日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
49 巻, 3 号
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第53回日本老年医学会学術集会記録
〈シンポジウム3:高齢者認知症をめぐる新たな展開と諸課題〉
〈パネルディスカッション3:在宅ケアからみた急性期病院へのメッセージ 肺炎はどこまで治療すべきか〉
〈Aging Science Forum:アルツハイマー病研究のup-to-date〉
  • 岩坪 威
    2012 年 49 巻 3 号 p. 300-302
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
  • 松岡 正明
    2012 年 49 巻 3 号 p. 303-306
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    我々の研究グループはアルツハイマー病(AD)の神経細胞死のメカニズムを解析するとともに,AD関連神経細胞死を抑制する内在性因子ヒューマニンを応用する治療法開発研究を行ってきた.神経細胞死のメカニズムとして,ADの神経細胞内のTGFβ2発現が高まっていること,そしてTGFβ2がAPPとの結合を介して神経細胞死を引き起こすことを見いだし,TGFβ2の高発現がADの神経細胞死の発生進行に寄与している可能性を提示した.またヒューマニン研究では,ヒューマニンの受容体を同定し,さらに一連の前臨床研究によりヒューマニン療法がTg2576マウスを含む検討した全てのADモデルマウスの認知症を改善すること,ならびにin vivoではヒューマニン療法が神経細胞死のみならず神経機能異常による認知症状も改善することを示し,ヒューマニン療法がADの有力な治療法である可能性を示した.
〈若手企画シンポジウム1:老化・老年病の分子機構 細胞から疾患まで〉
原著
  • 有田 健一, 池上 靖彦
    2012 年 49 巻 3 号 p. 318-324
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的と方法:282名の医師を対象に患者が表明する終末期の事前指示に対する考え方や対応に関するアンケート調査を行い136名から回答を得た(回収率48%).結果:1.事前指示は"可能な限り表明してほしい"とするものが62%,"ケースバイケースで表明したらよい"とするものは36%を占めた.年齢別にみた医師の事前指示表明に対する積極性には有意な関係があり(p=0.020),特に80%が"可能な限り表明してもらいたい"とする40歳以下の医師と,58%が"ケースバイケースで表明すればよい"とする61歳以上の医師の間にみられた回答選択の有意差は明らかであった(p=0.008).2.患者が事前指示を初めて表明するのにふさわしい時期として,死につながる病気(59%)あるいは一生涯付き合わなければならない病気(47%)と診断された時が上位に選ばれた.3.医師から表明が期待された事前指示は"延命のための人工呼吸器装着"に対する意向(76%)で,次いで"胃瘻や鼻チューブによる積極的な栄養補給"に対する意向(67%)が続いた.4.どの年代の医師も文書での事前指示の表明を求めた.5.表明された事前指示に"したがうべき"とする回答は40歳以下の医師で32%,61歳以上の医師で11%であり,40歳以下では"一つの判断材料として参考にはするが最終的には関係者で決めることになる"とする回答はなかったのに対して,61歳以上では39%がこの回答を選んだ.この年齢別の回答選択には有意差がみられた(p=0.002).結論:医師は事前指示作成を勧奨する意欲を有した.この事前指示を実践する場では,40歳以下の医師は作成済みの事前指示の確からしさをいかに判断するかという点を中心に議論と考察を進め,一方,61歳以上の医師は事前指示の臨床上の位置づけや事前指示で示された患者の意思をいかに具現化するかを中心とした議論や検討を行わなければならない.
  • 杉浦 彩子, 内田 育恵, 中島 務, 西田 裕紀子, 丹下 智香子, 安藤 富士子, 下方 浩史
    2012 年 49 巻 3 号 p. 325-329
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:耳垢は高齢者および知的障害者に頻度が高いことが知られており,湿性耳垢の頻度が高い欧米では高齢者の約3割に耳垢栓塞があるという報告もある.しかしながら乾性耳垢の多い日本においての報告はない.今回,本邦における一般地域住民における耳垢の頻度と認知機能,聴力との関連について検討した.方法:『国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究』第5次調査参加者中,60歳以上で,耳垢確認のための鼓膜ビデオ撮影検査を受け,かつ耳疾患の既往のない一般地域住民男女792人を対象とした.Mini-Mental State Examination(MMSE)と良聴耳の耳垢の有無,良聴耳の4周波数平均聴力との関連について一般線形モデルで検討した.結果:対象792人中良聴耳の耳垢を85人(10.7%)に認めた.MMSE 24点以上の群では良聴耳の耳垢が有るのは10.0%だけだったが,MMSE 23点以下の群では23.3%に耳垢を認めた.また良聴耳の平均聴力は年齢,性を調整しても耳垢有群では無群より有意に悪かった(p=0.0001).また,年齢,性,良聴耳平均聴力,教育歴を調整しても耳垢有の群では有意にMMSE得点が低かった(p=0.02).結論:本邦においても高齢者の1割に良聴耳の耳垢を認め,耳垢により聴力が低下している場合があることが示唆された.また耳垢を有する群では認知機能が悪いことが明らかとなった.
  • 原 修一, 三浦 宏子, 山崎 きよ子, 角 保徳
    2012 年 49 巻 3 号 p. 330-335
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:養護老人ホームに入所している高齢者84名を対象に,オーラルディアドコキネシス(OD)とADLとの関連性を明らかにした.方法:ODは,「ぱ」(/pa/),「た」(/ta/),「か」(/ka/)の3種類の音節と,これら音節の組み合わせ「ぱたか」(/pataka/)の繰り返しをそれぞれ測定した.1秒あたりのODの回数を求め,平均値と標準偏差より得た基準値より,それぞれ反復運動維持群(OD維持群)と反復運動低下群(OD低下群)の2群に分類した.また,対象者の包括的ADLと知的機能を,ADL20と改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用いて評価した.ADL20は総スコアと4つの下位尺度スコア(起居動作,身の回り動作,手段的ADL,コミュニケーションADL)を求めた.結果:全てのOD評価において,OD低下群のADL20総スコアとHDS-R評価値は,維持群と比較して有意に低かった(p<0.01).交絡要因調整後の共分散分析の結果,/pa/と/pataka/におけるOD低下群のADL20総スコアは,維持群と比較して有意に低かったが(p<0.05),/ta/と/ka/においては有意な関連性は認められなかった.ADL20下位スコアでは,全てのOD評価において,OD低下群の起居動作スコアは,OD維持群と比較して有意に低かった(p<0.01).また,/pataka/のOD評価において,OD低下群の身の回り動作の下位スコアは,OD維持群と比較して有意に低かった(p<0.01).さらに/pa/のOD評価では,OD低下群におけるコミュニケーションADLの下位スコアは,OD維持群と比較して有意に低かった(p<0.05).結論:オーラルディアドコキネシスは,包括的ADL評価と起居動作に係る基本的ADL評価と有意な関連性を示した.養護老人ホーム入所高齢者のオーラルディアドコキネシスの低下は,ADL低下に随伴して生じることが示唆された.
  • 栗田 明, 品川 直介, 小谷 英太郎, 岩原 真一郎, 高瀬 凡平, 草間 芳樹, 新 博次
    2012 年 49 巻 3 号 p. 336-343
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:2年前の本誌に我々の超高齢者の看取りケアについて報告した.時間の経過とともに症例も増加しているので,その後の経緯と常勤医の立場から特養における医師の役割について私見を述べる.対象および方法:平成20年2月1日から平成23年6月下旬までの間に看取りケアを実施した7例(101.5±4歳,女)と当施設に入所中に病院に入院加療を要請した98歳未満の130例(87±6.5歳,男/女:42/88)及び同時期に入院加療を要請した98歳以上の12例(101.8±7歳,男/女:2/10)である.結果:看取りケアを実施した7例中4例は480±297日で死亡した.現在3例に看取りケアを実施中である(805±662日).入院加療を依頼し当施設へ帰所出来た症例は93例(71.5%,86.7±10歳,男/女:27/66)で,死亡退所例は37例(28.5%,86.4±11歳,男/女:15/22)であった.生存退所例は誤嚥性肺炎についで消化器疾患が多かったが,死亡退所例は誤嚥性肺炎についで心不全が多かった(p<0.05).98歳以上で看取りケアにエントリーしない症例は15例で,12例は入院加療が必要になった.死亡退所例は9例(75%)で,98歳未満の入院症例に比べて多かった.103歳の左乳がん例に摘出術を行い成功し3日後に退院出来た.しかし看取りケア開始90日後に死亡した.当施設の入院加療しない入所者の死亡率は15.3%で全国平均の37.2%に比べて低かった(p<0.01).総括:特養で看取りケアをスムースに行うには病診連携と職員の日頃からの医学的な知識の蓄積が重要である.特養に勤務する医師はこれらの諸点に留意しながら職員の研修や指導を行いながら終末期ケアに取り組むことが肝要である.
  • 西 真理子, 新開 省二, 吉田 裕人, 藤原 佳典, 深谷 太郎, 天野 秀紀, 小川 貴志子, 金 美芝, 渡辺 直紀
    2012 年 49 巻 3 号 p. 344-354
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:地域在宅高齢者における「虚弱(Frailty)」の疫学的特徴を明らかにすることを目的とした.方法:2001年に群馬県草津町在住の70歳以上全高齢者を対象に訪問面接調査を行い,虚弱の出現率を求めた.次いで,2005年に同町と新潟県与板町で行われた高齢者健診(対象70歳以上)のデータを使用し,虚弱高齢者の身体医学的,心理社会的特徴を調べた.虚弱の判定には,虚弱性指標として用いることの妥当性が確認されている「介護予防チェックリスト」を用いた.分析は男女別に行い,各変数について虚弱群と非虚弱群で比較検定し,虚弱の有無と各変数との関連は,年齢,地域,共通罹患の有無,ADL障害の有無を共変量においた多重ロジスティック回帰モデルを用いて分析した.結果:訪問面接調査には916名が応答し(応答率88.2%),うち912名を分析対象とした.虚弱の出現率は,男性で24.3%,女性で32.4%であった.虚弱の出現率は,男性は80歳以降,女性は75歳以降で急増する傾向がみられた.高齢者健診は1,005名が受け,うち974名を分析対象とした.多重ロジスティック回帰分析の結果を総合すると,身体的機能や心理社会的機能,生活機能などの低水準が虚弱高齢者の特徴として示された.また,非虚弱群に比べ虚弱群の方が,認知機能検査の成績が低く,抑うつ傾向の割合が高く,男性で聴力障害,女性で尿失禁や歩行障害の保有率が高いなど,いわゆる老年症候群との関連が示された.一方,心拍数と血圧,男性で一般的な血液検査項目と虚弱との関連は示されなかった.結論:70歳以上の在宅高齢者の約3割が虚弱であった.虚弱があらゆる老年症候群と密接に関係するmultifactorial syndromeであるという病態像が浮かび上がった.虚弱の病態は,心身機能や生活機能などの機能的諸側面の低さに現れやすく,一般的な臨床医学検査には表出されにくい特徴を有することが明らかになった.
  • 鈴木 みずえ, 水野 裕, Brooker Dawn, 大城 一, 金森 雅夫
    2012 年 49 巻 3 号 p. 355-366
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    目的:認知症ケアマッピング(Dementia Care Mapping:DCM)は,パーソン・センタード・ケアの理念の実践を目指した認知症高齢者ケアの質の向上のための観察評価手法である.本研究の目的は施設別にWIB値に影響を及ぼす行動カテゴリーコード(BCC)を明らかにすることである.方法:平成17年4月1日~平成19年7月28日に調査施設を利用,あるいは入所・入院し,文書で研究参加の承諾を得られた認知症高齢者を研究対象者とした.対象者にはMini-Mental State Examination(MMSE),Gottfries-Brane-Steen Scale(GBS)などの機能評価とDCM法を用いて1日6時間の観察を行った.結果:研究の承諾が得られて認知症と診断されたのは256名(男性50名,女性206名)であった.MMSEの全体の平均値は10.83(±8.58)であったが,施設別では通所サービスが最も高く17.14(±6.38),次いでグループホームの16.56(±6.83)であり,最も低いのは老人保健施設(重度認知症病棟)であった.DCMのWIB値で最も高いのはグループホームの1.87(±0.63)であり,最も低かったのは特別養護老人ホームの0.84(±0.56)であった.各施設別のWIB値を目的とした重回帰分析では,年齢,性別,認知症の種類,GBSをコントロールしてもL(仕事),E(創造的活動),H(手芸)に関連した行動はWIB値を有意に促進し,B(受身の交流),C(閉じこもり),U(一方的な交流)がWIB値を有意に抑制していた.結論:グループホームではL(仕事),特別養護老人ホームや療養型病床群ではE(創造的活動),H(手芸)などの活動に関連してWIB値を促進していたことが明らかになった.一方ではB(受身の交流),C(閉じこもり),U(一方的な交流)などがWIB値を抑制しており,介護保険施設における体制の課題などが影響していた可能性も高い.今後の認知症ケアの質を高めるためにこれらの状態を踏まえて十分検討する必要がある.
症例報告
  • 越智 雅之, 篠原 奈子, 鴨川 賢二, 岡田 陽子, 永井 勅久, 田口 敬子, 多喜田 理絵, 伊賀瀬 道也, 小原 克彦, 三木 哲郎
    2012 年 49 巻 3 号 p. 367-371
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/26
    ジャーナル フリー
    症例は69歳女性.X年9月下旬に下痢がみられた.10月初旬に開眼や歩行が困難になった.第2病日より四肢末梢の異常感覚,第5病日から構音・嚥下障害が出現し,意識レベルも低下した.第7病日,意識レベルJCS 2ケタ,項部硬直なし.内・外眼筋の完全麻痺あり,両側顔面の筋力低下あり,聴力低下なし,挺舌困難あり,構音・嚥下障害あり,頸部の筋力低下あり.四肢遠位筋優位の筋力低下あり.深部腱反射は低下していたが,Chaddock反射が両側陽性であった.指鼻試験・膝踵試験は拙劣.四肢末梢で触覚の低下あり,異常感覚あり.髄液検査で蛋白細胞解離を認め,末梢神経伝導検査では左正中神経で伝導速度低下や伝導ブロックを認め,脳波検査では基礎律動は前頭葉から後頭葉まで全般的に6~7 Hzのθ波であり,ときに4~5 Hzのθ波の混入を認めた.免疫グロブリン大量静注療法を行い,四肢の筋力低下,失調は改善し,脳波異常も改善がみられた.外眼筋麻痺は発症1カ月後頃より改善したが,内眼筋麻痺は持続した.血清抗GQ1b抗体が陽性であった.本例は,Fisher症候群に多発性脳神経障害と脳波異常を合併していた.Fisher症候群,Guillain-Barré症候群,Bickerstaff型脳幹脳炎が同一スペクトラムに属することを支持する症例と考えられた.
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