体操会員のうち,60歳以上の632名の女性(65.0±4.3歳).同一集団について年齢,過去1年間の転倒歴の聴取,転倒スコアの調査を2004年と2005年の2回行い,経過中の転倒を規定するリスク要因をロジスティック回帰で検討した.結果:2004年の転倒は134人(21.2%),2005年の転倒は121人(19.1%)に認められ,2005年の転倒率は60歳代では低下したが,70歳代ではむしろ増加した.また,6年以上10年未満の体操会員で転倒歴は最も低かった.2005年の転倒を従属変数としたロジスティック回帰分析では,年齢,2004年の転倒歴,「つまずくことがある」,「タオルを固く絞れない」,「急な坂道を使用している」の5つが有意な独立因子であった.さらに,2004年の転倒歴がない群ではロジスティック回帰分析によって,年齢,「つまずくことがある」の2項目が,転倒歴がある群では,年齢,「つまずくことがある」,「タオルを固く絞れない」,「急な坂道を使用している」,「内服薬が5種類以上ある」の5項目が有意な転倒予測因子であった.結論:運動習慣を有する高齢者女性は,6年以上10年未満の運動歴をピークとして転倒抑制効果が認められるが,加齢に伴い,70歳以上ではその効果は認められなくなる.また,年齢,過去の転倒歴,転倒アンケートは将来の転倒の有意な予測因子である.
  • 小長谷 陽子, 渡邉 智之, 高田 和子, 太田 壽城
    2008 年 45 巻 5 号 p. 532-538
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/05
    ジャーナル フリー
    目的:認知症の早期発見·早期治療のためには有効で簡便な認知機能スクリーニングが不可欠である.すでに報告した電話による認知機能スクリーニング(Telephone Interview for Cognitive Status in Japanese:TICS-J)が地域在住高齢者に施行可能か,健常高齢者のTICS-Jにより評価される認知機能に性,年齢,教育歴の影響があるか,TICS-Jで認知機能低下者を把握できるかについて検証した.方法:65歳以上の地域在住高齢者12,059人に検査への協力を依頼し,3,482人から承諾の回答を得た.実際に検査できたのは2,620人で,教育歴が聞けた2,431人を解析の対象とした.TICS-Jはマニュアルに従って訓練した検者が行い,名前,時間及び場所の見当識,数字の逆唱,10単語の即時再生,引き算の7シリーズ,言語,文章の反復,近時記憶,実技,反対語の11項目を電話で質問し,回答を得た.教育歴は11年未満と11年以上の2群,年齢は65∼69歳,70∼74歳,75∼79歳,80歳以上の4群に分けた.結果:TICS-Jの平均得点は34.4±3.5(41点満点)であり,男女差はなかった.教育歴が長い群では短い群より平均得点は有意に高かった.総得点に関して年齢による4群間には有意な差があり,年齢が高くなるほど得点が低下した.TICS-Jの総得点はほぼ正規分布しており,本研究では既報告で示したカットオッフ値の33点未満を認知機能低下の疑いありとし,564人(23.2%)が該当した.結論:TICS-Jは地域在住高齢者の認知機能スクリーニングとして受け入れられた.総得点には性差はなく,教育歴や年齢とは関連していた.TICS-Jにより認知機能低下が疑われる人を把握できる可能性が示唆された.
  • 野呂 美文, 岡 浩一朗, 柴田 愛, 中村 好男
    2008 年 45 巻 5 号 p. 539-545
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/05
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は,膝痛を有する地域在住中高齢女性を対象に,痛み対処方略,痛みの程度および痛みによる活動制限の相互関連性について検討し,痛みの自己管理を促す効果的な支援方法を確立するための手がかりを得ることを目的とした.方法:対象者は,膝痛改善プログラムへの参加を希望した地域在住中高齢女性134名であった(平均年齢62.1±8.2歳).本研究では,横断研究デザインを採用した.痛みの程度および痛みによる活動制限の評価には,日本版変形性膝関節患者機能評価表(JKOM)を利用した.また,痛み対処方略については,Coping Strategy Questionnaire(CSQ)日本語短縮版を用いて評価した.結果:年齢および痛み関連指標間の相関関係を検討した結果,年齢は,痛みの程度および痛みによる活動制限との間に有意な正の相関が認められたが,痛み対処方略とは有意な相関関係がみられなかった.痛みの程度および痛みによる活動制限は,痛み対処方略としての願望思考,破滅思考,医薬行動との間に有意な正の相関があった.痛み関連指標間の相互関連性の仮説モデルを,共分散構造分析を用いて修正·改良した結果,最終モデルの適合度指標はGFI=.980, AGFI=.946, CFI=.995, RMSEA=.022となり,統計学的な許容水準を満たした.加齢とともに痛みの程度が増し,痛みによる活動制限も大きくなっていた.また,強い痛みを感じている人は,願望思考,破滅思考,医薬行動といった痛み対処方略を頻繁に採用し,痛みによる活動制限が強められていた.結論:膝痛を有する中高齢女性の痛みの自己管理を促進させるためには,特に不適応的な対処方略の採用を減らすことが重要なポイントであることが分かった.今後は不適応的な痛み対処方略を修正するための認知行動的アプローチを,従来の運動療法を中心とした膝痛改善プログラムの中に積極的に取り入れていく必要性が示唆された.
症例報告
  • 永井 勅久, 伊賀瀬 道也, 川尻 真和, 小原 克彦, 三木 哲郎
    2008 年 45 巻 5 号 p. 546-549
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/05
    ジャーナル フリー
    症例は64歳女性.主訴は間欠性の頭痛.30歳代より拍動性の頭痛があり近医で片頭痛と診断されていた.2001年よりsumatriptan投与を開始され,効果を認めていたが,片頭痛発作頻度が高いため,2005年8月30日当科を初診した.拍動性であり日常動作で増悪する,持続時間4時間∼24時間の中等度以上の頭痛を認めた.前兆は認めなかった.頭痛時に悪心嘔吐を認め,その他の疾患を除外できるため,国際頭痛学会診断基準第二版における診断基準により前兆のない片頭痛と診断した.発作回数は10∼15回/月であった.また,その他の所見として正常高値血圧(134/86 mmHg)を認めた.初診時よりsumatriptan頓用に加え予防療法としてlomerizine投与を開始したが,発作回数は減少しなかったため,2005年11月にlomerizine内服は中止した.2007年5月より高血圧症に対してamlodipine2.5 mg内服を開始したところ,8月には片頭痛発作回数が2回/月に減少した.頭痛インパクトテスト(HIT-6)による患者のQOL評価でも改善を認めた.本症例の経過からamlodipineの片頭痛予防効果が示唆され,さらに老年者においても片頭痛患者が存在し,本症例のごとく片頭痛治療によってQOL改善が期待できる症例があることが示された.
日本老年医学会地方会記録
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