日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
5 巻, 3 号
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  • 第I報 主として循環器系および腎機能の検査成績について
    藤井 孝
    1968 年 5 巻 3 号 p. 245-252
    発行日: 1968/05/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    日本一の長寿者, 中村重兵衛翁の居住する三陸沿岸釜石市の90才以上の高令者32名について主として循環器系および腎機能の検査を行ない長寿の因子の分析に資せんと試みた.
    老年者には肥満体が少ないといわれるが, 本調査でも標準体重よりも20%以上の者は4例しかなく, 40%以上の2例は尿糖か室腹時血糖のいずれかに異常をみた.
    収縮期血圧が170mmHg以上の者は26名あり, そのうち拡張期血圧100mmHg未満のものが11例 (42.3%) であり, また脈圧70mmHg以上のものが26名もあり, 対象中の高血圧症の大部分が老人性高血圧症であった.
    心電図に異常を認めないものは3例のみで, 異常心電図のうち, ST異常群は17.9%, 左室肥大は14.9%であり, 低電位は比較的多く10.4%あった.
    尿蛋白は陰性 (-) が1例もなく, 疑陽性 (±) が12.5%, 弱陽性 (+) が78.1%, 強陽性 (++) が9.4%であった. 尿素窒素の平均値は16.1±2.7mg/dlで, 15mg/dl以上のものは57.7%であったが異常に高値を示したものはなかった. PSP排泄試験15分値が正常の者は11.5%のみであり, 排泄値10%未満の異常者が42.3%もみられた.
  • 第II報 病態生理および栄養調査について
    藤井 孝
    1968 年 5 巻 3 号 p. 253-261
    発行日: 1968/05/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    日本一の長寿者, 中村重兵衛翁の居住する三陸沿岸釜石市の90才以上の高令者32名について第I報においては主として循環器系および腎機能の検査の結果について報告した. 本報においては血清脂質, 尿糖および室腹時血糖, 肝機能など代謝に関する諸検査, 栄養調査, 眼科的検査などを実施したのでその結果を報告する. 血清総 cholesterol 濃度は男子186.3±22.1mg/dl, 女子212.6±72.3mg/dlで女子の方が高い傾向を示した. triglycerides は120mg/dl以上は1例のみであった. β-lipoprotein は全例3.0mm以下で正常範囲にあった.
    室腹時血糖値100mg/dlを超える異常者は5例あったが, これらの例ではすべて尿糖陰性であった. 一方, 尿糖は陰性が23例, (±) 2例, (+) 2例, (++) 1例あった. 尿糖異常者の室腹時血糖はすべて100mg/dl以下であって糖尿病者を認めなかった.
    Transaminase は全例正常範囲にあり, CCFは (+) 以上は34.4%であった. TTTは4単位以上が57.1%であった. ZTTは12単位以上のものは15.6%であった.
    視力は全員0.3以下であり, 調査した54眼中, 眼底の細動脈の状態がいくぶん判定できたものは13眼のみであったが, 老人性白内障の変化が強く, その程度を分類しえなかった.
    栄養調査では動物性蛋白と植物性蛋白はほぼ同量で, その摂取量は体重1kg当たり1.0~1.5gであった. Mineral および vitamin 類では燐以外のものは一般に摂取量が少ないが, 100才の女子と113才の男子の2例では vitamin Aの摂取量が多く, また摂取カロリーに対する vitamin B群の摂取量は比較的多かった.
  • 各種発育段階の原発巣ならびに肺転移巣の病理組織学的研究
    三浦 馥
    1968 年 5 巻 3 号 p. 262-273
    発行日: 1968/05/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    胃癌手術例143例 (小範囲表在癌30例, 広範囲表在癌35例, 進行癌78例) および肺転移形成を伴なった胃癌剖検例120例を検索し, その組織像ならびに肺における発育進展様相について, 主として年令差を中心に検討した.
    原発巣における胃癌組織像は, 発育初期においては腺癌像が大部分を占めているが, 発育進展に伴ない腺癌像が減少し, 単細胞癌像および単純癌像が増加する傾向がみられた. この傾向は若年者にとくに顕著なため, 癌の発育進展に伴なって年令差が明瞭化してくることを示した.
    肺転移巣においては, 癌組織像の年令差は胃原発巣に比べ不明瞭化するが, 肺内進展様相に顕著な年令差がみられた. すなわち, 間質性進展は若年者に多く, 逐令的に減少し, これにかわり他の進展様式とくに肺胞内浸潤性進展が逐令的に増加することをみた.
    これらの年令差の発現には, 宿主の年令差に基づく癌細胞自身の性格の差によるよりはむしろ, 癌細胞発育の場である間質の性格の年令差によるところが大である点を考察した.
  • 村松 睦, 梁瀬 誠, 岩本 昌昭, 岡野 一年, 奥平 雅彦
    1968 年 5 巻 3 号 p. 274-280
    発行日: 1968/05/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    最近, 心血管系の動脈硬化性疾患の予防管理は, いわゆる成人病対策上きわめて重要である.
    われわれは, ここ数年来, 臨床上容易にえられる胸部側面レントゲン写真上の大動脈影の出現度を追求し, その明瞭度よりI~IV度に分類して, 高血圧症, 脳血管障害, 心電図変化などとの相関性を調査し, また, 最近の本院における剖検例についても陰影形成因子について検討した. 対象としては, 本院入院患者および外来受診者と附属老人ホーム入居者319名を調査対象とした. 臨床的には, 高血圧継続者・脳卒中後遺症者は動脈硬化進展者にみられるところのIII~IV群を呈する者が多く, また心電図上ST偏位を示すものもIII~IV群に多い, その他の臨床検査成績も, だいたい, われわれの分類に相関する. また, 剖検例についても, 生前のX線分類でI~II群の者とIII~IV群の者では肉眼的検索および大動脈のスダンIV染色, 超軟線X線撮影上の石灰化巣の追求からも, 明らかに粥状硬化所見が後者に著明に認められた. また, 組織学的所見においてもIII~IV群大動脈壁の中膜は過伸展され菲薄化しているが, 内膜は膠原線維の増生, コレステリン沈着, 石灰化が著明となっており, 陰影形成因子の主体となっている点を明らかにした. 以上の諸点より日常容易にえられる胸部側面X線写真上の胸部大動脈影の分類観察が動脈硬化病変の管理上有用であるとの結論をえた.
  • 益子 尚彦, 村田 睦男, 岩田 正一, 神原 道夫, 梶川 健造
    1968 年 5 巻 3 号 p. 281-288
    発行日: 1968/05/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    延髄は, 諸中枢のある生命維持に重要な部位でありながら, 臨床的にその障害を探知することが, はなはだむずかしい. 著者は球麻痺の折の舌突出不能にヒントをえて, 過去十余年, 舌筋の筋電図学的追求を行ない, 延髄障害例では下部ネウロン障害像を高率に認めることを報告してきた.
    今回は, 老年者の延髄障害を多角的に追求し次の結果をえた.
    1) 臨床的に延髄障害の明らかな51例を50才以上の老年者 (以下「老」) 40例と, それ以下 (以下「若」) の11例に分けて対比したところ, (1)症状は両者合わせて構語障害が首位で, 頭痛, 嚥下障害とつづき, (2)成因では両者とも, 血管原性が高率だが,「老」では脳血栓が主体で, 高血圧, 眼底動脈硬化をもつこと, (3)舌筋筋電図の検索で高率に下部ネウロン障害知見をもつこと等の結果をえ, 典型例についてのべた.
    2) 延髄障害の明らかでない某老人ホームの60才以上の高令者50症例の検討で, 46%の率に舌筋筋電図で下部ネウロン障害波形を認めた.
    3) 血圧との関連があり, 老年者の延髄障害例では高血圧のものが多いこと, 頸動脈洞ブロック, および, その前後のノルエピネフリン試験に対する血圧の上昇反応態度が球麻痺例では異なることをのべた.
    以上, 老年者の延髄障害例では, 少数例の変性疾患をのぞいては, 動脈硬化を根底とした血管原性障害例が多く, 高血圧を有し, 舌筋筋電図上, 下部ネウロン障害像を高率に認めたが, 一方, 延髄障害の明らかでない高令者に, 舌筋筋電図上, かなりの率に下部ネウロン障害知見の認められることより, 球麻痺にいたる延髄部の潜在性障害の存在が考えられ, 早くこれを舌筋筋電図により探知して治療面で抑え, 球麻痺にいたらしめぬようにすることが肝要であると考え, この点を強調した.
  • 杉浦 昌也, 飯塚 楯夫, 飯塚 啓, 岡田 了三, 嶋田 裕之
    1968 年 5 巻 3 号 p. 289-294
    発行日: 1968/05/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳腫瘍の発生は60才以上ではまれであり, またその症状も典型的なものは少ないとされている. 著者らは最近数年間に経験した髄膜腫4例と松果体腫1例を報告した.
    髄膜腫の4例はいずれも75才以上の女子で (第1例75才, 第2例82才, 第3例75才, 第4例79才), 松果体腫の1例は63才の男子である. 発生部位は症例順に前側頭, 側頭, 頭頂穹隆, 翼状突起下および側脳室下と一定していない. 大きさは2×1cmから5×4.5cm大にわたり, また組織学的には髄膜上皮性髄膜腫3例, 線維芽細胞性髄膜腫およびやや未分化な松果体腫それぞれ1例で, いずれもその存在は剖検によってはじめて判明したものである.
    臨床的には, いずれも脳血管障害による脳卒中とされ, 顧みて, 腫瘍による症状を呈したものは3例 (第1, 2, 5例) で, 第1例および第5例では脳実質の変化はなく, 第2例では髄膜腫よりの出血がクモ膜下に及んだ. これは最近2年間に剖検した脳血管障害死64例中の3例, 4.7%に相当する.
    一方, 2×1cm大の比較的小さな腫瘍 (第3, 4例) では, 2例とも圧迫症状その他の症状はみられず, いずれも共存する脳軟化により生前の臨床症状が説明される.
    以上髄膜腫は, 老年者脳腫瘍の中では剖検上かなりの頻度にみられるにもかかわらず, その進展が遅いためか, 圧迫症状などを呈することがまれで, したがって生存時は, 無症状ないし脳血管障害と誤診される可能性の高いことをのべた.
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