日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
55 巻, 1 号
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
目次
総説
  • 荒木 厚, 井藤 英喜
    2018 年 55 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    「高齢者糖尿病の診療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」によって作成された「高齢者糖尿病ガイドライン2017」のエッセンスを紹介し,解説を加えた.高齢者糖尿病では認知機能や身体機能の障害がおこりやすく,それらの評価を含む高齢者総合機能評価を行うことが大切である.高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)は認知機能,ADL,併発疾患,重症低血糖のリスクなどに基づいて設定する.食事療法は過栄養だけでなく,低栄養,サルコペニアなどを考慮して行い,タンパク質やビタミンなどを十分に摂取する.運動療法は身体活動量を増やし,有酸素運動だけでなく,レジスタンス運動やバランス運動を行うことが望まれる.薬物療法は低血糖および他の有害事象を防ぐため,個々の心身機能や病態に十分配慮して行い,低血糖やシックデイの対策を行う.アドヒアランス低下や多剤併用にも注意する.

    今後,認知機能の簡易な評価法の開発,介護施設入所者の糖尿病のエビデンスの集積,および大規模なレジストリー研究などを行うことが,ガイドラインのさらなる発展のために必要である.

老年医学の展望
  • 井上 愛子, 成 憲武, 五籐 大貴, 葛谷 雅文
    2018 年 55 巻 1 号 p. 13-24
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    サルコペニア(sarcopenia)は,加齢に伴うさまざまな要因により,骨格筋蛋タンパクの合成と分解のアンバランス,筋肉修復能低下などが生じることより発症すると考えているが,その詳細に関して多くは不明である.サルコペニアをはじめとした骨格筋萎縮と機能低下の臨床的重要性が認知されつつあるとともに,骨格筋疾患に関する研究も新たな転換期を迎えている.加齢に伴う骨格筋の形態ならびに機能的変化に基づいたオリジナリティーの高い基礎研究が続々と発表され,従来では考えもし得なかった目覚しい発展を遂げている状況である.加齢による骨格筋疾患(サルコペニア)には骨格筋障害を伴っていることがしばしば多く,治療には骨格筋障害へのアプローチが必要である.サルコペニアの発症機序は多因子である.サルコペニア発症・進展プロセスにおいて骨格筋リモデリングと再生不全は重要であり,蛋白質分解システムの異常,そしてタンパク質合成と分解のアンバランスや骨格筋幹細胞の機能不全など様々な要因が関わっている.本稿では,プロテアーゼ·細胞外マトリックス代謝異常,骨格筋タンパク質合成と分解のアンバランス,骨格筋幹細胞老化・機能不全,炎症亢進,骨格筋細胞増殖とアポトーシスアンバランスならびにミトコンドリア機能不全の多方面から前3者に焦点を当てて,本研究グループの研究成果を交えてサルコペニアの新たな分子機構に関する最近の知見について概説する.

特集
高齢者の循環器診療update
原著
  • 吉村 幸雄, 井藤 英喜, 吉村 英悟, 鎌田 智英実, 奥村 亮太, 秦野 佑紀, 鈴木 太朗, 堀江 寿美, 高谷 浩司, 大見 英明
    2018 年 55 巻 1 号 p. 51-64
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    目的:移動販売車利用者の栄養素摂取量および食品摂取量を,店舗利用者のそれらと比較した.さらに,移動販売車利用者の中で買い物回数の違いおよび買い物手段が移動販売車以外にもある場合と無い場合の栄養素摂取量および食品摂取量についても比較した.これらの検討から,移動販売車利用者の栄養摂取状況の問題点を明らかにする.方法:買い物に移動販売車または店舗を利用した65歳以上の女性高齢者257名を対象に24時間思い出し法による食事調査および食料品アクセスに関するアンケート調査を実施した.栄養素摂取量および食品摂取量の比較は,年齢を共変量とした共分散分析により行った.結果:移動販売車利用者の栄養素および食品摂取量は,店舗利用者と比較して,エネルギー摂取量が168 kcal有意に低く,また3大栄養素および種々のビタミン,ミネラル類が有意に低値であった.食品摂取量では,移動販売車利用者は緑黄色野菜,その他の野菜,肉類等が有意に低値であった.次に移動販売車利用者について解析を行った.移動販売車のみを買い物手段とする者は,移動販売車以外に買い物手段を持つ者より,エネルギー,3大栄養素およびその他の栄養素が有意に低値であった.さらに,移動販売車のみの利用者で買い物回数と栄養素摂取量および食品摂取量を比較したところ,1週間の買い物回数が1回の者は,2回の者よりもエネルギー,たんぱく質等の摂取量が有意に少なかった.結論:移動販売車利用者では,3大栄養素や種々のミネラル,ビタミン摂取量が低値であり,食品としては野菜,肉類,乳類等の摂取量が少なかった.これらの事実は,移動販売車利用者では,食事量そのものが不足気味であることを示唆している.その一因として,移動販売車以外の他の買い物手段がないことや買い物回数が週に1回であることが考えられ,これらの改善が望まれる.

  • 川村 皓生, 加藤 智香子, 近藤 和泉
    2018 年 55 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    目的:通所リハビリテーション事業所(以下,通所リハ)利用者の生活活動度を構成する因子は多様であるが,様々な生活背景や既往歴を持つ高齢者の生活活動度の関連因子について多方面から調査した研究は少なく,また生活活動度の違いがその後の要介護度の変化にどのような影響を与えるのかについては不明な点が多い.今回は,通所リハ利用者に対し精神・社会機能も含めた複合的な調査を行い,生活活動度の関連因子および,約1年後の要介護度変化の差について検討することを目的とした.方法:2カ所の通所リハ事業所利用者のうち,65歳以上であり,要支援1・2・要介護1いずれかの介護認定を受け,屋外歩行自立,MMSE(Mini-Mental State Examination)≧20の認知機能を有する83名(平均年齢79.5±6.8歳)を対象とした.主要評価項目の生活活動度はLife Space Assessment(LSA)にて評価した.LSAとの関連を調査する副次評価項目として,一般情報(年齢,既往歴,要介護度など),身体機能・構造(握力,Timed Up and Go test(TUG),片脚立位など),精神機能(活力,主観的健康感,転倒不安など),社会機能(友人付き合い,趣味,公共交通機関の有無など)について調査した.また,調査開始から約1年後の要介護度について追跡調査を行った.結果:重回帰分析の結果,TUG(β=-0.33),趣味の有無(β=0.30),友人の有無(β=0.29),近隣公共交通機関の有無(β=0.26),握力(β=0.24)の順にLSAとの関連を認めた.次に,LSA中央値54点でLSA高値群,LSA低値群に二分し,約1年後の要介護度変化(軽度移行・終了,維持,重度移行)についてカイ二乗検定にて検討したところ,群間の分布に有意な差を認めた(p=0.03).結論:通所リハ利用者の生活活動度には,身体機能に加えて,外出目的となり得ることや実際の外出手段を有することといった複合的な理由が関連していることが示唆された.また高い生活活動度を有することにより,その後の要介護度の軽度移行や利用終了に結びつきやすくなる可能性が推察された.

  • 岡本 るみ子, 水上 勝義
    2018 年 55 巻 1 号 p. 74-80
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    目的:我が国の高齢化が諸外国に比べ類を見ないスピードで進む中,予防・対策の一策として運動が注目されている.身体運動プログラムは高齢者の精神健康や認知機能に有効との報告があるが,現在,地域包括支援センターを中心に展開されている身体運動プログラムは脱落率の高さや,四肢機能低下により実施困難者が存在することなどの課題も指摘される.こうした中,本研究では顔の運動に注目した.先行研究からも顔の運動が精神健康や気分に肯定的な影響を及ぼすことが期待される.方法:東京都K区在住で,同意を得られた65歳~87歳までの認知機能が正常の75名(男性:3名,女性:72名)を介入群と非介入群とに無作為に割り付け,介入群に対し,1回30分,週2回,12週間(合計24回)の顔の運動(フェイスエクササイズ)を実施した.運動強度は2.5~3METs程度である.介入は2016年4月~6月の3カ月間実施した.測定項目は,GHQ-12による精神健康度,改訂PGCモラールスケールによる主観的幸福感,表情解析,舌圧などである.非介入群に対しては,ほぼ同じ時期に測定を実施した.介入前後の変化,両群間の効果の比較について統計的に分析した.結果:対象者のうち介入群は8割以上,顔の運動教室のみに参加した25名(脱落率32%,継続実施率68%),非介入群は介入前後の測定のみに参加した28名を解析対象とした.介入群のGHQは介入後に有意に低下し,介入により精神健康度が改善したことが示された.改訂PGCモラールスケールによる主観的健康感に変化は見られなかったが,精神健康度と主観的健康感の変化は有意に関連した.また,表情や舌圧も有意な改善を示した.さらに,多くの参加者から肯定的な評価が寄せられた.結論:顔の運動により,介入群の高齢者の精神健康や気分,舌圧,表情に対する改善効果を認めた.本研究の結果は,本介入プログラムが介護予防プログラムの一つとして活用可能であること,特に四肢筋力低下など全身運動が困難な高齢者にとって有用なプログラムであることを示唆している.

  • 伊藤 絵梨子, 田髙 悦子
    2018 年 55 巻 1 号 p. 81-89
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    目的:進行がん患者のケアに対する家族の満足度を測定するShort-Form FAMCARE Scale(Ornstein, 2015)の日本語版を開発し,在宅終末期がん療養者の家族における信頼性と妥当性を検証する.方法:対象は,国内11地区(東京,栃木,茨城,埼玉,千葉,神奈川,奈良,兵庫,香川,愛媛,佐賀)における在宅終末期がん療養者の家族介護者316名のうち,無記名自記式質問紙調査(郵送法)に回答した者である.Short-Form FAMCARE Scale 10項目および5項目版(Ornstein, 2015)をもとに,日本語版Short-Form FAMCARE Scale 10項目および5項目版を作成し,逆翻訳について原作者の承認を受けた上で確定した.信頼性はCronbachα係数にて評価し,妥当性は確証的因子分析による構成概念妥当性,ならびにCaregiver Quality of Life Index-Cancer(CQOLC)との関連を検証した.結果:調査回答者130名のうち120名を分析対象とした.家族介護者は女性91名(75.8%),平均年齢は64.6±12.0歳であった.確証的因子分析では,日本語版Short-Form FAMCARE Scaleは1因子10項目ならびに5項目構造が確認され,各々Goodness of Fit Index=.910,.972,Adjusted GFI =.835,.916,Comparative Fit Index=.968,.992,Root Mean Square Error of Approximation=.095,.081の適合値が得られた.尺度全体のCronbach α係数は10項目版,5項目版それぞれ0.95,0.93であり,十分な内的整合性をもつと判断された.また,CQOLCとの有意な関連が(10項目版r=0.304,P<0.01,5項目版r=0.311,P<0.01)認められた.結論:日本語版Short-Form FAMCARE Scale 10項目および5項目版は,在宅終末期がん療養者の家族において十分な信頼性と妥当性が検証された.

  • 山下 万紀子, 小松 利恵子, 丸山 祐子, 高木 伴幸, 一ノ瀬 浩, 佐々木 修, 澤瀬 健次, 原田 孝司, 舩越 哲
    2018 年 55 巻 1 号 p. 90-97
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    目的:我が国の高齢化に伴い高齢者施設に入所する透析患者は増加している.高齢透析患者に対して透析食を提供すると,透析食は塩分・水分をはじめとする制限食であることが理由で充分な食事摂取量に至らず栄養状態が低下する場合がある.今回われわれは,特別養護老人ホームに入所する高齢透析患者の食事摂取量の増加と栄養状態の改善を試みた.方法:1日の食事摂取量が50%以下で低栄養状態である7症例に対し,食事摂取量の増加を目的に主食と副食の量を半分に減らして毎食必ず汁物を付けた.その3カ月後に摂取栄養量と生化学検査における各種栄養指標を評価した.結果:食事内容を変更後,摂取熱量は864±99 Kcal(21.1±2 Kcal/Kg/day)から1220±34 Kcal(33±9 Kcal/Kg/day)へ,摂取タンパク質量は28.1±3.2 g(0.7±0.1 g/Kg/day)から38.4±1.1 g(0.9±0.02 g/Kg/day)へ有意に増加した.geriatric nutritional risk index(以下GNRIと略す)は83.5±8.3から86.1±10.2へ,血清アルブミンは3.2±0.2 g/dlから3.4±0.4 g/dlへ有意に上昇した.結論:この結果から高齢者においては,特に医療行為に限界がある高齢者施設の入所者において,食事療養基準をふまえつつも希望を優先するなどの臨機応変な対応が重要であることを実感した.

  • 紙谷 博子, 梅垣 宏行, 岡本 和士, 神田 茂, 浅井 真嗣, 下島 卓弥, 野村 秀樹, 服部 文子, 木股 貴哉, 鈴木 裕介, 大 ...
    2018 年 55 巻 1 号 p. 98-105
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    目的:認知症患者のQOL(quality of life)について,本人による評価と介護者による代理評価との一致に関する研究はあるが,在宅療養患者のためのQOL評価票をもちいて検討したものはない.本研究の目的は,主介護者などの代理人に回答を求めるQOL評価票の作成と,本人の回答との一致性について検討することとした.方法:この研究は在宅患者の観察研究である.我々が開発した,4つの質問からなるQOL評価票であるQOL-HC(QOL for patients receiving home-based medical care)(本人用)に基づいて,QOL-HC(介護者用)を作成した.また,QOL-HC(本人用)とQOL-HC(介護者用)を用いて,患者本人と主介護者から回答を求め,それぞれの質問への回答の一致率についてクロス集計表を用いて考察した.また,合計得点についてはSpearmanの順位相関係数を求めた.結果:質問1「おだやかな気持ちで過ごしていますか.」,質問2「現在まで充実した人生だった,と感じていますか.」,質問3「話し相手になる人がいますか.」,質問4「介護に関するサービスに満足していますか.」について,本人と介護者の回答の一致率は,それぞれ52.3%,52.3%,79.5%,81.8%であった.また,QOL-HC(本人用)合計点とQOL-HC(介護者用)合計点について有意な弱い相関を認めた(Spearmanのρ=0.364*,p=0.015).結論:本人と介護者による評価とに50%以上の一致率をみとめ,合計点について有意な相関をみとめた.介護者による評価を参考にできる可能性はあるが,評価のかい離の要因およびQOL-HC(介護者用)の信頼性の検討が必要である.

  • 宇良 千秋, 岡村 毅, 山崎 幸子, 石黒 太一, 井部 真澄, 宮﨑 眞也子, 鳥島 佳祐, 川室 優
    2018 年 55 巻 1 号 p. 106-116
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,稲作を中心とした農業ケア・プログラムが認知機能障害をもつ高齢者の社会的包摂を実現するためのプログラムとして実行可能性があるかどうかを検証することである.方法:新潟県内の病院に入院・通院している認知症および軽度認知障害をもつ高齢者8名(男性7名,女性1名,平均年齢68.3歳)を対象に,週1回90分,計25回の稲作を中心とした農作業のプログラムを行った.プログラムの実行可能性を検討するために,プログラム期間中の観察により対象者の作業の安全性と自立度を評価し,プログラムの実施前と終了時に認知機能と精神的健康(well-being,うつ)を評価した.また,プログラム終了時に対象者および施設職員に聞き取り調査を実施し,プログラムによる社会参加や感情への影響を評価した.結果:プログラムの平均参加率は93.0%で脱落者はいなかった.事故はなく,対象者はおおむね自立して作業ができた.プログラム実施前には精神的健康不良またはうつ疑いに該当する者が2名いたが,参加後にはいずれも該当する者はいなかった.プログラム終了時に実施した対象者および施設職員への聞き取り調査の回答からは,プログラムへの参加によって,対象者に仲間意識や役割意識,ポジティブな感情が生じたことが示唆された.また,施設職員の発言からは,プログラムによって対象者が社会参加の機会を得られたことや,本来対象者がもっている能力や資源が引き出されたことがうかがわれた.結論:稲作を中心とした農業ケア・プログラムは,認知機能障害をもつ高齢者の社会参加を促し,精神的健康やうつを改善させるプログラムとして実行可能であることが確認できた.また,対象者が本来もっている能力や資源が引き出される可能性のあるプログラムでもある.今後は対象者の数を増やして,より質の高い研究デザインで効果を検証する必要がある.

  • 竹田 和也, 中村 光, 徳地 亮
    2018 年 55 巻 1 号 p. 117-123
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    目的:言語性記憶機能を測定する代表的検査法として,一連の単語リストを聴覚的に呈示してその再生を求めるRey Auditory Verbal Learning Test(AVLT)とCalifornia Verbal Learning Test(CVLT)がある.CVLTでは,検査語リストが意味カテゴリーで構造化されており記憶方略の側面をも評価できるとされるが,両検査とも日本語の標準的検査語リストはなく,難度が異なるため検査成績を直接比較できない.本研究では,検査語の数と難度を一致させた検査語リストを作成し,それを若年者と高齢者の2群に実施することで,言語性記憶課題における加齢と検査語リストの構造化の影響を明らかにする.方法:AVLTに準じた非構造化(NS)課題とCVLTに準じた構造化(S)課題を作成し,健常の若年者(18歳~25歳)と高齢者(65歳~80歳),各40名に実施した.結果:高齢群は若年群より再生数が有意に少なく,一度再生された単語が干渉刺激によって失われる率が有意に高かった.また,高齢群は若年群に比べてNS課題よりもS課題で再生数が有意に多かった.結論:高齢者は言語性記憶が低下しており,基本的記憶能力の低い高齢者では,記憶方略が使いやすい構造化されたリストの利益を受けるものと考えた.本邦で初めて,単語リスト学習課題の標準的検査語リストを考案し,異なる年代における成績の標準値を示した.

  • 山口 晃樹, 平瀬 達哉, 小泉 徹児, 井口 茂
    2018 年 55 巻 1 号 p. 124-130
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    目的:フレイルを有する高齢者を早期に発見し,適切な介入に繋げることは健康寿命を延伸する上で重要である.一方,急性期病院においても入院患者の高齢化は顕著であり,フレイル対策は重要であると考えられるが,この点を調査した研究は少ない.そこで本研究では,急性期病院におけるフレイルを有する高齢入院患者の有症率とその特徴を明らかにすることを目的とした.方法:対象は,在宅より急性期病院に入院した65歳以上の患者198名(76.1±7.1歳)とした.フレイルは基本チェックリストを用いて評価し,該当合計数が0から6項目である対象者を非フレイル群,7項目以上である対象者をフレイル群と定義し,フレイルの有症率を算出した.評価項目は,年齢,性別,診療科,持参薬の数,栄養状態(Alb値),Body Mass Index,入院期間中の合併症の有無とし,各評価項目を2群間で比較した.また,フレイル群と非フレイル群の基本チェックリストの項目別該当者数を調査した.結果:非フレイル群は111名(56.1%),フレイル群は87名(43.9%)であった.群間比較の結果,フレイル群では非フレイル群よりも年齢が有意に高く,女性が多かった.また,フレイル群ではAlb値が有意に低く,入院期間中に合併症を発症している人数も多かった.基本チェックリストの該当項目では,フレイル群は社会参加,運動機能,口腔,閉じこもり,抑うつの項目で5割以上が該当していた.結論:急性期病院ではフレイルを有する高齢入院患者は多く,フレイル対策の重要性が明らかとなった.また,フレイルを有する高齢入院患者は高年齢や女性ならびに低栄養状態であり,入院期間中に合併症を発症するリスクが高い可能性が示唆された.そして,このような高齢者には運動機能,精神心理面,口腔機能,社会参加といった多面的な評価や介入が必要であることが示唆された.

症例報告
  • 阿座上 聖史
    2018 年 55 巻 1 号 p. 131-135
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    動脈硬化性疾患が増多する昨今,抗血小板薬内服中止による血栓リスクが高い状態で胃瘻造設を余儀なくされる状況がしばしばある.日本消化器内視鏡学会のガイドラインによると胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)は高出血リスクに分類されているが,低用量アスピリン1剤内服の場合は中止することなく処置可能とされている.しかし内頸動脈狭窄症でバイアスピリン100 mg/day内服中の87歳男性例にintroducer変法での胃瘻造設を施行した日の夜間,大量吐血・出血性ショックを伴う重篤な創部出血を経験した.患者の血小板数,PT,APTTは正常範囲内であった.そこでIntroducer変法に比して術後の圧迫止血が簡便なpull法では,抗血小板薬内服中であっても後出血のリスクを少なくしうるのではないかと考え今回の検討に及んだ.抗血小板薬内服中の8例(4例のDAPT(dual antiplatelet therapy)を含む)にpull法で胃瘻造設を行った.基礎疾患は全例脳血管障害であり血小板数,PT,APTTは正常範囲内であった.結果8例中1例にごく軽微な出血(アルギン酸塩貼布にて翌日には止血しえた)が見られたのみであり,全ての症例で創部感染を伴わなかった.今回少数例での検討ではあるが,抗血小板薬内服中の患者の胃瘻造設にpull法を安全に施行できる可能性が示唆された.

  • 安藤 克敏, 石井 正紀, 米永 暁彦, 柴崎 孝二, 山口 泰弘, 浦野 友彦, 小川 純人, 秋下 雅弘
    2018 年 55 巻 1 号 p. 136-142
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    症例は82歳女性.X年に胸部異常陰影を認め,他院で非結核性抗酸菌症(NTM症)と診断され,喀痰検査ではMycobacterium avium complex(MAC)が検出されており,以降は未治療で経過観察されていた.当院呼吸器内科でX+15年7月からクラリスロマイシン800 mg/日,エタンブトール750 mg/日,リファンピシン600 mg/日で抗菌薬治療開始となっていたが,本人の体調不良と中止希望により,同年11月からエリスロマイシン単剤治療となった.喀痰培養ではX+14年から陰転化は見られていない.その後,当科転科となり,X+17年1月胸部単純CTで右優位の空洞壁肥厚が認められ,NTM症の増悪が考えられたためクラリスロマイシン600 mg/日(12 mg/kg),エタンブトール750 mg/日(15 mg/kg),リファンピシン450 mg/日(9 mg/kg)を再開した.内服再開後40日頃から胸痛,43日目に右背部痛,右胸痛,呼吸困難を自覚し同日緊急入院となった.胸部単純X線と胸部単純CTにて,右肺に気胸及び胸水を認め,胸腔ドレーンを留置した.その後のクランプテストで右肺の膨張を確認したため,胸膜癒着術を必要とせず,挿入後の入院第10病日にドレーン抜去とした.

    今回我々は,NTM症の治療中に気胸を合併した症例を経験した.NTMの増悪により,臓側胸膜が脆弱化していたことに付け加え,抗菌薬治療再開後に壁肥厚及び炎症所見が軽快傾向を示し,壁の癒着が解除されたため気胸を呈したと考えられる.本症例は高齢者のNTM症治療経過中における併発した気胸として重要な症例と考えられたため報告する.

  • 千丈 創, 盛 暁生, 金谷 穣, 泉山 康, 岡田 耕平, 竹薮 公洋, 飛岡 弘敏, 斉藤 誠, 田中 雅則, 豊嶋 崇徳, 森岡 正信
    2018 年 55 巻 1 号 p. 143-147
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/03/05
    ジャーナル フリー

    膿胸関連リンパ腫(pyothorax-associated lymphoma;PAL)は,結核性胸膜炎や肺結核症に対する人工気胸術後の患者が,数十年後に膿胸腔に隣接して発症する悪性リンパ腫である.人工気胸術は1950年代から施行されなくなっており,膿胸関連リンパ腫患者は今後減少していくと考える.今回,われわれは人工気胸術から67年後に発症し,潜伏感染III型EBウイルスの関連が強く示唆されたPALの1例を経験した.人工気胸術の既往がある患者に胸部症状が認められる場合,依然として膿胸関連リンパ腫を念頭に入れる必要があることを示す貴重な症例として,文献的考察を加えて報告する.症例は84歳男性.1950年に肺結核に対し人工気胸術を施行された.2017年2月中旬より右胸部痛が出現し,近医を受診した.胸部単純写真にて浸潤影を認め,胸部単純CTで右胸壁,右肺底部,下大静脈背側に腫瘤陰影を認めた.18FDG-PETで同部に一致して高集積を認めた.このため右胸壁腫瘤に対しCTガイド下で経皮生検を施行し,病理組織学的にびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(Diffuse large B-cell Lymphoma;DLBCL)と診断された.3月某日に精査加療目的で当院入院した.入院時血液検査で血清EBV-DNAが33,000 copies/mlと著明に高値であり,腫瘤検体に対する追加の免疫染色でEBNA-2陽性の腫瘍細胞をびまん性に認め,LMP-1陽性の腫瘍細胞を少数認めたことから,EBウイルス潜伏感染III型による膿胸関連リンパ腫の診断に至った.DLBCLに対しR-THP-COP,BRによる化学療法を施行し,血清EBV-DNAの著明な減少を認めたが,全身状態の悪化から治療継続困難となり,化学療法を中止し緩和的治療へと変更した.

短報
医局紹介
老年医学Q&A
会報
会告
feedback
Top