日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
49 巻, 2 号
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第53回日本老年医学会学術集会記録
〈シンポジウム2:健康長寿社会の構築へ向けたアプローチ〉
〈パネルディスカッション1:高齢者の心血管系疾患治療の最前線〉
  • 井関 邦敏
    2012 年 49 巻 2 号 p. 185-186
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    慢性腎臓病(chronic kidney disease,CKD)は心血管疾患(cardiovascular disease,CVD)の発症危険因子である.当初の診断基準では糸球体濾過量(glomerular filtration rate,GFR)の低下,60 ml /min/1.73 m2未満,が3カ月以上持続のみでもCKDとしていた.加齢とともにGFRは低下するが正常人では年間低下速度は0.4 ml /min/1.73 m2未満であり,透析を必要とするまでは進行しない.2009年度にCKD分類が見直されアルブミン(蛋白)尿の程度(陰性,微量,中等以上)が追加され,ステージ3が3a(45~59)と3b(30~44)に二分された.健診受診者ではCVD既往,高血圧,DMの合併頻度がGFRの低下および蛋白尿の程度に伴いいずれも段階的に増加する.高齢者では脱水,薬物(とくに造影剤),手術などの侵襲によって急性腎障害(AKI)を起こしやすく,CKDの発症,進展につながる.CKDはCVD以外にも肺炎,敗血症,骨折,認知症との関連が示唆されている.
  • 原田 和昌
    2012 年 49 巻 2 号 p. 187-190
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    橈骨動脈穿刺法により,虚血性心疾患の冠動脈インターベンション(PCI)は,超高齢者にも安全に行われるようになった.当院で,急性冠症候群発症24時間以内にPCI施行が不可能であった高齢者の院内死亡率は約20%であったが,PCIを行った80~98歳(平均85±4歳)の死亡率は7.3%で,66~79歳(平均73±4歳)は4.6%であった.高齢者の院内イベントには貧血,CRP,CK-MB最大値,多枝病変が関係した.β遮断薬,ACE阻害薬,抗血小板薬などの標準治療にて長期予後は良好で,梗塞量やeGFRが長期予後と関係した.高齢者の急性期のPCIの適応は若年者と同じでよいと考えられるが,高齢者は定型的な症状が多いため,発症時間がわかりにくい例,認知症や腎不全などでPCIができない例が問題となる.一方,高齢者の狭心症は若年者よりもPCIによる予後改善効果が見込まれる.観察研究で薬剤溶出性ステントは高齢者でもイベントを抑制したが,高齢者の急性冠症候群にはベアメタルステントが望ましい.
  • 香坂 俊
    2012 年 49 巻 2 号 p. 191-194
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
〈若手企画シンポジウム2:サルコペニア―研究の現状と未来への展望―〉
原著
  • 大沼 剛, 牧迫 飛雄馬, 阿部 勉, 三浦 久幸, 島田 裕之
    2012 年 49 巻 2 号 p. 214-221
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:訪問リハビリテーションの継続を阻害する要因を明らかにすることを目的とした.方法:訪問リハビリテーションを新規開始した311名(平均年齢77.5±11.0,男性154名)を対象とした.対象者の訪問開始時における年齢,性別,要介護度,主疾患,罹患年数,疾病の有無,Barthel Index,歩行可否,認知症性老人の日常生活自立度,同居者の有無を調査した.対象者のうち,2年以上訪問を継続した者を訪問継続群(73名),2年以内に死亡や入院,入所の理由により在宅生活が中止となった者を在宅生活中止群(73名)とした.死亡,入院,入所以外の理由で訪問リハビリテーションを終了した者(77名)と訪問継続中であるが2年に満たない者(88名)は分析から除外した.結果:訪問開始時の各変数を群間で比較した結果,呼吸器疾患や悪性新生物を有する,歩行が困難,認知機能障害を有する者が訪問継続群に比べて在宅生活中止群で有意に多く(p<0.05),日常生活活動能力の指標であるBarthel Indexが在宅生活中止群で有意に低かった(p<0.05).在宅生活中止の有無を従属変数とし,年齢,性別,同居者の有無及び有意差の認められた調査項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,呼吸器疾患あり(オッズ比4.35,95%信頼区間1.06~17.83,p=0.04),悪性新生物あり(オッズ比13.46,95%信頼区間2.13~85.00,p<0.01),Barthel Index(オッズ比0.97,95%信頼区間0.95~0.99,p<0.01)が在宅生活中止と有意に関連した.結論:呼吸器疾患や悪性新生物を有する訪問リハビリテーション利用者は2年以内に在宅生活が中止となる危険が高いことが示された.また,在宅生活の継続には日常生活活動能力の高さが関連要因となり,訪問リハビリテーション充実の必要性が示唆された.
  • 内田 育恵, 杉浦 彩子, 中島 務, 安藤 富士子, 下方 浩史
    2012 年 49 巻 2 号 p. 222-227
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:我が国における高齢難聴者の現況を推計することを目的として,「国立長寿医療研究センター―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」データを検討した.方法:NILS-LSA第6次調査(2008~2010年実施)より男性1,118名,女性1,076名の計2,194名を対象として,地域住民の粗率に近似すると考えられる5歳階級別難聴有病率を算出した(算定A).また,聴力に有害な作用をもたらす耳疾患と騒音職場就労を除外した算出も行った(算定B).総務省発表人口推計を用いて全国難聴有病者数を推計した.次に第1次調査(1997~2000年実施)時点で,除外項目と難聴定義に該当せず,かつ第6次調査にも参加した男性212名,女性253名の計465名を対象として,10年後の難聴発症率を解析した.結果:難聴有病率は65歳以上で急増していた.算定Aでは,男性の65~69歳,70~74歳,75~79歳,80歳以上の年齢群順に43.7%,51.1%,71.4%,84.3%で,女性では27.7%,41.8%,67.3%,73.3%といずれも高い有病率を示した.算定Bでは,同様の年齢群順に男性で37.9%,51.4%,64.3%,86.8%で,女性では26.5%,35.6%,61.4%,72.6%であった.全国の65歳以上の高齢難聴者の数は,算定Aでは1,655万3千人,算定Bでも1,569万9千人に上った.10年後の難聴発症率は,調査開始時年齢60~64歳群では32.5%,70~74歳群では62.5%と,年齢上昇に伴い高くなったが,依然聴力を良好に維持する高齢者が存在した.結論:高齢者の難聴有病率は高く,全国難聴有病者数推計から,加齢性難聴が日本の国民的課題であることが再確認された.また年を経ても聴力を良好に維持することが可能であると示唆された.
  • 福島 秀樹, 吉冨 隆二, 山出 渉, 杉本 忠彦, 足達 綱三郎, 西 重敬, 大鶴 昇
    2012 年 49 巻 2 号 p. 228-233
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:心不全・腎不全の終末期に全身浮腫をきたすことは通常よくみられる.その中で,全身から大量の浸出液を認める症例が散見され,今回我々は,このような症例について検討を行った.方法:対象は,終末期に低栄養,心・腎不全から乏尿をきたして死亡された患者のうち,全身浮腫をきたし,1日に3,000 ml 以上の浸出液を認めた3例(いずれも男性,81,89,97歳)である.同様に死亡された患者で,浸出液が1日に1,000 ml 以下であった比較患者20例(男10,女10,平均82歳)との間で,一般血液検査値,乏尿に陥ってからの生存期間を比較した.また対象において,同時に採取した浸出液と血清との生化学検査の比較を行った.結果:対象と比較患者の間では,対象の血清BUNが高値傾向(平均138 vs 81 mg/dl )である以外には血液検査値に差を認めず,また対象では乏尿に陥ってからの生存期間が比較患者様より長い傾向(平均14 vs 7日)を認めた.また対象における浸出液と血清の生化学検査の比較では,蛋白,脂質,AST,ALT,γ-GTP,Ca,CRPは浸出液が血清より低値であったが,BUN,Cr,UA,K,Clは浸出液と血清でほぼ同値であった.結論:大量浸出液をきたす原因は,血管透過性を亢進するさまざまな要因の複合が示唆されるが,浸出液中には血清とほぼ同濃度のBUN,UA,Kが含まれる.大量浸出液をきたした患者様では,特にKが体外に排出されることにより,乏尿に陥ってからの生存期間が長くなった可能性も考えられた.また大量浸出液をきたした患者様では,そうでなかった患者様との間で,一般血液検査には明確な差異を認めず,どのような患者様が大量浸出液をきたすかについては,今後の検討を要する.
  • 安齋 紗保理, 柴 喜崇, 芳賀 博
    2012 年 49 巻 2 号 p. 234-240
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:地域在住高齢者の痛みの有無という視点のみでなく,痛みの重複部位の数や程度,継続期間に着目し分析を行い,地域在住高齢者の運動機能低下と痛みの状況との関連を明らかにする.方法:対象者は地域在住高齢者351名で,痛みに関する問診および運動機能低下を把握するために基本チェックリストを用いた調査を実施した.運動機能低下を従属変数,痛みの状況を独立変数とし,それぞれロジスティック回帰分析を行った.結果:男性よりも女性で痛みのある者が多かったが,痛みの程度や重複部位数,継続期間などに差はなかった.ロジスティック回帰分析では,運動機能の低下と痛みがあること(オッズ比:1.74,95%信頼区間:1.06~2.87),上下部体幹に重複した痛みがあること(オッズ比:5.15,95%信頼区間:1.91~13.94),痛みの重複部位が3カ所以上あること(オッズ比:11.56,95%信頼区間:2.78~48.07),痛みの程度が強いこと(オッズ比:4.67,95%信頼区間:2.16~10.11),痛みが5年以上継続していること(オッズ比:3.35,95%信頼区間:1.80~6.22)で有意な関連がみられた.結論:痛みの有無や部位だけでなく,重複部位数や程度,継続期間といった細かな痛みの状況も,運動機能の低下に影響を与えていることが示された.
  • 大沼 剛志, 金高 秀和, 岩本 俊彦
    2012 年 49 巻 2 号 p. 241-249
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者総合的機能評価(CGA)は高齢者医療・介護に欠かせないものの,評価には多くの時間を必要とする.このため,CGA短縮版「Dr. SUPERMAN」の開発を試みたが,CGAの要素である認知機能の評価には時間的な制約で認知症スクリーニングテストであるMMSE(Mini-mental state examination)をそのまま用いることはできない.そこで,MMSEに先行する認知機能の評価課題を策定する目的で本研究を行った.方法:種々の疾患で外来通院中の高齢者90名(平均年齢82.5歳,男40名)を対象としてMMSE各ドメイン(1「時間の見当識」,2「場所の見当識」,3「即時記憶」,4「計算:注意力」,5「遅延再生」,6「言語機能」,7「視空間認知・構成機能」)およびエピソード記憶課題「昨日の夕食のおかずは何でしたか?」を尋ねた.MMSE総合得点から正常(24点以上),低下(23点以下)に分類し,これをゴールドスタンダードとして各ドメイン,エピソード記憶課題およびその組合せの感度,特異度,陽性反応適中率を求め,最も妥当と思われる課題の組合せを策定した.次いで,策定された組合せを高齢者50名に用いて評価時間,検者間信頼度を検討した.結果:MMSE総合得点は10~30点に分布し,正常は42名,低下は48名あった.各ドメインの感度,特異度,陽性反応適中率は,ドメイン1「時間の見当識」が68.8%,87.5%,78.6%,ドメイン2「場所の見当識」が85.4%,85.7%,87.2%,ドメイン4「計算」が89.6%,54.8%,65.2%,ドメイン5「遅延再生」が89.6%,26.2%,58.1%,エピソード記憶課題が66.7%,76.2%,76.2%であった.各課題の性質を考慮して組合せの簡便短縮化を図ると,エピソード記憶課題とドメイン1,4の課題「今年は何年」,「100から7の引き算を2回」の組合せでいずれかに異常があった場合の感度,特異度,陽性反応適中率は各々93.8%,71.4%,78.9%と高かった.また,「Dr. SUPERMAN」の中で計測された評価時間は32~55秒,評価者間一致係数κは0.861であった.結論:MMSEに先行する認知機能の評価課題には「昨日の夕食のおかずは何でしたか?」,「今年は何年」,「100から7の引き算を2回」の組合せが妥当であり,いずれかに誤・無答があればMMSEで評価すべきである.
短報
  • 山川 仁子, 平尾 健太郎, 大沼 剛志, 久米 一誠, 高田 祐輔, 羽生 春夫, 岩本 俊彦
    2012 年 49 巻 2 号 p. 250-252
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:CGA initiative(簡略版)では短時間で行えるうつの評価が必要となる.方法:高齢者70名にGDS-15および設定課題「気分の落ち込み」を尋ね,GDS-15の総得点をゴールドスタンダードとして各15課題および設定課題の感度,特異度,陽性反応適中率を比較した.結果:GDS-15陽性(≥5点)は46名,設定課題陽性は27名あった.各課題のうち課題2の「元気や好奇心がなくなったと感じますか?」が最も良好な統計数値を得た.結論:課題2がGDS-15に先行する質問として妥当と考えられた.
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