日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
46 巻, 3 号
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第50回日本老年医学会学術集会記録〈シンポジウムII:地域社会における認知症医療〉
第50回日本老年医学会学術集会記録〈Aging Science Forum:アンチエイジングの科学と医療〉
原著
  • 文 鐘聲, 三上 洋
    2009 年 46 巻 3 号 p. 232-238
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/10
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者における転倒は老年症候群の一つであり,QOLの低下をもたらす.一方,日本人と在日コリアン高齢者は既往歴,ADL, QOLについての差異が見られる.本研究は,都市部在住日本人高齢者及び在日コリアン高齢者の転倒に関連する因子を解析し,特徴を比較することを目的とした.方法:2004年11月∼2005年1月に在日コリアンの集住地域である,大阪市A地区在住の65歳以上の高齢者494人を対象とした.調査項目は基本属性,既往歴,基本的ADL,高次ADL,抑うつ,VASによるQOLであり,回収率は87.2%,有効回答率は98.8%であった.分析対象は,有効回答のあった日本人221人(転倒群41人,非転倒群180人),在日コリアン200人(転倒群66人,非転倒群134人)の421人とし,t検定,χ2検定,共分散分析,ロジスティック回帰分析を行った.結果:日本人の転倒発生率は18.6%,在日コリアンの転倒発生率は32.8%であった.日本人,在日コリアンともに転倒群は非転倒群に比べ平均年齢が高く,高血圧,骨折の既往が多く,閉じこもり傾向,抑うつの割合が高く,基本的ADL,高次ADL,主観的健康感,生活満足度が低いという結果がみられた.また,在日コリアン転倒群は非転倒群に比べ独居者が多く,生きがいがないと回答したものが多く,糖尿病,脳卒中,骨関節疾患の既往が高く,主観的幸福感が低いという結果が見られた.転倒に影響を及ぼす因子として有意であったものは,日本人は閉じこもり傾向,睡眠薬·安定剤の服用であり,在日コリアンはBADL及び視力の低下,高血圧,抑うつであった.結論:都市部在住高齢者について,転倒群は非転倒群に比べ,閉じこもり,抑うつの傾向が高く,ADL, QOLが低かった.また,特に在日コリアン高齢者には,疾病のコントロールや生活全般を加味したアプローチの必要性が示唆された.
  • 久保 晃, 吉松 竜貴, 西田 裕介
    2009 年 46 巻 3 号 p. 239-243
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/10
    ジャーナル フリー
    目的:下腿三頭筋の推定した最大部位の周径(下腿最大周囲長:Maximum Calf Circumference以下,MCC)を用いて,高齢慢性期入院症例のアルブミン(以下,Alb)およびBody Mass Index(以下,BMI)との関係を検討すること.方法:対象は食形態や食事動作の自立度は様々であるが経口での食事摂取が維持されている高齢慢性期入院症例57例(男性26例,女性31例,年齢80.4±9.9歳:平均±標準偏差)である.対象者の体重,身長,BMI,MCC,Albの性差をt検定で比較した.また,MCCと機能的自立度評価法Functional Independence Measure(以下,FIM)運動項目点,FIM認知項目点,FIM合計点との関係をスピアマンの順位相関を用いて検討し,Alb,BMIとの関係をピアソンの相関分析を用いて検討した.さらに性,年齢,FIM合計点で調整したMCCとAlbの偏相関係数も算出した.結果:体重と身長に性差が認められた(p<0.01)が,BMI,MCCおよびAlbに性差は認められなかった.MCCとFIMとの相関係数は運動,認知,合計点の順にr=0.20,r=0.19,r=0.23で有意な相関は認められなかった.MCCとAlbとの間にはr=0.52(p<0.01),BMIとの間にはr=0.90(p<0.01)と有意な相関を認めた.MCCからBMIを推定する回帰式は,BMI=MCC×0.81-2.44となり,寄与率は0.81であった.また,MCCとAlbとの間の偏相関係数はr=0.40(p<0.01)であった.結論:MCCは,高齢慢性期症例のBMIを推定する上で有用な評価ツールとなることが示唆された.また,全身的な栄養状態を反映する可能性があり,さらに検討する価値があると考えられた.
  • 宮本 正治
    2009 年 46 巻 3 号 p. 244-249
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/10
    ジャーナル フリー
    目的:近年,高齢糖尿病(DM)患者が増加しているが,高齢者でもインスリン治療を要する2型DM例が少なくない.後期高齢者医療制度施行により,"かかりつけ医"の治療する後期高齢DM患者増加が予想されるが,それら患者の日常外来診療で判断できる,簡明なインスリン治療導入基準が求められる.後期高齢2型DMで,インスリン治療必要性を決める要因である内因性インスリン分泌能をグルカゴン負荷試験(以下G負荷試験)にて調べ,インスリン治療要否を判断する指標を検討した.方法:公立つるぎ病院に入院した75歳以上の2型DM患者でG負荷を施行できた例のうち,肥満,進行した肝疾患,腎機能低下を除外した43例が対象である.G負荷は前·空腹時,6分後で血糖,血中Cペプチド(以下CPR)を測定した.その後,血糖コントロールの改善に努め,退院後12カ月目に治療法を調べた.結果:HbA1cを8.0%以下とするためインスリン治療を必要とした18例をI群,経口血糖降下剤治療でコントロール可能であった25例をOHA群とした.空腹時CPR,CPRインデックス(空腹時CPR/空腹時血糖×100,以下CPI),負荷6分後CPRおよび6分後CPR増加量がI群で有意に低値であった(p<0.001).ROC解析にて,曲線下面積はCPI 0.973,6分後CPR 0.964,空腹時CPR 0.922,CPR増加量0.858と,CPIが最大でI群識別に最も有効であり,6分後CPRがほぼ同等だった.CPI 0.9未満でインスリン治療が必要とすると,有効度((真陽性数+真陰性数)/全体数)が93.0%,感度(88.9%)+特異度(96.0%)が184.9%といずれも各指標中で最高だった.CPIと6分後CPRは強く相関した(r=0.801,p<0.001).結論:後期高齢2型DM患者で,CPIはG負荷を施行せず,日常外来診療で安全,容易に,空腹時検査のみで測定可能な,インスリン治療要否を示す有効な指標であり,CPI 0.9未満の例はインスリン治療必要性の高いことが示唆された.
  • 木村 明裕, 岩本 俊彦
    2009 年 46 巻 3 号 p. 250-258
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/10
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者における急性消化管出血の問題点を明らかにすること.方法:下血,吐血,急性貧血症状で入院した急性消化管出血の高齢者(連続85例)を対象として緊急内視鏡検査および臨床像に基づき,その出血源,出血原因を解析した.結果:対象は年齢66∼95歳,男40例で,78例が慢性期脳梗塞,骨·関節疾患,心房細動,認知症などの基礎疾患を複数有し,潰瘍の既往も10例あった.75例には何らかの薬剤(平均5.3種類の薬剤)が処方されていた.初発症状は下血49例,吐血18例,急性貧血症状18例で,得られた緊急内視鏡所見(n=83)より出血源は胃·十二指腸潰瘍,食道炎·AGML,大腸憩室,癌が各々43.4%,13.2%,16.9%,16.9%あった.全体の64.7%にはNSAIDsもしくは抗血栓薬が処方されていた.特に,低用量aspirin,NSAIDsは潰瘍例の三分の二を占め,血栓症の予防や骨·関節疾患,感冒などの対症療法に用いられていた.一方,抗血栓薬は長期に処方され,出血源は多彩であった.その他,steroid,抗認知症薬,SSRI,bisphosphonateの処方例,PPI併用例は各々5例,9例,3例,3例,8例あったが,いずれもNSAIDsや抗血栓薬との併用例も少なくなかった.消化管出血のために抗血栓薬を中断した38例のうちの3例に脳梗塞が発症した.結論:高齢者では基礎疾患に対して複数の治療·予防薬が長期に処方されるようになり,これにNSAIDsが上乗せされる多剤服用例で消化管出血が多かった.この点で,NSAIDsや抗血栓薬の処方は既往歴,薬物歴,特に,今後の高齢者医療で汎用される抗認知症薬,SSRI,bisphosphonateについては十分に検討してから慎重に行うべきである.
症例報告
  • 堀口 愛, 池田 俊太郎, 山根 健一, 泉 直樹, 大島 弘世, 石橋 堅, 大島 清孝, 濱田 希臣
    2009 年 46 巻 3 号 p. 259-263
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/10
    ジャーナル フリー
    高齢者の失神は,加齢に伴う変化や薬物による影響を受けやすい.また原因が多岐にわたるため,診断に難渋する例も多く,詳細な問診や身体診察が診断に重要である.今回失神が診断の契機となったバルサルバ洞動脈瘤の1例を経験した.
    症例は78歳男性.数カ月前より怒責時の失神を認めるようになったため精査加療目的で当院に入院した.聴診所見上,胸骨左縁にLevine2度の収縮期雑音を聴取した.心電図で右側胸部誘導に陰性T波を認めた.心エコー上,右室流出路に突出したバルサルバ洞動脈瘤を認め,心臓カテーテル検査にて肺動脈―右室流出路の圧較差は34 mmHgであった.
    バルサルバ洞動脈瘤の合併症として,右室流出路狭窄,心不全,不整脈,狭心症が挙げられるが症状がなければ見逃されることも多い.本症例では,失神を契機に診断されたが,怒責時の胸腔内圧上昇による右室流出路狭窄増強と左室前負荷の減少による心拍出量の減少が失神の一因として考えられた.
    高齢であり陳旧性脳梗塞によるADLの低下があるため,手術療法は選択せず経過観察とした.4年2カ月の経過観察中症状の増悪やバルサルバ洞動脈瘤の破裂,拡大は認められていない.
  • 山下 和海, 鍋島 篤子, 近藤 浩子, 長尾 哲彦, 原 祐一, 成富 由司
    2009 年 46 巻 3 号 p. 264-268
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/10
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,女性.2004年3月,下血にて直腸癌と診断,5月上旬手術,人工肛門造設.ホリナートカルシウム/テガフール·ウラシル(UFT)内服の化学療法を受けたが,2006年12月に肺転移出現,水腎症合併,両下肢の痺れも出現したため,中断した.2007年3月下旬,癌末期の診断にて当院へ紹介.体調に応じた癌治療を希望された.治療は癌症状に対しては緩和医療にて対応し,癌腫の進行抑制に経口抗癌剤UFT週3Cap·シクロホスファミド(CPA)週1錠を4月中旬より開始.以後,投与量を調整し,同年12月永眠された.7カ月以上の経口摂取可能で,かつ体調の安定した期間を得,腫瘍マーカーの上昇も緩徐であった〔CEA:7.6→18.1,CA19-9:25.7→46.5,体重:27.0→24.5 kg〕.経口抗癌剤による癌休眠療法であるメトロノミック療法は腫瘍血管の新生阻害が主に期待されており,今回はUFTとCPAの併用を行ったが,副作用もなく安全に継続できたと考えた.緩和期高齢癌患者への代替的癌治療として,経口抗癌剤のメトロノミック療法の可能性が示唆された.
短報
委員会報告
  • 秋下 雅弘, 荒井 啓行, 荒井 秀典, 稲松 孝思, 葛谷 雅文, 鈴木 裕介, 寺本 信嗣, 水上 勝義, 森本 茂人, 鳥羽 研二
    2009 年 46 巻 3 号 p. 271-274
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/10
    ジャーナル フリー
    目的:日本老年医学会では,2005年に「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を含む「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を発表した.このような薬物有害反応(ADR)を減らす取り組みにはマスコミも関心を持ち,今般,同ガイドライン作成ワーキンググループとNHKは共同で,老年病専門医に対してADR経験と処方の実態を問うアンケート調査を行った.方法:2008年9月,学会ホームページに掲載された全ての老年病専門医(1,492名)の掲載住所宛にアンケートを郵送した.質問項目は,1)この1年間に経験した高齢者ADRの有無(他機関の処方含む),2)上記リスト薬からベンズアミド系抗精神病薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,ジゴキシン(≥0.15 mg/日),ビタミンD(アルファカルシドール≥1.0 μg/日)および自由追加薬について,過去のADR経験頻度,3)ADR予防目的による薬剤の減量·中止の有無,4)課題と取り組みについての自由意見,とした.結果:回答数425件(29%).1)1年間のADR;72%.2)過去のADR;ベンズアミド79%(稀に54%,よく25%,以下同),ベンゾジアゼピン86%(62%,24%),ジゴキシン70%(61%,9%),ビタミンD 37%(33%,4%).自由回答では,非ステロイド性消炎鎮痛薬が最も多く,降圧薬,抗血小板薬,抗不整脈薬,血糖降下薬,抗うつ薬が次いだ.3)ADR予防目的の減量·中止93%.4)自由意見;ADRに関する医師·患者の啓発活動,老年病専門医の養成,多剤処方回避の指針作りやシステムの確立を挙げる意見が多かった.結語:老年病専門医はADRをよく経験する一方,多くは予防的対策を講じている.今回の意見を,新しい指針作りや啓発活動に生かすべきである.
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