日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
55 巻 , 4 号
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目次
緊急寄稿
ガイドライン
総説
  • 神出 計, 樺山 舞
    2018 年 55 巻 4 号 p. 539-546
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    高血圧患者の血圧管理基準については未だに議論が絶えない.今回のテーマであるSPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)研究は降圧目標値に関する疑問に対して答えを求めた米国の研究である.非常にインパクトが大きく重要な研究であるが,この研究の結果を高齢者高血圧の診療にどう活かすのかを検討する必要がある.本項では高齢者高血圧治療を行っていく上でのSPRINT研究の意義の検証ならびに2017年に出された我が国の‘高齢者高血圧診療ガイドライン2017’と米国高血圧治療ガイドラインを解説し,真に望まれる高齢者高血圧の管理につき議論する.

老年医学の展望
  • 山本 幹枝, 和田 健二
    2018 年 55 巻 4 号 p. 547-552
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    わが国のみならず世界的に認知症者数が増加し,社会経済的な問題となっている.2015年の全世界認知症者数は4,680万人と推定され,2050年には1億3,150万人にのぼることが予測されている.欧州や北米では認知症有病率は低下しているものの,アジアやアフリカなど特に低中所得国での増加が顕著である.わが国では,2012年時点での65歳以上高齢者における認知症有病率は15%(462万人)と推計されている.とくに80歳以降に多く人口の高齢化や生存率の改善を反映していると考えられる.超高齢化社会においては認知症の診断が難しい場合も多く,繰り返し正確な疫学調査が必要である.また,認知症による社会的負担の軽減のためにも,治療法や予防法の確立に向けて世界的に一層の取り組みが進むことが期待される.

特集
原著
  • 町田 征己, 高宮 朋子, 天笠 志保, 菊池 宏幸, 福島 教照, 小田切 優子, 井上 茂
    2018 年 55 巻 4 号 p. 584-593
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    目的:健康づくりのための身体活動は,主に10分以上継続し,活動強度が3 METs以上の身体活動(中高強度身体活動,MVPA)が注目されてきた.しかし近年,加速度計の普及に伴い継続時間10分未満のMVPA(細切れのMVPA)の測定が可能となり,その健康効果が示されつつある.高齢者では細切れのMVPAの方が実施しやすい可能性が考えられるが,実態は明らかでない.そこで本研究の目的は,加速度計を用いて地域在住高齢者のMVPAの実態を明らかにすることとした.方法:2015年2月に日本の3都市(東京都文京区,府中市,静岡県小山町)に居住する地域高齢者1,210名(70~80歳)に3軸加速度計の装着を依頼し,1日のMVPA実施回数と1回毎の継続時間を測定した.MVPAを継続時間で分類(1~4分,5~9分,10~19分,20~29分,30分以上)し,継続時間分類毎に合計したMVPA時間と,そのMVPA時間が1日のMVPA時間の総和(総MVPA時間)に占める割合を算出した.結果:450名(男性56.7%,年齢(平均±標準偏差,74.0±2.9歳))から有効データが得られた.解析対象者のMVPA回数は21.8±14.6回/日,1回継続時間は2.1±0.9分/回,総MVPA時間は46.5±33.0分/日であった.1回継続時間が10分以上のMVPAが総MVPA時間に占める割合は26.9±23.5%であった.一方,1回継続時間が1~4分のMVPAが総MVPA時間に占める割合は43.4%であった.結論:地域在住高齢者では1日45分程度のMVPAを行っていたが,その内訳としてWHOの現行ガイドラインでは推奨されていない細切れのMVPAが多く,特に女性,中山間地域居住者でその割合が大きかった.今後は,細切れのMVPAを実践の場でどう測定し,どう介入するのかといったことが課題と考えられる.

  • 西郊 靖子, 三宅 順子, 林 静子, 菊地 尚久, 中村 健
    2018 年 55 巻 4 号 p. 594-604
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    目的:長期療養型病床入院中の非経口要介護高齢者に対して,安全を配慮した一日一食数口の嚥下調整食を提供した.調整食は嚥下評価後にとろみ食とゼリー食を選択している.今回調整食の物性と高齢者の嚥下機能を後方視的に比較検討し,機能に適した調整食が提供できていたか,調整食の食分けと嚥下造影検査の必要性を含めて検討した.方法:2012年から2016年12月の間に,長期療養型病床入院中の非経口要介護高齢者45名(平均年齢:87±8.2歳,男:23人)を対象に,ベッドサイドでの評価(Oral dyskinesia以下OD,歯の有無,フードテスト)と嚥下造影検査(video - fluoroscopic swallowing study以下VFSS,評価表,口腔咽頭通過時間,舌骨移動距離,口腔咽頭通過時間差)を施行した.調整食は物性測定(硬さ,凝集,粘着)を行い,厚生労働省消費者庁の嚥下困難者用食品表に拠り評価した.結果:嚥下調整食は物性により4群(とろみ①18人,とろみ②10人,ゼリー①10人,ゼリー②7人)に分類された.嚥下調整食の提供は平均8カ月持続した.嚥下機能と物性(4群)の比較では,ODは全患者の42%に認め,とろみ群に多かった.義歯ありはとろみ①に多かった.フードテスト評価点は嚥下調整食4群間で有意差を認めた.VFSS評価表は4群間で有意差を認めた.口腔咽頭通過時間の平均は嚥下調整食4群間では有意差を認めなかったが,とろみ①の通過時間は「早い群」と「遅い群」の2群に分かれ,5群間で有意差を認めた.舌骨移動時間は4群間で有意差を認めた.匙数は口腔咽頭通過時間の差に相関した.物性評価では4群間で有意差を示し,とろみ①・②は許可基準IIとなり,ゼリー①・②は許可基準IIIを示した.結論:嚥下調整食物性は,要介護高齢者嚥下機能に一致し4群とも必要であった.また安全面からVFSS必要と判断された.さらに嚥下調整食はQOLと機能維持に有用と思われた.

  • 上村 一貴, 山田 実, 葛谷 雅文, 岡本 啓
    2018 年 55 巻 4 号 p. 605-611
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,地域在住高齢者のヘルスリテラシーが心臓足首血管指数(CAVI)で測定した動脈硬化リスクに及ぼす影響を検討することである.方法:対象は,65歳以上の地域在住高齢者288名(平均72.4歳,男性99名)とした.血圧脈波検査装置VS-1500(フクダ電子社製)を用いてCAVIを測定し,9.0以上を動脈硬化リスクありとして判定した.包括的なヘルスリテラシーの評価尺度として,European Health Literacy Survey Questionnaire(HLS-EU-Q47)日本語版を用いた.その他の測定項目は,基本属性(年齢,性,教育歴),Mini-Mental State Examination,握力,通常歩行速度,服薬数,飲酒・喫煙・身体活動低下の有無とした.統計解析は,HLS-EU-Q47総得点の四分位群(Q1-4)をカテゴリ化し,CAVI,動脈硬化リスクありの割合,およびその他の測定項目を一元配置分散分析(2値変数はχ2検定)により比較した.さらに,動脈硬化リスクの有無を従属変数,カテゴリ化した四分位群(Q1-4)を独立変数としたロジスティック回帰分析を,単変量および多変量(年齢,性別,その他の測定項目で調整)にて解析した.結果:最もヘルスリテラシーの低いQ1は,最も高いQ4に比較して,有意にCAVIが高値であり,動脈硬化リスクありの割合が高かった(p<0.05).Q1をリファレンスとすると,単変量解析ではQ3(OR[95%CI] = 0.48[0.24-0.93]),Q4(0.39[0.19-0.77])で,多変量解析ではQ4(0.44[0.19-0.98])で有意に動脈硬化リスクに関連していた.結論:ヘルスリテラシーが低い地域在住高齢者では,年齢や性別の影響を除いても,動脈硬化リスクが高いことが示された.

  • 光武 誠吾, 石崎 達郎, 寺本 千恵, 土屋 瑠見子, 清水 沙友里, 井藤 英喜
    2018 年 55 巻 4 号 p. 612-623
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    目的:高齢の在宅医療患者にとって,退院直後の再入院は療養環境の急激な変化を伴うことから心身への負担は大きく,有害事象の発生リスクも高めるため,再入院の予防は重要である.退院直後の再入院の発生と個人要因との関連を検討した研究は多いが,医療施設要因との関連を検討した研究は少ない.本研究は,在宅医療の提供体制の観点から退院直後の再入院予防策を検討するため,東京都後期高齢者医療広域連合から提供を受けたレセプトデータを用いて,在宅医療患者の退院後30日以内の再入院に関連する個人要因及び医療施設要因を明らかにする.方法:分析対象者は,在宅医療患者のうち,平成25年9月~平成26年7月に入院し,退院後に入院前と同じ施設から在宅医療を受けた7,213名(平均年齢87.0±6.0歳,女性:69.5%)である.退院後30日以内の再入院に関連する個人要因及び医療施設要因(入院受入れ施設の病床数,在宅医療提供施設の病診区分及び在宅療養支援診療所/在宅療養支援病院「在支診/在支病」であるか否か等)を一般化推定方程式(応答変数:二項分布,リンク関数:ロジット)で分析した.結果:退院後30日以内に再入院した患者の割合は11.2%であった.一般化推定方程式の結果,退院後30日以内の再入院ありと関連したのは,男性,悪性新生物,緊急入院利用であった.医療施設要因では,在宅医療提供施設が在支診/在支病の場合(調整済オッズ比:0.205,p値<0.001),診療所を基準にすると入院医療施設が200床以上の病院(調整済オッズ比:0.447,p値<0.001)で再入院抑制と関連していた.結論:在支診/在支病のような24時間対応可能な在宅医療の提供体制は,退院直後の再入院を抑制する要因(往診など)を包含している可能性が示唆された.在支診/在支病による訪問診療が再入院抑制に働く機序を明らかにする必要がある.

  • 多田 実加, 大森 圭貢, 最上谷 拓磨, 佐々木 祥太郎, 堅田 紘頌, 石山 大介, 小山 真吾, 畑中 康志, 榊原 陽太郎
    2018 年 55 巻 4 号 p. 624-631
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    目的:歩行速度と歩幅は下肢筋力と非線形関係にあり,下肢筋力が一定の水準以下になると著しく歩行速度と歩幅が制限されることが報告されている.加齢にともなう歩幅の制限は,歩行速度の低下に先行して生じることが報告されており,これらの下肢筋力値は異なる可能性がある.そこで本研究の目的は,高齢男性入院患者を対象に下肢筋力低下に伴う歩行速度および歩幅が著しく制限されはじめる下肢筋力値を明らかにすることである.方法:理学療法を実施した65歳以上の男性入院患者786名を対象に,等尺性膝伸展筋力(kgf/kg),10 m最大歩行速度測定時の歩行速度(m/sec)と歩幅(cm)を調査した.脳血管障害および運動器疾患,認知症を有する者は除外した.歩行速度および歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係をそれぞれ線形と非線形のモデルに適合させ,R2値を比較した.またデータを等尺性膝伸展筋力値で2分割し,それぞれ一次関数に当てはめ2式の残差平方和の和が最小になる筋力値を求めた.結果:歩行速度および歩幅と等尺性膝伸展筋力の間の各R2値はいずれも非線形モデルが高値であった.残差平方和の和が最小になる筋力値は,全対象者では歩行速度が0.33 kgf/kg,歩幅が0.43 kgf/kg,75歳未満の群では歩行速度と歩幅とともに0.30 kgf/kg,75歳以上の群では,歩行速度が0.32 kgf/kg,歩幅が0.43 kgf/kgであった.結論:75歳未満の高齢男性入院患者では等尺性膝伸展筋力0.30 kgf/kgを下回ると歩行速度と歩幅は著しく制限され,75歳以上の者では等尺性膝伸展筋力0.43 kgf/kgを下回ると歩幅が,0.32 kgf/kgを下回ると歩行速度がそれぞれ著しく制限される.

  • 新井 徳子, 出口 一郎, 林 健, 棚橋 紀夫, 髙尾 昌樹
    2018 年 55 巻 4 号 p. 632-639
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    目的:高齢化の進行に伴い脳卒中を発症する高齢者が増加,それに伴い高齢者に対してrecombinant tissue plasminogen activator(rt-PA)静注療法を行う症例も少なくない.しかしながら本邦の適応指針では高齢者(81歳以上)は慎重投与となっており,rt-PA治療後の合併症の増加が懸念されている.我々は高齢患者に対するrt-PA静注療法の臨床成績について検討した.方法:2007年4月から2017年4月の間にrt-PA治療を行った321例を対象とし,81歳以上および81歳未満の症例について,転帰(3カ月後のmodified Rankin Scale:mRS)および症候性頭蓋内出血(sICH)に関して比較検討した.また単変量解析で有意差のついた因子について傾向スコアマッチングを行い交絡因子を調整した上での比較も行った.結果:81歳以上(高齢群)は58例(18.1%),81歳未満(非高齢群)は263例(81.9%)であった.転帰良好(mRS 0~1)の割合は非高齢群に比べ高齢群で有意に低かった(高齢群12.1% vs. 非高齢群44.1%,P<0.001).死亡率は高齢群で有意に高かった(高齢群17.2% vs. 非高齢群4.6%,P=0.002).sICHに関しては両群間で差はなかった(高齢群3.4% vs. 非高齢群3.0%,P=1.00).マッチング後も転帰良好の割合は高齢群で有意に低かった(高齢群13.2% vs. 非高齢群36.8%,P=0.032).死亡率に関しては両群間で差はなかった(高齢群17.2% vs. 非高齢群4.6%,P=0.200).sICHは両群とも認めなかった.結論:高齢群に対するrt-PA静注療法は非高齢者と比べ頭蓋内出血に差はないが,有効性については,高齢群で有意に転帰良好の割合が低いことが示された.

  • 岡田 浩佑, 山口 弓子, 鎌田 七男, 阿部 和弘, 和合 正邦, 加藤 重子, 佐々木 秀美, 岡田 正浩, 佐伯 直志
    2018 年 55 巻 4 号 p. 640-649
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    目的:Geriatrics Gerontology Internationalに,われわれは高齢者の転倒と骨折の予防のための利尿薬節減を報告して,その後もう一つ重要な問題に注目した.われわれは筋肉量,水分量減少がある高齢者に対する利尿薬の使用法に関して,ガイドラインに準拠した標準的使用法とNY方式すなわちミネラルコルチコイド受容体拮抗薬spironolactone12.5 mg隔日投与の比較対照試験の必要性を確認するために,腎不全死と利尿薬使用法の関係を研究した.方法:原爆養護ホーム2施設における1,855名の死亡原因を調査した.その中の48名の腎不全による死亡者について,利尿薬の使用法を調査した.また,2施設の407名について,血清クレアチニンによる推算糸球体濾過量と自立度の関係を検討した.結果:われわれは2施設ともに慢性腎不全による死亡者が,一定期間に集中的に多いこと,その中に,ループ利尿薬の連日投与あるいはループ利尿薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の併用連日投与が行われている者を認めた.また,自立度の低下した高齢者の推算糸球体濾過量は,加齢による低下とは逆に,筋肉量の低下により比較的高値を示す者があることを認めた.結語:これらの結果は,筋肉量,水分量の低下した高齢者に対する利尿薬の使用法について,標準的使用法とNY方式の比較対照試験が,転倒骨折の予防のみならず,腎臓の保護の観点からの必要性を示唆した.

  • 松田 直佳, 村田 峻輔, 小野 玲
    2018 年 55 巻 4 号 p. 650-656
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    目的:高齢者において生活範囲を保つことは心身ともに豊かな生活を送る上で重要である.生活範囲の狭小化には多くの要因が関連し,移動能力のみに左右されるわけではない.そこで生活範囲の狭小化を一種の行動パターンと捉えた.健康に望ましい行動を選択する能力としてヘルスリテラシー(HL)が着目されており,様々な生活習慣との関連が報告されているが,生活範囲との関連は不明瞭である.本研究の目的は,生活が自立した高齢者においてHLと生活範囲との関連を検討することである.方法:本横断研究の対象者は65歳以上の要介護認定を受けていない地域在住高齢者240名のうち,Mini-Mental State Examinationが23点以下の者,欠損値がある者を除外した210名を解析対象者とした.HLは14-item Health Literacy Scale(HLS-14)を用い,総得点および機能的HL,伝達的HL,批判的HLの各下位分類の得点を使用した.生活範囲はLife Space Assessment(LSA)を用いて調査した.基本情報として,年齢,性別,教育年数,世帯収入,結婚状況,慢性疾患の既往を調査した.統計解析は,従属変数をLSA,独立変数をHLS-14の総得点もしくは各下位分類とした線形回帰分析を行った.未調整モデルの実施後,LSAと有意な関連を示した基本情報を交絡変数とした調整モデルを行った.結果:LSAと機能的HLにおいて有意な関連が認められたが(未調整モデル:β = 1.40,p < 0.01;調整モデル:β= 1.11,p = 0.01),総得点および伝達的HL,批判的HLにおいては有意な関連は認められなかった.結論:機能的HLが高いほど生活範囲が広いことが示された.HLの向上や情報提供の工夫により,地域在住高齢者の生活範囲狭小化を予防できる可能性が示唆された.

症例報告
  • 松本 勝, 藪中 幸一, 田中 志保, 吉田 美香子, 蔦岡 拓也, 半田 真弓, 仲上 豪二朗, 三浦 由佳, 岡田 晋吾, 太田 秀樹, ...
    2018 年 55 巻 4 号 p. 657-662
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    在宅では看護師が排便を直接観察できない場合があり,特に認知機能が低下した高齢者では客観的指標による便秘症状の評価が難しいため,症状に応じた排便ケアが提供できていない可能性がある.そこで我々は超音波検査(エコー)により直腸の便の有無が確認できることをこれまで明らかにしてきたが,エコーにより便性状と量を区別できるかは明らかになっていない.今回,便性状の異なる3症例において直腸エコーによる便性状と便量の評価が可能かを検討したので報告する.長期療養型施設に入院する高齢者3名を対象にし,排便後より次回排便後まで,直腸のエコー画像を経時的に収集した.直腸のエコー所見および直腸に高エコー域が確認された場合は,その長径(連続した高エコー域の始点と終点を結ぶ直線の長さ)を計測した.エコー所見と便性状は研究者が直接観察し,ブリストル便性状スコア(以下BS)によって評価した.症例1:94歳男性で,便性状はBSタイプ4の普通便であった.直腸エコーでは,排便後より次回排便後に至るまで,直腸内腔に後方音響陰影を伴わないCrescent shapeの高エコー域が観察された.高エコー域の長径は観察期間中に徐々に上昇し,排便後に低下した.症例2:92歳女性で,便性状はBSタイプ1の硬便であった.直腸エコーでは,排便後より次回排便後に至るまで,直腸内腔に後方音響陰影を伴うCrescent shapeの強い高エコー域が観察された.高エコー域の長径は観察期間中に徐々に上昇し,排便後に低下した.症例3:67歳男性で,BSタイプ7の水様便であった.直腸エコーでは,Crescent shapeの高エコー域を認めず,後方音響陰影を伴わない全周性の低エコー域が観察された.硬便の有無は後方音響陰影を伴うCrescent shapeの強い高エコー域の有無で評価できる可能性があり,Crescent shapeの高エコー域の長径により便量を評価できる可能性がある.今後エコーを用いて評価した便性状・便量に基づく排便ケア選択が可能となると考えられる.

  • 大野 眞朋, 水野 弥一, 神原 亜耶
    2018 年 55 巻 4 号 p. 663-667
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    症例は93歳女性である.認知症を発症し金銭の管理が不可能となった.親族からの介護放棄と経済的虐待が明らかとなり,市が措置入院とし,その後成年後見制度利用を開始して特別養護老人ホームへ契約入所とした.入所後5年間の安定した時期が経過し,徐々に経口摂取が困難となった.終末期の方針を身元引受人と相談を始めたところ,成年後見人がみとり指針の書類を虐待加害者である親族に送付したことにより,患者の所在が知られることになった.その後家族間の意見調整に難渋し,関係職員が疲弊することとなった.現行制度上は第三者成年後見人に医療同意権が無いとされているが,今後成年後見人が多職種協議に参加し,治療方針決定に積極的に関わっていくことが望ましい.そのために医療従事者はわかりやすい情報を成年後見人へ発信し,患者にとってより良い医療選択ができる環境を作る必要がある.

  • 矢﨑 友隆, 大嶋 直樹, 石村 典久, 佐藤 秀一, 木下 芳一
    2018 年 55 巻 4 号 p. 668-674
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    消化管異物は日常診療で消化器内視鏡医が比較的高頻度に遭遇する病態の一つであり,より安全かつ速やかな治療を行うことが重要である.今回,我々は治療前の胸部CT検査が診断に有用であった食道内異物の1例を経験したため,当科における過去の食道内異物症例の検討を含めて報告する.症例は84歳の男性で嚥下困難を主訴に近医受診し,下咽頭-食道異物を疑われ,島根大学病院を紹介受診となった.来院時の胸部CTにて頸部食道内腔に,板状の空気との区別が困難なlow densityの異物を疑う所見を認め,緊急上部内視鏡検査にて,同部位に将棋の駒の停留を認め,内視鏡的に摘出した.2006年1月から2017年7月までの約12年半の期間における島根大学病院での食道異物症例の検討を行った.患者背景は男性49例,女性35例で,平均年齢は60歳台が多く,高齢になるにつれ,女性の割合が増加すること,異物内容は食物塊が最も多いが,80歳台以降の超高齢者層ではPTP,魚骨の割合が増加してくることなどが明らかとなった.また,内視鏡治療を行う前段階の画像評価として,胸部CT検査は39症例(48%)で施行され,その内の37症例(95%)で食道内の異物確認が可能であり,停留部位の同定,炎症波及やfree airなどの周囲臓器の評価と共に,あらかじめ治療器具の準備をすることも可能となることから,内視鏡治療を安全かつ速やかに行うために同検査の有用性が示唆された.近年,海外では食餌の詰まり症例の約半数が,好酸球性食道炎が原因であったとの報告もある.実臨床では,緊急処置後に合併症などの併発がないことが確認されれば,再度食道再検査を行うことは少ないのが実情と思われるが,背景に食道に異物が停留する原因となる疾患が隠れている可能性もあり,異物治療後には,できるだけ日を改めてでも,生検などの内視鏡検査を再検することが望ましいと考えられた.

  • 髙瀬 義昌, 奥山 かおり, 野澤 宗央, 水上 勝義
    2018 年 55 巻 4 号 p. 675-678
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    地域包括支援センターからの連絡で訪問診療を開始し治療に結びついた超高齢発症の遅発パラフレニーの症例を経験した.症例は94歳,女性.被害妄想や幻聴を呈した.近隣と騒音を巡ったトラブルや食思不振などがあり治療が必要だったが,外来受診の拒否が強く自力での通院が困難であったため,訪問診療が開始された.オランザピン2.5 mg/日を使用し改善を認めた.在宅医療では限られた資源と診療時間の中で,より精緻な鑑別診断と治療のアプローチが必要となる.高齢者に幻覚・妄想などの精神症状が出現することは臨床的にはよく知られているが,在宅医療現場では患者・家族やそれに関わる多職種にはよく知られておらず,見過ごされたまま対応に苦慮しているケースも少なくないと考えられる.今後更なる高齢化に伴い,在宅医療でも高齢者の精神疾患に対応しなければならない状況が増加すると推測される.超高齢社会の日本において,地域で高齢発症の遅発パラフレニーをいかに理解し継続支援していくのか,在宅医療・介護の推進にあたっての喫緊の検討課題であると考える.

  • 佐塚 まなみ, 村野 陽子, 髙田 和典, 野中 敬介, 山田 浩和, 山本 寛
    2018 年 55 巻 4 号 p. 679-685
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/12/11
    ジャーナル フリー

    背景:本邦で進行非小細胞肺癌に対して免疫チェックポイント阻害剤が承認されてから2年以上が経過したが,高齢者における免疫チェックポイント阻害剤の有効性や安全性については十分な見解が得られていない.また,高齢者に対して化学療法を行う際には,生活機能の低下に注意を払いながら治療を選択,継続,あるいは中断することが重要である.症例:85歳,男性.X-1年6月にCTで左肺尖部に楔状影を認め,気管支鏡検査を複数回施行したが,悪性所見は認めなかった.X年5月のCTで左肺尖部の陰影の増大を認めたため,再度気管支鏡検査を施行し,左上葉肺癌(cT3N2M1a, stage IVA, squamous cell carcinoma, PS1)と診断した.PD-L1発現検査で強陽性であったことから,1次治療としてペムブロリズマブを選択して投薬を行い,生活機能を維持しながら腫瘍の縮小を得ることが可能であった.結論:肺扁平上皮癌の高齢者に対して詳細な高齢者総合機能評価を施行しながらペムブロリズマブを投薬し,生活機能を維持しながら治療を継続することが可能であった1例を経験した.

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