日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
5 巻, 4 号
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  • 大和田 英美
    1968 年 5 巻 4 号 p. 297-315
    発行日: 1968/07/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    動脈粥状硬化症に対する甲状腺ホルモンの作用を検索するために, 体重2kg前後の雄性家兎を以下の6群に分け, 1) 対照群, 2) 1年間連続 lanolin 経口投与群, 3) 甲状腺摘出術施行直後より6カ月間連続 lanolin 経口投与群, 4) 甲状腺摘出術施行直後より1年間連続 lanolin 経口投与群, 5) 甲状腺摘出術施行直後より6カ月間連続 lanolin 経口投与し, その後の6カ月間は連続 lanolin 経口投与と thyroxin 皮下注射とを併用した群, 6)甲状腺摘出術施行直後より1年間連続 lanolin 経口投与と thyroxin 皮下注射とを併用した群として, それらの大動脈について病理組織学的, 組織化学的に検索した.
    その結果, lanolin 経口投与のみでは大動脈内膜組織に単純な細胞性および問質性脂肪化 (すなわち内膜脂肪化) のみがみられ, これに甲状腺摘出術を加えると動脈内膜組織の不規則な脂肪性壊死 (粥腫形成) と内膜組織の線維性硬化 (すなわち大動脈内膜粥状硬化症) がみられた. しかるにこれに甲状腺ホルモンを最初より補うと大動脈内膜組織には脂肪性壊死および線維性硬化は現われない. またこれに6カ月後から甲状腺ホルモンを補うと大動脈内膜組織には軽度の線維化が認められるのみで脂肪性壊死 (粥腫形成) はみられない.
    これらのことから, 甲状腺ホルモンは動脈内膜粥状硬化症の発生に対しては抑制的に作用し, 甲状腺ホルモンの欠如は, 内膜粥状硬化症の発生に対し促進的に作用し, さらに甲状腺脱落性動脈内膜粥状硬化症に対しては, 線維化を残して粥腫を吸収, 修復する作用を有するものと思われる.
  • 大和田 英美
    1968 年 5 巻 4 号 p. 316-325
    発行日: 1968/07/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    第I報において甲状腺ホルモンと大動脈粥状硬化症とのあいだに密接な関連性が存在することを報告した. 今回は心臓および大脳の動脈系の粥状硬化症に対する甲状腺ホルモンの作用を検索する目的で第I報で報告した同一家兎の心臓と大脳の動脈系および内分泌腺臓器とを病理組織学的に検索した. その結果 lanolin 投与のみでは心臓冠状動脈および大脳脈絡叢動脈内膜組織に単純な細胞性および間質性脂肪化 (いわゆる内膜脂肪化) のみがみられ, これに甲状腺摘出術を加えると, 半年間で心臓冠状動脈および大脳脈絡叢動脈の内膜組織に脂肪性壊死 (粥腫形成) と線維性硬化がみられ, 1年間ではさらに心膜大動脈弁および僧帽弁にも粥腫形成がみられた. しかるにこれに甲状腺ホルモンを最初より補うと心臓冠状動脈および大脳脈絡叢動脈内膜組織には脂肪性壊死も線維性硬化も現われない. またこれに6カ月後から甲状腺ホルモンを補うと心臓冠状動脈内膜組織には軽度の粥腫形成がみられるが, その粥腫巣内および粥腫巣周囲の内膜組織には内膜紡錘形細胞の増殖像がみられ, それらの細胞には核等に退行性変性像はみられず, 粥腫の吸収像と思われる所見をみた. 大脳脈絡叢動脈内膜組織には軽度の線維化をみるのみであった. 以上の所見より甲状腺ホルモンは心臓冠状動脈および大脳脈絡叢動脈内膜粥状硬化症の発生に対しては抑制的に作用し, 甲状腺ホルモンの欠如は粥状硬化症の発生に対しては促進的に作用しさらに甲状腺脱落性内膜粥状硬化症に対しては粥腫巣内および粥腫巣周囲への内膜紡錘形細胞の増殖により粥腫を吸収しさらに内膜組織の線維化を残して修復する作用を有するものと思われる. 内分泌腺では lanolin 経口投与のみでは甲状腺機能亢進の所見がみられ, 脳下垂体前葉の主細胞と酸嗜好性細胞の増殖像, 副腎皮質の肥大像, 膵臓 Langerhans 島細胞の肥大増殖像がみられた. 甲状腺摘出術を加えると, 脳下垂体前葉の主細胞と塩基好性細胞の増殖像, 副腎皮質の萎縮像, 膵臓 Langerhans 島細胞の肥大増殖像がみられた. これに初めよりサイロキシンを補うと, 内分泌臓器は対照群とほぼ同様の所見であり, 6カ月後よりサイロキシンを補うと, 甲状腺摘出後6カ月間の lanolin 経口投与によって増殖した脳下垂体前葉の主細胞と塩基好性細胞と膵臓 Langerhans 島細胞等は萎縮性にみられ副腎皮質も萎縮性に認められた.
  • 網膜動脈ならびに脳内動脈枝の病理組織学的所見と年令・血圧との関係
    柴田 茂男
    1968 年 5 巻 4 号 p. 326-336
    発行日: 1968/07/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳卒中の成因に関しては幾多の疫学的ならびに病理学的検討がなされているが, 脳卒中と眼底所見との関係についてはまだ定説がない. 著者は脳卒中の予知に関する基礎的な研究として眼底所見, ことに網膜血管病変のもつ意義について検討を行なっているが, 今回は脳卒中にもっとも関連が深いと考えられる脳内動脈枝と網膜動脈の病理組織学的所見を検索するとともに, これらの所見が年令・血圧によってどのような影響をうけるかについて検討した. 対象は東大分院ならびに浴風会の剖検にさいし無選択的に眼球 (主として左側) を摘出しえた239例, この中で脳を検索しえたのは222例である. 病理組織学的検索部位は網膜動脈としては乳頭を中心として7~8乳頭径の範囲のもの, 脳内小細動脈枝は脳基底核部 (主として線状体ならびに内包領域) のものである. 両血管の内膜については, 肥厚, アテローム変性ならびに石炭化学を指標として, 中膜では, その厚さの大小, 線維化ないし硝子化, 石灰化ならびに血管壊死等を指標として検索を行ない次の成績をえた.
    (1) 網膜動脈の中膜肥厚は主として高血圧に起因するものと考えられる.
    (2) 網膜動脈の中膜膠原化は主として経年的な変化であるが, 高血圧によって促進されると考えられる.
    (3) 脳内動脈枝の内膜肥厚も主として年とともに増加するが, 高血圧によって多少促進される.
    (4) 脳内動脈枝の血管壊死は主として高血圧によって生ずると考えられるが, その他の因子, 特に経年的因子や腎性因子も軽視できない.
  • 中沢 敏
    1968 年 5 巻 4 号 p. 337-364
    発行日: 1968/07/31
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    動脈硬化症における脂質構成の異常を, 動脈硬化症人血清および動脈壁高度アテローム部位の脂質定量, 脂酸構成の測定により明らかにし, さらにラットを用いて老化動物にも同様の動脈硬化性変化が存するかどうかを検討した. また動脈硬化による脂質構成の異常が, VB2酪酸エステルを投与することにより改善されるかどうかを, 人およびラットで実験した.
    1) 動脈硬化症人血清で, トリグリセライドの著増, 脂酸構成におけるオレイン酸%の増加, リノール酸, アラキドン酸%, L/O比の減少等を一般的に認めた. 大動脈壁高度アテローム部位では各脂質とくに総コレステロールの増加が著明であった. 大動脈, 脳底動脈ともに高度アテローム部位では, リノール酸%の増加を認めた.
    2) 老化ラットの血清脂質量は正常群に比して著変なかったが, 大動脈壁ではコレステロールの増加を認めた. 老化ラットの血清脂酸構成の異常は, オレイン酸%の増加, リノール酸, アラキドン酸%, L/O比の減少等で, 大動脈壁のそれとよく一致しており, また動脈硬化症人血清の変化ときわめて類似し, 動脈硬化症の初期像と考えられた.
    3) 動脈硬化症において, 人およびラットの血清, 大動脈壁ともにアラキドン酸%の減少が認められた,
    4) 老化ラットに高脂肪, 低蛋白を基準とした実験食を与え, 動脈硬化性変化がさらに著明化することを認め, VB2酪酸エステルをこれに同時に投与することにより, かかる変化の改善を認めた. とくにアラキドン酸%の増加が明らかであった.
    5) 動脈硬化症人血清にVB2酪酸エステルを経口投与することにより, トリグリセライド, コレステロールの減少, 血清脂酸構成ではリノール酸, アラキドン酸%, L/O比の増加等の傾向を認め, 動物人体ともに動脈硬化症に対するVB2酪酸エステルの効果を認めた.
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