日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
54 巻, 3 号
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目次
尼子賞受賞講演
日本老年医学会第2回尼子賞受賞講演
解説
ガイドライン
総説
  • 斎藤 拓朗, 添田 暢俊, 樋口 光徳, 押部 郁朗, 渡部 晶之, 根本 鉄太郎
    2017 年 54 巻 3 号 p. 299-313
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    わが国は,2035年には3人に1人が65歳以上という超高齢化社会を迎える.高齢者の周術期管理では術前,すでに複数の慢性疾患を有する場合が多く,特に糖尿病に対する対策は重要である.血糖コントロールの目標は日本糖尿病学会と日本老年医学会合同委員会の目標設定に準じる.周術期における具体的な血糖値は強化インスリン療法ではなく血糖180 mg/dlを目安とし,インスリンを併用する管理が推奨されている.手術に伴うリスク評価では,フレイル,サルコペニアなどに留意し,さらに社会的背景も考慮した高齢者総合的機能評価(CGA)に基づく総合的評価を要する.フレイル,サルコペニアは栄養障害と密接な関係にあり,感染症をはじめとする術後合併症を回避するという観点から,術前および術後における適切な栄養管理とリハビリテーションを行う必要がある.術後は術後回復力強化プログラムが注目されており,高齢者を対象とした研究でも一定の成果を認めている.しかし,高齢者では,術式によりその優位性が明らかとならない場合もあり,対象者の選択基準を詳細に検討するなどの慎重な適用が望まれる.術後せん妄は,多くの高齢者にみられ,また制御に難渋する合併症である.せん妄の治療には,まず原因の除去と環境調整を行い,適切な評価ツールにより鎮静レベルを評価しつつ薬物療法を併用する.周術期感染症管理では栄養状態の維持・改善につとめ,各種ガイドラインを遵守し適切な管理を行う.高齢であることはすでに手術部位感染(SSI)の高リスクであることを念頭におき,手術侵襲に応じた抗菌薬の選択と投与期間を設定する必要がある.

老年医学の展望
  • 高橋 健太, 岩崎 雄樹, 清水 渉
    2017 年 54 巻 3 号 p. 314-321
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーションは,特に発作性上室性頻拍や通常型心房粗動に対する根治療法として様々な頻脈性不整脈に有効である.しかし,高齢者においてその有効性および安全性は完全に解明されていない.方法:本研究では80歳以上の連続する64例を対象とし,生命を脅かす,血行動態が破綻する,虚血の誘因となる重篤な頻脈性不整脈に対して緊急でアブレーションを行った群(緊急アブレーション群,n=28)および待機的にアブレーションを行った(待機的にアブレーション群,n=36)の2群とし,カテーテルアブレーションの成功率,合併症,再発率,生命予後を2群間で比較した.結果:治療対象となった不整脈は2群間で差はなく,緊急アブレーション群(57%)と待機的アブレーション群(56%)の両群で通常型心房粗動が最も多かった.待機的アブレーション群と比較して,緊急アブレーション群の患者は高齢であり(84±3 vs 82±2,p=0.001),基礎心疾患を有している患者が多く(68% vs 17%,p<0.001),左室駆出率も低値であった(45%±15% vs 68%±10%,p<0.001)であった.急性期成功率(100% vs 100%,p=1.00)およびその後の再発率(4% vs 14%,p=0.22)は2群間で同等の結果であった.また,緊急アブレーション群で2例(穿刺部血腫,褥瘡),待機的アブレーション群で2例(穿刺部血腫,CO2ナルコーシス)にアブレーションに関連した非致死的合併症を認めた(7% vs. 6%,p=1.00).入院期間中の死亡例はいなく,追跡期間中の死亡率は緊急アブレーション群および待機的アブレーション群で差がなかった(年間6.0% vs. 年間3.9%, log-rank P=0.38).結語:80歳以上の高齢患者であっても,重篤な頻脈性不整脈に対する緊急カテーテルアブレーションは安全に施行可能であり,その後の洞調律維持効果も高く,予後良好であった.

特集
老年医学update 高齢者の睡眠障害
  • 井上 雄一
    2017 年 54 巻 3 号 p. 322
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー
  • 志村 哲祥, 高江洲 義和
    2017 年 54 巻 3 号 p. 323-328
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    人間の睡眠は,加齢に伴い総睡眠時間の短縮や中途覚醒時間の増加,睡眠覚醒リズムの前進などが起こり,生理的に不眠が生じやすい.高齢者の不眠に対してまず行うことは睡眠衛生指導であり,昼寝も含め,適切な睡眠スケジュールの指導などを行う.改善に乏しい場合には単剤・常用量での睡眠薬治療を考慮するが,ベンゾジアゼピン系睡眠薬使用により転倒・骨折や依存などの様々な有害事象を生じやすいため,リスク・ベネフィット比を評価して使用を検討すべきである.高齢者の不眠は,若年者の不眠とは,その病態も対応も異なるため,適切な評価と治療が必要である.

  • 鈴木 圭輔, 宮本 雅之, 平田 幸一
    2017 年 54 巻 3 号 p. 329-334
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    高齢者において不眠はよくみられる.高齢者では加齢性変化や併存疾患や内服薬の影響により,多様な原因によって不眠が生じる可能性がある.その中でレストレスレッグス症候群や周期性四肢運動異常は主な睡眠関連運動障害であり,入眠困難や中途覚醒の原因となる.

    本稿では高齢者における睡眠関連運動障害の診断や治療について解説する.

  • 櫻井 滋, 細川 敬輔, 櫻井 伴子
    2017 年 54 巻 3 号 p. 335-342
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    睡眠関連呼吸障害(SRBD:ICSD-3*)は,睡眠中に呼吸の停止と再開を繰り返す病態である.高齢者でも一般的な病態であり,加齢に伴い有病率と重症度は高くなる.高齢者では日中の眠気,睡眠中のいびきや無呼吸といった典型的症状のみでなく,種々の併存症に修飾される.不眠症状,夜間頻尿,認知機能の低下,心不全症状などの非特異的症状を呈する例があり,積極的な睡眠検査の実施が推奨される.治療の第一選択は在宅で行う経鼻的持続気道陽圧(nCPAP)療法であり,自覚症状の改善にとどまらず併存症を伴う患者の予後をも改善するが,高齢者では一般にnCPAPへの忍容性が低いため,導入初期における専門的療養支援が重要である.

    *ICSD-3:International Classification for Sleep Disorders 3rd

  • 野村 哲志
    2017 年 54 巻 3 号 p. 343-348
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    高齢者は加齢と共に身体機能の変化が起こり,種々の病気を合併し,薬剤の使用などの影響も受けやすい状況です.それらの影響で,昼夜逆転を含んだ睡眠障害を起こしやすい状況にあります.特異のものとしてレム睡眠行動障害があり,せん妄と鑑別の上で内服加療の必要があります.せん妄には背景因子があり,認知症患者で見られる周辺症状も含めた対応としては,病態の背景を理解し,生活指導の上少量の薬剤で対応する必要があります.

原著
  • 山岡 巧弥, 田村 嘉章, 小寺 玲美, 坪井 由紀, 佐藤 謙, 千葉 優子, 森 聖二郎, 井藤 英喜, 荒木 厚
    2017 年 54 巻 3 号 p. 349-355
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:高血糖高浸透圧症候群(hyperglycemic hyperosmolar state,HHS)は,高度の高血糖,脱水を特徴とする病態であり,高齢者でとくに発症率が高いが,多くのHHSの症例を集積してその特徴を検討した報告は少ない.われわれは7年間に当院に入院したHHSの14例についてその臨床的特徴を詳細に調査したのでここに報告する.方法:非ケトン性高浸透圧性昏睡またはHHSの病名で入院し,入院時血糖>600 mg/dLかつ血清浸透圧=2(Na)+glu/18>320 mOsm/kgであった65歳以上の14名について,その背景因子と臨床的特徴を調べた.結果:平均年齢は83歳と高齢であり,やせ型のものが多かった.脳梗塞または大腿骨頸部骨折の既往があるものが7/14例(50%)に認められた.糖尿病の平均罹病期間は14年だったが4例は初発だった.認知症の既往は86%,要介護3以上は71%と高率に認められた.また,独居または高齢者の同居者のみが57%であった.発症時期としては冬(12~2月)が多く,誘因として感染症が79%にみられ,尿路感染症と肺炎が多く見られた.ステロイド使用中,経管栄養中,両者併用のものがそれぞれ1,2,1名であった.平均血糖は881 mg/dL,HbA1c 10.3%,浸透圧353 mOsm/kg,pHは7.39であり,高度な脱水を呈するものが多かった.1名が入院中に死亡し,9例は療養病院または施設へ退院した.平均在院日数は55日であり,インスリン分泌能は良好なものが多く,9例が経口血糖降下薬のみで退院した.結論:高齢者のHHSの発症の背景と臨床的特徴が明らかになった.感染症合併例が多く,社会的サポート不足や認知機能低下,ADLの低下症例が多い.生命予後は良好であったが,自宅退院不能例が多いことから機能的予後はよくないと思われた.

  • 庭野 元孝
    2017 年 54 巻 3 号 p. 356-363
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:血清アルブミン値,末梢血総リンパ球数,総コレステロール値をスコア化して算出したものが,栄養評価ツールCONUTである.在院死患者と退院患者の二群のCONUT値,血清アルブミン値・末梢血総リンパ球数・総コレステロール値の4スコアを分析して,それらが高齢者患者の生命予後予測の一助になるかどうかを検討した.方法:2013年1月から4年間,65歳以上の高齢者患者で,SGAで栄養不良と評価されてNSTが介入した患者のうち,退院前10日以内にCONUT算出に必要な血清アルブミン値,末梢血総リンパ球数,総コレステロール値を測定していた患者は229人.同時期に内科入院して在院死した患者のうち,3つを死亡10日以内に測定していた患者は364人で,前者を退院群,後者を在院死群と名づけた.退院群と在院死群のCONUT値を算出して栄養不良レベルを比較,退院群のAHNの割合と種類を検討.さらに両群の血清アルブミン値・末梢血総リンパ球数・総コレステロール値の各スコアを単独で比較して,退院群のAHNの割合を検討した.結果:当院の対象患者に90歳以上の患者が多いことがひとつの特徴で,CONUT値,血清アルブミン値・末梢血総リンパ球数・総コレステロール値の各スコアの比較では,アルブミン値を除く3スコアで,退院群と在院死群の中等度栄養不良で,統計学的有意差を認めなかったが,正常,軽度・高度栄養不良で,有意差を認めた.特に血清アルブミン値が2.0 g/dl以下では在院死率が非常に高く,CONUTでのAHN移行率は,栄養レベル正常で37.0%,軽度栄養不良以上で5割を超えていた.結論:退院群と在院死群のCONUT値,血清アルブミン値・末梢血総リンパ球数・総コレステロール値の各スコアを比較したが,4スコアすべてで,高度栄養不良患者の在院死の比率が有意に高く,中等度不良では,アルブミン値を除く3スコアで有意差を認めなかった.退院群のCONUTでは,軽度栄養不良以上でAHN移行率が5割を超えており,上記4スコアは,生命予後を占う一助になると考えられた.

  • 伊藤 直子, 渡辺 修一郎
    2017 年 54 巻 3 号 p. 364-374
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:呼気筋訓練(Expiratory Muscle Strength Training:以下EMST)は,呼吸筋力や咳嗽能力を向上させるだけではなく,嚥下機能や発声機能を向上させる効果も期待されている.本研究では,地域在宅高齢者を対象としてEMSTを実施し,口腔機能および呼吸機能に及ぼす効果を明らかにする.方法:通所リハビリテーションを利用中の高齢者より対象を募り,応募者のうち介入群31名(76.2±5.1歳),対照群15名(78.1±6.5歳)とした.介入群に対しては,最大呼気圧の75%負荷圧のEMSTを5回を1セットとして1日5セット,毎日8週間継続させた.口腔機能の評価には3回唾液嚥下時間,舌上の湿潤度,舌圧,オーラル・ディアドコキネシス(Oral Diadochokinesis:OD)最大発声持続時間(Maximum Phonation Time:MPT),呼吸機能の評価は最大呼気圧(Maximum Expiratory Pressure:PEmax)および最大吸気圧(Maximum Inspiratory Pressure:PImax)を用いた.介入群と対照群のEMST前後の比較は,対応のあるt検定を用いた.さらに,介入効果を検討するために性別,年齢,ベースライン時の値を調整した一般線形モデルを用いた分析を行った.結果:3回唾液嚥下時間は,介入群の嚥下時間の短縮がみられ,性別,年齢およびベースライン値を調整後の比較においてもその差は有意であった.MPTは,介入群では平均2.1秒増加したのに対し,対照群では平均0.4秒減少しており,その差は有意であった.PEmaxは,介入群で平均5.7 cmH2O増加したのに対し,対照群では平均4.6 cmH2O減少しており,その差は有意であった.PImaxにおいても介入群は平均r544.0 cmH2O増加したのに対し,対照群では平均6.4 cmH2O減少しておりその差は有意であった.結論:EMSTは地域在宅高齢者の口腔機能および呼吸筋機能を向上させることが示唆された.嚥下・発声および呼吸に要する通路は一部共有し機能しており,呼気時に舌骨筋群等の収縮を繰り返し行うことで嚥下時間の短縮につながったのではないかと考えられた.また,発声時間については,EMSTにより呼気の保持時間が増し,発声の持続力を強化したことが考えられた.

  • 石田 晃介, 島上 哲朗, 金子 周一
    2017 年 54 巻 3 号 p. 375-380
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:C型慢性肝疾患に対する抗ウイルス療法は,直接作用型抗ウイルス薬(以下DAA)の登場で高率にウイルス駆除が可能となった.今回,当院においてDAAによる抗ウイルス療法を施行したC型慢性肝疾患症例を対象として,高齢者に対するDAAの有効性,安全性を検討した.方法:金沢大学附属病院においてDAAを導入したC型慢性肝疾患症例のうち,2016年8月までに治療終了後12週間目の持続的ウイルス学的著効(Sustained Viral Response at week 12 after treatment is completed:SVR12)の判定が可能であった223例を対象とした.治療開始時の年齢が70歳以上を高齢群,70歳未満を若年群として両群の臨床背景,抗ウイルス効果,有害事象を解析した.結果:全223例中,高齢群は79例,若年群は144例であった.年齢は高齢群で75.5±4.4歳,若年群で58.1±9.8歳(平均±SD),最年長は85歳,最年少は27歳であった.性別は高齢群で有意に女性が多かった(p<0.01).血小板数は高齢群で13.7±6.4×104l,若年群で15.9±7.0×104l と有意に高齢群で低値であり(p=0.02),FIB-4 Indexも高齢群で5.12±3.25,若年群で3.48±2.89と有意に高齢群が高値であった(p<0.01).肝癌既往歴を有する症例は,高齢群で79例中39例,若年群で144例中29例であり,高齢群で有意に多かった(p<0.01).血清AFP値は高齢群で12.5±20.3 ng/ml,若年群で15.7±22.3 ng/mlと有意差は認めなかった.DAA導入前の前治療は高齢群で79例中49例,若年群で144例中63例に治療歴があり,高齢群で有意に前治療歴を有する症例が多かった(p=0.01).治療効果は高齢群が79例中71例(89.9%),若年群が144例中131例(91.0%)でSVR12を達成しており,有意差は認めなかった.副作用中止は高齢群で79例中4例(5.1%),若年群で144例中4例(2.8%)に認めたが,有意差は認めなかった.SVR12達成後の肝発癌は高齢群で79例中17例,若年群で144例中12例に認め,有意に高齢群で多かった(p<0.01).結論:DAAの治療効果,副作用は両群間に差を認めず,高齢者においても安全に治療可能であった.しかし,高齢群では肝線維化進展例,肝癌治療歴を有する症例が多く,ウイルス駆除後の発癌に留意すべきである.

  • 谷口 英喜, 牛込 恵子
    2017 年 54 巻 3 号 p. 381-391
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:本研究では,自立在宅高齢者におけるかくれ脱水(体液喪失を疑わせる自覚症状が認められないにもかかわらず,血清浸透圧値が292から300 mOsm/kg・H2O)の実態調査を行い,非侵襲的なスクリーニングシートを開発することを目的とした.方法:65歳以上の自立在宅高齢者222名を対象に血清浸透圧値を計測し,かくれ脱水の該当者を抽出した.該当者において,脱水症の危険因子および脱水症を疑う所見に関してロジスティック回帰分析を行い,オッズ比を根拠に配点を行った.配点の高い項目から構成される自立在宅高齢者用かくれ脱水チェックシートを作成し,該当項目の合計点数の陽性的中率を求めリスク分類を行った.結果:自立在宅高齢者においてかくれ脱水の該当者は,46名(20.7%)であった.先行研究のかくれ脱水チェックシートを改良し,①トイレが近くなるため寝る前は水分補給を控える傾向がある(3点),②利尿薬を内服している(8点),③随時血糖値が126 mg/dl以上である(9点),④80歳以上である(3点),⑤男性である(4点),⑥体重60 kg以上である(3点),の6項目から構成される,自立在宅高齢者用かくれ脱水チェックシートを考案した.このシートにおいて,13点以上(合計30点)であればかくれ脱水である危険性が高いと考えられた(陽性的中率72%,陰性的中率85.6%;P<0.0001).結論:自立在宅高齢者においては,脱水症の前段階であるかくれ脱水が20.7%の割合で存在し,非侵襲的なチェックシートにより抽出が可能である.

  • 鈴木 みずえ, 服部 英幸, 福田 耕嗣, 大城 一, 猿原 孝行, 古田 良江, 阿部 邦彦, 金森 雅夫
    2017 年 54 巻 3 号 p. 392-402
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は介護保険施設における認知症高齢者の認知症の行動・心理症状(BPSD)に及ぼす生活の質(QOL)の影響を明らかにすることである.方法:介護保険施設に入所する認知症高齢者のADL(Katz),Mini-mental State Examination(MMSE),Neuropsychiatric Inventory(NPI),Quality of life inventory for elderly with dementia(QOLD)を評価した.結果:対象者は男性121名,女性396名の合計517名,介護老人福祉施設200名(38.7%),介護療養型医療施設91名(17.6%),介護老人保健施設226名(43.7%)で,平均年齢85.18±7.13歳であった.NPIに関しては,介護療養型医療施設と介護老人保健施設では下位尺度の興奮が高く,介護老人福祉施設では無為・無関心が高かった.NPIの各項目を目的変数とした重回帰分析においては,QOLDの対処困難行動のコントロールは有意な抑制因子になっていたものが多かった.結論:NPIの各項目を目的変数とした重回帰分析において,QOLDのいずれかの下位尺度と有意な関係がみられた.以上のことからQOLの維持向上に対するケアがBPSDを緩和することが示唆された.

  • 佐藤 亮平, 新井 康通, 阿部 由紀子, 高山 美智代, 漆原 尚巳
    2017 年 54 巻 3 号 p. 403-416
    発行日: 2017/07/25
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,東京都心部在住の超高齢者における,抗コリン作動薬及び鎮静薬が与える薬剤負荷の影響を調査することである.方法:東京在住超高齢者コホートTOOTHではベースライン時,3年後に2つの調査が実施されており,これらの調査から得られたデータを用い,抗コリン作動薬及び鎮静薬への曝露と,身体機能及び認知機能との関連を調査した.TOOTHの薬剤データベースから抗コリン作用及び鎮静作用を有すると考えられる薬剤を特定し,Drug Burden Index(DBI)を算出することで薬剤負荷を算出した.身体機能及び認知機能を表す各アウトカム指標との関連を,重回帰分析により検討した.また,ベースライン時から3年後調査時にかけての各アウトカム指標の経年変化を調査し,ベースライン時のDBIと各アウトカム指標の経年変化の関連を検討した.結果:DBIが算出された対象者はベースライン時調査で306名,3年後調査で176名であった.ベースライン時調査でIADL(p<0.01),MMSE(p<0.05),3年後調査でADL(p<0.05)がそれぞれDBIとの有意な負の関連を有した.ベースライン時及び3年後の双方の調査で,薬剤名及び一日用量情報が得られた対象者は110名存在した.ベースライン時から3年後で有意なアウトカムの経年変化は認められず,ベースライン時のDBIとの関連も見られなかった.考察:抗コリン作動薬及び鎮静薬が,超高齢者の身体機能及び認知機能に影響を与えることが示唆され,DBIが85歳以上の超高齢者に対しても有用であると考えられた.各アウトカム指標の経年変化は小さく,DBIとの有意な関連は認められなかったが,これはTOOTHの追跡がまだ十分行われていないことが一因と考えられる.今後,より大規模集団で更なる追跡を行うことで,各アウトカム指標の経年変化とDBIの関連を分析する必要がある.

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