慢性腎臓病(CKD)という疾患概念が徐々に浸透してきたが,わが国で広く用いられている推算GFR(eGFR)による診断ではこれまで腎機能の指標として用いられてきた血清クレアチニン値が正常範囲内の1.0 mg/dlだとしても多くの高齢者がCKDの範疇に入る.CKDはスクリーニング用の疾患名であるという一面もあるため,診断された場合に一度は専門医によって管理方針を定めることが望ましいが,専門医の数や偏在に伴い必ずしもすべての患者が受診できるわけではない.非専門医による管理の目安としてCKD診療ガイド2012が日本腎臓学会より提唱されているが,腎臓病の管理はさまざまな方向に配慮が必要であり必ずしも容易ではない.生活習慣病の一つとして食事療法も必要となるが非専門医が管理栄養士を伴わずに低たんぱく質食を一律に指導するのは危険がある.たんぱく質を減らす際にどうしても総エネルギーも減少してしまい,近年注目されているサルコペニアやフレイルの原因ともなりかねないためであるが,逆にこれらを防ぐためにたんぱく質摂取を増やしてしまうと,それは低下した腎機能に対して大きな負担となる.高齢者に何らかの介入をする場合には必ずリスクを伴うため,決して画一的な対応はできない.個々の患者によって,また同じ患者でも合併症の活動性や同居家族など生活全体の変化に対応して,生活指導を変化させるべきである.
超高齢社会を迎え高齢者が人生の最期まで「健康」で「生きがい」を持ち続けることができる「健康長寿社会」の構築が急務である.特に,予防医療体制の整備は医療費削減の見地から早急におこなわなければならず,その中でも運動処方は予防医療の最後の切り札として期待されている.筆者は,過去20年間,松本市を中心に中高年者の運動教室「熟年体育大学」事業に参画してきたが,この事業は,最近,科学的エビデンスに基づく運動処方として,国の内外から注目を集めるまでになった.本稿では,この事業の歴史と将来展望について述べる.老年医学を専門とされる読者の皆さんの参考になれば幸いである.
医療と介護・福祉の連携をスムーズにするためには,医療モデルのみでない目的を意識し多職種と共有すること,そして連携の実際をシステムの視点で確認しつつよりよい連携体制を構築すること,さらに,それが機能しているか,そして目指すアウトカムであるQOL向上に繋がっているか―を常に検証しつつ実践する必要があろう.その実現には,早期からの社会的視点を重視した医学教育,また,病院から地域までを一貫したサービスととらえ連携の在り方を検証するヘルスサービスリサーチ(HSR)の発展,そしてそのような考えを日々の臨床に取り入れられるような体制,システム作りが重要と考える.
高齢者世帯は,全世帯の25.2%であり,高齢者の単独世帯(49.1%)か夫婦のみの世帯(47.2%)がほとんどである(96.3%).高齢者世帯の所得について,全体の貧困線(可処分所得中央値の50%)以下の割合は約44%であるが,一人当たりの所得は192.4万円であり,高齢者の所得が特別に低いというわけではない.しかし,「財産所得」に応じて高齢者の所得はより低い方向にシフトし,実質的に,「貧困」に分類される人はもっと多いであろうと予測される.生活保護受給の高齢者も増加している.
2018年には医療保険と介護保険の同時改定を控え,超高齢社会における持続可能な医療と介護システムの実現に向けた議論が進められている.特に介護においては,要介護高齢者の家族が大きな役割を担ってきたが,従来の三世代世帯において要介護者を支えてきた女性の社会進出や,未婚や晩婚化,働き方の違いによる家族構造の変化が,要介護高齢者を支える介護者としての家族に変化を与えている.本稿では,現在の我が国の超高齢社会の現状と家族介護の変遷を整理するとともに,この変化が,いかに介護保険サービス利用に影響するかについて解説する.
療養場所やケアの提供者などが変わる移行期は,ケアニーズが複雑な要介護高齢者にとって,心身機能の低下や有害事象を来たすリスクが高まるといわれ,注意が必要な時期である.本稿では,要介護高齢者の移行期における課題と効果的な移行期ケアに必要とされる要素,実践されている移行期ケアプログラムについて,当事者間の情報共有に焦点を当てて概観し,日本での移行期ケアプログラム導入のあり方について考察した.
目的:カテーテル関連血流感染症は重大な医療感染症の要因の1つである.中心静脈カテーテル関連血流感染症については,様々なサーベイランスや研究がなされているが,完全埋め込み型中心静脈ポート(CVポート)に関する臨床データ・疫学は十分ではない.そこで,今回我々は当院で何らかの理由でCVポートを抜去した担がん患者を対象として,血流感染症に関しての臨床的検討を行った.対象と方法:2014年5月から2016年4月の間に厚生中央病院総合内科において何らかの理由でCVポートを抜去した,担がん患者22例を対象とした.診療録を用いてretrospectiveに基礎疾患・留置期間・検出菌・転帰について検討した.結果:22例中,男性11例,女性11例であり,抜去時の年齢は中央値75.5歳(62~86歳).カテーテル先端培養で陽性を認めたのは6/22例(27.3%).グラム陽性球菌が5例で,グラム陽性桿菌が1例であった.また,Candida albicansの重複症例1例を認めた.培養陽性例の5/6例(83%)は死亡時の培養であった.逆に,死亡時に行われた培養については5/13例(38%)で培養陽性であった.対象症例全体では培養陽性と死亡・挿入期間に関しては相関性を認めなかったが,80歳以上の高齢者と培養陽性の間には相関性を認めた.また基礎疾患を造血器腫瘍に限ると培養陽性と死亡(p=0.04)および80歳以上と培養陽性(p=0.01)の間に相関性を認めた.考察:近年,CVポートは抗がん剤加療を必要とする担がん患者に挿入される機会が増えてきているがCVポート感染の存在は十分に認識されていない.観察を十分に行い,CVポート感染を疑った場合速やかな抜去が必要ではあるが,挿入後の抜去に関しては対象患者が高齢で全身状態が悪い場合抜去術自体が困難なことも感染を助長してしまう要因となっている.結語:医療施設におけるCVポート関連血流感染症のリスク評価は十分とは言えず,データの蓄積を行い,適切な評価と対応法を検討することが必要である.
目的:地域在住高齢者の高血圧と夜間睡眠中の覚醒(以下夜間覚醒)との関係について検討した.方法:老人クラブに所属する地域在住高齢者(65歳以上)422人を対象に,基本属性,日常生活活動,睡眠状況,健康状態についての質問紙調査を実施した.研究参加者を高血圧群と非高血圧群に分類し,単純集計,相関関係の分析,ロジスティック回帰分析を行った.結果:回答が得られた200人(有効回答率47.4%)に対し,基本属性から健康状態までの各要因について高血圧群と非高血圧群を比較すると,肥満度(BMI)に有意差がみられた(p=.01).また,高血圧に影響する変数として,ロジスティック回帰分析によりBMI(OR=1.148,95%CI:1.022~1.289)と夜間覚醒回数(OR=1.449,95%CI:1.015~2.067)が見出された(モデルχ2検定p<.05).さらに高血圧群の夜間覚醒回数に注目すると,年齢とは正の相関関係(rs=0.232)であり,ボランティア活動とは負の相関関係(rs=-0.356)であった.結論:1)高血圧と夜間覚醒回数との関連性が見出されたことにより,夜間覚醒回数は,高血圧の高齢者において血圧値のNon-dipper型や睡眠の質が低下する問題を検討する変数として捉えられた.既に高血圧では夜間の血圧値のNon-dipper型と迷走神経の抑制との関係が報告されているが,夜間覚醒回数を加えた3要因を検討する必要性が示唆された.2)社会貢献性の高いボランティア活動は,高齢者の夜間の覚醒回数を減少させることから睡眠の質を高めている可能性がある.高齢者においてボランティア活動を普及させる根拠とするためには,今後の生理学的な検証が課題となった.
目的:外来通院患者におけるサルコペニアの実態調査を行い,過去の転倒歴とサルコペニア,またこの判定3要因との関係について調査した.方法:65歳以上の外来通院患者283名(男性115名,女性168名)を対象とし,EWGSOPの基準を用いてサルコペニアを判定した.カットオフ値は補正四肢筋量(BIA法)で男性8.87 kg/m2,女性7.00 kg/m2,握力で男性30 kg,女性20 kg,歩行速度で0.8 m/s以下とした.その他併存疾患,CGA項目,下腿周囲長,転倒関連項目を測定し,サルコペニアと転倒との関連について解析した.結果:サルコペニアと判定されたのは男性70名(60.9%),女性88名(52.4%)であった.男性サルコペニア群では非サルコペニア群と比較して年齢が高い傾向にあり(p=0.054),体重・BMIは低く(p<0.01),認知症の頻度が高かった(p=0.023).女性サルコペニア群では体重・BMIが低く(p<0.01),高脂血症の頻度が低かった(p=0.021).補正四肢筋量は,男女ともに歩行速度,転倒関連項目と関連は認められず,一方,握力と歩行速度は互いに相関があり,双方とも転倒関連項目と相関を示した.過去1年間に転倒した対象者は91名(32.2%)で,サルコペニア判定と補正四肢筋量は転倒/非転倒群間で有意差は認めなかったが,握力と歩行速度は転倒群で低かった(p<0.02).多重ロジスティック解析の結果,男性で握力が弱いこと,女性で歩行速度が遅いことと糖尿病を有することが転倒のリスク要因であった.結論:外来患者のサルコペニアの頻度は地域在住高齢者を対象とする先行研究と比較して高かった.ただし,この結果にはBIA法で筋量のカットオフ値が定まっていないという問題があり,解釈に注意が必要である.サルコペニアを転倒の一要因と考える場合,対象集団によって,またサルコペニアの判定だけでなく判定要因である筋力や歩行機能に着目する必要があると考えられる.
症例は71歳男性.30歳頃に肥大型心筋症(以下HCMと略す)と診断され,以来循環器内科にて通院加療を行っていた.68歳時より四肢末梢の冷感が出現,70歳時より四肢しびれ感と両足の脱力感,71歳時より歩行も困難となったため当科紹介受診となった.初診時両下肢で下垂足を認め,深部感覚は膝下より遠位で消失しており,腱反射は消失していた.神経伝導検査は軸索長依存性の軸索障害型感覚運動性多発ニューロパチーの所見であり,腓腹神経生検にてアミロイド沈着を認め,遺伝子検査にてATTR Val30Metの遺伝子変異が検出されたことから,トランスサイレチン型の家族性アミロイドポリニューロパチーと診断した.また神経症状出現時より心電図で低電位とI型房室ブロックが見られており,心筋生検にてHCMの所見に加えてアミロイド沈着を認めたことから,HCMの経過中に心アミロイドーシスを合併したものと考えた.タファミジス内服による治療を開始,1年の経過で四肢の筋力低下,感覚障害の明らかな進行は認めなかった.神経伝導検査では左尺骨神経の複合筋活動電位は低下を認めず,筋電図検査においても,左尺骨神経の支配筋である左第一背側骨間筋では,内服前には活発に認められた脱神経電位(線維自発電位,陽性鋭波)が,内服後1年での再検査では消失していた.しかしながら,左前脛骨筋では依然として活発な脱神経電位が確認された.心エコー検査では1年の経過で心機能の悪化を認めなかった.タファミジスがアミロイド沈着による神経障害,心機能障害に対し有効である可能性が検査結果からも示された.
88歳の女性.腰椎圧迫骨折,胃穿孔の既往がある.前日から持続する嘔吐を主訴として当院救急外来を受診した.受診時も嘔吐しており,心窩部から左側腹部にかけて自発痛・圧痛を認めた.また,著明な亀背であった.CTでは胃穹窿部は腹腔内に位置していたが,体部から前庭部が胸腔内に脱出しており,多量の胃内容物を確認した.食道裂孔ヘルニアに胃軸捻転を合併したupside down stomachと診断した.手術の説明を行ったが希望せず,保存的加療で経過をみる方針となった.胃管留置,禁食・補液管理で症状の改善を認めた.待機的に上部消化管内視鏡検査を行い,軸捻転の解除が確認できたため胃管を抜去した.食物通過の補助,再発防止目的として食後の体位変換(消化管の走行にしたがって食後に右側臥位,その後に腹臥位をとる)を指導し,食事を再開したところ症状の発現がなかったため自宅に退院した.upside down stomachの治療は手術適応となることが多いが,高齢者では内視鏡的整復後に胃壁固定を行う方法や,整復のみで保存的に経過を観察するといった方法が報告がされている.しかし,再発予防を目的とし,食後の体位変換を指導した報告は少なく教訓的と考えられたため,ここに報告する.
症例は81歳女性.嫉妬妄想を主訴に入院した.ノイズパレイドリアテストは陽性であったが,DLBの中核的特徴を認めずMIBG心筋シンチグラフィーも正常であった.約1年後に行ったノイズパレイドリアテストは再び陽性であり,認知機能の変動も出現し,DAT SPECT上,線条体での集積低下をみとめ,DLBの診断に至った.DLBでは,ノイズパレイドリアテストはより早期に陽性となる可能性があり診断に有用と考えられた.