日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
50 巻, 4 号
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第54回日本老年医学会学術集会記録
シンポジウム1:高齢者の嚥下障害,その評価と対応
  • 大類 孝
    2013 年 50 巻 4 号 p. 458-460
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    肺炎は長らくわが国の疾患別死亡の第4位を占めてきたが,厚生労働省の2011年度の報告によれば,ついに脳血管障害を抜いて第3位になり正に現代病の様相を呈している.また,近年のデータから肺炎で亡くなる方の約95%が65歳以上の高齢者で占められ,肺炎は老人の悪友であるといえる.高齢者の肺炎の大部分が誤嚥性肺炎であると報告されている.誤嚥性肺炎(広義)は,臨床上Aspiration pneumoniaとAspiration pneumonitisに分けられるが,両者はオーバーラップする事もある.高齢者の肺炎の多くはAspiration pneumoniaであり,その危険因子として最も重要なものは脳血管障害などに併発しやすい不顕性誤嚥である.不顕性誤嚥は,脳血管障害の中でも特に日本人に多い大脳基底核病変を有している人に多く認められる.誤嚥性肺炎の最良の予防法は,脳血管障害ならびに脳変性疾患の適切な予防ならびに治療であるが,他に,降圧剤のACE阻害薬,ドーパミン作動薬のアマンタジン,抗血小板薬のシロスタゾール,漢方薬の半夏厚朴湯,クエン酸モサプリドなどの不顕性誤嚥の予防薬も有効で,これらは肺炎のハイリスク高齢患者において肺炎の予防効果を有する.
  • 山脇 正永
    2013 年 50 巻 4 号 p. 461-464
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
  • 角 保徳
    2013 年 50 巻 4 号 p. 465-468
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    高齢社会の進展に伴い,嚥下障害患者や口腔管理が自立できない高齢者の数も増加しており,QOLの維持や生きがいの観点から適切な嚥下機能,口腔機能を維持・改善することは重要な課題である.嚥下障害患者は,誤嚥性肺炎に罹患しやすい上に,低栄養状態になりやすい.嚥下障害患者に対する口腔ケアは,単に口腔内を清潔にするだけでなく,死亡原因となる誤嚥性肺炎を未然に防ぐとともに,摂食・嚥下機能の改善,脱水や低栄養状態の予防にかかわり,生活の質(QOL)向上の観点からもきわめて重要である.さらに,口腔ケアは機械的刺激が摂食・嚥下リハビリテーションの間接訓練としての役割も果たす.以上のように,嚥下障害患者における口腔ケアの意義は,(1)誤嚥性肺炎の予防,(2)低栄養の予防,(3)摂食・嚥下リハビリテーションの間接訓練の3点が挙げられる.5分間で終了する標準化した口腔ケアである"口腔ケアシステム"は,口腔期のリハビリテーションとして有効性が期待される.
シンポジウム3:高齢者の医療の課題と展望
  • 野中 博
    2013 年 50 巻 4 号 p. 469-471
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
  • 武久 洋三
    2013 年 50 巻 4 号 p. 472-475
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    2012年度同時改定は,上流の高度急性期から中下流の慢性期を通って海という在宅への一本の幹線道路が作られた.そしてその道を渋滞なく患者が通過するように努力している機関は評価し,意図的に渋滞を起こそうとしている機関は明らかに評価しないというベクトルを示した.
    急性期病院における平均在院日数は10日以内にするべきであり,急性期治療後の患者は慢性期医療の対象となる.そうなると従来の急性期治療が担ってきた後半の2/3を慢性期病床が担うことになる.すなわち急性期治療機能を持った慢性期病院でなければ対応は困難である.日本慢性期医療協会では,慢性期病院における急性期機能として,1.緊急送迎,2.緊急入院,3.緊急画像診断,4.緊急血液検査,5.緊急処置の5つを提示している.
    アメリカの医療体制は,日本の高度急性期病床にあたるSTACと,高度急性期病床での治療を終えた後の患者を受け入れるLTACがある.LTACのような病床を日本では,厚労省は亜急性期病床としているが,亜急性期病床や回復期病床は,改善して退院できる見込みのある患者を診るところであり,多臓器不全,人工呼吸器装着患者などの治療の必要な患者を治療することは困難であり,日本でもアメリカのLTACのような概念が必要である.
    日本慢性期医療協会では,慢性期病床群という新たな概念を提示した.慢性期病床群には,アメリカのLTACのような,ある程度長期に渡るが急性期機能を持つ長期急性期病床のほかに,回復期病床,長期慢性期病床,障害者病床が含まれる.
    今後在宅療養を進めていくためには,在宅でいる間に急性増悪した場合は,速やかに後方病院に支援を求めて画像診断や検査を行い,症状の治療のために短期間入院して,改善して再び在宅に戻すほうがより長く快適に在宅療養を継続できる可能性が高い.24時間医師が常駐している病院と協力し,慢性期医療が地域の中で在宅医療の後方支援病院としてしっかり機能していく体制作りが必要である.
シンポジウム5:高齢者の終末期医療をめぐる諸問題―これからの終末期医療はどうあるべきか?
シンポジウム9:高齢者に対する医療提供の課題と対策
ワークショップ:老年医学教育のあり方を考える~学部教育から専門医教育まで~
  • 三木 哲郎, 小原 克彦
    2013 年 50 巻 4 号 p. 502-505
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    日本学術会議の「老化専門委員会」では,10年以上前から全国の大学医学部内での老年医学の学部教育は十分ではないことは指摘しているが,最近になっても大きな改善はない.今回,学部教育の実態と今後の方向性について,医学部学生を対象としたアンケート調査を行い,医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成22年度版:文部科学省高等教育局)と医師国家試験出題基準(平成25年版;厚生労働省医政局医事課)の内容を検討し,それぞれに考察を加えた.モデル・コア・カリキュラムと医師国家試験出題基準は,学部教育の内容に大きく影響を与える因子であり,これらの基準等を通じて学部教育の中で老年医学の重要性を強調する必要があると考える.
  • 森本 茂人
    2013 年 50 巻 4 号 p. 506-509
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    高齢者人口の増加から,高齢者救急患者は今後急増することが予想される.看取りも含めた在宅医療や,医療と介護の連携の習得とともに,急性期病院での救急医療,これに続く地域への退院支援をも含めて一体の高齢者医療システムとしての医学教育プログラムの展開が必要である.高齢者では救急対応が必要な急性疾患であっても,症状や経過が非定型的であることが多く,個人差も大きいことから,高齢者救急の現場で必要とされる検査の習得が必要である.また,高齢者救急例では,原因となる急性疾患以外にも,多臓器の合併症発症の予防,治療が必要とされ,恒常性維持機構易破綻,薬物副作用にも注意する.さらに治療に際しては輸液や循環器薬使用の習熟が必須である.病態や患者が置かれている社会的状況も考慮して個々に治療ゴールの設定が必要となる.
パネルディスカッション2:高齢者の災害医療
  • 飯島 勝矢
    2013 年 50 巻 4 号 p. 510-514
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    未曾有の大津波震災が起こり大きな爪痕を残してから早一年.今回は高齢化率の高い地域を中心として被災したこともあり,被災高齢者における医療・介護・福祉の問題,要介護高齢者への支援の在り方などについて新たな問題が見えてきた.また急性期だけではなく,慢性期においても被災高齢者には様々な疾患や災害関連死が発生する.情報をつなぐ急性期医療の重要性,慢性期の心理的状態と低活動度をどう管理するのか,避難生活を通じて潜在的な能力の喪失や閉じこもりをどう防止できるのかなど,恐らく数多くの課題を背負っている.今回,日本老年医学会として高齢者災害時医療ガイドラインや高齢者震災カルテの作成・公表,見守りを中心とした血圧遠隔管理システムなど幅広い活動を行ってきたが,この経験を次にどう活かすのかが一番の課題である.しっかりとしたシミュレーションを基にして,医療関係者だけでなく市民の高齢者も中に入れた形での「普段からの防災心」の準備をすることこそが,高齢者災害時医療における円滑な医療初動,そして孤独死や閉じこもり,無刺激による認知機能低下や廃用(生活不活発病)などの予防につながるのであろう.系列を超えた多職種連携システムを再構築し,慢性期への包括的管理そして支援を必要としている.
原著
  • 奥野 純子, 深作 貴子, 堀田 和司, 藪下 典子, Pei Liying, 大藏 倫博, 田中 喜代次, 柳 久子
    2013 年 50 巻 4 号 p. 515-521
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    目的:介護が必要となった要因の第2位が認知症であり,年々増加している.高齢者の多くは低栄養・閉じこもりなどにより血清ビタミンD不足・欠乏がみられる.ビタミンD低下は認知機能低下やアルツハイマー型認知症の危険因子であると報告されている.わが国における要介護予備群である二次予防事業対象者のビタミンD濃度と認知機能状況を把握した研究は見当たらない.認知機能とビタミンDとの関連を検討することを目的とした.方法:平成18年6月から平成23年1月までの介護予防教室に参加した茨城県Y町とS市(いずれも北緯36度)に在住の65歳以上の高齢者316名(平均年齢77.0±5.7歳)を対象とした横断研究である.質問紙による面接調査,血液検査(intact parathyroid hormone,25-hydroxyvitamin D,1,25-dihydroxyvitamin Dなど)を実施した.調査項目は,年齢,性,自己申告による疾患の有無,外出頻度,転倒スコア,認知機能,高次生活機能(老研式活動能力指標)など,認知機能はMMSEを用い,MMSE≤23に関連する要因を多重ロジスティック回帰分析を用いて検討した.結果:男性67名,女性249名,平均年齢は77.0±5.7歳,MMSE平均得点25.3±3.7,MMSE≤23者は全対象者の30.6%,血清平均25(OH)D濃度は57.1±16.0 nmol/Lであった.ビタミンD欠乏者1.7%,不足者30.0%,不十分者54.6%,十分者14.0%であった.MMSE≤23に関連する要因は,男性の場合,血清iPTH,25(OH)D濃度と関連があったが,女性は関連が見られなかった.結論:介護予防教室参加者の約3割が認知機能低下者で,25(OH)D欠乏者,不足者は約90%いた.男性二次予防事業参加高齢者のみ認知機能と血清iPTH,25(OH)D濃度と関連がみられた.
  • 高井 逸史
    2013 年 50 巻 4 号 p. 522-527
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    目的:地域高齢者を対象に「食と運動」に関する複合的介入が運動の継続性や主観的健康感に与える影響について検討した.方法:対象者は男性24名,女性20名の計44名(平均年齢71.1±5.0歳),さらに無作為に介入群(23名,平均72.4歳)と対照群(21名,平均69.6歳)2群に分けた.介入群は食栄養講座と集団運動の5回を開催し,毎回講座終了後に介入群全員お弁当による昼食会を実施した.対照群では講座は開催せずお弁当のみ配布した.評価項目は年齢,外出頻度,転倒歴,運動頻度,運動時間,運動に対するSelf-Efficacy(運動SE),運動習慣の変容ステージ,主観的健康感であった.評価は介入前と介入後,さらに追跡後の計3回実施した.結果:介入群の講座の出席率は90%を超えていた.両群の比較の結果,介入後では運動頻度(p=0.001),運動時間(p=0.02)そして運動SE(p=0.012)において有意差が認められた.追跡後では運動頻度(p=0.027)と運動SE(p=0.043)において有意に群間差が認められた.考察:食栄養講座と集団運動からなる複合的介入により,運動の継続性や運動SEが維持・向上することが示唆された.運動実施回数を運動カレンダーに記録し,声かけや賞賛するなど言語的説得が得られた結果,運動継続性の向上がみられたと考える.主観的健康感の群間差はみられなかったが,介入後に向上傾向がみられた.意見交換や会食により,対象者間のつながりが深まり互助・共助が活性化し自主運動が定着化した結果,介入群の主観的健康感向上につながったと考える.
  • 金 憲経, 鈴木 隆雄, 吉田 英世, 島田 裕之, 山城 由華吏, 須藤 元喜, 仁木 佳文
    2013 年 50 巻 4 号 p. 528-535
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    目的:都市部在住の高齢女性の膝痛,尿失禁,転倒の徴候と歩容との関連を検討し,歩容から老年症候群の予測が可能であるかを検討する.方法:2009年度に70歳以上の高齢女性を対象に実施した包括的健診に参加した971名のうち聞き取り調査,歩行測定,認知機能低下の疑いがなかった870名を対象とした.聞き取りでは,膝痛有無,尿失禁有無,転倒有無などを調査した.歩容は,ウォークWayより,歩行速度,ケイデンス,ストライド,歩幅,歩隔,歩行角度,つま先角度,左右差(ストライド,歩幅,歩隔,歩行角度,つま先角度)を求めた.また膝痛,尿失禁,転倒の徴候の有無,徴候の程度を従属変数と歩容変数を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を施した.結果:膝痛,尿失禁,転倒の徴候を有する群では,歩行速度が遅く,ケイデンス,ストライド,歩幅が減少し,歩隔,歩行角度が増大した.多重ロジスティック回帰分析の結果,軽度のいずれの徴候には,歩行速度が有意に関連した.一方,中程度以上の徴候の場合,膝痛では歩隔(OR=0.58,95%CI 0.40~0.84),歩行角度(OR=1.62,95%CI 1.30~2.01)が,尿失禁では歩行速度(OR=0.97,95%CI 0.96~0.99),歩行角度(OR=1.14,95%CI 1.02~1.26),歩行角度左右差(OR=1.43,95%CI 1.09~1.86)が,転倒では歩幅(OR=0.85,95%CI 0.79~0.93),歩行角度左右差(OR=1.36,95%CI 1.01~1.85)が有意に関連した.結論:歩行速度と歩容要因を組み合わせることで徴候の早期発見に活用できる可能性が強く示唆された.
  • 居川 幸正, 松原 泉
    2013 年 50 巻 4 号 p. 536-541
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    目的:長期入院胃瘻造設後患者を対象に生存時間分析を行うことで,胃瘻造設時年齢が生命予後に与える影響を明らかにする.方法:対象者は2005年12月から2012年3月までの間に当院に入院していた胃瘻造設後の患者478名のうち,最終的な転帰を調査できた408名.胃瘻造設後の患者は日常の看護,介護の一環として口腔ケアを施行された.胃瘻造設時の年齢によって対象を4群に分割し,60~69歳を60歳代群,70~79歳を70歳代群,80~89歳を80歳代群,90~99歳を90歳代群とした.Kaplan-Meier法を用いて生存曲線を描出し,log-rank検定とCoxの比例ハザードモデルで統計学的解析を行った.結果:全対象者の1年生存率は75.4%,5年生存率は23.2%,生存中央値は32.2カ月であった.女性の生存率が有意に男性よりも優れていた(p=0.0014).80歳代群と90歳代群は60歳代群と比較して有意に生存率が低かった(p<0.008).しかし,70歳代群,80歳代群および90歳代群の3群間の生存率はほぼ同様の傾向を示し,log-rank検定で有意差は検出されなかった.女性に対する男性の年齢調整死亡ハザード比は1.748(95%信頼区間,1.364~2.242),60歳代での胃瘻造設の死亡ハザードを1としたとき,80歳代および90歳代での造設による性別調整ハザード比は,順に2.173(95%信頼区間,1.341~3.521),3.071(95%信頼区間,1.627~5.797)であった.結論:今回の研究結果は,既報告に比べて全体的に生存率が高く,日常的な口腔ケアが胃瘻造設後の生命予後を向上させ得ることを示した.80歳以上での胃瘻造設は60歳代での造設に比べて有意に死亡リスクが高く,80歳以上の高齢になるほど,胃瘻造設の適応に慎重さが求められることを示唆している.
症例報告
  • 和泉 賢一, 藤瀬 剛弘, 井上 佳奈子, 森 仁恵, 山崎 孝太, 本郷 優衣, 高木 聡子, 山内 寛子, 蘆田 健二, 安西 慶三
    2013 年 50 巻 4 号 p. 542-545
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    症例は73歳男性.主訴は貧血.家族歴,生活歴ともに特記事項なし.既往歴に2型糖尿病,橋本病を認めた.血液検査所見にてMCV高値の大球性貧血を認めた(赤血球数279万/μL,ヘモグロビン12.2 g/dL,MCV 121.9 fL).葉酸は基準値内であったが,ビタミンB12を測定したところ,57 pg/mL(基準値:180~914)と低値を認めた.消化管内視鏡であきらかな貧血の原因と思われる所見を認めず,また,抗内因子抗体は陽性であった.治療について,本人と相談したところ,注射は絶対に拒否するとのことであった.同時期に糖尿病の神経障害の治療のため,メコバラミンを内服処方したところ,著明にHb,MCVに改善を認めた.経口によるビタミンB12投与により,悪性貧血が改善したと考えた.
    高齢者に貧血は多く,その中でも,悪性貧血は高齢になるにつれ頻度の高くなる疾患であり,注意が必要である.悪性貧血は,ビタミンB12製剤の注射治療が主に行われており,内服治療は一般的ではない.しかし,最近,ビタミンB12大量内服で効果を認めた症例が報告されるようになった.本症例も,ビタミンB12経口内服後に貧血の改善を認めており,効果があると考えられた.身体機能が低下する傾向にある高齢者にとって,安全・安価に加え,侵襲度の低い治療選択肢が増えることは望ましい事と思われる.内服投与も,今後の高齢者悪性貧血の治療の選択肢として考慮して良いのではないかと考え,本症例を報告する.
  • 菊井 祥二, 竹島 多賀夫
    2013 年 50 巻 4 号 p. 546-549
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    症例は68歳女性.突然の頭痛,嘔吐で発症し,意識レベルが低下し,自宅で倒れ,当院脳神経外科を救急受診.来院時,Japan coma scale(以下JCSと略す)II-30で中等度の左片麻痺がみられた.頭部CTで右側頭葉に4×5 cmの脳出血,3D-CT angiographyおよび脳血管撮影で右中大脳動脈瘤の破裂と左中大脳動脈に2.8 mm大の未破裂動脈瘤がみられた.Hunt & Kosnik分類grade 3のくも膜下出血と評価され,緊急開頭クリッピング術および血腫除去術が施行された.術後2日目にはJCSII-2,改訂長谷川式簡易知能評価スケールは26点で軽度の左空間無視はあるが,左片麻痺は改善し,リハビリテーションで歩行可能になった.術後から不眠があり,トリアゾラム0.25 mg/日を服用していた.術後15日目に未破裂動脈瘤のクリッピング術が施行され,その術後から,「家に帰りたい」と大声で叫び,病棟ですれ違う人に抱きついたり,病院を勝手に抜け出し,迷子になっているところを何度も保護された.Memorial Delirium Assessment Scaleが16点の術後せん妄と考えられた.チアプリド150 mg/日を14日間継続したが効果がなかったので,第40病日から抑肝散7.5 g/日を追加し,トリアゾラムをラメルテオン8 mg/日に変更した.翌日から,大声で叫ばなくなり,服薬7日目には5点に減少し,問題行動もなくなり,入院約2カ月後には1点になり,ごく軽度の左空間無視を残して,自宅退院した.ラメルテオンの睡眠・覚醒リズムの改善作用が,抑肝散のせん妄抑制効果に相加的に作用した可能性が考えられた.高齢者の特に手術後の入院患者では,せん妄の出現頻度は高いが,エビデンスに基づいた治療指針は少ない.ラメルテオン,抑肝散はともに重篤な副作用はなく,過鎮静が危惧される高齢者のせん妄に対して積極的な使用が勧められる.
  • 藤枝 典子, 櫨川 岩穂, 荒木 栄一
    2013 年 50 巻 4 号 p. 550-554
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/19
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,男性.アルツハイマー型認知症,陳旧性脳梗塞などにて近医内服加療中.2012年2月意識障害にて当院救急搬送され,低血糖(18 mg/dl)性意識障害と判明した.低血糖時のインスリンが高値(IRI 15.2 μU/ml)でありインスリノーマの鑑別が必要となったが,腹部単純CT,18時間絶食試験等に異常なく,それ以上の検査には非協力的であった.妻が塩酸ドネペジルとグリメピリドの処方をうけており,夫の服薬管理もしていたことからグリメピリド誤飲の可能性も考えたが,本人,妻ともに否定した.誤飲の可能性はあるものの初回の事故と考えてかかりつけ医に情報提供し,処方を色分け包装する等の対応がとられたが,同年7月再び低血糖性意識障害にて搬送された.今回の低血糖は遷延し,ブドウ糖計660 gの静脈内投与とヒドロコルチゾン100 mgを使用して来院約24時間後に消失した.今回も低血糖時のIRIが高く(23.4 μU/ml),精査したがインスリノーマを示唆する所見なし.妻に処方されたグリメピリドを誤飲した可能性を強く疑い,サノフィ・アベンティス社に依頼して入院6時間後の保存血を分析したところ,グリメピリドが検出された(24.48 ng/ml).内服量は6 mg程度と推定された.その後,妻の実家がある他県でも同様の症状で受診歴(入院も含む)があることが判明したが,夫妻は低血糖で入院したとの認識は持っていなかった.なお,本人の認知機能は長谷川式17点,MMSE 23点,妻の認知機能は長谷川式25点,MMSE 25点であった.その後かかりつけ医の介入により息子家族の支援が得られるようになり,現在まで低血糖の再発はない.今後老齢世帯の増加を背景として誤飲事故の増加も予想される.本人への服薬指導のみならず,状況によっては同居家族にも注意を払い,適切に対応していく必要があろう.
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