日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
49 巻, 5 号
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第54回日本老年医学会学術集会記録
会長講演
Meet the Expert
原著
  • 乙黒 源英, 大沼 剛志, 平尾 健太郎, 岩本 俊彦
    2012 年 49 巻 5 号 p. 589-596
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/04
    ジャーナル フリー
    目的:Timed Up-and-Go test(TUG)は短時間で行える歩行・バランス機能の評価ツールで高齢者における転倒ハイリスク者の同定に用いられている.このため,簡易版CGA「Dr.SUPERMAN」の試作に際してTUGを採用した.しかし,TUGを行うには3 mの移動距離が必要なため,限られたスペースでは遂行できない.そこで,Berg balance scaleの一部である起立・バランステスト(以下,SBTと略)を考案し,TUGの代替となりうるかどうかを検討した.方法:通院中の高齢者105名(年齢64~97歳,平均81.7歳,男51名)を対象としてTUGおよびSBTを施行した.このうち起立困難の6名を除く99名が解析対象となった.TUGは,起立から着席までの遂行時間が14秒以上かかるか動作中に異常所見がみられれば,陽性とし,その他を陰性とした.このTUG所見を本研究のゴールドスタンダードとして,SBT(起立動作や閉脚立位15秒間の体幹動揺性,開眼片脚起立時間)で評価し,異常所見の有無および計測時間のカットオフ値(3秒から8秒までの各秒ごと)の感度,特異度,陽性反応適中率を検討した.結果:TUG遂行時間は年代順に有意に延長し,陽性者は43名,陰性者は56名あった.一方,開眼片脚起立時間は75歳代より有意に短縮し,1秒に満たない者の多くに体幹動揺性がみられた.TUG所見に対する各条件下のSBT成績で最も識別能が高かったのは「3秒未満もしくは異常所見あり」(感度86%,特異度87.5%,陽性反応適中率84.1%)であった.結論:通院している高齢患者の歩行・バランス機能の評価ツールとしてTUGが行えない条件下では次善の策としてSBTによる「開眼片脚起立時間3秒未満もしくは異常所見あり」が有用であり,TUGの代替テストとなりうると考えられた.
  • 武藤 英二
    2012 年 49 巻 5 号 p. 597-601
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/04
    ジャーナル フリー
    目的:75歳以上の高齢者糖尿病患者における糖尿病合併症の発症リスクについて検討した.方法:対象は75歳以上の高齢者糖尿病117例で糖尿病合併症は網膜症,腎症,脳・心血管障害(CVD)について検討した.糖尿病合併症は発症時より前の5年間におけるすべてのHbA1c(JDS値)の平均値(HbA1c)を合併症のない群のHbA1cと比較した.結果:網膜症(+)群のHbA1cは7.9±1.2%と網膜症(-)群の6.8±0.7%より高値で(p<0.01),腎症(+)群のHbA1cは7.3±1.1%と腎症(-)群の6.7±0.7%より高く(p<0.01),CVD(+)群のHbA1cは7.7±1.3%とCVD(-)群の7.0±0.9%より高値を示した(p<0.05).多因子を補正した網膜症,腎症,CVDの発症リスクはHbA1cが7.5%以上の群でハイリスクであった.HbA1cが7.0%以上群にくらべ7.0%未満群では糖尿病合併症の発症リスクが明らかに低下していた.結論:高齢者糖尿病患者の糖尿病合併症はHbA1cが7.5%以上で高くなり,7.0%未満で合併症予防になると考えられた.
  • 寺井 敏, 岩佐 康行
    2012 年 49 巻 5 号 p. 602-607
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/04
    ジャーナル フリー
    目的:摂食・嚥下障害を有する高度要介護高齢者に対するPEG施行後の転帰について検討した.対象と方法:対象は2006年1月1日から2010年12月31日の5年間に肺炎の診断のもと当院へ入院しPEGが施行された高度要介護高齢者57例(男性24例,女性33例).これらの症例においてPEG施行前のADL,要介護度,基礎疾患,検査成績,摂食・嚥下機能状態(藤島の嚥下グレード分類,VF所見),および,転帰について後ろ向きに調査した.結果:対象者全体の平均年齢は84.7±8.3歳,PEG施行前の総合FIMの平均値は29.7±16.2,要介護度の中央値は4であった.入院時の基礎疾患では,中枢神経変性疾患(アルツハイマー病を含む)と脳卒中後遺症を有する症例が全体の約8割を占めていた.検査成績ではアルブミン値低下とCRP値上昇が認められ,慢性的な炎症反応が反映されているものと思われた.摂食・嚥下機能評価では,藤島の嚥下グレード分類で中等度の障害を認め(障害度区分の中央値は5),VF所見では47/57(82.5%)例に誤嚥,全例に咽頭残留所見が示されていた.PEG施行後の転帰では,生存期間の中央値は451.0±79.8日であり,1年生存率は約56%であった.PEG施行後の死亡件数は51/57件(89.5%)であり,PEG施行日から死亡までの平均期間は518.5±471.7日であった.これら死亡例の死因として肺炎が51例中45例を占めていた(88.2%).結論:著しい認知機能障害とADL低下を有する高度要介護高齢者において,その摂食・嚥下障害への治療対策として施行するPEGはADL向上や肺炎予防への効力は期待出来ず,PEG施行後の転帰も不良であった.
  • 河野 秀久
    2012 年 49 巻 5 号 p. 608-611
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/04
    ジャーナル フリー
    目的:我々の介護老人保健施設で,2010年初旬にRSVによると考えられる気道感染症アウトブレイクを観察し,重症の呼吸器合併症を認めた.その後2012年3月までに気道感染症アウトブレイクを5回経験したが,それらにRSVがどの程度関与しているかを検討した.方法:入所者の訴えと職員の観察から,鼻汁などの上気道症状,咳・痰などの下気道症状を呈する症例を抽出し集計した.RSV抗原検出には市販のイムノクロマト法による迅速検査を用いた.結果:観察した5回の気道感染アウトブレイクのうちRSVを検出したのは1回だけだったが,その他のアウトブレイクと比較して重症呼吸器感染症が有意に多かった(35% vs 11%:p=0.035).RSVアウトブレイクを観察した時期は,周辺医療機関でのRSV感染症報告数が例年の約4倍に増加していた.またアウトブレイクに至らない散発的なRSV感染も2例観察し,そのうち1例で肺炎を認めた.結論:RSVは高齢者でも重症の下気道感染症を生じ得る事を観察した.アウトブレイクに至らないRSV感染が観察され,流行期には施設内に恒常的に搬入されている可能性が考えられた.ただし,今回の観察で使用したRSV迅速検査法は,成人の場合その感度に関してまだ一定の評価が得られていない.文献考察から,報告されている感度の多様性の一因にボカウィルスやヒト・メタニューモウィルスなどの重感染による影響が考えられ,今後の検討を要する.
症例報告
  • 若林 規良, 門脇 徹
    2012 年 49 巻 5 号 p. 612-616
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/04
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性.近医で甲状腺機能亢進症に対しpropylthiouracil(PTU)が約35年にわたり処方されていた.2010年1月初旬より咳が出現,2月に入り血痰も生じるようになったため同院受診.胸部X線写真上,両側肺にびまん性すりガラス陰影を認めたため当院紹介入院.気管支鏡検査にて,気管支粘膜は正常で明らかな出血源は認めなかったが,BALで回数を重ねるごとに濃度を増す血性洗浄液を回収したことより肺胞出血と診断した.PTUの中止と短期間のステロイド内服により血痰は消失,肺胞出血は治癒した.入院時に7分と延長していた出血時間もPTU中止により正常化した.以上よりPTU誘発性びまん性肺胞出血と診断した.その後2年間の経過観察でも再燃は認めていない.PTUを使用して数年経過してから肺胞出血を呈することは知られており,その機序として,ANCA関連血管炎が疑われているが確定はしていない.本例は薬剤投与35年経過後に肺胞出血を発症した極めて稀な症例である.多くの疾患を合併した患者を総合的かつ適切に管理する必要がある老年医学の観点からも,注意喚起が必要な教訓的症例と考えられたため報告する.
  • 佐久間 一基, 石川 崇広, 藤本 昌紀, 竹本 稔, 横手 幸太郎
    2012 年 49 巻 5 号 p. 617-621
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/04
    ジャーナル フリー
    健康食品,新五浄心の長期摂取により偽性アルドステロン症をきたした高齢者の1例を経験した.
    症例は67歳の男性.高血圧症,脂質異常症,高尿酸血症に対し近医にて内服加療中であった.2007年4月に低カリウム血症(3.0 mEq/l),下腿浮腫が出現したため,スピロノラクトン,L-アスパラギン酸カリウム内服を開始するも,血清カリウムは低値(2.8~3.2 mEq/l)で推移した.その後,動悸,こむら返りも頻繁に出現するようになり,2009年12月低カリウム血症の精査目的に当科紹介となった.当科受診時の血清カリウム2.4 mEq/l,血漿レニン活性0.1 ng/ml/hr以下,血中アルドステロン濃度34 pg/mlと低下を認めた.外来における病歴聴取では甘草,グリチルリチンを含有する医薬品の摂取歴はなく,偽性アルドステロン症が疑われ,精査目的に2010年2月当科に入院となった.入院時の詳細な病歴聴取により2007年2月より健康食品である新五浄心を摂取していることが判明した.入院後,新五浄心を中止し,カリウム製剤の補充を継続したところ,低カリウム血症は改善し,カリウム製剤補充も中止した.精査の結果,他に偽性アルドステロン症をきたす疾患は否定的であり,新五浄心による,偽性アルドステロン症と考えられた.これまで新五浄心による偽性アルドステロン症の報告はない.さらに高齢者の偽性アルドステロン症では,甘草,グリチルリチンを含有する医薬品だけではなく,一般市販薬,健康食品を含めた詳細な服薬歴の問診も大切であると思われ報告する.
  • 藤城 弘樹
    2012 年 49 巻 5 号 p. 622-626
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/04
    ジャーナル フリー
    レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)は,高齢期に発症する頻度の高い変性性認知症であり,幻視を高頻度に伴うことが特徴である.しかし,DLBの幻視発現に関しては,その生物学的機序は明らかとなっておらず,その薬物療法は確立されていない.今回,幻視を主訴とするDLB患者に対して,Ramelteonの投与が有効であった2症例を経験した.症例1は72歳女性.71歳ごろから物忘れと歩行障害が出現し,近医を受診し,アルツハイマー病と診断され,Donepezil 5 mg/日の投与が開始された.翌年幻覚妄想が出現し,専門医に紹介受診となり,初診時Mini-Mental State Examination(MMSE)25点であった.症例2は81歳男性.78歳から亡くなった妻が夢に出てくると訴え,80歳ごろより物忘れが出現した.81歳時に「死んだ妻が立っている」「顔のない二人の女のヒトが家の中を行き来している」と幻視の訴えが出現したため受診に至り,MMSE20点であった.Donepezilを投与開始したが,副作用のため継続困難となった.両症例ともに独居であり,夜中に幻視内容について家族に電話することが,介護負担と関係していると考えられ,不眠に対してRamelteonの投与を行った.いずれの症例も投与開始約8週後に幻視が消失した.Ramelteonは,選択的メラトニンMT1/MT2受容体アゴニストであり,複数の無作為試験においてきわめて高い安全性が示されており,独居で見守りが出来ない環境において,比較的投与しやすい薬剤と考えられた.また,メラトニンはレム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder:RBD)に対するClonazepamに次ぐ第二選択薬とされているため,DLBに高頻度に認められるRBDと幻視の発現の関係について考察を行った.
  • 大田 秀隆, 本多 正幸, 山口 泰弘, 秋下 雅弘, 大内 尉義
    2012 年 49 巻 5 号 p. 627-631
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/04
    ジャーナル フリー
    プロトンポンプ阻害薬であるランソプラゾール長期内服によるcollagenous colitisが原因となった,慢性に持続する水様下痢症の一例を報告する.症例は75歳女性.ランソプラゾール(30 mg/日)内服開始後より水様性下痢および体重減少が持続し,上部・下部消化管内視鏡・便中脂肪精査・消化管シンチが施行されたが,上部消化管内視鏡で萎縮性胃炎を認めた以外に異常所見は認められず,以後2年以上にわたり慢性的な下痢が持続していた.2011年5月末より,下痢症状に加え,歩行障害・意識障害が出現し,原因精査および加療目的に入院となった.入院後,薬剤性の下痢を疑ってランソプラゾールを中止しファモチジン(20 mg/日)に変更,中止後数日で下痢は軽快消失しており,同剤によるcollagenous colitisが原因として疑われた.下部消化管内視鏡による病理組織検体からcollagenous colitisの所見を認め,確定診断に至った.
    collagenous colitisは特に高齢女性に多いことがわかっている.原因不明の難治性下痢症として放置されることが多く,長期間持続する下血を伴わない水様下痢が主症状であり,腹痛・体重減少・低蛋白血症を伴うこともある.これらの症状は,通常は原因薬剤の中止のみで数日~数週で症状は改善し治癒するが,放置されたまま原因不明の下痢症として扱われている場合も多い.これら慢性的な下痢症状は,高齢患者のADLを著しく低下させ,また介護者による負担をも増やすことになる.
    今回の症例のように確定診断には,その他の原因疾患の除外・下部内視鏡検査正常所見・下部消化管内視鏡による大腸粘膜生検が必須であるが,確定診断に至る前にcollagenous colitisを念頭に,原因となる薬剤を中止してみることが重要であると考えられ,ここに報告する.
高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン:人工的水分・栄養補給の導入を中心として
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