日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
52 巻, 4 号
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目次
ご挨拶
原著
  • 奥町 恭代, 山下 大輔, 肥後 智子, 高田 俊宏
    2015 年 52 巻 4 号 p. 354-358
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    目的:一般の市中病院において高齢の高度認知症患者が死亡に至る理由を検討する目的で,認知症を合併する高齢者の入院が多い当科での死亡退院症例を検討した.また,当院の全診療科において作成された死亡診断書を後ろ向きに閲覧し,認知症患者の死因についてさらに検討した.方法:①2010年6月からの3年間に大阪府済生会中津病院老年内科に入院し,入院中に死亡あるいは回復が見込めないと判断され自宅で看取り退院となった高度認知症の31名につき入院時・死亡時の病名と死亡に至る背景を検討した.②2013年4月1日からの1年間に大阪府済生会中津病院で死亡診断書が作成され直接死因欄に老衰あるいは肺炎と記載された症例について,死亡の原因と関連する疾患の記載につき調査した.結果:①高度認知症で死亡退院した31名のうち,3分の2にあたる21名で認知症の進行に伴う摂食・嚥下障害の存在が死亡と関連していた.②全診療科の死亡診断書において,「老衰」と記載されていた13名はカルテ等で調査したところ全例に高度の嚥下障害があり,11名が高度認知症,2名がパーキンソン病末期であった.直接死因欄に「肺炎」あるいは「嚥下性肺炎」と記載された症例のうち,死因に関連する疾患の欄に認知症や嚥下障害に関連した病名が記載された症例はなかった.結論:認知症患者の終末期像として,摂食・嚥下障害や嚥下性肺炎が認められた.認知症は嚥下障害を引き起こし,ひいては死亡につながる疾患であるという事実が広く認識されることが必要であり,当該する患者では認知症もしくは認知症の原因疾患名を死亡診断名として使用するのが適切であると考えられた.
  • 谷口 英喜, 秋山 正子, 五味 郁子, 木村 麻美子
    2015 年 52 巻 4 号 p. 359-366
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    目的:介護老人福祉施設の通所者におけるかくれ脱水(脱水の前段階)の実態調査を行い,非侵襲的なスクリーニングシートを開発することを目的とした.方法:介護老人福祉施設の通所者70名を対象に血清浸透圧値を計測し,かくれ脱水(体液喪失を疑わせる自覚症状が認められないにもかかわらず,血清浸透圧値が292から300 mOsm/kg・H2O)の該当者を抽出した.該当者において,脱水症の危険因子および脱水症を疑う所見に関してロジスティック回帰分析を行い,オッズ比を根拠に配点を行った.配点の高い項目から構成される高齢者用かくれ脱水発見シートを作成し,該当項目に応じた合計点毎の感度および特異度を求め,抽出に最適なカットオフ値を探索した.結果:かくれ脱水の該当者は,15名(21.4%)であった.先行研究のかくれ脱水発見シートを改良し,①女性である(4点),②BMI≧25 kg/m2(5点),③利尿薬を内服している(6点),④緩下薬を内服している(2点),⑤皮膚の乾燥や,カサつきを認める(2点),⑥冷たい飲み物や食べ物を好む(2点),の6項目から構成される高齢者用かくれ脱水発見シートを考案した.このシートにおいて,かくれ脱水である危険性が高いと考えられるカットオフ値は,9点(合計21点)に設定した(感度0.73,特異度0.82;P<0.001).結論:高齢者においては,脱水症の前段階であるかくれ(潜在的な)脱水が一定の割合で存在し,非侵襲的なスクリーニングシートにより抽出が可能である.
  • 櫻井 貴子, 饗庭 三代治, 高橋 美妃, 坂本 直治, 梁 広石, 津田 裕士, 礒沼 弘
    2015 年 52 巻 4 号 p. 367-373
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    目的:2009年1月1日から2009年12月31日までの一年間に入院した全症例5,296例中65歳以上の3,034例について,感染症による発熱のために血液培養が施行された症例についてretrospectiveにその実態を検討した.方法:血液培養時の採血の状況,検出された細菌の種類,菌血症の原因となった原因感染部位からの検出細菌との比較について検討した.発熱のために入院して入院から48時間以内に血液培養を行った市中型と,48時間以降の入院中に発熱したために血液培養を行った院内型とに区別し,両者間の検出菌の差についても検討した.結果:血液培養は638例(男334例・女304例)に施行され,平均年齢は80.8±7.3歳であった.2セット採血されていたのは389例(61.0%)であった.細菌を検出したのは182例(28.5%)であり,市中型が66例,院内型が116例であった.細菌は259検体(25.1%)で陽性であった.動脈血は153検体で,静脈血は106検体で陽性であり,動脈血で有意(P<0.001)に高頻度に細菌を検出した.グラム陽性菌が57.2%,グラム陰性菌が42.8%であり,院内型でグラム陽性菌が僅かながら高頻度であった.真菌は,院内型でのみ11検体検出された.検出菌種は,市中型ではE. coliCNSS. aureusK. pneumoniaeの順で,院内型ではS. epidermidisB. cerreusE. coliの順であった.菌血症の原因となった感染病巣からの検出菌との一致率は,尿路感染症,中心静脈カテーテル感染症で他よりも高かった.結論:血液培養での細菌検出率は28.5%で,厚生労働省院内感染対策サーベランス事業での報告(17.5%)より高頻度であった.汚染細菌を除外出来ていない点は残るが,高齢者の場合には静脈血では採取血液量を十分に確保できず,動脈血を用いることで検出率が上昇する可能性が示唆された.検出菌については,尿路感染症および中心静脈カテーテル感染症とで菌血症の原因病巣からの細菌検出結果と高い頻度で一致しており,高齢者においても種々の感染症での血液培養は有用であると考えられた.
  • 鳥越 俊宏, 福原 徹
    2015 年 52 巻 4 号 p. 374-382
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    目的:脳卒中では,その治療法の進歩により救命できる症例が増加しているが重篤な後遺症が残存することも多い.この際,患者の意識障害のため,治療方針の判断は患者親族に委ねられることがほとんどであるが,出血性脳卒中の場合,血腫摘出術により救命が期待できる場合でも,残存する後遺症のため,外科的治療の選択を躊躇される場合もある.また多くの場合緊急の決定を要するため,親族の心理的負担は非常に大きい.親族への看護ケアにあたり,この判断に影響を与える因子を理解することは重要と考え,以下の研究を行った.方法:当院へ入院した出血性脳卒中患者の親族30名に,アンケート調査により,程度の異なる後遺症が残ると説明された場合を想定して,それぞれの場合での外科的治療の希望を回答して頂き,統計学的に分析した.結果:後遺症の程度が悪化すると,外科的治療の希望が減少したが,親族の判断に独立して影響を与える因子は「自分自身の場合の希望」であった.また同様のアンケートを脳神経系病棟勤務の看護師18名へも行い比較したところ,看護師は認知能が保たれる場合は外科的治療を希望する傾向が強かった.結論:重篤な後遺症を残す可能性のある場合の治療選択は,通常は患者の意思によって決定されるが,脳卒中の場合は意識障害のため,既に患者には治療を選択する判断能力がない場合が多い.この際に本人が事前に意思表示をしておくことが重要であるが,ほとんどの場合親族が決定せざるを得なくなっている.この治療選択を緊急に行って頂く場合も多いが,その状況でも,患者の意思を推察しての判断を促すこと,また,期待できる回復の程度について丁寧な説明を心がけることが必要である.看護師として,親族が後悔のないような判断ができるように最善の配慮をすることが望まれる.
  • 盛田 真樹
    2015 年 52 巻 4 号 p. 383-390
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    目的:在宅医療患者は体力の低下した高齢者や慢性疾患患者が多く,合併症発症や死亡例も見られるが,その予後関連因子は明らかではない.在宅医療患者の予後関連因子を調べた.方法:平成24年1月から平成27年5月にかけての41カ月間に在宅医療を行った290名,平均年齢83歳,男性38%,末期進行癌患者を除外した.全在宅医療患者について日常生活動作能力(activities of daily living;以下ADLと略す)各項目,要介護認定における認知症高齢者の日常生活自立度(以下自立度),誤嚥の有無及び心疾患既往を検索し,有害事象(以下イベントとす)や生存との関係を調べた.結果:主病名は認知症,脳梗塞後遺症で約半数を占める.ADL各項目については,総じて食事は自力摂取可能も食事以外は介助が必要で,また簡単な挨拶は可能もコミュニケーションまでは困難な者が多く,歩行・自力トイレ可能な者は約半数で,自立度はIIIaが最も多かった.全在宅医療患者290名に対して肺炎63名(21.7%)を主とした非心脳血管イベント(non cardiovascular cerebrovascular event;以下NCVEと略す)103名(35.5%),うっ血性心不全22名(7.6%)を主とした主要心脳血管イベント(major adverse cardiovascular cerebrovascular event;以下MACCEと略す)48名(16.6%),死亡者61名(21.0%).非心脳血管イベントに対して,ADLの全項目,自立度及び誤嚥が,生存に対しては食事自力摂取,歩行,会話,トイレ及び誤嚥が有意に関連した.特に誤嚥が肺炎死と関連した.MACCEに関しては,服薬自立及び心疾患既往が関連した.判別分析では,非心脳血管イベントに食事自力摂取・歩行・誤嚥・performance activity・着替え,死亡に食欲・会話・コミュニケーション,MACCEに食欲が有意に関連した.結論:在宅医療患者の非心脳血管イベント,生存に関してADLにおける種々の要因及び認知機能が関連し,とりわけ誤嚥による肺炎死への関与が考えられた.
  • 原 修一, 三浦 宏子, 山﨑 きよ子, 森崎 直子, 角 保徳
    2015 年 52 巻 4 号 p. 391-398
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    目的:介護施設に入所する高齢者を対象とした横断研究により,健康関連QOLと音響学的分析による音声機能との関連性を明らかにした.方法:対象は,介護老人施設に入所する高齢者61名,平均年齢82.1±8.3歳である.質問紙による健康関連QOLの調査を,SF-8 Health Survey(SF-8)日本語版を用いて実施した.音声機能は,ソリッドステートレコーダーに録音した音声を,音響分析ソフトを用いて,基本周期変動指数(Pitch Period Perturbation Quotient:PPQ),振幅変動指数(Amplitude Perturbation Quotient:APQ)および,雑音成分の指標であるNoise-to-Harmonic Ratio(NHR)を算出し,健康関連QOLとの関連性を分析した.結果:SF-8の全体的健康感(GH)の得点が25%tile値未満の値を示した者(低下群)はPPQ・APQ・NHR全てにおいて,25%tile値以上の者(維持群)と比較して有意に高い値を認めた.また,活力(VT)においても,低下群は全ての音響分析の項目において,維持群と比較して有意に高い値を認めた.また,身体的サマリースコア(PCS)においても,低下群は維持群と比較して音響分析の測定項目全てにおいて,有意に高い値を認めた.年齢を共変量とした共分散分析による検討では,GHの低下はPPQ,APQ,NHR各値の増加と有意な関連性を認めた.また,VTの低下はAPQ値の増加との有意な関連性を,PCSの低下はAPQとNHR各値の増加との有意な関連性を認めた.結論:介護施設入所高齢者において,音響学的に分析された音声の音響学的要因は,身体的健康状態に関連したQOLスコアと有意な関連性を示した.音声の音響分析によるPPQ,APQ,NHRは,高齢者の健康調査とその経過を追跡する上で,一つの評価指標になりうる可能性がある.
  • 小原 聡将, 長谷川 浩, 輪千 督高, 田中 政道, 佐藤 道子, 小林 義雄, 小柴 ひとみ, 永井 久美子, 山田 如子, 松井 敏史 ...
    2015 年 52 巻 4 号 p. 399-410
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    目的:血管性認知症は早期より介入を行うことで,発症や進行を抑制できる可能性があることから,治療可能な認知症と表現されることがある.特に大脳白質病変は,遭遇する機会の多い所見である.今回,認知症の前段階である軽度認知機能障害の時期に大脳白質病変の有無で,どのような症状・徴候が表れているかを明らかにすることを目的とする.方法:2013年1月1日から2014年1月31日までの期間に杏林大学病院もの忘れセンターを初診で受診した連続643例のうち軽度認知機能障害と診断され,特定の疾患に伴う白質病変を除外した181例を対象とした.これらに対し,問診および診察を行い,高齢者総合機能評価を施行した.全例でMRIを施行し,大脳白質病変をFazekas分類を用い評価,grade 0,1を明らかな大脳白質病変を有さない群,grade 2,3を明らかな大脳白質病変を有する群とし2群間で比較を行った.結果:明らかな大脳白質病変を有する群は年齢が有意に高く,性別,MMSE,野菜語想起には有意な差を認めなかったが,手段的ADLでは下位項目で低値を認め,転倒スコア21項目,Geriatric Depression Scaleでは,合計点,下位項目で高値であった.Dementia Behavior Disturbance Scale,Zarit Careburden Scaleは,下位項目で有意な差を認めた.結論:明らかな大脳白質病変の有無により,軽度認知機能障害の段階でADLの低下傾向,転倒の危険性,うつ傾向,行動変化の出現といった特徴の違いがあり,介護負担として反映している可能性が示唆され,この結果は,本人や介護者への説明,適切な介護へのアプローチや介入に有用であると考えられる.
症例報告
  • 田村 耕成, 戸塚 統, 田村 遵一
    2015 年 52 巻 4 号 p. 411-414
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    症例は79歳男性.昭和62年に胃癌のため幽門側胃切除術を受けている.約1年前に腸閉塞で手術を行いその後より嚥下障害がみられ肺炎を繰り返すようになった.このため約半年前から経鼻胃管を留置し経腸栄養開始したが,嚥下性肺炎の再発を繰り返すため当院入院となった.入院後の所見等により経腸栄養の逆流による嚥下性肺炎と診断した.逆流防止のため頭位を常時30°以上に挙上し,経腸栄養を注入したが,注入速度が50 ml/hを超えると逆流,誤嚥がみられた.このため,経鼻内視鏡を用いながら経腸栄養チューブ先端を空腸内に留置したところ,留置当日に100 ml/hまで注入速度を速めても逆流や下痢等の症状認めず.その後徐々に注入速度を上げ,10日後には300 ml/hで注入可能となった.内視鏡的胃管空腸留置法は,経鼻内視鏡を空腸まで挿入し,内視鏡を通じてガイドワイヤーを留置.内視鏡を抜去後,ガイドワイヤーを通じて経腸栄養チューブを留置するシンプルな方法である.本法は内視鏡が使用可能な環境であれば容易に行うことが可能であること,また胃切後長期経過した高齢患者では,非胃切患者に比べて栄養の腸への注入が逆にスムーズに行える可能性があることなどから,高齢者医療の現場で有用な知見と考えられ報告した.
  • 杉浦 美砂, 青木 昭子
    2015 年 52 巻 4 号 p. 415-420
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    両肩関節炎を呈したことから一時リウマチ性多発筋痛症(PMR)と診断した慢性結節性痛風の症例を報告する.85歳の男性.高血圧,狭心症,不整脈,糖尿病など複数の疾患を有し,複数の診療科が処方した多数の薬剤を内服中であった(多剤併用;ポリファーマシー).X年8月両下腿の腫脹,発赤,疼痛と発熱が出現し,下腿蜂窩織炎の診断で入院した.抗菌薬を投与され解熱し,下腿の症状は改善したが,1週間後に両肩の疼痛と可動域制限が出現した.血清CRP高値,リウマトイド因子,抗CCP抗体陰性,全身ガリウムシンチグラフィーで肩関節を含む多関節部に集積が認められ,PMRと診断した.プレドニゾロン(PSL)10 mgにて症状は改善し退院したが,退院直後に左肩と左膝の疼痛のため,続いて右前腕と手指の疼痛と腫脹のため,1カ月間に2回入院した.左母趾基部に小結節が見られたため穿刺したところ,白色ペースト状物質が吸引され,偏光顕微鏡で針状結晶が認められたことから痛風結節と診断した.約30年前に痛風発作の既往があり,以後アロプリノールを継続服用していたが,2年前の入院後にその処方が中断していた.さらに,肥満,飲酒,糖尿病,脂質異常症,うっ血心不全,不規則な服薬,利尿薬内服など痛風の複数の危険因子を有していた.アロプリノール中断の理由と高齢者のポリファーマシーの弊害について考察を加え報告する.
  • 吉田 和史, 寺本 信嗣
    2015 年 52 巻 4 号 p. 421-424
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    肺癌は高齢者に多く,癌性心膜炎,心タンポナーデを合併する症例の予後は極めて不良である.近年,心嚢穿刺ドレナージとともに外科的心膜開窓術を行うことで予後を改善することが示されたが,高齢者に対する適応については十分に評価されていない.今回,我々は,肺癌による癌性心膜炎による心タンポナーデ症例に心嚢穿刺ドレナージ後に,シスプラチン(CDDP),ペメトレキセド(PEM)併用化学療法を行い,外科的心膜開窓術などの外科的措置を行わずとも心膜播種が消失し,良好な予後を示した症例を経験したので,考察を加え報告する.症例は68歳男性.非小細胞肺癌に対して本人の強い希望を考慮して上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;EGFR)阻害薬(EGFR-TKI)の一次治療を開始したが増悪し,69歳時に癌性心膜炎・心タンポナーデを発症した.心嚢穿刺ドレナージ後に細胞診の遺伝子検査からEGFR遺伝子変異陰性が判明し,二次治療のCDDPとPEM併用化学療法を施行した.6コース終了後のFDG-PET検査では,心膜播種は消失しており,その後も心嚢液の再貯留を認めていない.心タンポナーデ発症からパフォーマンスステータス(Performance Status:PS)1を維持したまま13カ月以上経過し,70歳を迎えた.癌性心膜炎により心タンポナーデを発症した患者の予後は不良である.救命のために心嚢穿刺ドレナージが必須であるが,半数に心嚢液が再貯留することが報告されている.しかし,本例のようにPEMを含む化学療法によって,肺腺癌の病勢コントロール可能な症例があるため,高齢者肺腺癌による心タンポナーデ症例において,外科的心膜開窓術を行えない場合に,高齢者といえども一度は標準的な化学療法を行うことに意義があると考えられる.
  • 高吉 宏幸, 中寺 由貴枝, 中川 知憲, 門田 勝彦, 安部 哲史, 三瀧 真悟, 山口 修平
    2015 年 52 巻 4 号 p. 425-428
    発行日: 2015/10/25
    公開日: 2015/12/24
    ジャーナル フリー
    症例は90歳男性.20年前からII型糖尿病に対して経口血糖降下薬服用.2014年6月4日午後突然両側上肢脱力を自覚.翌朝両下肢にも脱力が出現した.脳梗塞の既往がありD-dimer上昇が見られたことから虚血性脳血管障害を疑ったが,MRIにて頸髄に圧迫性脊髄症を疑う所見も認めたため入院した.入院翌日の髄液検査で軽度の蛋白細胞解離,神経伝導速度検査では糖尿病性ニューロパチーに矛盾しない結果であった.緩徐であるが,日の単位で四肢麻痺が進行しGuillain-Barré症候群と診断した.MRIを再検し頭蓋内及び頸髄に梗塞の出現なく圧迫の程度も変化がないことから,第5病日より大量γグロブリン療法を開始した.一時四肢MMT2まで低下したが,グロブリン投与1週間でMMT4~5に改善,2週間後には歩行可能となった.経過中深部腱反射は消失した.本例の神経伝導速度検査は軸索障害が主体であり初診時には糖尿病性ニューロパチーと区別がつかなかった.高齢者では複数の合併症を有し,訴えと症状は必ずしも単一疾患で説明がつかないこともあり鑑別に苦慮することが多い.Guillain-Barré症候群は治療可能な疾患であり高齢者の四肢麻痺において常に考慮する必要がある.
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