緒言:本邦では高齢者の約3割が肥満であるとされ,その主な原因は身体活動量の減少とされている.高齢期の肥満は,歩行能力低下につながるとされる.一方で,身体活動量の減少も歩行能力低下を引き起こす.このことから身体活動量の減少による歩行能力低下には肥満が媒介的役割をしていると考えられるが,身体活動量,歩行能力,肥満の関係は明らかになっていない.本研究の目的は,地域在住高齢者の身体活動量と歩行能力の関連性に肥満が媒介的役割を果たしているかを検討することである.
方法:解析対象者は,Mini-Mental State Examination 24点未満,脳卒中,膝・股関節疾患,関節リウマチの既往のある者を除いた地域在住高齢者56名(男性28名,女性28名,平均73.3±4.1歳)とした.肥満度の指標はBody Mass Index(BMI),腹囲を測定した.歩行能力は通常歩行速度を測定し,身体活動量は活動量計を用いて一日の平均歩数を算出した.その他,運動習慣の有無,握力を評価した.肥満度の指標,身体活動量,歩行能力の3つの関係はBaron & Kenny(1986)が紹介した媒介モデルを作成し検討した.また,全身的脂肪蓄積を表すBMIと腹部脂肪蓄積を表す腹囲の歩行能力への影響を検討するため,従属変数に歩行速度,独立変数にBMIまたは腹囲を投入した重回帰分析を行った.
結果:単変量解析にて平均歩数と通常歩行速度に関連が認められ(ρ=0.29,
p<.05),肥満度の指標のうち腹囲のみ平均歩数と通常歩行速度に関連が認められたため,X(独立変数:平均歩数)-M(媒介変数:腹囲)-Y(従属変数:通常歩行速度)の媒介モデルを作成した.媒介分析の結果,X-Yの回帰係数がβ=0.29(
p<.05)から腹囲投入後β=0.21(
p>.05)に減少し,腹囲の通常歩行速度に対する効果が有意となり(β=-0.27,
p<.05),X-M-Yの媒介モデルが成立した.また,腹囲と歩行速度の関連性は年齢,性別,平均歩数,握力で調整後も有意であった(β=-0.31,
p<.05).
結論:高齢者の身体活動量減少による歩行能力低下には,媒介因子として腹囲増大が関連していた.
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