日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
46 巻, 2 号
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第50回日本老年医学会学術集会記録〈シンポジウムIV:骨粗鬆症と変形性関節症:研究と診療の最前線〉
第50回日本老年医学会学術集会記録〈パネルディスカッションIII:療養病床再編の行方〉
  • 高橋 龍太郎, 筧 佐織
    2009 年 46 巻 2 号 p. 134-136
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    目的:慢性期高齢者医療の課題,特に医療の必要性と人材育成の状況を,急性期医療機関経由の患者の前向き調査と施設代表·勤務医師への調査を通じて明らかにし,今後の長期療養高齢者医療と高齢者医療を担う医師の役割について考察する.対象と方法:日本療養病床協会加盟の727施設を調査対象とし,これらの施設の施設管理責任者,常勤勤務医師5名,急性期医療機関からきた高齢者5名に対して調査を行った.結果と考察:167施設の施設長,144施設の医師,117施設の患者情報について回答を得た.施設の立地条件によって,「在宅復帰を進める」ことを重視している割合に差があり,地域特性を踏まえた高齢者医療システムの構築が望まれていることが示唆された.また,医師の高齢者医療の専門性を示す指標として,施設長·勤務医師の専門診療科(自由記述),所属学会,老年学関連所属学会,専門医·認定医保持学会を調べたところ,高齢者医療関連学会への参加,それらの専門医·認定医保持割合は,内科関連の回答と比較して高くなく,高齢者医療を担う医師の専門性の強化と人材育成が求められていると思われた.医療の必要性について,一年後の死亡率との関連が明らかになっているCharlson Indexと医療保険療養病棟における診療報酬基準である医療区分との関連は全く認められなかった.病床当たりの患者の転帰を求めると,死亡退院と急性期病院への転院の発生率は,施設間の差が少なく一定の頻度で発生していることが示された.今後,医療の必要性の合理的基準を明確化するため,包括的な機能評価に基づいた課題の焦点化を組み込むといった取り組みが必要であろう.結論:今後の高齢者医療における医師の専門性発揮と医療の必要性の再考という課題が明らかとなった.
  • 武久 洋三
    2009 年 46 巻 2 号 p. 137-140
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    平成20年5月,日本慢性期医療協会(旧 日本療養病床協会)では会員医療機関を対象に,療養病床入院患者の状態及び救急医療との連携についての調査を実施した.患者の医療区分の割合は,医療区分1が25.3%を占めていたが,この医療区分1の状態には,施設での対応が可能な軽症から重度意識障害,癌ターミナル,肝不全などの重症まで,実に多種多様な病態が含まれている.また,療養病床では経管栄養37.0%,気管切開10.7%,喀痰吸引33.0%,酸素療法15.2%など,「重症度·看護必要度に係る評価票A項目」と比べても大差ないほどの重症患者を多く治療していることがわかった.現段階でも救急医療からの患者を受け入れており,今後さらに強い連携を図りたいと考えている療養病床は,全体の4分の3以上を占めている.
    療養病床は従来,主に慢性期医療が必要となった患者を対象とし,適切な医療サービスを提供してきた.実際,Post Acute Therapyを十分にフォローできる機能を持つ病院は多い.急性期病院の在院日数短縮に伴い,高度慢性期医療を担う療養病床の必要性は高まりつつある.療養病床を地域医療の拠点と位置づけ,急性期医療から継続した医療を提供するとともに,在宅医療もサポートしていくという幅広いニーズに応える機能を併せもつ場となることが求められている.一般病床と同等のマンパワーを備えており,環境面の良さとともにその資源を最大限に活かすことが重要である.また,急性期の担っている機能を一部療養病床が担当することにより,医療費適正化にもつながると考えられる.療養病床は地域から必要とされ,その役割に大きな期待が寄せられている.医療は急性期病院だけでは完結しない.急性期医療の成果を活かすも殺すも,治療を継続フォローする慢性期医療の質にかかっている.急性期病院と療養病床が互いの医療機能を補完し合い,ともに地域医療を守らなければならない.
  • 山中 崇
    2009 年 46 巻 2 号 p. 141-143
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
  • 川合 秀治
    2009 年 46 巻 2 号 p. 144-145
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    なぜ,療養病床の再編が必要となったのか.その「療養病床」は社会保障制度上,必然であったのか.ならばなぜ療養病床が,わずか10数年前に創設されたものが整理されようとしているのか.疑問符がたくさんある.巷間,言われているように財政上の問題が大きいのか.ならば,制度創設者は行政も立法も朝令暮改の謗りは逃れられない.
    さて,老人保健施設はそれまでの高齢障害者への社会保障サービスとしては画期的な"individuality"を基本コンセプトとした施設類型である.この老健はハードとしては施設であるが,そのソフトは未熟·未完成ではあるものの有効な「在宅療養支援」機能を有している.これまでの社会保障サービスは制度が利用者·サービス事業者を規制していた.本来的には利用者が,制度に強度な枠をはめられることなく,サービスを選択できる状態にあるべきと考えるが,老健施設にはその可能性が大いにある.
原著
  • 山田 勉, 大荷 澄江, 三俣 昌子, 松本 太郎, 上野 高浩, 上原 健司, 水谷 智彦, 河端 美則
    2009 年 46 巻 2 号 p. 146-153
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者の非特異性間質性肺炎(NSIP)におけるユビキチン(Ub)陽性細胞と肺胞上皮細胞傷害の程度や患者の治療抵抗性との関連などを知ることを目的とした.方法:対象は外科的肺生検によりNSIPパターン(NSIP/P)と病理診断された高齢者(平均年齢68歳,男性5例,女性8例)13例の肺組織である.方法として組織切片から好酸性細胞質内封入体(封入体)の計測,ビラン,気腔内肉芽組織の各亜型(ポリープ型,壁在型,閉塞型)をスコア化した.さらに免疫染色によるUb陽性細胞の有無と陽性細胞数の計測,組織学的に上記以外の他のパラメータ,NSIP/Pの亜型ならびに患者の治療抵抗性や予後などとの関連を検討した.結果:1)NSIP群13例中6例(検索症例の46%)にUb陽性細胞が出現し(Ub陽性群),全ての封入体はUb陽性を示した.光顕的に認めた封入体数よりもUb陽性封入体数は多く,Ub免疫染色は細胞傷害像を容易に認識できる方法であった.2)Ub陽性群の気腔内肉芽組織スコアはUb陰性群より有意に増加したが(p<0.05),肉芽組織各亜型についてみるとUb陽性群とUb陰性群間に差異はなかった.3)fibrosing NSIP亜群におけるポリープ型,壁在型,閉塞型の肉芽組織各亜型はcellular NSIP亜群の肉芽組織各亜型よりも有意に増加した.4)経過観察後(平均3.6年間)の治療抵抗性とUb陽性細胞数出現や,治療抵抗性と肉芽組織各亜型との関連はなかった.結論:高齢者NSIP群に封入体は存在し,Ub陽性を示す肺胞上皮の存在を明らかにした.NSIP群治療抵抗性とUb陽性細胞の関連は明確とならなかったが,高齢者NSIP群の肺胞上皮細胞傷害とUbとの関連も示唆された.
  • 山中 悠紀, 石川 朗, 宮坂 智哉, 戸津 喜典, 浦辺 幸夫, 乾 公美
    2009 年 46 巻 2 号 p. 154-159
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    目的:COPD患者に対する非監視下での在宅運動プログラムとしての「ながいき呼吸体操」の効果を,冬期6カ月間の体操導入の有無から検討する.方法:対象は積雪寒冷地に居住する高齢男性COPD患者42例(年齢72.9±7.7歳)で,体操導入群32例,非導入群10例とした.初期評価実施後,体操導入群のみに「ながいき呼吸体操」を指導し,体操を記録したビデオを配布した.冬期6カ月間在宅で体操を継続させ,体操継続に関するアンケートを追加した再評価を行い,体操の効果を検討した.効果判定にはスパイロメトリーで測定した一秒量(FEV1)と肺活量(VC),6分間歩行テストで測定した歩行距離(6MWD),シャトルウォーキングテストで測定した歩行距離(SWD),疾患特異的健康関連QOL評価尺度であるCRQを用いた.結果:体操導入群19例,非導入群7例について分析が可能であった.介入前後のFEV1, VCに有意な変化は認められなかったが,体操導入群のみに6MWDに323.3±95.1 mから355.1±113.8 mへ,SWDに226.8±92.6 mから250.5±111.8 mへ,CRQのDyspneaに20.4±6.7点から23.4±8.8点へ,Masteryに19.6±4.7点から22.3±4.6点へと有意な改善が認められた.体操導入群19例中17例に1日1回以上かつ週6回以上の継続した体操の実施を認めた.結論:冬期6カ月間の「ながいき呼吸体操」の実施により,積雪寒冷地に居住する高齢男性COPD患者の運動機能や健康関連QOLが改善する可能性が示唆された.
  • 小長谷 陽子, 渡邉 智之, 太田 壽城, 高田 和子
    2009 年 46 巻 2 号 p. 160-167
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    目的:長寿社会における高齢者は単に長寿であるだけでなく,よりよく生きることが重要となってきており,高齢者のQuality of Life(QOL)やそれに関連する要因については多くの研究がなされている.地域在住高齢者において,その認知機能がQOLに与える影響について検証した.方法:65歳以上の地域在住高齢者12,059人に調査の依頼をして,電話による認知機能検査(Telephone Interview for Cognitive Status in Japanese:TICS-J)および自記式のQOL質問表のいずれにも回答した1,920人(平均年齢±標準偏差:71.87±5.50歳,平均教育歴:11.08±2.61年)を解析の対象とした.TICS-Jは著者らが開発した電話による認知機能スクリーニング検査であり,QOLはLawtonの概念に基づき,「生活活動力」,「健康満足感」,「人的サポート満足感」,「経済的ゆとり満足感」,「精神的健康」,「精神的活力」の6つの下位項目からなる「地域高齢者のためのQOL質問表」を用いた.分析は,TICS-Jの得点,年齢,教育歴,QOLの下位項目の得点それぞれの相関関係を検討し,性,年齢,教育歴で調整したQOLの各下位項目を従属変数とする重回帰分析を行った.結果:QOL下位項目の得点では6項目のうち4項目で男女差があった.TICS-Jの得点による2群間ではすべての下位項目で有意差が見られた.TICS-JおよびそれぞれのQOL下位項目の間には部分的に相関関係が見られた.性,年齢,教育歴で調整した重回帰分析では,認知機能が高い群では,QOLの6つの下位項目のいずれにおいても,認知機能が低い群より有意に得点が高かった.結論:地域在住高齢者のQOLにおいては,男女差だけでなく,認知機能の違いによる影響が考えられる.今回用いた,電話による認知機能検査やQOL質問表は,地域の高齢者福祉のアウトカム評価に有用である.
  • 樋口 大輔, 内山 靖
    2009 年 46 巻 2 号 p. 168-173
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,高齢頸髄症と非高齢頸髄症との比較から,圧迫性頸髄症において加齢変化が身体機能および能力の術後短期改善に影響を及ぼすかどうかを明らかにすることである.方法:椎弓形成術を受けた頸髄症者56人(63.1±11.5歳,男性40人,女性16人)を対象とした.すべての対象から研究参加の同意を記名にて得た.調査·測定項目は基礎情報6項目(服部の病型分類,罹病期間,併存症,パブロフ比,頸椎の動的不安定性,頸髄内の高輝度変化),下肢と上肢の運動機能各1項目,感覚機能各1項目,さらに歩行能力2項目,上肢の作業能力1項目とした.基礎情報は術前に,身体機能および能力は術前と術後1カ月に調査·測定した.65歳以上を高齢群,65歳未満を非高齢群と分類したのち,術前の基礎情報,さらに術前と術後1カ月の身体機能および能力を群間比較した.結果:高齢群は27人(72.7±5.2歳,男性16人,女性11人),非高齢群は29人(54.1±8.1歳,男性24人,女性5人)となった.術前の基礎情報において有意差がみられた項目は併存症の有無のみであり,高齢群では63.0%,非高齢群では27.6%の人が併存症を有していた.なお,その併存症の多くは変形性関節症や腰椎圧迫骨折などの整形外科疾患であった.高齢群の下肢運動機能は術前で非高齢群と比較して有意に劣っていたが,術前を基準とした術後1カ月における改善率は同程度であった.歩行能力も術前で非高齢群と比較して有意に劣っていたが,その改善率は同程度あるいは有意に大きかった.また,高齢群の上肢運動機能および作業能力は,術前で非高齢群と同程度であり,それらの改善率も同程度であった.結論:高齢頸髄症では,術前の下肢運動機能および歩行能力は非高齢頸髄症と比較して有意に劣っていたものの,術前を基準とした術後1カ月での改善の割合は同程度あるいは有意に大きく,加齢変化がただちに術後短期改善の負の要因になることはなかった.
症例報告
  • 藤井 健司
    2009 年 46 巻 2 号 p. 174-178
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    高齢発症関節リウマチ(elderly-onset rheumatoid arthritis,以下EORAと略す)とリウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica,以下PMRと略す)はしばしば鑑別が困難である.今回我々は,腫瘍随伴症候群のPMRが疑われたが,18F-fluorodeoxyglucose(FDG)positoron-emission tomography(PET)やMRIにて滑膜炎が認められ,最終的にEORAと診断した一例につき報告する.症例は77歳女性.2007年2月より左肩,左上腕,左膝の疼痛が出現した.その後疼痛は項頸部や右肩,右上腕と腰背部,両大腿部にも出現し歩行が困難となった.近医にて消炎鎮痛剤などを投薬されるも改善なく,同年7月に当院へ入院となった.リウマトイド因子と抗CCP抗体は陰性で,理学所見や除外診断からBirdらの診断基準を満たし,PMRとしてprednisolone 10 mg/日を開始し症状は速やかに改善した.経過中肺癌を認め手術にて摘出した.Prednisolone開始後に関節症状や炎症反応の上昇はなかったが,術前のFDG-PETで両肩に集積があり,術後に肩関節と手関節のMRIで滑膜炎と骨びらんがあり,手のレントゲンでも骨びらんが確認されたことから最終的にEORAと診断した.PMRとして治療中も関節リウマチの所見の出現には十分に注意し,定期的な画像検査を行うべきである.
  • 峯岸 慎太郎, 重政 朝彦, 小林 俊一, 糟谷 深
    2009 年 46 巻 2 号 p. 179-183
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    今回我々は,大網原発gastrointestinal stromal tumor(GIST)と確定診断された高齢女性の1例を経験したので報告する.症例は99歳女性.心不全,腎不全にて当科に入院を繰り返していた.2003年施行のCTにて胃と脾臓の間に位置する直径約10 cm大の腫瘤を認めていたが,高齢であり,手術希望がなかったために経過観察されていた.呼吸困難,全身状態悪化にて2006年8月に緊急入院となった.入院時呼吸苦があり,経鼻カヌラで酸素2 L/分投与下での経皮的酸素飽和度は98%であり,Japan Coma Scale(JCS)10∼20と意識障害を認めていた.また,るい痩が目立ち,四肢には表皮剥離や潰瘍の形成が見られていた.入院後酸素,利尿剤等を投与するも反応不良であり全身状態は改善しなかった.第30病日に暗赤色の下血を認め,下血直後より意識状態はJCS 300に低下が見られた.心不全増悪ならびに播種性血管内凝固症候群の状態となり,第31病日に死亡となった.同日病理解剖施行.CTで認められていた腫瘍は,組織学的には紡錘形細胞が優勢で,核の柵状配列を認め,核分裂像は50 high-power fieldあたり5個未満と少なかったが,免疫染色にてc-kit陽性であり,大網原発GISTと確定診断された.GISTは50∼60歳代に好発する間葉系の腫瘍であり,胃(60%)や小腸(35%)などの消化管原発のものが多い.腸間膜や大網原発の報告例は少なく,90歳代と超高齢者は非常に稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 春木 明代, 田中 信一郎, 古賀 道明, 川井 元晴, 根来 清, 神田 隆
    2009 年 46 巻 2 号 p. 184-187
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/03
    ジャーナル フリー
    症例は79歳女性.高度の異常感覚を伴う歩行障害が出現し,1カ月後に入院.腱反射は亢進,Babinski徴候が両側でみられた.両下肢は弛緩性で対麻痺を呈し,血清抗HTLV-1抗体は陽性であった.髄液細胞数は53/μlと上昇し,成人T細胞白血病(ATL)様細胞を認めたが,髄液中の抗HTLV-1抗体は陰性であった.入院後,両下肢の筋力低下は急速に進行し,2カ月後には起立·歩行不能となった.急速進行性HTLV-1 associated myelopathy(HAM)を疑い,ステロイドパルス療法を施行したが効果なく,4カ月後に転院した.半年後に肺炎を発症し再度当院に入院.末梢血に多数のATL細胞の出現を認め,ATLと診断した.初診時にみられた急速進行性HAM類似の症状は,全身臓器への障害に先行したATL細胞の中枢神経浸潤を反映していた可能性を考えた.
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