日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
50 巻, 3 号
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第54回日本老年医学会学術集会記録
シンポジウム7:『健康長寿診療ハンドブック』は健康長寿に貢献できるか
パネルディスカッション1:フィールド医学からみた地域在住高齢者の健康
  • 山本 直宗
    2013 年 50 巻 3 号 p. 312-315
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
  • 宮野 伊知郎
    2013 年 50 巻 3 号 p. 316-318
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
  • 和田 泰三
    2013 年 50 巻 3 号 p. 319-322
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    地域在住高齢者の健康を抑うつスクリーニングとAdvance Care Planning(事前ケア計画)の2つの視点からとらえた.
    Geriatric Depression Scale(GDS-15)は高齢者抑うつ評価に広く用いられているが,抑うつの有無1項目だけでもスクリーニングには有効である.国内外の地域在住者において,抑うつ傾向のあるものは日常生活動作,老研式活動能力指標,および主観的QOLがそれぞれ有意に低いことがあきらかとなった.Advance Care Planning(ACP)とは意志決定能力のある患者の人生観や死生観,好み,考え方などを医療チームと家族が理解・確認し共有していくプロセスのことをいう.その対話の結果,リビング・ウィルや医療代理人の指定といったことにつながることもあるが,その目的は将来必ず訪れる終末期をその人らしく,よりよいものにするための準備作業である.日本文化にあった事前ケア計画の実践では,家族間での対話がもっとも重視されるべきであろう.
  • 奥宮 清人
    2013 年 50 巻 3 号 p. 323-325
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    地球規模で進行する高齢化とそれに伴う生活習慣病は「身体に刻み込まれた地球環境問題」と考えられる.高地環境に対する人間の医学生理的適応と「高地文明」とも呼びうる生態・文化的適応を明らかにし,近年の生活様式の変化がいかに老人のQuality of life(QOL)に影響を及ぼしているかを明らかにするために,チベット高所住民の包括的な健康調査を行った.生態学的に異なるチベットの3地域のいずれにおいても,伝統的な牧畜や農牧の生業から,都市への移住などによるライフスタイルの変化により,生活習慣病(肥満,高血圧,糖尿病)の増加のみでなく,生活機能障害や主観的QOLの低下が見られた.高所住民の生活習慣病の予防と彼らの高いQOLをいかに維持していくかが今後の課題である.
  • 木村 友美
    2013 年 50 巻 3 号 p. 326-329
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
  • 石川 元直, 山中 学, 中嶋 俊, 諏訪 邦明, 松田 晶子, 中岡 隆志, 奥宮 清人, 松林 公蔵, 大塚 邦明
    2013 年 50 巻 3 号 p. 330-334
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    目的:うつ病は高齢者に最も多くみられる精神疾患の一つであり,高齢者のQuality of Lifeに悪影響を与えているが,有病率は地域によってばらつきが大きい.アメリカでは高所での自殺率が高く,一因として低酸素環境とうつ病の関連が指摘されている.しかしアメリカ以外でも同様の傾向があるかはまだわかっていない.そこで私たちはヒマラヤ・アンデスの高地在住の高齢者のうつ病の調査を行うことを目的とした.方法:私たちは2009年7月~2011年7月にインド・Ladakh地方のDomkhar村とChangthang高原,中国青海省玉樹,ペルー山間部のPuycaおよびChurcaを訪問した.それぞれ本調査に同意の得られた地域住民114人(平均年齢69.2歳,女性58.8%),206人(平均年齢55.1歳,女性43.7%),173人(平均年齢66.5歳,女性61.3%),103人(平均年齢69.0歳,女性68.0%)を対象とした.参加者全員に対し,身体診察や血液検査などの一般内科健診の一環として,Patient Health Questionaire-2(PHQ-2)を用いてうつ病のスクリーニングを行った.PHQ-2の1項目以上が陽性であった住民に対し専門医が半構造化面接を行い,うつ病の有無を診断した.結果:PHQ-2の1項目以上陽性であったのはDomkhar村で7.0%,Changthang高原で5.3%,青海省で36.9%,PuycaおよびChurcaで15.5%であった.これらの住民に対して専門医が面接したところ,DSM-IVの大うつ病性障害の診断基準を満たしたのは,それぞれ2例(1.8%),4例(1.9%),4例(2.3%),3例(2.9%)であった.うつ病発症の原因として,他地域と同様,近親者との死別や健康の問題といったライフイベントの存在が挙げられた.結語:ヒマラヤおよびアンデスの高地在住の高齢者のうつ病有病率はいずれも低く,有病率が低い一因として宗教,家族・地域の結びつきなどの文化的要因が考えられる.
  • 坂本 龍太
    2013 年 50 巻 3 号 p. 335-337
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
パネルディスカッション3:専門職から老年科医への要望・注文・苦言:開かれた連携を目指して
Aging Science Forum:エイジングサイエンスと抗加齢医学・医療
  • 重本 和宏, 森 秀一, 福永 大地, 宮崎 剛
    2013 年 50 巻 3 号 p. 349-351
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
  • 小原 克彦
    2013 年 50 巻 3 号 p. 352-355
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
  • 新井 康通, 広瀬 信義
    2013 年 50 巻 3 号 p. 356-358
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    近年の基礎老化研究の目覚ましい進歩により老化のメカニズムに関する数多くの仮説や知見が提唱されている.百寿者研究は学際的,包括的な研究でありその目的も多岐にわたるが,長寿モデル動物で観察された老化制御機構が実際のヒトの長寿にもあてはまるか検証することは重要な目的の一つである.われわれは1992年に百寿者調査を開始したが,当時に比較すると全国の百寿者数は10倍以上に増加しており,それに伴って虚弱な百寿者も増えた印象がある.一方,105歳以上まで到達する方々は病気や介護状態になりにくいことが判明し,2002年から105歳調査を開始した.これまでに500名以上の105歳高齢者の血液サンプルを採取したが,この中には58名の110歳以上の超百寿者(スーパーセンチナリアン)が含まれる.超百寿者は厚生労働省の統計では全国で78名(平成22年)が存在するのみであり,百寿者(100歳以上の高齢者すべて)が総人口約2,400人に一人の割合で存在するのに対し,超百寿者は総人口約150万人に一人の稀有な存在であり,世界一の長寿国であるわが国においても長寿のスーパーエリートである.さらに,われわれの調査から超百寿者は糖尿病の罹患率が極めて低いことが明らかになった.超百寿者の健康長寿のメカニズムを解明するため,われわれは全ゲノム配列解析,プロテオーム解析,またiPS細胞による長寿細胞モデルの手法を取り入れ,従来のhypothesis testing(基礎老化研究から導かれる仮説の検証)からhypothesis generating(新しい仮説の提案)な研究を目指し,抗加齢医療の臨床応用に貢献したいと考えている.
若手企画シンポジウム2:高齢者のための再生医療~研究の現状と未来への展望~
  • 田口 明彦
    2013 年 50 巻 3 号 p. 359-361
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    目的:現在わが国では急速な高齢化社会を迎えており,それに伴う高齢身体障害者の増加が極めて深刻な社会問題となっている.平成20年度厚生労働白書によると,65歳以上の身体障害者は216万人と依然上昇傾向で,寝たきり者の約1/3が脳血管障害患者であり,脳血管障害に対する新規治療法開発は我が国にとり非常に重要な課題である.方法:我々は脳梗塞後に誘導された神経幹細胞の生着・機能には血管再生が必要不可欠であり,骨髄単核球投与で血管再生・神経機能回復が促進することを報告してきた.これらの知見に基づき自己骨髄単核球細胞移植による臨床試験を実施中である.プロトコールの概要は,(1)75歳以下の重症心原性脳塞栓症患者が対象,(2)脳梗塞発症7日~10日目に骨髄細胞を採取(低用量群25 ml,高用量群50 ml),(3)比重遠心法による単核球分画の分離,(4)同日に静脈内に全量投与である.結果:既に低用量群は終了しているが重篤な有害事象は観察されておらず,また脳梗塞のサイズ・部位に比し良好な機能回復を示す症例も観察されている.結論:現在,治療対象群を拡大した多施設共同臨床試験に向けたプロトコール作成および安全で簡単な細胞治療用骨髄単核球精製デバイスの開発を行っており,細胞治療をより普遍的な治療法として普及させるための研究を行っている.
  • 山本 徳則, 後藤 百万
    2013 年 50 巻 3 号 p. 362-365
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
  • 金子 英司, 泉本 典彦, 豊島 堅志, 阿部 庸子, 下門 顕太郎
    2013 年 50 巻 3 号 p. 366-368
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
原著
  • 桜井 良太, 藤原 佳典, 安永 正史, 野中 久美子, 鈴木 宏幸, 大場 宏美, 深谷 太郎, 渡辺 修一郎, 新開 省二
    2013 年 50 巻 3 号 p. 369-376
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者の転倒恐怖感には運動機能に対する自信度が強く関与していると考えられる.そこで本研究では,運動機能への自信および転倒恐怖感の有無による高齢者の運動機能の差異を検討し,運動機能への自信度の関連要因を明らかにすることを目的とした.方法:手段的日常生活動作に問題のない地域在住高齢者368名(平均年齢72.2±5.7歳,うち80.2%が女性)を解析対象とした.検査では,基礎疾患の既往歴,転倒歴,主観的健康観,運動機能に対する自信度,転倒恐怖感について問診によって調査した.また運動機能として握力・開眼片足立ち・最大歩行速度測定,Timed Up & Go test(以後,TUGと略す)を行った.運動機能に対する自信と転倒恐怖感の有無による運動機能の差異を検討するため,運動機能に対する自信度(あり・なし)と転倒恐怖感(あり・なし)を独立変数とした2要因分散分析を行った.また運動機能に対する自信度の関連要因を検討するため,ロジスティック回帰分析を行った.結果:転倒恐怖を感じている高齢者のうち,運動機能に自信のない高齢者が有意に多いことが明らかとなった.2要因分散分析の結果,握力,開眼片足立ち,TUGに関しては運動機能に対する自信度に主効果が認められ,転倒恐怖感の有無にかかわらず運動機能に対する自信がない高齢者ほど,これら複数の運動機能が低い傾向が明らかとなった.他方,最大歩行速度のみに関しては転倒恐怖感に主効果が認められた.ロジスティック回帰分析の結果,外出頻度,主観的健康観,下肢関節症罹患,開眼片足立ちが運動機能に対する自信度の有意な関連要因として抽出された.結論:運動機能自信度は転倒恐怖感より高齢者の運動機能を広く反映していると考えられ,地域在住高齢者に対しての健康増進・介護予防事業の評価指標および潜在的な問題に対するスクリーニングツールとして有用な方法の一つである可能性がある.
  • 大浦 武彦, 中條 俊夫, 岡田 晋吾, 大村 健二, 足立 香代子, 大石 正平
    2013 年 50 巻 3 号 p. 377-383
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    目的:褥瘡の治癒過程に大きな影響を与える看護・介護・治療の要因を統一し,栄養介入が栄養状態と褥瘡治癒に及ぼす効果を多施設共同ランダム化割付並行群間比較試験で検討した.方法:ステージIII~IV(NPUAP分類)の褥瘡が仙骨,尾骨,大転子,踵のいずれかにあり,経管栄養を必要とする低栄養患者を対象とした.対照群は研究登録時と同じ,または基礎エネルギー消費量(BEE)×活動係数1.1×ストレス係数1.1~1.3とし,介入群はBEE×1.1×1.3~1.5を目標投与エネルギー量とした.研究期間は12週間とした.栄養剤はラコール®配合経腸用液に統一し,体圧分散マットレスの種類,体位変換の方法,治療用薬剤,創傷ドレッシング材を規定した.評価は褥瘡サイズ(長径×短径)および栄養状態(身体指標および臨床検査値)の推移,有害事象で行った.目標症例数はそれぞれ30症例以上とした.結果:体重あたりの1日平均投与エネルギー量は対照群29.1±4.9 kcal/kg(mean±SD)(n=29),介入群37.9±6.5 kcal/kg(n=21)であった.褥瘡サイズは栄養介入の有無と観察週数の交互作用に有意差(P<0.001)が認められた.栄養状態は体重,腹囲,Cu(P<0.001),腸骨棘上部皮下脂肪厚(P<0.01),大腿囲,Prealbumin(P<0.05)に対し,有意差が認められた.本研究に起因する有害事象の発現率に有意差は認められなかった(P=0.360).また,主成分分析および共分散構造分析により,介入群は特に褥瘡サイズの減少および腹囲,腸骨棘上部皮下脂肪厚の改善速度が顕著であり,栄養介入が褥瘡サイズの減少とこれらの身体指標に直接的な影響をもたらすことが検出された.結論:積極的なエネルギー投与を行うことにより,通常の栄養管理と比較して栄養状態がより改善し,かつ褥瘡の治癒が促進された.また,栄養介入は褥瘡サイズの減少に直接的な影響を及ぼすことが検出された.
  • 深沢 雷太, 小山 俊一, 金高 秀和, 馬原 孝彦, 羽生 春夫, 岩本 俊彦
    2013 年 50 巻 3 号 p. 384-391
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    目的:CGAスクリーニングテストで観察された下肢浮腫の頻度とその関連因子について臨床的に検討した.方法:対象は種々の慢性疾患で外来通院中の高齢者142名(平均年齢83.5歳,男性70名,女性72名)で,脛骨前面・足首(内果周囲)・足背の3部位で圧痕度(手指による圧痕)を評価(浮腫なし:0度,ごく軽微な浮腫:1度,圧迫解除後に圧痕を認める浮腫:2度,圧迫開始時より気付かれて深い圧痕を残す浮腫:3度)した.片脚の圧痕度の総合点を浮腫スコアとし,1点以下を浮腫なし群(対照群),2~3点で圧痕度2度以上がないものをごく軽度浮腫群,4点以上あるいは圧痕度2度以上あるものを浮腫群の3群に分類した.関連因子は基礎疾患,血管性危険因子,下腿静脈瘤の有無,服薬状況,生活状況,栄養状態,血液検査成績(総蛋白,Alb,BNP,D-dimer,eGFRなど)を3群間で比較し,下肢浮腫に関連する因子を検討した.結果:浮腫群は36名,ごく軽度浮腫群は19名あった.浮腫群では糖尿病,心房細動,下腿静脈瘤の頻度が対照群より有意に多く,服薬数,多薬例とともに服薬内容ではCCB,ARBが多かった.日中の活動性低下例,特に,座位生活を送る者,外出頻度の少ない者,移動能力が杖歩行の者が両浮腫群で有意に多かった.栄養状態では体重,下腿周囲長が浮腫群で有意に大きかったが,MNA-SFスコアに差はなかった.また,浮腫群では総蛋白,Alb値,eGFRが有意に低く,BNP値やその高値例の頻度が有意に高かった.多変量解析(回帰分析)の結果,糖尿病,下腿静脈瘤,日中活動性,低Alb血症が下肢浮腫に関連していた(R2=.365,p<.0001).結論:下肢浮腫は高齢患者の38.7%にみられ,その発症には糖尿病,下腿静脈瘤,日中活動性,低Alb血症が強く関わっていた.特に,座位生活による下肢浮腫は生活指導で改善する可能性があることから,これを評価するCGAの意義は大きい.また,浮腫があれば体重や下腿周囲長の増大を来たすため,栄養評価の際には注意を要する.
  • 藤澤 豊, 米澤 久司, 鈴木 真紗子, 工藤 雅子, 柴田 俊秀, 小原 智子, 石塚 直樹, 高橋 純子, 寺山 靖夫
    2013 年 50 巻 3 号 p. 392-399
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    目的:「最近の新聞やテレビのニュースでは,どんなことがありましたか?」(以下「最近のニュース」と略す)というワンフレーズの質問で,軽度認知機能障害(mild cognitive impairment:MCI)およびアルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)を早期にスクリーニングできるかを検証した.対象および方法:65歳以上の症例で,MCI 116例(MCI群),Functional Assessment Staging(FAST)4,5,6のprobable AD 133例(AD群),正常対照54例(NC群)の合計303例を対象とした.各群に対し,Mini mental state examination(MMSE),Wechsler Memory Scale-Revised(WMS-R)を施行した上で,「最近のニュース」を行った.3名の神経内科専門医が判定者となり,その応答を正解と不正解に分類した.不正解をさらに,(A)不正確,(B)取り繕い,(C)わからないに分類した.結果:「最近のニュース」に対し,正解率はNC群96%,MCI群32%,AD群で20%であった.判定者間での正解・不正解の一致率は100%であった.不正解を「記銘力障害あり」とした場合の感度は79.5%,特異度は94.4%であった.これらの症例にMMSEの3単語遅延再生課題を組み合わせ,正当単語数に応じて0~3点で評価し,2点以下を「記銘力障害あり」とした場合の感度は98.0%となった.不正解の応答分類では,MCI,AD群の約30%に「取り繕い」応答が見られた.結論:記銘力障害の出現に伴い,取り繕いが出現する例があり判定に注意が必要であるが,「最近のニュース」の質問とMMSEの3単語遅延再生課題を組み合わせることにより,高感度に記銘力障害を抽出することが可能であった.
症例報告
  • 山田 恵, 田中 優司, 木村 暁夫, 香村 彰宏, 林 祐一, 保住 功, 小池 春樹, 祖父江 元, 犬塚 貴
    2013 年 50 巻 3 号 p. 400-403
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は84歳女性.9カ月前から左下垂足,次いで右下垂足が出現した.変形性脊椎症による多発神経根症として数カ月経過観察されていた.当科初診時,神経学的には両下肢筋力低下(左優位),四肢末梢の表在覚・深部覚の低下,両下肢腱反射消失を認めた.電気生理学的には両側脛骨神経,腓腹神経において軸索・脱髄混合性障害を認めた.腓腹神経生検の組織所見では軸索変性が主体で,二次的な脱髄もみられた.神経束毎に有髄線維密度の差が大きく,小血管周囲に単核細胞の浸潤をみとめ,血管炎性ニューロパチーの所見であった.全身の炎症所見,他臓器の障害は認めず,nonsystemic vasculitic neuropathy(NSVN)と診断した.大量ガンマグロブリン療法後,緩徐に改善傾向を示した.本例は変形性脊椎症を有する高齢者に発症したNSVNのため,診断に至るまで長期を要した.NSVNは免疫療法が有効な疾患であり,その鑑別は重要である.高齢者では両者が合併することもあり,経過や神経学的所見に加え,末梢神経の組織学的検索が重要である.
  • 千葉 優子, 鄭 仁熙, 金原 嘉之, 田村 嘉章, 森 聖二郎, 井藤 英喜, 荒木 厚
    2013 年 50 巻 3 号 p. 404-408
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    症例は83歳,女性.78歳時の健診では空腹時血糖値90 mg/dl,HbA1c 5.7%(NGSP値)であった.80歳時より口渇・多飲・多尿・体重減少を認め,HbA1c 12.2%と高値を指摘され糖尿病と診断された.入院にて加療され,グリメピリド,メトホルミン内服にて血糖コントロールは良好となった.しかし81歳時には随時血糖433 mg/dl,HbA1c 9.2%と再度急激な悪化を認めた.当時抗GAD(glutamic acid decarboxylase)抗体は陰性であり,内因性インスリン分泌の低下は疑われるも1型糖尿病までの診断には至らなかった.インスリンデテミルの自己注射を導入し,内服薬併用で対応した.しかし血糖コントロールは悪化の傾向を認め,83歳時にはHbA1c 10.1%まで上昇した.血糖コントロール及び糖尿病診断及び治療の再評価目的にて入院.抗GAD抗体は再検にても陰性であったが,抗IA-2(insulinoma-associated antigen-2)抗体は50 U/mlと高値を呈していた.空腹時血清C-ペプチド(CPR)は0.2 ng/ml未満で検出されず,グルカゴン負荷試験にても上昇を認めなかった.尿中CPRも10 μg/日以下と,内因性インスリン分泌の低下を来していたことから,1型糖尿病と診断した.疾患感受性遺伝子のHLA DR9が陽性であることも1型糖尿病を示唆した.強化インスリン療法を導入することにより,血糖コントロールは改善を認めた.本症例は高齢発症の1型糖尿病であり,抗GAD抗体は陰性であるにも関わらず,抗IA-2抗体のみ陽性を呈した稀な症例であった.高齢者でインスリン治療が必要な糖尿病の鑑別診断上,抗IA-2抗体の測定が有用であった貴重な1例と考えられた.
  • 松崎 弦, 芦田 映直, 赤沼 真夫, 藤井 潤, 世古 義規
    2013 年 50 巻 3 号 p. 409-412
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/23
    ジャーナル フリー
    89歳,女性,胃潰瘍からの急性出血により大球性貧血をきたし,また心不全症状を呈していたが,薬物治療のみで急速に改善した症例を報告する.患者は65歳時に高血圧と診断されサイアザイド系利尿薬,β遮断薬やCa拮抗薬の3剤の降圧薬により血圧は安定していた.胃出血の6カ月前の血液検査ではヘモグロビン(Hb)14.2 g/dl,平均赤血球容積(MCV)97 flであった.胃出血によるタール便はあったが平常の生活を送っており,その6日後の血液検査でHb 8.4 g/dl,MCV 103 flの大球性貧血が発見され翌日入院となった.入院時の胃内視鏡検査では出血を認めなかったが活動期(A2期)であり,貧血は胃潰瘍からの出血によるものと診断した.また軽度の下腿浮腫と両肺野に少量の胸水貯留があり,心エコー上著明な左室拡張障害はなく心機能は正常であったため急性高心拍出量性心不全と考えられた.直ちに鉄剤,利尿薬,プロトンポンプ阻害薬で治療したところ貧血は急速に回復して1週間後にはHb 10.5 g/dl,MCV 106 flになり,網状赤血球増加とともに血小板も一過性の増加を認めた.タール便があってから約1カ月後にはHb 14.5 g/dl,MCV 99 flと何れも正常値に回復した.また貧血の改善とともに心不全症状も速やかに軽快した.本症例は急性出血後に大球性貧血となり,輸血を行うことなく貧血が全快するまで薬物治療のみでこれらの病態の全経過を観察し得た貴重な症例であるので報告した.少なくとも得られた検査結果からは高度の拡張障害の存在は考え難く,代償性に心拍出量が増大して高心拍出量性心不全を呈したと考えられた.
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