認知症疾患治療ガイドライン2010が7年ぶりに改訂され,認知症疾患診療ガイドライン2017として平成29年8月に公開された.本ガイドラインは日本神経学会が中心になり,6学会合同の作成委員会が作成にあたった.その主な特徴は,1.Minds 2014に準拠したこと,2.従来の「アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)」は病理プロセスを指す用語として位置づけ,臨床的なアルツハイマー病を指す用語としてアルツハイマー型認知症に統一したこと,3.アルツハイマー病の新しい診断基準の紹介,4.抗認知症薬4剤の治療アルゴリズムの記載,5.認知症の社会制度・医療資源の項が新たに設定されたこと,などが列挙される.
認知症疾患治療ガイドライン2010はMinds 2007 に準拠して作成された.ガイドライン2017が準拠するMinds 2014は,システマティックレビューに基づいてエビデンスの総体を評価し,推奨度はエビデンスレベルに加えて負担・費用・患者の価値観の要素を加味して益と害のバランスを考慮しパネル会議で決定した.アルツハイマー病の根本治療薬は近年,その治療標的を早期の病態に移している.疾患プロセスも発症前期(preclinical AD),軽度認知障害(MCI due to AD),認知症(AD dementia)の3ステージに分けられている.ガイドライン2017はこの潮流に沿っており,臨床的に診断されるアルツハイマー病を「アルツハイマー型認知症」の呼称で統一している.抗認知症薬4剤の治療アルゴリズムについては前回のガイドラインで記載ができなかった.2012年のコンパクト版で補遺されたが,正規版に記載されるのは今回が初めてである.また,認知症に起因する社会問題の急増に合わせて2015年に新オレンジプランが策定されたが,本ガイドラインでも社会制度・医療資源の項を独立させて詳細に解説している点は特筆すべきである.
自動運転車の研究開発の流れ,実用化の方向,自動運転の技術を概観し,高齢化社会における役割について論じる.自動運転の研究開発,実用化の流れは戦前から四期の流れを持つ自動運転技術開発の流れと,2000年以降の実用化に向けた動向を概説する.自動運転の技術としては,現在実用化されている運転支援システムと現在開発が進められている自動運転を対比させながら,自動運転の技術を概説する.高齢化社会における役割では,現在実用化に向けた開発・実証実験が進められている二つのタイプの自動運転,すなわち,個人の乗用車の安全技術としてのレベル3自動運転,限定地域における無人自動運転移動サービスについて,その役割を述べる.レベル3自動運転は,運転可能年齢を伸ばし,限定地域における無人自動運転移動サービスは,高齢化少子化が進む地方における生活の質の維持,向上に寄与する.
わが国では,交通事故死者数が減少傾向にあるが,65歳以上の高齢者が占める割合は増え続け,54.8%となった.高齢運転者は,青壮年に比べて事故をおこしやすく,特に正面衝突事故が多い.事故の原因として,慌てやパニック状態となり,適切な危険回避行動をとれないことや,体調不良によって適切な操作を行えないことが挙げられる.高齢者は判断能力や操作能力が低下するため,これらを補うような訓練や装置の導入が望ましい.
安全な自動車運転を行っていくためには,「認知,予測,判断,又は操作」の領域が十分に保たれていることが必要である.運転安全性の評価には,神経心理学的検査,運転シミュレータ,同乗者による評価,実車による評価を適宜組み合わせていく.認知機能領域に関しては,注意機能と視空間認知機能を中心に,一般的知能,記憶,遂行機能,聴覚―言語機能,感情コントロールといった領域を評価する.
加齢にともなう認知機能の低下が,高齢者の自動車運転に影響を及ぼすことは,広く知られている.しかし,加齢に伴う身体機能の変化が安全運転に及ぼす影響については知られていない.近年眼科領域にて緑内障による視野欠損と運転に関する報告が相次いでいる.変形性関節症や椎間板ヘルニア,それらの手術後影響,難聴なども安全運転に関わってくる.本稿では,これら疾患の安全運転への影響と対応について解説した.
現在,高齢運転者の認知症対策を強化した改正道路交通法が施行され,ニュース等で取り上げられる高齢者の自動車運転に関する話題も多い.自動車運転は「知覚→判断・予測→運動」に至る複合的な機能が動員される複雑な作業であり,本稿ではまず,高齢者の運転特性について,次に高齢者の運転適性を行うにあたり路上運転評価よりはるかに簡便な簡易自動車運転シミュレーターを使用した自動車運転に必要と考えられる高齢者の認知機能面の特徴について論述する.
超高齢社会のフロントランナーである日本は,世界に先駆けて超高齢化に関連する課題を解決していくべきであるが,老年医学的視点はまだまだ不十分である.治し支える医療へのパラダイムの転換,2025年問題を克服してさらに豊かな発展を目指すための健康寿命の延伸には,制度や技術の革新が求められる.そのための人材教育は,医学部教育,専門医育成,研究者育成ともに国策として推進すべき課題である.
平成13年に策定された医学教育モデル・コア・カリキュラムは,「多様なニーズに対応できる医師の養成」をキャッチフレーズとし,平成29年3月に6年ぶり3回目の改訂が行われた.社会の変遷への対応,卒前・卒後の一貫性,医学・歯学における基本的な資質・能力の共有が基本的理念である.新たな項目「老化と高齢者の特徴」が設けられ,診療参加型臨床実習,および,地域医療教育についても重点化されることが望まれている.
高齢化社会の日本において,老年医学の可能性を拡げられる教育について考察した.持続可能な社会保障制度の構築のためには,健康寿命の延伸が必須であり,老年病専門医の活躍が望まれるところであるが,老年科設置は24大学,専門医数も1,448人と明らかに不足している.今後の老年医学には,地域包括ケア等をマネジメントするためにも,学部教育~生涯教育に至るまで一貫した全人的医療とCare・集団的アプローチの視点を求める.
国立長寿医療研究センターは,高度先駆的医療,新しい機能回復医療,包括的・全人的医療を行うとともに,老化と老年病の研究,新しい医療技術の開発,社会科学を含む幅広い研究を行うため設立された.同時に,高齢者医療の普及に向けた教育・研修を行うことも求められている.超高齢社会を迎えた我が国において国立長寿医療研究センターは老年医学・老年学・老化研究の推進を通して,その重要性を普及させ,政策提言を行っていくことが求められている.今後とも日本老年医学会と連携し健康長寿社会を目指した活動を継続することが求められる.
老年病専門医は総合内科を基本領域とするサブスペシャルティ専門医であり,カリキュラムに示された幅広い知識や技能を修得し,それをさまざまな診療の場で実践する能力を身につけることを求めている.4年間のプログラムの間に,カリキュラムの必須項目のすべてと必須以外の項目のうち7割以上を修得する必要がある.また,他職種を含む形成的評価を重視しており,最終的に筆記試験ではなく面接試験によって合否を判定するようになっている.
2015年,医師,看護師,薬剤師,臨床心理士,栄養士,MSWの多職種による高齢者総合診療部を設立した.2016年度,依頼99例,他整形手術26例で平均男性77.2,女性81.1歳だった.約9割が中枢神経関連で神経救急とケアの知識が必須だった.また,老年科,神経内科,精神科と基礎研究を結びつけ,社会問題も扱う認知症科を設立した.異常蓄積蛋白による大脳局所診断を目指し家族の包括的認知症医療を行っている.さらにケアラー外来を創設しケアラー救済による社会的悲劇の予防を提案し医療から社会の変革を試みている.
目的:抗がん剤の進歩にもかかわらず,手術不能進行・再発胃がん患者の予後は不良である.後期高齢者は,併存疾患も多く,臓器予備能が低下しているために,抗がん剤の選択には,特に注意が必要となる.今回,化学療法を受けた胃がん患者を対象にして,生存期間に影響を与える因子について検討した.方法:2008年5月から2017年4月までの9年間に,名古屋記念病院で経口フッ化ピリミジン系抗がん剤の投与を受けた胃がん患者(N=130)のカルテを後ろ向きに調査した.Kaplan-Meier法で化学療法開始日からの生存期間を算出し,75歳未満と75歳以上で化学療法の成績を比較した.次に後期高齢者を対象に,生命予後に影響を与える因子について多変量解析(COX比例ハザード回帰)を用いて解析した.結果:抗がん剤治療を受けたstage 4胃がん患者は92例で,75歳未満(N=64)と75歳以上(N=28)の2群間で,化学療法の奏効率と化学療法開始からの生存期間を比較したところ,いずれにおいても有意差は見られなかった.年齢・性別・治療レジメンの違いは生存期間に関与しなかったが,レンチナン併用により有意に生存期間が延長した(488日[95%CI 369~586日]vs 215日[95%CI 127~484日],p=0.004;log-rank検定).後期高齢者において,多変量解析を用いて生存期間に対するハザード比を性別,日常生活動作,手段的日常生活動作あるいは老研式活動能力指標,プラチナ製剤・レンチナン併用の有無について調べたところ,老研式活動能力指標のみが独立した有意な結果を得た(ハザード比4.131[95%CI 1.516~11.250],p=0.006).結論:胃がん化学療法において,後期高齢者は予後を低下させるリスク因子とはならなかった.後期高齢者では,包括的老年学評価を行い,老研式活動能力指標を測定することが生命予後を予測するのに有用だった.
目的:当院における高齢発症関節リウマチ(RA)症例の初期治療と臨床経過を明らかにする.方法:1.80歳以上でRAを発症した55例(高齢発症群)の診断時背景,初期治療内容,治療反応性,合併症を調査し,40~59歳で発症した119例(非高齢発症群)と比較した.2.80歳以上でRAを発症し当院で生物学的製剤を導入された19例の導入時背景,治療反応性,合併症を調査した.結果:1.高齢発症群の診断時平均DAS28-ESR(DAS),HAQ-DI(HAQ)は非高齢発症群より有意に高かった(4.91±1.31 vs 4.41±1.47,p=0.043,1.2±0.9 vs 0.5±0.6,p<0.01).高齢発症群では初期治療として87.3%に従来型合成抗リウマチ薬(csDMARDs)が使用されたがMTX使用例はなかった.56.4%にプレドニゾロン(PSL)が使用され非高齢発症群より有意に高率であった(p<0.01).3,6カ月後両群ともDAS,HAQは有意に低下したがHAQは高齢発症群で高かった.PSL導入例31例は非導入例24例に比べ3カ月でDAS,HAQが有意に大きく低下した(ΔDAS:2.55±1.83 vs 1.83±1.23,p<0.01,ΔHAQ:0.9±1.0 vs 0.3±0.6,p=0.027).感染症合併は高齢発症群で多かった.2.19例の導入時DASは4.93±1.17,HAQは1.5±1.0であった.このうち6カ月間観察できた15例のDAS,HAQは6カ月後有意に低下した.考察:当院では高齢発症例でMTX使用率が低く大部分はMTX以外のcsDMARDsとPSL併用で短期的な疾患活動性低下や身体機能改善を得られたが生物学的製剤を要する重症例もあった.現在高齢発症RA治療の明確な推奨はないが合併症リスクへの配慮と速やかな疾患コントロールをどのように目指すべきか,今後の検討課題と考えられた.
目的:高齢者を含めた脳卒中患者における回復期リハビリテーション診療の現状について分析すること.対象と方法:当院回復期リハビリテーション病棟へ入院した147例を退院後の転帰先別に4群へ分類し(自宅:A,施設:B,老健:C,療養型病院:D),年齢,発症―入院期間,入院時NIHSS,在院日数,リハ総単位数,脳卒中病型,入退院時FIM評価,運動FIM利得・効率の各群間での差異について比較検討するとともに,65歳以上の高齢者(107例)へのサブ解析も追加した.結果:B,C,D群の平均年齢はA群と比べて高く,とくに,これら3群では女性が多くを占めその平均年齢は高齢化を呈していた.発症―入院期間,NIHSS点数,在院日数の各平均の値は,A,B,C,Dの各群の順に高くなっており,C,D群のNIHSS点数,在院日数の平均はA群と比べ有意に高く,在院期間内のリハ総単位数の平均はA群で少なく,C群で多い傾向を認めた.合併した脳卒中病型の分布には各群間での差はみられなかった.入退院時各FIM点数はA群からD群にかけて低値化を呈していたが,各群において退院時には有意な向上が示されていた.運動FIM利得,運動FIM効率の平均値は,D群で著しく低く他の3群との間に有意差を認め,B,C両群の運動FIM利得の平均値はA群と比べて高い値を呈していた.一方,高齢者では,その発症―入院期間は4群間で差を認めず,NIHSS点数,在院日数,在院期間内のリハ総単位数,ADL,運動FIM利得,運動FIM効率に関しては全対象例と同様の動向を示していた.なお,B,C両群の運動FIM利得の平均値は低下し,C群では運動FIM効率も減少化を認めた.結論:脳卒中患者における回復期リハ診療は有益であることが示された.入院時のADLレベルは転帰先別の退院時ADL区分と相関することが示唆され,FIM利得・効率は自宅退院を予測する指標とはならないものと思われた.また,ADLレベルの低い高齢者ではFIM利得が減少する傾向にあるものと思われた.
目的:「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」は2016年5月に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」ガイドラインを発表した.本ガイドラインに基づいて,1)糖尿病専門外来に通院する高齢者におけるHbA1c目標達成状況,2)HbA1c下限値未満の高齢者での実生活での低血糖の有無について明らかにしたいと考えた.対象と方法:【分析I】K病院糖尿病専門外来通院中の65歳以上の高齢糖尿病患者326人を対象として,“重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン,SU薬,グリニド薬)”使用中の患者の割合,及びHbA1c下限値未満の割合を調査した.【分析II】分析IのHbA1c下限値未満の患者のうち7名において持続的血糖モニタリング(CGM)で実生活での低血糖がないかを検査した.結果:【分析I】研究対象者326人のうち,“重症低血糖が危惧される薬剤”使用中の割合は235人(72.1%)であり,このうち63人(19.3%)がHbA1c下限値未満であった.【分析II】HbA1c下限値未満であった63人のうち7名にCGMを施行したところ,5例に低血糖が検出され,いずれも自覚症状を欠いていた.結論:K病院糖尿病専門外来通院中の高齢糖尿病患者において,低血糖が危惧される薬剤を使用し,HbA1c下限値未満の患者が相当数見られ,一部はCGMで実際に低血糖が確認された.CGMなどのツールを用いて,実生活での低血糖に対する予防策を講じつつ投薬管理にあたる必要がある.
目的:本研究は,通所サービスを利用する要支援・軽度要介護高齢者における主観的QOLと高次生活機能の関連要因について検討することを目的とした.方法:対象は通所サービスを利用する65歳以上の要支援・軽度要介護(要介護1,2)計238名とした.基本属性,社会的背景(趣味,JST版活動能力指標)と主観的QOL評価(PGCモラールスケール)は研究者が面接により聴取した.分析方法は,男女2群間の比較にはt検定とχ2検定を用いた.さらに,性別,年齢,趣味,食事を共にする人数,JST版活動能力指標(新しい機器の利用,情報収集,生活マネジメント,社会参加)を独立変数,主観的QOLを従属変数とした重回帰分析を行った.結果:男女の2群比較では,主観的QOLには差が認められなかったが,食事を共にする人数に有意な差が認められた.JST活動能力指標の細項目の社会参加(標準化偏回帰係数:0.26 95%信頼区間:0.14,0.38),生活マネジメント(標準化偏回帰係数:0.23 95%信頼区間:0.09,0.37)の得点が高くおよび趣味がある(標準化偏回帰係数:0.20 95%信頼区間:0.09,0.32)ほど主観的QOLが高い傾向が認められた.結論:要支援・軽度要介護高齢者においては,高次生活機能のなかでも生活マネジメントと社会参加,趣味の有無が主観的QOLに関与する可能性が示唆された.
超高齢社会を迎えてC型慢性肝疾患の患者も高齢化している.経口の抗ウイルス薬の登場で,80歳以上の高齢者も治療が可能になった.今回我々は,80歳以上高齢者におけるダクラタスビル/アスナプレビル治療の効果や副作用について調べ,80歳未満群と比較検討した.その結果,副作用,投与中断例の頻度に両群間で有意差はなく,ダクラタスビル/アスナプレビル治療は80歳以上の高齢者にも有効な治療法であると思われた.